閉じ込め症候群とは|意識は保たれている状態をやさしく解説

この記事で分かること

  • 閉じ込め症候群は、意識も考える力も保たれたまま、体を動かして伝えることだけができなくなる状態です。
  • 「意識がない」と誤解されやすく、診断までに平均で2か月以上かかったという報告があります。
  • 最も多い原因は、脳幹のうち橋(きょう)という部分の梗塞です。
  • 上下方向の眼球運動とまばたきは残ることが多く、ここから意思疎通の糸口が見つかります。
  • 慢性期の方ご本人に尋ねた調査では、72%が「幸福である」と回答しています。

「閉じ込め症候群」という言葉を、映画や小説で知った方もいらっしゃるかもしれません。意識ははっきりしているのに、体が動かせず、声も出せない。そんな状態が本当にあるのだろうか、と。

結論からお伝えすると、実際にある状態です。そしてこの病態でいちばんつらいのは、体が動かないことそのものよりも、意識があることに周囲が気づかないことだと言われています。

この記事では、大阪で脳神経外科の診療を行う立場から、閉じ込め症候群がどういう状態なのか、なぜ誤解されやすいのか、そしてご家族に何ができるのかを整理してお伝えします。

この記事は、閉じ込め症候群という病態そのものの理解を目的としています。めまいやろれつの回りにくさなど、個別の症状から受診先を判断したい方は、記事内でご案内する各記事をあわせてご覧ください。


目次



脳や神経の症状で気になることがあれば、お気軽にご相談ください。

WEB予約はこちら



1. 閉じ込め症候群とは

閉じ込め症候群(とじこめしょうこうぐん)は、英語で locked-in syndrome といい、ロックトインシンドローム、ロックドインシンドロームとも呼ばれます。日本語では施錠症候群(せじょうしょうこうぐん)という言い方もありますが、現在は「閉じ込め症候群」が最も広く使われています。

この名称は、Plum と Posner が提唱したものとされています(中野 & 鎌田 n.d.)。ほとんど完全に「鍵をかけられた状態」であることから、この呼び名がつけられました。

脳科学辞典では、意識が保たれ開眼していて外界を認識できるにもかかわらず、四肢の完全な麻痺と球麻痺のために、手足の動きや発話で意思を表すことができなくなった状態と説明されています(中野 & 鎌田 n.d.)。意思疎通は、まばたきまたは眼球運動によってのみ可能とされています。

ここで押さえていただきたいのは、意識も、思考も、記憶も、感情も、通常どおり働いているという点です。眠っているわけでも、認識できていないわけでもありません。周囲の会話は聞こえていて、内容も理解できています。動かせないのは、脳から筋肉へ命令を届ける「配線」の部分だからです。


3つのタイプに分けて考えられている

1979年に発表された報告のなかで、閉じ込め症候群は3つの型に整理されました (Bauer et al. 1979)。現在も基本的な枠組みとして使われています。

※スマホでは横スクロールできます。

動かせる範囲
古典型
(classical)
上下方向の眼球運動とまばたき以外は、まったく動かせない
不全型
(incomplete)
それ以外にも、わずかに動かせる部分が残っている
完全型
(total)
眼球運動も含めてまったく動かせない。ただし脳波では大脳の働きが保たれている

左右方向に目を動かすことは難しく、残るのは上下方向の動きとまばたきであることが多い、という点が診療の現場では重要になります。理由は、左右の視線を動かす神経の通り道が、障害される場所と重なっているためです (Bauer et al. 1979)。

脳波は正常に近い形で保たれます
意識のレベルを調べる脳波検査では、大脳の活動が保たれていることが確認されます。
これは「眠っている」「意識がない」状態とは決定的に違う点です。



2. 意識がないと誤解される

この病態でいちばんの問題は、周囲が「意識がない」と受け取ってしまうことです。

フランスの患者会に所属する44名を対象とした調査では、閉じ込め症候群と診断されたのは発症からおよそ2か月目の半ば、平均で78.76日後だったと報告されています (León-Carrión et al. 2002)。2023年のレビューでも、診断までに平均2か月以上かかること、そして患者さんに意識があると最初に気づいたのが医師だったケースは4件に1件程度であることが述べられています (Schnetzer et al. 2023)。

