はじめに

 

そもそも片頭痛とは、脳の過興奮・感受性が高まっている状態です。

片頭痛に対して長年、適切な治療をせず、放置すると加齢に伴い片頭痛自体は軽快しても、難治性の浮動性めまい、頭痛、頭重感、耳鳴りなどを発症することがあります。
また、片頭痛は脳梗塞やアルツハイマー病などの認知症のリスクとなるというデータも出てきています。

今回は片頭痛と脳梗塞・認知症との関係性について解説していきます。

 

 

 

 

片頭痛は脳梗塞の危険因子になるのか

 

片頭痛と脳梗塞との関連については、様々な研究がなされてきました。
45歳未満で閃輝暗点などの前兆のある片頭痛を有する女性では脳梗塞発症リスクが2倍、さらに喫煙と経口避妊薬(ピル)の内服により7〜9倍に増加、50歳未満の前兆のある片頭痛を有する女性では、年12回以上の発作がある事で2〜10倍に増加するというデータがあります。
高血圧症、糖尿病、脂質異常症、喫煙、ピルの服用などの危険因子があるケースでは、脳梗塞のリスクも考慮して治療をする必要があります。

 

 

 

片頭痛患者の脳梗塞の相対リスク、片頭痛患者における虚血性脳卒中の相対リスク は、全片頭痛・前兆のある片頭痛・前兆のない片頭痛・45 歳未満の女性・経口避妊薬服用・ 喫煙で優位に高かった。
引用元:Etminan M, Takkouche B, Caamano, et al: BMJ 330, 63, 2005.

 

 

 

 

 

片頭痛と脳梗塞には共通点がある

片頭痛と脳梗塞の背景となる病態には、関連する点がいくつかあります。

 

①皮質拡散抑制

頭痛の前兆をひき起こす脳の電気信号の異常が脳の血流不足への耐性を弱くする【皮質拡延性抑制 (cortical spreading depression: CSD)】と言われています。

 

②血管内皮機能不全

脳血管の内皮細胞の機能障害によって、血管の異常な収縮や拡張、解離、血栓形成の原因となります。

 

卵円孔開存(PFO)

心臓の右心房と左心房を分ける壁が、通常は出生後に自然閉鎖しますが、小さな穴が開いたままになっている場合が成人の26%に認められ、多くの方が無症状です。国内のデータでは、前兆のない片頭痛の方の30%に、前兆のある片頭痛の方の54.8%にPFOが存在するとされ、片頭痛のある方ではPFOが存在する確率が高いと言えます。卵円孔開存は若年性脳梗塞の原因となる事が知られています。

 

引用元:循環器内科.com 心房細動

 

20代 卵円孔開存による脳梗塞のMRI画像です。

 

 

環境と遺伝的素因(イオンチャネルの異常) から拡延性抑制が誘発され、前兆が起こります。
その際、脳血管にカリウムやアラキドン酸などの生体活性物質が放出されます。

 

これだけでは脳神経や血管を賦活するのは不十分で、 MMP-9 (マトリックスメタロプロテアーゼ -9)の関与が必要です。
その結果、 脳幹の三叉神経核や副交感神経系が賦活され、血管の拡張と頭痛が起こります。

 

ちなみに、皮質拡延性抑制(cortical spreading depression: CSD)は、大脳皮質でのニューロンとグリアの脱分極が同心円状に拡延し、その後しばらく電気活動が抑制される現象で、片頭痛前兆の原因と考えられています。

引用元:「間中信也 (2013)『ねころんで読める頭痛学 診断と診療』

 

 

 

 

 

片頭痛があればアルツハイマー型認知症のリスクが4.2倍にもなる

では次に認知症の危険因子になるのか紹介していきます。

 

ご紹介するのは「片頭痛があればアルツハイマー型認知症のリスクが4.2倍にもなる」という研究です。

 

