
この記事で分かること
- 頸動脈狭窄症は、症状がないまま健診や脳ドックで見つかることが多いこと
- 治療の土台は薬と生活習慣の管理で、手術やステントが検討されるのは一部の方であること
- 2026年の大規模な臨床試験で、手術で血流を戻しても物忘れは良くならないと示されたこと
「健診の首のエコーで、プラークがあると言われた」「脳ドックで頸動脈が狭いと書かれていた」。症状は何もないのに突然そう告げられると、多くの方が不安になります。
頸動脈狭窄症(頚動脈狭窄症とも書きます)は、脳に血液を送る首の血管が、動脈硬化によって狭くなる病気です。放っておいてよいものではありませんが、見つかったからといって、すぐに手術が必要になるわけでもありません。
この記事では、頸動脈狭窄症の症状と検査、治療の考え方を順に整理します。あわせて、2026年に発表された大規模な臨床試験の結果から、「手術で血流を戻せば物忘れも良くなるのか」という疑問にもお答えします。
本記事は、公的なガイドラインや研究報告にもとづく一般的な医療情報です。診断・治療は、検査結果や持病をふまえて医師が判断します。治療の向き不向きには個人差があり、ここに書いた内容がそのままご自身に当てはまるとは限りません。
目次
健診や脳ドックで頸動脈のプラーク・狭窄を指摘された方は、結果をお持ちのうえご相談ください。
はじめて受診される方
当院に通院中の方
1. 頸動脈狭窄症とは
首の左右には、脳へ血液を送る太い血管が1本ずつ通っています。これが頸動脈です。首の途中で、脳へ向かう「内頸動脈」と顔へ向かう「外頸動脈」に枝分かれします。
この枝分かれのあたりは、血液の流れがぶつかって渦を巻きやすく、血管の壁にコレステロールなどがたまった「プラーク」ができやすい場所です。プラークが大きくなって血液の通り道が狭くなった状態を、頸動脈狭窄症と呼びます。
なぜ狭くなるのか
原因の多くは動脈硬化です。次のような要素が重なるほど、プラークはできやすくなります。
- 高血圧:血管の壁に負担がかかり続ける
- 脂質異常症:とくにLDL(悪玉)コレステロールが高い
- 糖尿病:血管の壁が傷みやすくなる
- 喫煙:動脈硬化を強く進める
- 加齢:年齢とともに少しずつ進む
頸動脈は体の表面に近く、エコーで直接見ることができます。そのため頸動脈の状態は、全身の動脈硬化がどのくらい進んでいるかを知る窓としても使われています(厚生労働省 2026)。
何が怖いのか
頸動脈狭窄症で心配なのは、狭いこと自体よりも脳梗塞の原因になることです。プラークの表面が傷つくと、そこに血の塊ができます。それがはがれて脳の血管に流れていき、詰まらせることがあるのです。
2. 頸動脈狭窄症の症状
頸動脈がかなり狭くなっていても、ほとんどの方は症状がありません。脳には左右や前後をつなぐ血管の回り道があり、1本が狭くなっても血液が届くことが多いからです。このように症状のないものを「無症候性」と呼びます。
そのため頸動脈狭窄症は、健診の頸動脈エコーや脳ドックのMRA(血管を写すMRI検査)で、たまたま見つかることがほとんどです。
見逃してはいけないサイン
一方で、プラークから流れた血の塊が脳や目の血管を一時的に詰まらせると、次のような症状が出ることがあります。数分から数十分で消えてしまうことも多いのですが、脳梗塞の前ぶれの可能性があります。
すぐに受診・救急を考えていただきたい症状
- 片側の手足や顔に、力が入らない・しびれる
- 言葉が出にくい、ろれつが回らない
- 片方の目が、カーテンが下りるように急に見えなくなる
- 上の症状が短時間で治まった(治まっても安心はできません)
症状が消えていても、ためらわず119番へご連絡ください。判断に迷うときは救急安心センター(#7119)もご利用いただけます。
こうした症状が出たことのある方は「症候性」の狭窄として扱われ、無症候性の方とは治療の考え方が大きく変わります。この記事では主に、症状のない(無症候性の)頸動脈狭窄症についてお話しします。
3. 頸動脈エコーで分かること
頸動脈エコーは、首にゼリーを塗って超音波の器械を当てるだけの検査です。痛みはなく、放射線も使いません。
エコーでは、主に次の3つを見ます(日本超音波医学会 2017)。
| 見るもの | 内容 |
|---|---|
| 壁の厚さ(IMT) | 血管の壁の内側の層の厚さ。年齢とともに厚くなるため、年齢を加味して評価します |
| プラーク | 1.1mm以上の、限局した盛り上がり。大きさに加えて、やわらかさや表面の形も見ます |
| 狭窄の程度 | 狭い部分を流れる血液の速さを測って推定します。速いほど強く狭くなっています |
国内では、内頸動脈の狭い部分の血流が秒速2メートル(200cm/s)以上なら、70%以上の強い狭窄に相当するという目安がよく使われます(日本超音波医学会 2017)。この「70%」が、後で出てくる手術の検討の目安にも関わってきます。
プラークの「中身」も大切です
同じ大きさのプラークでも、やわらかいもの、表面がでこぼこしているもの、揺れて動くものは、はがれやすく注意が必要とされています(日本超音波医学会 2017)。逆に、硬く安定したプラークは、すぐに問題を起こすことは少ないと考えられます。
エコーの結果に「プラーク」と書かれていても、それだけで重い病気というわけではありません。大きさ・狭さ・中身の3つを合わせて判断します。
4. 治療の土台は薬と生活習慣|プラークは消える?