では、誰が最初に気づいているのでしょうか。半数を超えるケースで、最初に気づいたのはご家族だったと報告されています (Das et al. 2023)。毎日そばにいて、その人のいつもの反応を知っている人だからこそ、わずかな応答に気づけるのだと考えられます。


なぜ気づかれにくいのか

痛みを与えても手を引っ込めるような反応が出ないため、意識がないと判断されてしまうことがあります。動かすための神経が働かない以上、反応として外に出てこないからです。

また、目は開いているものの視線が定まらないように見えたり、呼びかけても表情が変わらなかったりするため、「反応がない=分かっていない」と結びつけられてしまいがちです。実際には聞こえていて、答えようとしているのに伝える手段がない、という状況が起こり得ます。



ご家族の脳や神経の症状について、気になることがあればご相談ください。

WEB予約はこちら



3. 似た状態との違い

「反応がないように見える」状態には、いくつかの異なるものがあります。閉じ込め症候群を理解するうえで、この違いを知っておくことは役に立ちます。

※スマホでは横スクロールできます。

状態 意識・認識 障害される場所
閉じ込め症候群 保たれている 主に脳幹
遷延性意識障害
(いわゆる植物状態)
目は開くが、意識的な行動がみられない 主に大脳(テント上)
最小意識状態 わずかだが確認できる反応がある 主に大脳(テント上)
無動性無言 保たれるが、自ら動こうとしなくなる 前頭葉と皮質下の回路

2023年のレビューでは、画像上の違いとして、閉じ込め症候群の病巣は主に脳幹にあるのに対し、遷延性意識障害や最小意識状態はテント上(大脳側)にあると整理されています (Schnetzer et al. 2023)。最小意識状態については、2002年に診断基準がまとめられています (Giacino et al. 2002)。


失語症とも異なります

「しゃべれない」という点だけを見ると失語症と似ていますが、まったく別のものです。失語症は言葉を扱う脳の機能そのものが障害された状態であるのに対し、閉じ込め症候群では言葉を組み立てる力は保たれており、声を出す筋肉を動かせないために発話できないという違いがあります。失語症については、当院の失語症のページで詳しくご説明しています。


神経や筋肉の病気でも起こることがあります

ギラン・バレー症候群、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、重症筋無力症などでは、人工呼吸器を装着した際に、意識が保たれたまま四肢麻痺と球麻痺を呈することがあり、この状態も一般に閉じ込め症候群と呼ばれます(中野 & 鎌田 n.d.)。海外の文献では、脳幹が原因のものと区別して「閉じ込め症候群に似た状態」と整理されることもあります (Schnetzer et al. 2023)。

呼び方は文献によって幅がありますが、押さえておきたいのは原因のある場所が違うという点です。もともとの閉じ込め症候群は脳幹に原因があるのに対し、これらは神経や筋肉の側に原因があります。MRIで脳幹に病変があるかどうかが、判断の分かれ目のひとつになります。

なお、ALSでは病気の進行とともに眼球運動やまばたきも失われていくことがあり、その状態は完全閉じ込め状態(totally locked-in state、TLS)と呼ばれています(中野 & 鎌田 n.d.)。これはALSの経過を表す専用の言葉で、先ほどの表にあるBauerの「完全型」(脳幹の病変による分類)とは別の概念です。名前が似ているため、混同されることがあります。



4. 原因は橋の梗塞

最も多い原因は、脳底動脈という血管が詰まることで起こる、橋(きょう)の梗塞です(中野 & 鎌田 n.d.)。

橋は脳幹の一部で、大脳から手足へ向かう運動の命令が通る場所です。ここの腹側(お腹側)が障害されると、運動の命令だけが遮断されます。一方で、背中側を通る感覚の経路や、意識を保つしくみは残るため、感じることも考えることもできるのに、動かせないという状態が生まれます。

