はじめに

 

頭痛外来に来院される患者さんの中で、肩こり・首こりからくる頭痛を『緊張型頭痛』と診断され、治療を実施されている方が散見されます。

 

確かに、緊張型頭痛は、側頭筋や後頚筋群、僧帽筋などの頭から首、背中にかけて筋肉のコリ張りによって、痛みを感じる神経が刺激されて痛みが起こると言われております。しかし、安易に緊張型頭痛と診断し治療をおこなうことは問題があります。

 

 

 

診断について

 

国際頭痛分類によると、緊張型頭痛の診断は、

A:3ヵ月以上を超えて、平均して1ヵ月に1~14日(年間12日以上180日未満)の頻度で発現する頭痛が10回以上あり、かつB~D を満たす

B:30分~7日間持続する

C:以下の4つの特徴の少なくとも2項目を満たす

   1両側性

   2性状は圧迫感または締めつけ感(非拍動性)

   3強さは軽度~中等度

   4歩行や階段の昇降のような日常的な動作により増悪しない

D:以下の両方を満たす

   1悪心や嘔吐はない

   2光過敏や音過敏はあってもどちらか一方のみ

Eほかに最適なICHD-3の診断がない

 

 ○平均して、1ヶ月に1日未満(年間12日未満)の発作頻度であれば稀発反復性緊張型頭痛に分類します。

 ○3ヵ月を超えて、平均して1ヶ月に15日以上(年間180日以上)の発作頻度であれば慢性緊張型頭痛に分類されます。慢性緊張型頭痛では頭痛は数時間から数日間、絶え間なく持続し、軽い吐き気をともなう場合があります。

 

 

上記のように記載されています。

簡単に言うと、緊張型頭痛の重症度は軽度の為、日常生活に支障が少ない頭痛になります。

ですので、医療機関に受診しなくても自然と治る患者さんがほとんどです。

 

一方で、片頭痛は①片側性、②拍動性、③中等度から重症度、④歩くなどの日常的動作で頭痛が悪化するため、動作を避ける。①-④のうち少なくとも2つを満たせば片頭痛になりますので、両側性でも片側性でも片頭痛になりえます。

また、頭痛発作中には①悪心、嘔吐 ②光過敏、音過敏、①-②のうち1つを満たします。

 

つまり、悪心・嘔吐があれば、肩こり頭痛ではなく片頭痛になります。

 

片頭痛における症状の経過

 

 

 

 

緊張型頭痛と片頭痛が合併する?

 

緊張型頭痛と片頭痛は併発することが多く、慢性片頭痛がある方の多くが緊張型頭痛の症状も持っています。緊張型頭痛と片頭痛は別の原因で起こっているため、それぞれの原因にアプローチした治療を状態に合わせて行わないと改善できないことがあります。また片頭痛は温めると悪化しますが、緊張型頭痛は冷えで悪化するなど対処法も大きく異なります。

緊張型頭痛が強く片頭痛はたまに起こるというケースや、その逆でひどい片頭痛があって緊張型頭痛も起こることがあるケースなど、頻度や重症度の比率にはそれぞれ個人差があったりもします。そのため、状態にきめ細かく合わせた治療が重要になります。症状の特徴が異なりますので、どの頭痛がどのくらいの強さで、いつ起こったかなどを記録しておくことで適切な治療を受けられます。いつ、どんな症状が起きて、何時間くらい続いたかを頭痛ダイアリーなどを活用し記録しておきましょう。

 

話を進めてまいりましたが、簡単にまとめると肩こりや首こりでも重症度の高い頭痛があり、日常生活に支障が出ている場合は片頭痛となります。片頭痛は脳の病気ですので、治療が必要になります。鎮痛剤だけで様子をみていると、慢性化し、日常生活への支障度が悪化し、脳卒中、脳梗塞のリスク因子にもなります。早期に発見し、治療することで慢性化を阻止して、頭痛のない生活を送っていただきたいと考えております。

 

脳梗塞のリスク因子については、こちらの記事で詳しく解説しておりますのでぜひご覧ください。

 

 

 

 

片頭痛における日常生活の支障、治療の現状

 

片頭痛は、その名前が示すように、頭の片側が痛むことが多いのですが、頭の両側が痛む(両側性)例が約4割に認められます。また、片頭痛の発作ではズキンズキンと脈打つような痛みを感じる方が多くいる一方、ズキンズキンしない(非拍動性)場合も約5割に認められています。 頭痛の発作時は、吐き気や嘔吐を伴うことが多く、光や音、においに過敏になるといった症状がみられることがあります。
片頭痛が日常生活におよぼす影響として、「いつも寝込む」が約4%、「ときどき寝込む」が約30%、「寝込まないが日常生活に支障あり」が約40%と、合計約74%の人が日常生活に支障をきたしています。

 

このように片頭痛は日常生活に支障をもたらすにもかかわらず、68%の人が「片頭痛のために仕事を休んだり、約束をキャンセルすることはない」と答えています。

また頭痛による医療機関への受診率については、定期的に受診している人が2.7%、時々受診していると答えた人が12.2%、過去に受診したことがあると答えた人が15.6%という結果で、ここからおよそ7割の人は片頭痛に苦しんでいるにもかかわらず、医療機関を受診していないということが分かりました。

 

引用元:異なる「起こり方」と「経過」 あなたはどのタイプ?構成/渡辺由子  イラストレーション/千野六久

 

 

 

 

経済的損失について

日本頭痛学会が実施した京都頭痛宣言では、片頭痛による経済的損失は年間2800億円になると報告しております。

患者さんが如何に大変な思いを抱えながら生活していることが理解できる数字であり、生産性低下は非常に問題でもあります。

 