症状のない頸動脈狭窄症で、どの方にも必ず行うのが、動脈硬化の原因への治療です。日本脳卒中学会のガイドラインでも、高度の狭窄であっても、まず抗血小板薬・降圧薬・スタチン(コレステロールを下げる薬)を含む最良の内科的治療の効果を十分に検討するよう示されています(日本脳卒中学会 2025)。
| 治療 | 目的 |
|---|---|
| コレステロールを下げる | プラークの材料を減らし、進行を抑える |
| 血圧を下げる | 血管の壁への負担を減らす |
| 血をさらさらにする薬 | プラークの表面に血の塊ができるのを防ぐ(必要と判断した場合) |
| 禁煙・血糖の管理 | 動脈硬化を進める要因を断つ |
プラークは消えるのか
よくいただくご質問です。率直にお答えすると、一度できたプラークが薬で大きく消えることは、あまり期待できません。
日本人を対象にした研究では、コレステロールをしっかり下げる治療をした方が、壁の厚さの増え方が小さかったと報告されています(Daida et al. 2014)。ただし変化の幅は0.01mm前後と、ごくわずかでした。
つまり薬の治療のねらいは、プラークを消すことではなく、それ以上大きくしないこと、そしてはがれにくい安定した状態に保つことです。地味に見えますが、これが脳梗塞を防ぐうえでの土台になります。
生活習慣の見直しについては 脳卒中予防のための生活習慣病管理のポイント もあわせてご覧ください。
エコーの結果を見ても、どう受け止めればよいか分からない。そんなときは一度ご相談ください。
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5. 手術やステントが検討されるとき
狭くなった頸動脈を広げる治療には、2つの方法があります。
| 治療 | 内容 |
|---|---|
| 内膜剥離術(CEA) | 首を切開して血管を開き、プラークを取り除く手術 |
| ステント留置術(CAS) | 足の付け根などからカテーテルを入れ、網目状の筒(ステント)で血管を内側から広げる治療 |
症状がない場合の考え方
日本脳卒中学会のガイドラインでは、症状のない頸動脈狭窄症について、次のように示されています(日本脳卒中学会 2025)。
- 軽度〜中等度の狭窄:血管を広げる治療は行わないよう勧められる
- 高度の狭窄:まず最良の内科的治療の効果を十分に検討し、画像検査で脳卒中のリスクが高いと判断した場合に、内膜剥離術を考慮する
- 手術のリスクが高い方:ステント留置術を考慮する
つまり、狭いから即手術ではなく、「薬の治療をしっかり行ったうえで、それでも脳梗塞のリスクが高い方」に絞って検討するという考え方です。
2025年に発表された大規模試験(CREST-2)
この判断に関わる重要な研究が、2025年に米国の医学誌で発表されました。70%以上の狭窄があり症状のない2,485名を、「薬の治療だけ」と「薬の治療+血管を広げる治療」に分けて比べた試験です(Brott et al. 2025)。
| 比べた治療 | 4年間の脳卒中など(薬だけ → 追加あり) | 結果 |
|---|---|---|
| ステント留置術を追加 | 6.0% → 2.8% | ステントを追加した方が少なかった |
| 内膜剥離術を追加 | 5.3% → 3.7% | はっきりした差は認められなかった |
この結果から、脳梗塞の予防という目的では、一部の方で血管を広げる治療に意味があることが分かります。一方で、薬の治療だけでも4年間で脳卒中などが起きたのは5〜6%にとどまっており、薬の治療の重要性もあらためて示されました。
ただし、これは海外の医療体制で行われた試験です。実際に治療を勧めるかどうかは、狭窄の程度、プラークの性質、年齢や持病、治療に伴うリスクを合わせて判断します。
6. 手術で物忘れは良くなる?