139例をまとめた報告では、そのうち82例が橋の梗塞によるものだったとされています (Schnetzer et al. 2023)。原因を脳卒中と外傷に分けた別の調査では、脳卒中が86.4%、外傷性脳損傷が13.6%でした (León-Carrión et al. 2002)。

そのほかの原因
橋の出血、動脈解離、外傷、多発性硬化症、中心性橋髄鞘崩壊症、腫瘍、感染などが報告されています (Schnetzer et al. 2023)。


若い世代では血管の解離が関わることも

脳底動脈は、左右の椎骨動脈が合流してできる血管です。この椎骨動脈が裂ける「解離」は、若い世代の脳梗塞の原因として無視できません。

日本の脳卒中センター5施設で、18〜50歳の脳梗塞患者275名を調べた研究では、動脈解離が原因の25%を占め、最も多い責任血管は頭蓋内の椎骨動脈(34%)でした (Ohara et al. 2025)。また、22年間・約21万9千例が登録された日本脳卒中データバンクの解析では、動脈解離による脳卒中は40代・50代に最も多く、頭蓋内椎骨動脈の解離が主な原因だったと報告されています (Kashihara et al. 2025)。

椎骨動脈解離そのものについては、椎骨動脈解離の初期症状に関する記事で詳しくご説明しています。


画像検査でわかること、わかりにくいこと

診断では、症状の確認に加えて、MRIやCTなどの画像検査が行われます。特に拡散強調画像と呼ばれるMRIの撮り方は、発症して間もない脳梗塞をとらえやすい方法です。CTとMRIの使い分けについては、CT検査とMRI検査の違いに関する記事をご覧ください。

ただし注意点があります。発症してごく早い段階の脳幹の梗塞は、MRIでも写らないことがあります

16,268例を対象とした2024年のメタ解析では、初回のMRIで梗塞が写らなかった割合は、大脳を養う前側の血管では約7%だったのに対し、脳幹や小脳を養う後ろ側の血管では約19%にのぼりました (Alkhiri et al. 2024)。脳幹はもともと小さく複雑な構造で、ごく小さな梗塞でも強い症状が出ること、そして梗塞が画像に現れるまでに時間がかかることが重なるためです。

米国神経学会の学術誌に掲載された別のメタ解析(12研究・3,236例)でも、後ろ側の血管の症状がある方は、前側の場合に比べて画像に写らない可能性が約5倍高いと報告されています。同論文は結論として、脳梗塞はあくまで症状から診断するものであり、最初のMRIが陰性であっても治療を検討すべきであると述べています (Edlow et al. 2017)。

画像で異常がないことは、大切な情報です
ただしそれだけで脳の病気を完全に否定できるわけではありません。
症状が続くとき、強くなるとき、新しい症状が加わったときは、時間をおいて再度検査を行うことがあります。遠慮なくもう一度ご相談ください。



当院では保険診療のMRI検査を当日に行い、その日のうちに画像をご覧いただきながらご説明しています。

WEB予約はこちら



5. ご家族が医療者と一緒にできること

ここまで見てきたとおり、閉じ込め症候群ではご家族が最初に「意識がある」と気づくことが少なくありません。ご家族の観察には、それだけの価値があります。

閉じ込め症候群では、手足も口も動かないのに、上下方向の目の動きとまばたきだけは残っていることが多いとされています。目を左右に動かす仕組みが橋にあるのに対し、上下に動かす仕組みは中脳にあり、そちらは無事なことが多いためです (Bauer et al. 1979)。

そのため医学マニュアルでは、動くことのできないすべての患者さんに、まばたきか上下方向の眼球運動を求めて理解できているかを確かめることが、診察の基本手順として定められています(MSDマニュアル プロフェッショナル版 2024)。


ご家族の立場でできる3つのこと

1. 聞こえている前提で、話しかけ続ける
意識が保たれている方は、周囲の会話を理解しています。今日の予定、外の天気、名前を呼ぶこと。そうした日常のやりとりが、伝える手段を失った方にとって外の世界とのつながりになります。