 医学誌『International Journal of Geriatric Psychiatry』2019年9月号に掲載された論文「片頭痛と認知症のリスク、アルツハイマー型認知症・脳血管性認知症の前向き調査(Migraine and the risk of all‐cause dementia, Alzheimer’s disease, and vascular dementia: A prospective cohort study in community‐dwelling older adults)」 (https://www.researchgate.net/publication/335623669_Migraine_and_the_risk_of_all-cause_dementia_Alzheimer’s_disease_and_vascular_dementia_A_prospective_cohort_study_in_community-dwelling_older_adults)で研究結果が報告されています。

 

研究の対象者は、カナダのある地域に在住する65歳以上の679人で、登録時には認知機能の異常がないことが確認されています。5年後に認知機能を評価しアルツハイマー型認知症及び脳血管型認知症の有無が調べられました。

その結果、アルツハイマー型認知症のリスクは4.22倍にもなっていました。

 

 

 

 

 

遺伝の関連について

アルツハイマー型認知症の最大の要因は「遺伝」です。

 

そして、片頭痛も遺伝の要因が強いことはほぼ間違いありません。ということは、片頭痛があり親族にアルツハイマー型認知症がいる人のリスクはかなり高いということになります。であるならば、片頭痛の治療と予防をしっかりおこなうことが重要になります。

 

 

 

 

 

 

片頭痛の早期治療が必要 慢性化する前に

片頭痛に伴う脳梗塞や認知症のリスクを軽減させる為には、

早期から適切な治療をおこない慢性化させないことが大切です。

 

片頭痛の3割が慢性化

たかが頭痛と軽くみて市販薬で対処したり、不適切な治療を受けていると、片頭痛が慢性化することが、近年の研究で明らかになってきました。片頭痛の約3割は何らかの理由で、慢性化して増悪するといわれています。片頭痛の慢性化には、脳の器質的な変化が関連すると考えられています。脳内の痛み調節システムが異常を起こし、痛み刺激に感作された状態が生じてしまいます。

 

脳が痛み刺激に感作される

花粉症の方が少量の抗原に対して過剰反応しているのと同じで、頭痛が慢性化した患者様では、通常では痛みと感じない刺激すら痛みとして認識してしまいます。光や音、臭いなどの刺激にも敏感に反応します。

 

引用元:「我慢が足りない」わけじゃない!今知ってほしい感覚過敏のこと

 

 

頭痛薬の使い過ぎで慢性化

急性期治療薬の使い過ぎによる片頭痛の慢性化を薬物乱用頭痛と呼びます。慢性化した患者の約半数は薬物乱用が原因と分析されています。薬物乱用頭痛の原因として最も多いのは、市販の鎮痛薬の乱用といわれています。月に10回未満であれば薬物乱用頭痛のリスクには全くならないが、月の半分以上服用している場合は、薬物乱用頭痛を生じるリスクが高いので注意が必要です。

 

片頭痛が変容する症状にも注意

加齢による影響でも、片頭痛は慢性化します。これは慢性片頭痛と呼ばれ、片頭痛が月に15日以上の頻度で3ヶ月以上続くものに定義されます。慢性化した片頭痛の中には、症状が緊張型頭痛に変化したものがあり、変容片頭痛と呼ばれます。加齢とともに、肩凝りや目まい、不眠などの緊張型頭痛の症状が片頭痛に加わり、片頭痛そのものの症状が変化するとされています。

 

頭痛の見分け方(起こり方と経過の違い)

 

主な頭痛の起こり方と経過の違いを、縦軸は痛みの強さ、横軸は頭痛の起こり方と経過で示した。
上の4つは一次性頭痛、下3つは二次性頭痛。三叉神経痛は、ズキンズキンと鋭く断続的な痛みが特徴だ。

引用元:異なる「起こり方」と「経過」 あなたはどのタイプ?構成/渡辺由子  イラストレーション/千野六久

 

頭痛がある場合は我慢せずに専門外来に相談しましょう。

最後に片頭痛のある17071名に調査した結果をご紹介します。

 

 

 

 

 

日本人の10人に1人は片頭痛持ち

片頭痛は、1次性頭痛の中でも臨床的に重要な疾患で、典型的には拍動性の中等度から重度の頭痛発作が繰り返し生じ、4〜72時間にわたり発作が持続します。頭痛に加えて悪心、嘔吐、光過敏や音過敏などを伴うことが多く、日常動作で頭痛が増悪するため生活に大きな支障を来たします。