頸動脈が狭いと、脳へ届く血液が減ります。「血流を戻せば、物忘れも良くなるのではないか」という期待は、患者さんからもご家族からもよく聞かれます。
実際、手術やステントの後に記憶力のテストの点数が上がったという報告は、これまでにもありました。ただその多くは、治療を受けた人だけを調べたもので、「治療をしなかったら同じように上がっていたのか」が分からないという弱点がありました。
2026年の答え:良くならなかった
この疑問に答えたのが、2026年9月に米国の医学誌に発表された2つの研究です。どちらも、先ほどのCREST-2試験に参加した方を対象にしています。
| 研究 | 対象 | 結果 |
|---|---|---|
| CREST-2の認知機能の解析 | 2,165名を最長4年間追跡 | ステントでも内膜剥離術でも、薬の治療だけの場合と認知機能に差はなかった(Lazar et al. 2026) |
| CREST-H | もともと認知機能が低下していた51名(脳の血流が落ちているかどうかも合わせて分析) | 血管を広げても、1年後の認知機能は薬の治療だけの場合と差がなかった(Marshall et al. 2026) |
とくにCREST-Hは、認知機能が下がっている方を対象に、脳の血流が落ちている人ほど効果が出るのかまで調べていました。それでも差が出なかったことから、研究者は症状のない慢性の頸動脈狭窄では、血流を戻しても認知機能の低下は改善しないと結論しています(Marshall et al. 2026)。
なお、CREST-Hで主な解析の対象となった51名は多い人数ではなく、今後の研究で見方が変わる可能性はあります。それでも現時点では、物忘れを良くする目的で頸動脈の手術やステントを選ぶ根拠はないと考えるのが妥当です。
まとめると
- 血管を広げる治療の目的は脳梗塞の予防であり、物忘れの改善ではない
- 物忘れが気になるときは、頸動脈以外の原因を調べることが大切
物忘れが気になるときに見直したいこと
認知症には、生活のなかで減らせる要因がいくつも知られています。日本人のデータでは、最も大きな要因は難聴で、運動不足やコレステロールの高さも挙がっていました。これらは頸動脈狭窄症の治療とも重なる部分があります。
詳しくは 認知症の4割は予防できる|日本人データ14の要因 で解説しています。また、症状のない小さな脳梗塞と物忘れの関係については かくれ脳梗塞と認知症リスク もご覧ください。
7. 当院でできること
いわた脳神経外科クリニックは大阪市城東区成育にあり、京阪本線・野江駅から徒歩4分の場所にあります。昼休みをはさまない通し診療を行っています。
検査から薬の治療・経過観察まで
- 頸動脈エコー:プラークの大きさ・中身・狭窄の程度を確認します
- 頭部MRI・MRA:脳の血管の状態や、症状のない小さな脳梗塞がないかを確認します
- 薬の治療:血圧・コレステロール・血糖を、検査結果に合わせて管理します
- 定期的な経過観察:プラークや狭窄が進んでいないかを、エコーで追いかけます
検査の結果、血管を広げる治療を検討したほうがよいと判断した場合は、連携する医療機関へご紹介します。院長は日本脳神経血管内治療学会認定の脳血管内治療専門医です。カテーテル治療を専門とする立場から、血管を広げる治療が必要かどうかの見きわめと、紹介後の流れまでご説明します。
脳ドックのオプションとしても受けられます
症状がなく、予防のために調べたい方は、脳ドックのオプションとして頸動脈エコーを追加できます。
| 検査 | 料金(税込) |
|---|---|
| シンプル脳ドック(頭部MRI・MRA) | 22,000円 |
| オプション:頸動脈エコー | 5,500円 |
※2026年10月時点の料金です。脳ドックは自由診療(保険適用外)です。検査で異常が見つかった場合の追加検査や治療の費用は別途かかります。MRIは体内に金属のある方などは受けられない場合があり、検査で治療の必要のない所見が見つかることもあります。
脳ドックの内容は 脳ドックとは?わかること・受けないほうがいい人 で、異常を指摘されたときの考え方は 脳ドックで異常が見つかったら? で詳しく説明しています。
健診などで頸動脈の異常を指摘された方、手足のしびれなど気になる症状がある方は、保険診療として受診いただけます。
8. よくある質問
Q. 頸動脈にプラークがあると言われました。何科を受診すればよいですか。
脳神経外科、脳神経内科、循環器内科などが選択肢になります。頸動脈のプラークは脳梗塞と関わりが深いため、頸動脈エコーと頭部MRIの両方で評価できる医療機関がおすすめです。健診の結果をお持ちいただくと、以前との比較ができます。
Q. 頸動脈のプラークは消えますか。
薬で大きく消えることは、あまり期待できません。治療のねらいは、それ以上大きくしないこと、はがれにくい状態に保つことです。コレステロールをしっかり下げると、プラークの進行が抑えられたと報告されています。
Q. 狭窄があると、必ず手術が必要ですか。
いいえ。症状がない場合、軽度〜中等度の狭窄では血管を広げる治療は勧められていません。高度の狭窄でも、まず薬の治療を十分に行い、そのうえで脳梗塞のリスクが高いと判断された方に検討します。
Q. 手術やステントで、物忘れは良くなりますか。
2026年に発表された大規模な研究では、血管を広げる治療を追加しても、認知機能は薬の治療だけの場合と変わりませんでした。血管を広げる治療の目的は脳梗塞の予防です。物忘れが気になる場合は、ほかの原因も含めて調べることをおすすめします。