2. わずかな反応に気づいたら、その場で医療者に伝える
「呼びかけたときに、まぶたが動いた気がする」「上を見たように見えた」。その程度でかまいません。
ご家族が気づいた変化は、診断を進めるうえで非常に重要な手がかりになります。

3. 合図の決め方は、医療者と一緒に決める
「上を見たら“はい”」「まばたき1回で“はい”」など、合図の取り決め方は資料によっても人によっても異なり、決まった正解はありません。
ご家庭で独自に決めるのではなく、担当の看護師や言語聴覚士と共通のルールを決めて、病室で共有しておくと安全です。


知っておいていただきたいこと

反応が返ってこなくても、意識がないとは限りません。発症してまもない時期は覚醒のレベルが揺れ、目の動きもごく小さく、すぐに疲れてしまいます (Laureys et al. 2005)。また、上下の目の動きすら残らないタイプ(完全型)もあり、その場合は合図を返すこと自体ができません。

2024年に報告された研究では、外見上まったく指示に応じない患者さん241名のうち、約4人に1人(25%)が、脳の検査では課題に取り組んでいたことが確認されています (Bodien et al. 2024)。

ここでご紹介した方法は、ご家族が診断をつけるためのものではありません。最終的な判断は、繰り返しの診察・画像検査・脳波などによる専門的な評価によって行われます。
また、合図を返すことはご本人にとって大きな労力です。短時間に何度も繰り返さないようにしてください。



6. 回復と生活の研究

ここからは、これまでに報告されている経過について整理します。数字はあくまで研究で観察された傾向であり、お一人ひとりの経過を予測するものではないことを、あらかじめお断りしておきます。


急性期を越えられるかどうかが分かれ目

2023年のレビューによれば、亡くなられるケースの大半は発症から4か月以内に集中しているとされています (Schnetzer et al. 2023)。逆に言えば、この時期を越えられた場合には、経過が大きく変わります。

そして急性期の見通しは、時代とともに変わってきています。脳底動脈が詰まった患者さんに対して、カテーテルで血栓を取り除く治療が行われるようになったためです。中国の47施設が参加した登録研究では、閉じ込め症候群を呈した120名のうち、この治療を受けた群の90日以内の死亡は41.3%、受けなかった群では60.7%と報告されています (Song et al. 2023)。


急性期を越えたあとの経過

ノルウェーで行われた全国規模の調査があります。発症から6週間以上その状態が続いた51名を追跡したもので、3年後の生存が87%、5年後が79%、10年後が73%と報告されています (Nilsen et al. 2023)。

この調査ではさらに、51名のうち23名が「閉じ込められた状態」から脱していたことが示されました。その多くは発症から2年以内でした。ただし、ほぼ元どおりまで回復したのは3名にとどまり、88%の方は介助を必要とし続けています。

数字の読み方にご注意ください
上記の生存率は「発症から6週間以上その状態が続いた方」を追跡した結果です。発症直後に亡くなられた方は含まれていません。
経過は、原因となった病気・脳の傷の広さ・受けられる医療によって大きく異なります。同じ診断名でも一人ひとり違うため、この数字がそのまま当てはまるわけではありません。


機能が戻ってくることもあります

脳科学辞典では、1週から12週後にある程度の神経症状の回復をみる例があること、27年間生存された例が報告されていることが記されています(中野 & 鎌田 n.d.)。慢性期の65名を対象とした調査では、およそ半数が発話をいくらか取り戻し、70%が手足の動きをいくらか取り戻していたとされています (Bruno et al. 2011)。


ご本人に尋ねた調査が示したこと

閉じ込め症候群について、周囲の人は「これほど不自由なら、生きるのがつらいのではないか」と想像しがちです。この点について、ご本人に直接尋ねた研究があります。

2011年に発表された調査では、慢性期にある65名(発症から中央値8年)に、ご自身の主観的な幸福度を評価してもらいました。結果は、72%が「幸福である」と回答し、28%が「幸福ではない」と回答するというものでした (Bruno et al. 2011)。「幸福ではない」と答えた方に関連していた要因として、発症からの期間が短いこと、不安があること、発話が戻っていないことが挙げられています。