わが国における片頭痛の有病率は8.4%であり、男女とも20~50歳代の勤労世代に多くみられることから、患者の日常生活だけでなく社会生活にも影響を及ぼす疾患とされています。

 

本調査には、片頭痛の症状がある17,071人(平均年齢41歳、男:女=33.5%:66.5%)が参加されたておりますが、片頭痛のために受診を受け、治療を行った医師の主な診療科割合は、

 

かかりつけ医・内科医:59.9%

脳神経外科医:26.7%

頭痛専門医:13.7%

脳神経内科医:12.3%

 

予防治療薬をしようしている割合は1割未満です。

 

片頭痛は「脳の病気」ですので、「脳の専門医」を受診してください。

 

今回の調査でわかったわが国における片頭痛診療の現状として、

 

これまで1度でもOTC(一般用医薬品)を使用したことがある:80.4%

現在OTCを使用している:75.2%

これまで片頭痛のために医療機関を受診したことがある:57.4%

医師による片頭痛の診断を受けたことがある:56.6%

過去1年に片頭痛のために医療機関を受診した:39.7%

現在NSAIDsが処方されている:36.7%

これまでトリプタンを使用したことがある:20.1%

現在トリプタンを使用している:14.8%

これまでに予防治療薬を使用したことがある:10.2%

現在予防治療薬を使用している:9.2%

 

との回答を得ました。

調査により、片頭痛症状をもつ人の42.6%は医療機関を1度も受診していないことが判明しています。また、片頭痛の急性期治療薬について、全体の87.1%の人は現在OTCを含む急性期治療薬を用いて治療していたが、トリプタンで治療している人は全体の14.8%でした。

予防治療薬について、予防治療薬の処方の対象となる人は全体の29.0%でしたが、現在予防治療薬で治療している人はわずか9.2%でした。

 

 

 

 

 

片頭痛のある人に適切な医療の実現を

 

今回は『片頭痛患者は脳梗塞や認知症のリスクが高まるってホント?』というテーマで解説しました。

 

当院では”頭痛専門外来”をおこなっており、閃輝暗点のある片頭痛を含む様々な種類の頭痛に対し、エムガルティをはじめとしたCGRP製剤など、頭痛をしっかりと治すために最新治療の提供に注力しています。エムガルティ(CGRP製剤)の処方実績では大阪で1位・全国で3位の実績を誇っており、患者さんが新たな治療に触れる機会損失にならないよう、早期治療・早期改善に努めています。

 

頭が痛くてやっとの思いで病院やクリニックに行ったのに、「市販でも買えるようなロキソニンを処方されて終わり」といった経験はありませんか?

当院では様々な薬を使って効果判定をしながら、次の選択肢を提案することで”頭痛難民”の患者さんを救うべく日々診療をしております。

 

あなたも『頭痛から卒業』を目指して一緒に治療しませんか?

 

 

 

 

 

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この記事を書いた先生のプロフィール

医師・医学博士【脳神経外科専門医・頭痛専門医 ほか】
脳外科医として関西医大で14年間勤務。大学時代は、脳腫瘍や脳卒中の手術治療や研究を精力的に行ってきました。脳卒中予防に重点をおいた内科管理や全身管理を得意としています。
脳の病気は、目が見えにくい、頭が重たい、めまい、物忘れなど些細な症状だと思っていても重篤な病気が潜んでいる可能性があります。
即日MRI診断で手遅れになる前にスムーズな病診連携を行っています。MRIで異常がない頭痛であっても、ただの頭痛ではなく脳の病気であり治療が必要です。メタ認知で治す頭痛治療をモットーに頭痛からの卒業を目指しています。
院長の私自身も頭痛持ちですが、生活環境の整備やCGRP製剤による治療により克服し、毎日頭痛外来で100人以上の頭痛患者さんの診療を行っています。我慢しないでその頭痛一緒に治療しましょう。

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