Q. 頸動脈エコーの費用はいくらですか。
当院では、脳ドックのオプションとして5,500円(税込)で受けられます(2026年10月時点)。健診で異常を指摘された場合や症状がある場合は、保険診療での検査となります。
Q. どのくらいの間隔で検査を受ければよいですか。
狭窄の程度やプラークの性質によって変わるため、検査結果を見て医師がご提案します。前回からの変化が大切なので、同じ医療機関で続けて診ることにも意味があります。
まとめ
- 頸動脈狭窄症は、首の血管にプラークがたまって狭くなる病気で、多くは症状がないまま健診や脳ドックで見つかります。
- 片側の手足のまひ、言葉の出にくさ、片目が急に見えなくなるといった症状は、短時間で治まっても脳梗塞の前ぶれの可能性があります。
- 治療の土台は、コレステロール・血圧などの管理です。プラークを消すことより、大きくしない・安定させることが目標です(Daida et al. 2014)。
- 血管を広げる治療は、薬の治療を十分に行ったうえで脳梗塞のリスクが高い方に検討します(日本脳卒中学会 2025)。
- 2026年の研究で、血管を広げても物忘れは良くならないことが示されました(Lazar et al. 2026;Marshall et al. 2026)。
頸動脈のプラークや狭窄を指摘された方は、結果をお持ちのうえご相談ください。今の状態で何を優先すべきかを、一緒に整理していきます。
お問い合わせ・ご予約
いわた脳神経外科クリニック(大阪市城東区成育2-13-27/電話 06-6935-2335/京阪本線・野江駅から徒歩4分)です。ご予約は下記から可能です。
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当院公式LINEにてご質問等もお受けしておりますので、お気軽にお問い合わせくださいませ。
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重要:本記事の位置づけ(医療情報として)
- 本記事は、公的資料や研究報告に基づく「一般的な医療情報」です。
- 特定の治療を推奨・保証するものではありません。症状の感じ方や経過には個人差があります。
- 実際の診断・治療は、検査結果・既往歴などを踏まえて医師が判断します。気になる症状があるときは受診してください。
- お薬の使用については、必ず医師・薬剤師の指示に従ってください。
参考文献
- 厚生労働省 2026, ‘頸動脈エコー検査’, e-ヘルスネット, viewed 21 October 2026, <https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/metabolic/ym-097.html>.
- 日本超音波医学会 用語・診断基準委員会 2017, 超音波による頸動脈病変の標準的評価法2017, 日本超音波医学会, 東京.
- 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会 2025, 脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕, 協和企画, 東京.
- Brott, TG, Howard, G, Lal, BK et al. 2025, ‘Medical management and revascularization for asymptomatic carotid stenosis’, The New England Journal of Medicine, DOI 10.1056/NEJMoa2508800.
- Daida, H et al. 2014, ‘Can intensive lipid-lowering therapy improve the carotid intima-media thickness in Japanese subjects under primary prevention for cardiovascular disease?: the JART and JART extension subanalysis’, Journal of Atherosclerosis and Thrombosis, vol. 21, no. 7, pp. 739–754, DOI 10.5551/jat.19109.
- Lazar, RM, Meschia, JF, Edwards, LJ et al. 2026, ‘Revascularization of asymptomatic carotid artery stenosis: cognitive results of the CREST-2 randomized trials’, JAMA, DOI 10.1001/jama.2026.14703.
- Marshall, RS, Lazar, RM, Meschia, JF et al. 2026, ‘Revascularization in asymptomatic carotid artery stenosis with hemodynamic impairment and cognitive outcomes: the CREST-H substudy of the CREST-2 randomized clinical trial’, JAMA, DOI 10.1001/jama.2026.13384.






