研究者らは考察のなかで、健康な人や医療者が「これほど制約があれば生きる価値がないだろう」と推測しがちである点との隔たりを指摘しています。

この研究の限界について
回答率は54%で、介護者を介した回答であることによる影響も考えられます。著者自身が「慢性期の閉じ込め症候群の方全体を代表するものではないかもしれない」と述べており、この結果をそのまま一般化することはできません。

それでもこの調査が示しているのは、周囲の想像だけで「本人にとってどうか」を決めてしまうことの危うさだと考えています。


意思を伝える技術の研究

意思疎通の手段を確立することは、リハビリテーションの主な目標のひとつとされています。視線入力装置や、脳波を利用した装置が使われており、慢性期の方の63%が主要な意思疎通手段として何らかの機器を用いていたという報告があります (Schnetzer et al. 2023)。一方で、訓練に時間がかかること、疲れやすいこと、機器を使える環境が限られることが課題として挙げられています。

研究段階の取り組みとしては、2026年に、大脳皮質に電極を留置して発話の意図を読み取る試みが報告されました。ALSによる閉じ込め症候群の方1名を対象に、50語からの単語の読み取りで51.1%の精度が得られたというものです (Jude et al. 2026)。1例の研究段階の成果であり、治療として使えるものではありませんが、こうした方向の研究が進められています。



脳の症状や検査について、疑問があればお気軽にお尋ねください。

WEB予約はこちら



7. 脳卒中の5大症状

閉じ込め症候群の多くは、脳幹の脳卒中によって起こります。その脳卒中について、日本脳卒中学会が監修する一般の方向けの資料では、「脳卒中 5大症状」として次の5つが挙げられています(日本脳卒中学会 & 日本脳卒中協会 n.d.)。

※スマホでは横スクロールできます。

学会が挙げる症状
片方の手足・顔半分のマヒ・しびれが起こる(顔のみ、手のみ、足のみの場合もある)
ろれつが回らない、言葉が出ない、他人の言うことが理解できない
片方の目が見えない、物が二つに見える、視野の半分が欠ける
力はあるのに立てない、歩けない、フラフラする
経験したことのない激しい頭痛がする

同資料は、これらについて「いずれも『突然』です。」と強調しています。

注目していただきたいのは、3番目と4番目です。物が二つに見える、力はあるのにフラフラする。これらは、顔・腕・言葉の3つを確認する「FAST」というよく知られたチェック方法だけでは拾いにくい症状です。そして脳幹や小脳の脳卒中では、こうした症状が前面に出ることがあります。

海外の研究でも、来院時にFASTの症状をまったく認めなかった脳卒中患者が14.1%おり、確認項目にふらつき(Balance)と目の症状(Eyes)を加えると、見逃される割合が4.4%まで減ったと報告されています (Aroor et al. 2017)。

FASTの基本的な使い方については脳梗塞の予兆に関する記事を、めまい・ふらつきと脳卒中の関係については突然のふらつきやめまいに関する記事をご覧ください。


日ごろの管理について学会が挙げていること

同じ資料のなかで、高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙・多量飲酒・不整脈(心房細動)の管理が脳卒中の予防に大切であると述べられています(日本脳卒中学会 & 日本脳卒中協会 n.d.)。家庭で朝と夜に血圧を測って記録すること、減塩や禁煙・節酒、適切な運動といった具体的な内容も示されています。

健診でこうした項目を指摘されている方は、かかりつけの先生と相談しながら管理を続けていかれることをおすすめします。



8. よくある質問

Q. 閉じ込め症候群の方に、こちらの声は聞こえているのですか。

聞こえていて、内容も理解できていると考えられています。意識も認知機能も保たれており、失われているのは体を動かして反応を返す手段のほうです。反応がないように見えても、聞こえている前提でお話しかけください。

