もやもや病外来
1. もやもや病とは…
もやもや病は脳の血管が細くなる病気です。
内頚動脈という脳血管の末端部が細くなり、脳の血液不足が起こりやすくなります。このため、一時的な手足の麻痺やしびれ、言語障害を起こすことがしばしば見られます。血流不足を補うためにもやもや血管が脳内に見られることが特徴です。
もやもや病で細くなる血管はウィリス動脈輪という血管の輪をつくっています。そのためウィリス動脈輪閉塞症とも呼ばれます。一方、脳細胞(ニューロン)に血液を供給するため太い血管から枝分かれした細い血管が、太くなり不足した血液を補います。しかし、本来の太さ以上に拡張して多量の血液をおくるため切れやすく、脳出血を起こすこともあります。
2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか
もやもや病は、人口10万人あたり6~10人程度いると考えられています。
3. この病気はどのような人に多いのですか
もやもや病には家族内発症する方が10~20%程度に見られると言われています。つまり、本人がもやもや病の場合、その親や兄弟姉妹、いとこなどにもやもや病の方がいる可能性が一定程度(10~20%程度)ありうるということです。
4. この病気の原因はわかっているのですか
病気の原因はまだ解明されていません。
ある特定の遺伝子を持つ方(RNF遺伝子多型;p.R4810K)に発症し易い傾向があることまでは最近の研究で明らかにされています。
5. この病気は遺伝するのですか
現在わかっている範囲では、
- 「もやもや病」の患者さんから生まれたお子さんが、必ずしも「もやもや病」を発症するとは言い切れません。
- 兄弟が「もやもや病」の方がいらっしゃる場合に、必ずしもそのご本人が「もやもや病」を発症するとは言い切れません。
遺伝の関わる疾患ではあるけれども、必ずしも親子や兄弟で伝わるとは言い切れないというのが現在のデータが示す事実です。
家族内発症を高頻度に起こしている家系があることが知られています。一方で、家族歴なく発症している患者さんも見られます。
患者さんの家族の中に、比較的若くして脳卒中を患った家族がいる場合などは、家族性発症が疑われます。従って、このような患者さんに御兄弟、姉妹がいる場合は脳の血管をMRIなどで調べるのが良いと思われます。
6. この病気ではどのような症状がおきますか
- (1) 脳血流の不足で発症する場合
- 前頭葉の血流不足による症状が起きやすく、症状が一時的に起こり回復する事がしばしば見られます。そのため、医療機関への受診が遅れることもあるので注意が必要です。
典型的には、手足のしびれや麻痺が生じます。言葉が話せなくなったり、ろれつがまわらなくなるといった言語障害もしばしば見られます。
小児には、熱いめん類などの食べ物をたべるときの「フーフー」と冷ます動作や、笛などの楽器演奏や走るなど息がきれるような運動が引き金となって症状がでることがしばしば見られます。脳内の二酸化炭素濃度が低下して脳血管が収縮しさらに血流不足になることが原因です。
また脳梗塞や脳出血を発症し、その際に行われた精密検査で診断されることも比較的多く見られます。
- (2) 脳出血で発症する場合
- 症状は出血部位によっても異なりますが、激しい頭痛とともに、意識障害、手足の麻痺、言語障害などが起こることがあります。出血が多い場合には生命に関わることもあります。最近の研究では、もやもや血管の中でも特に出血リスクの高いものがあることが明らかとなっています。
一方、頭痛など軽微な症状や無症状の状態で頭部の検査をしたところ、この病気が判明する患者さんも近年増えています。また、けいれん発作や手足が意思に反してガクガクと動いてしまう不随意運動という症状も稀に見られます。
また、高次脳機能障害といって成人の患者さんに情報処理能力、注意力、記憶力などの低下を来す事もあります。小児期に脳梗塞等を来した患者さんには知能の障害が見られる事があります。
7. この病気にはどのような治療法がありますか
脳卒中の予防のためには手術治療が効果的です。
これは原因となっている内頚動脈の閉塞を直接治すものではなく、新たに血流の供給をするようなバイパス経路を作成するものです。
脳血流不足で発症した場合には、血液の中の血小板(けっしょうばん)という成分の機能を抑えて血液を固まりづらくする抗血小板薬が使用されることもあり、一定の効果があると考えられています。
脳卒中を起こした直後の患者には、一般的な脳卒中に対する治療が行われ、症状が安定した段階で外科的治療を考慮するのが一般的です。
8. この病気はどういう経過をたどるのですか
脳の血管の閉塞に関しては、最初の診断時と同じ状態が何年も何十年も変わらない人もいれば、徐々に進行していく人もいるといわれています。従って、定期的なMRIなどによる検査が必要と思われます。
適切な治療や管理を受けて学業生活を終えて就労されている方や、妊娠出産を経てお子さんをお持ちになっておられる方が多くいらっしゃいます。約7割程度の患者さんは、症状的には安定して生活を送っていると見込まれています。
一方で、初発症状が脳出血や脳梗塞の場合は、運動麻痺、言語障害、高次脳機能障害などが後遺症として見られることがしばしばあります。
小児では、明らかな身体的障害を持たなくても、慢性的頭痛などによる不登校もしばしば見らます。
成人では高次脳機能障害による就労困難なども少なくないと見られます。
こどものころに発症した患者さんを長期に追跡した最近の調査では、適切な治療により多くの方が成人後も元気に過ごされていることが分かっていますが、まれに成人後に脳出血をきたす方がおられることが分かっています。
9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか
特に小児の場合では、症状がしばしば出現する場合、激しい運動、楽器などの演奏は控え、なるべく早期に手術治療を行うことを主治医と相談すべきであると思われます。
治療後、症状が安定している児童に対しての過度な生活動作制限の必要はないので、手術後に症状が消失しているにもかかわらず、長期に渡り日常生活などが制限されている場合には、学校及び主治医と相談してください。 手術後、しびれや脱力などの発作がたびたび起こる例であっても半年~1年程の経過で安定することが大多数と思われます。このような期間を除き、基本的には日常生活での制限を要する場合はないと考えられます。