片頭痛の治療薬としてトリプタン製剤が2000年に発売開始され、それまで市販薬で効果がなかった片頭痛患者さんにとって大きな治療変革となりましたが、

現在では2021年に抗CGRP製剤(エムガルティアジョビアイモビーク)という画期的な予防注射薬が発売され、頭痛診療はさらに飛躍的に向上しています。

 

一人で悩まず、まずは頭痛外来を実施している施設に相談していましょう。片頭痛の悩みが少しでも解決することを願っております。

 

 

 

 

 

京都頭痛宣言について

2005年10月に京都にて開催された第12回国際頭痛学会(坂井文彦会長)における「京都頭痛宣言」の日本語訳です。

 

頭痛からの解放世界キャンペーン「苦しみからの解放」
京都頭痛宣言(2005年10月9日)

 

  • 頭痛は脳神経系に起因する疾患であり、脳に悪影響を及ぼす
  • そのなかでも、片頭痛は仕事や日常生活に支障をきたす主要疾患のトップ20に入っておりまた女性では12番目の疾患でもあり、次のことが推定されている。
    1. 日本だけでも800万人におよぶ有病率を数え.
    2. 片頭痛発作により毎日60万人の日本人が苦痛を感じ、人間らしい生活を妨げられている
    3. 頭痛による生産性の低下により、毎年2,880億円の経済的損失を、日本経済にもたらしている
    4. また西太平洋地区全域においても同様に、多くの有病者が存在し、多大な生活上の支障、経済的損失を生じせしめている
  • すべてを総合すると、片頭痛以外の頭痛もやはり同様の、またはそれ以上の負担を人、社会、そして経済に与えている

その一方

  • ほぼ全ての頭痛に対し、効果的な治療手段が存在しており、
  • 頭痛治療に要する費用は、生産性が改善されることにより、相殺される
  • それにもかかわらず、これらの人的・社会的損失が存続しているということは、頭痛に悩み苦しむ患者に本来提供されるべき治療を、医療側が提供できていないことを意味する

よって

  • 我々世界保健機構、世界頭痛連盟、国際頭痛学会、そして欧州頭痛連合は、合同して「苦しみからの解放」という、世界キャンペーンに参加し、西太平洋地区のみならず、全世界の各地域において関連機関や人々と協力し、頭痛による世界的損失を減らすという公衆衛生学的に重要な課題に取り組む。

そのために我々は、次のことを宣言する

  • 各地域における「苦しみからの解放」活動にともに取り組みまたその活動を支援することにより、頭痛対策に重要な課題を認識させる
  • 最初のステップとして、日本における医学、科学及び一般の関連機関と協力して、以下の事柄を推進する
    1. 日本国民に対して、頭痛は治療が可能でかつ治療が必要な疾患であるという認識を確立する
    2. 医療従事者向け教育プログラム導入により頭痛の診断能力と治療技術を向上させる
    3. 診断ツール、診療ガイドライン、アウトカム評価法を作成し普及する
    4. これらのメッセージを医療行政に携わる省庁や行政機関に伝え喚起を促し、頭痛により生活に支障をきたしている人々のためによりよい医療サービスが提供できるように、理解を求めるものである
    5. 日本の頭痛患者に対するこれらの推進活動の効果を評価判定して、有益な変革の成果をもたらしているか否かを検証するこの京都宣言は、西太平洋地区全域を通じて、頭痛の苦しみからの解放という目的向かっての第一歩とするものである

 

 

 

片頭痛のある人に適切な医療の実現を

 

今回は『肩こり・首こりからくる頭痛は緊張型頭痛?片頭痛?』というテーマで解説しました。

 

当院では”頭痛専門外来”をおこなっており、閃輝暗点のある片頭痛を含む様々な種類の頭痛に対し、エムガルティをはじめとしたCGRP製剤など、頭痛をしっかりと治すために最新治療の提供に注力しています。エムガルティ(CGRP製剤)の処方実績では大阪で1位・全国で3位の実績を誇っており、患者さんが新たな治療に触れる機会損失にならないよう、早期治療・早期改善に努めています。

 

頭が痛くてやっとの思いで病院やクリニックに行ったのに、「市販でも買えるようなロキソニンを処方されて終わり」といった経験はありませんか?

当院では様々な薬を使って効果判定をしながら、次の選択肢を提案することで”頭痛難民”の患者さんを救うべく日々診療をしております。

 

あなたも『頭痛から卒業』を目指して一緒に治療しませんか?

 

 

 

 

 

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この記事を書いた先生のプロフィール

医師・医学博士【脳神経外科専門医・頭痛専門医 ほか】
脳外科医として関西医大で14年間勤務。大学時代は、脳腫瘍や脳卒中の手術治療や研究を精力的に行ってきました。脳卒中予防に重点をおいた内科管理や全身管理を得意としています。
脳の病気は、目が見えにくい、頭が重たい、めまい、物忘れなど些細な症状だと思っていても重篤な病気が潜んでいる可能性があります。
即日MRI診断で手遅れになる前にスムーズな病診連携を行っています。MRIで異常がない頭痛であっても、ただの頭痛ではなく脳の病気であり治療が必要です。メタ認知で治す頭痛治療をモットーに頭痛からの卒業を目指しています。
院長の私自身も頭痛持ちですが、生活環境の整備やCGRP製剤による治療により克服し、毎日頭痛外来で100人以上の頭痛患者さんの診療を行っています。我慢しないでその頭痛一緒に治療しましょう。

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