Q. いわゆる植物状態とは違うのですか。

異なります。遷延性意識障害(いわゆる植物状態)では目は開いていても意識的な行動がみられませんが、閉じ込め症候群では意識と認識が保たれています。病巣の場所も、前者は主に大脳側、後者は主に脳幹という違いがあります。

Q. どうすれば意識があると確かめられますか。

「聞こえていたら上を見てください」「はいなら、まばたきを1回してください」と声をかけてみてください。左右方向の眼球運動は失われていることが多いため、上下方向とまばたきで確認するのが要点です。応答が得られたら、その様子を医療者にお伝えください。

Q. 回復することはありますか。

発症から1週から12週の間にある程度の神経症状の回復をみる例が報告されており、慢性期の調査ではおよそ半数が発話をいくらか取り戻していました。ただし回復の程度には大きな個人差があり、原因となった病気や全身の状態によって経過は異なります。

Q. どのくらいの症状から相談してよいですか。

ふらつき、物が二重に見える、ろれつが回りにくいといった症状が突然現れた場合は、脳卒中の症状として学会も挙げているものです。判断に迷われるときは、かかりつけの先生や当院にご相談ください。突然の激しい頭痛、手足の麻痺、意識がはっきりしないといった症状があるときは、受診をお待ちにならず救急要請をご検討ください。



9. まとめ

  1. 閉じ込め症候群は、意識も思考も保たれたまま、体を動かして伝えることだけができなくなる状態です。
  2. 「意識がない」と誤解されやすく、診断までに平均で78日を要したという報告があります。半数を超えるケースで、最初に気づいたのはご家族でした。
  3. 最も多い原因は、脳底動脈が詰まることで起こる橋の梗塞です。若い世代では椎骨動脈の解離が関わることもあります。
  4. 上下方向の眼球運動とまばたきは残ることが多く、「上を見てください」という問いかけが意思疎通の糸口になります。
  5. 慢性期の方ご本人に尋ねた調査では72%が「幸福である」と回答しており、周囲の想像だけで判断することの危うさが指摘されています。

反応がないように見えても、そこに意識があるかもしれない。その可能性を手放さないことが、この病態でいちばん大切なことだと考えています。脳や神経の症状で気になることがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。



お問い合わせ・ご予約

頭痛・めまい・しびれ・物忘れなど、脳に関わる症状でお困りの方は、お気軽にご相談ください。ご予約は、下記から可能です。

WEB予約はこちら


当院公式LINEにてご質問等もお受けしておりますので、お気軽にお問い合わせくださいませ。

友だち追加



関連記事


重要:本記事の位置づけ(医療情報として)

  • 本記事は、研究報告や公的資料に基づく「一般的な医療情報」です。
  • 特定の治療を推奨・保証するものではありません。症状の現れ方や経過には個人差があります。
  • 本文中の生存率や回復に関する数値は、特定の条件下で行われた研究の結果であり、お一人ひとりの経過を予測するものではありません。
  • 実際の検査や治療は、症状・既往歴・併用薬などを踏まえて医師が判断します。
この記事を書いた先生のプロフィール
いわた脳神経外科クリニック 院長 岩田 亮一
医師・医学博士/日本脳神経外科学会認定 脳神経外科専門医/日本脳神経血管内治療学会認定 脳血管内治療専門医/日本頭痛学会認定 頭痛専門医
(日本脳卒中学会・日本認知症学会 所属)

脳外科医として関西医大で14年間勤務。大学時代は、脳腫瘍や脳卒中の手術治療や研究を精力的に行ってきました。
脳血管内治療(カテーテル治療)の専門医でもあり、くも膜下出血や脳動脈解離など「危険な頭痛」の鑑別・初期対応にも力を入れています。
即日MRI診断で手遅れになる前にスムーズな病診連携を行っています。MRIで異常がない頭痛であっても、ただの頭痛ではなく脳の病気であり治療が必要です。メタ認知で治す頭痛治療をモットーに頭痛からの卒業を目指しています。
院長の私自身も頭痛持ちですが、生活環境の整備やCGRP製剤による治療により克服し、毎日頭痛外来で100人以上の頭痛患者さんの診療を行っています。我慢しないでその頭痛一緒に治療しましょう。

詳しい医師のご紹介はこちら
院長写真

参考文献

  1. 中野今治 & 鎌田恭輔 n.d., 閉じ込め症候群, 脳科学辞典, viewed 9 August 2026, <https://bsd.neuroinf.jp/wiki/閉じ込め症候群>.
  2. 日本脳卒中学会 & 日本脳卒中協会 n.d., 脳卒中の予防・発症時の対応, 一般社団法人日本脳卒中学会, viewed 9 August 2026, <https://www.jsts.gr.jp/common/asset/pdf/onset.pdf>.
  3. MSDマニュアル プロフェッショナル版 2024, 閉じ込め症候群, 2024年4月改訂, viewed 9 August 2026, <https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/07-神経疾患/昏睡および意識障害/閉じ込め症候群>.
  4. Alkhiri, A, Alturki, F, Alansari, NM, Almaghrabi, AA, Alghamdi, BA, Alamri, AF, Alghamdi, S & Makkawi, S 2024, ‘Prognosis and distribution of ischemic stroke with negative diffusion-weighted imaging: a systematic review and meta-analysis’, Frontiers in Neurology, vol. 15, 1376439, DOI 10.3389/fneur.2024.1376439, viewed 9 August 2026, <https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fneur.2024.1376439/full>.
  5. Aroor, S, Singh, R & Goldstein, LB 2017, ‘BE-FAST (Balance, Eyes, Face, Arm, Speech, Time): reducing the proportion of strokes missed using the FAST mnemonic’, Stroke, vol. 48, no. 2, pp. 479-481, DOI 10.1161/STROKEAHA.116.015169, viewed 9 August 2026, <https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28082668/>.
  6. Bauer, G, Gerstenbrand, F & Rumpl, E 1979, ‘Varieties of the locked-in syndrome’, Journal of Neurology, vol. 221, no. 2, pp. 77-91, DOI 10.1007/BF00313105, viewed 9 August 2026, <https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/92545/>.
  7. Bodien, YG, Allanson, J, Cardone, P, Bonhomme, A, Carmona, J, Chatelle, C, Chennu, S, Conte, M, Dehaene, S, Finoia, P, Heinonen, G, Hu, N, Kamau, E, Lawrence, P, Manohar, S, Mao, Q, Menon, D, Owen, AM, Pickard, JD, Puybasset, L, Rohaut, B, Sitt, JD, Valente, M, Velazquez, A, Claassen, J, Edlow, BL & Schiff, ND 2024, ‘Cognitive motor dissociation in disorders of consciousness’, New England Journal of Medicine, vol. 391, no. 7, pp. 598-608, DOI 10.1056/NEJMoa2400645, viewed 9 August 2026, <https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39141852/>.
  8. Bruno, MA, Bernheim, JL, Ledoux, D, Pellas, F, Demertzi, A & Laureys, S 2011, ‘A survey on self-assessed well-being in a cohort of chronic locked-in syndrome patients: happy majority, miserable minority’, BMJ Open, vol. 1, no. 1, e000039, DOI 10.1136/bmjopen-2010-000039, viewed 9 August 2026, <https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22021735/>.
  9. Das, JM, Anosike, K & Asuncion, RMD 2023, Locked-in syndrome, StatPearls, StatPearls Publishing, Treasure Island, FL, viewed 9 August 2026, <https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK559026/>.
  10. Edlow, BL, Hurwitz, S & Edlow, JA 2017, ‘Diagnosis of DWI-negative acute ischemic stroke: a meta-analysis’, Neurology, vol. 89, no. 3, pp. 256-262, DOI 10.1212/WNL.0000000000004120, viewed 9 August 2026, <https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28615423/>.
  11. Giacino, JT, Ashwal, S, Childs, N, Cranford, R, Jennett, B, Katz, DI, Kelly, JP, Rosenberg, JH, Whyte, J, Zafonte, RD & Zasler, ND 2002, ‘The minimally conscious state: definition and diagnostic criteria’, Neurology, vol. 58, no. 3, pp. 349-353, DOI 10.1212/WNL.58.3.349, viewed 9 August 2026, <https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11839831/>.
  12. Jude, JJ, Haro, S, Levi-Aharoni, H, Hashimoto, H, Acosta, AJ, Card, NS, Wairagkar, M, Brandman, DM, Stavisky, SD, Williams, ZM, Cash, SS, Simeral, JD, Hochberg, LR & Rubin, DB 2026, ‘Decoding intended speech with an intracortical brain-computer interface in a person with long-standing anarthria and locked-in syndrome’, Cell Reports, vol. 45, no. 4, 117162, DOI 10.1016/j.celrep.2026.117162, viewed 9 August 2026, <https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41920737/>.
  13. Kashihara, K, Nakai, M, Koga, M, Handa, A, Kobayashi, S, Usumoto, S, Yoshimura, S & Toyoda, K 2025, ‘Clinical characteristics, risk factors, and outcomes of arterial dissection-associated stroke: a 22-year cohort study from the Japan Stroke Data Bank’, Journal of Atherosclerosis and Thrombosis, vol. 32, no. 9, pp. 1164-1175, DOI 10.5551/jat.65517, viewed 9 August 2026, <https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40159224/>.
  14. Laureys, S, Pellas, F, Van Eeckhout, P, Ghorbel, S, Schnakers, C, Perrin, F, Berré, J, Faymonville, ME, Pantke, KH, Damas, F, Lamy, M, Moonen, G & Goldman, S 2005, ‘The locked-in syndrome: what is it like to be conscious but paralyzed and voiceless?’, Progress in Brain Research, vol. 150, pp. 495-511, DOI 10.1016/S0079-6123(05)50034-7, viewed 9 August 2026, <https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16186045/>.
  15. León-Carrión, J, van Eeckhout, P, Domínguez-Morales, MR & Pérez-Santamaría, FJ 2002, ‘The locked-in syndrome: a syndrome looking for a therapy’, Brain Injury, vol. 16, no. 7, pp. 571-582, DOI 10.1080/02699050110119781, viewed 9 August 2026, <https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12119076/>.
  16. Nilsen, HW, Martinsen, ACT, Johansen, I, Kirkevold, M, Sunnerhagen, KS & Becker, F 2023, ‘Demographic, medical, and clinical characteristics of a population-based sample of patients with long-lasting locked-in syndrome’, Neurology, vol. 101, no. 10, pp. e1025-e1035, DOI 10.1212/WNL.0000000000207577, viewed 9 August 2026, <https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37429712/>.
  17. Ohara, T, Makita, N, Fujinami, J, Nakagawa, T, Nagakane, Y, Tomii, Y, Kajikawa, H, Yamada, K & Mizuno, T 2025, ‘Clinical characteristics of ischemic stroke in Japanese young adults’, Cerebrovascular Diseases Extra, vol. 15, no. 1, pp. 154-161, DOI 10.1159/000546037, viewed 9 August 2026, <https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12158410/>.
  18. Schnetzer, L, McCoy, M, Bergmann, J, Kunz, A, Leis, S & Trinka, E 2023, ‘Locked-in syndrome revisited’, Therapeutic Advances in Neurological Disorders, vol. 16, 17562864231160873, DOI 10.1177/17562864231160873, viewed 9 August 2026, <https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/17562864231160873>.
  19. Song, J, Huang, J, Li, L, Yang, J, Kong, W, Liu, S, Yu, Y, Yuan, J, Zeng, G, Guo, C, Peng, Z, Liu, C, Wu, D, Li, F, Yang, Q, Zi, W & Chen, Q 2023, ‘Locked-in syndrome responding to endovascular treatment’, Journal of NeuroInterventional Surgery, vol. 15, no. 8, pp. 808-813, DOI 10.1136/jnis-2022-019112, viewed 9 August 2026, <https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35953287/>.