この記事で分かること
- 大人のてんかんはけいれんとは限らず、ぼんやり・もの忘れ・口のもぐもぐなど、見すごされやすい形で現れること
- 原因(脳卒中後・神経変性・原因不明など)と、脳波・MRIでどう調べ、どう治療していくのか
- 何科を受診すればよいか、運転や生活で気をつけたいこと。多くは治療で発作を抑えやすいこと
「ときどき数十秒、意識が遠のいてぼんやりする」「直前のことを思い出せない」「家族が話しかけても返事がないことがある」——こうした変化を、年齢や疲れのせいだと考えて、やり過ごしてはいないでしょうか。
大人、とくにご高齢の方のてんかんは、若い方で思い浮かべるような全身のけいれんを伴わないことが少なくありません。そのため気づかれにくく、「もの忘れ」や「ぼんやり」として見すごされてしまうことがあります。
この記事では、大人のてんかんがどのような症状で現れるのか、原因や診断・治療、そして何科を受診すればよいか・運転などの生活面まで、受診の判断に役立つ形で整理します。
大人のてんかんは、原因をきちんと調べたうえで治療を行うと、発作を良好に抑えられることが多い病気です。「気のせい」と片づけず、一度見極めることに意味があります。
目次
1. 大人のてんかんとは|誤解されやすい病気
てんかんは、脳の神経細胞の電気活動が一時的に乱れることで、発作をくり返す病気です。子どもの病気というイメージを持たれることがありますが、実際には大人になってから、とくにご高齢になってから初めて発症することも珍しくありません。
日本神経治療学会の指針などでは、てんかんの発症率は加齢とともに高くなり、高齢になるほど新たに発症する方が増えることが示されています。海外の報告では、70歳以上での新規発症は10歳以下を上回り、80歳以上では年間に人口10万人あたり約150人にのぼるとされます。日本でも、65歳以上のてんかんの方は約30万人と推計されています。背景には、後述する脳卒中後の変化など、年齢に伴う要因があると考えられています。
大人のてんかんは「けいれん=てんかん」というイメージとずれることが多く、本人も家族も気づきにくいのが特徴です。だからこそ、症状の現れ方を知っておくことが見極めの第一歩になります。
2. けいれんだけではない|発作の現れ方
大人、とくにご高齢の方のてんかんでは、意識が部分的にくもる「焦点意識減損発作(旧称:複雑部分発作)」というタイプが多いことが知られています。全身のけいれんではなく、次のような形で現れることがあります。
- 数十秒〜数分、ぼんやりして反応が鈍くなる
- 口をもぐもぐさせる、手をもぞもぞ動かすなどの動作をくり返す
- 発作中・直後のことを思い出せない(記憶が抜ける)
- 呼びかけても返事がなく、あとで「気づいたら時間が経っていた」と感じる
こうした症状は短時間で治まり、本人に自覚が残らないことも多いため、周囲の家族のほうが先に気づくことがあります。
「もの忘れ」と間違われやすいこと
発作中の記憶が抜けるため、これがくり返されると「もの忘れが増えた」と受け取られ、認知症と思い込まれてしまうことがあります。とくに、数分〜30分ほど記憶がすっぽり抜けるエピソードをくり返す「一過性てんかん性健忘(TEA)」は、もの忘れと見分けにくいタイプとして知られています。TEAや脳波検査の詳しい内容は、当院のてんかん外来のページや、関連記事「脳波検査でわかること」で解説しています。
米国の大規模研究(ARIC研究)では、67歳以降に初めててんかんと診断された方は、その後に認知症と診断される割合が高かったと報告されています(てんかんなしの群と比べた調整ハザード比3.05、95%信頼区間2.65〜3.51)。もの忘れの背景を早めに見極める意義を示すデータです(Johnson et al., 2020)。
3. 大人のてんかんの主な原因
大人になってから発症するてんかんには、背景に何らかの脳の変化が見つかることもあれば、検査をしてもはっきりした原因がわからないこともあります。報告によると、高齢で発症するてんかんの約半数は検査でも原因が特定できず、原因がわかるなかでは脳卒中などの脳血管障害がもっとも多いとされています。代表的な背景には次のようなものがあります。
高齢で発症するてんかんの主な原因(概数)
※上図は複数の疫学報告にもとづく代表的な概数で、割合は報告により異なります(日本神経治療学会『標準的神経治療:高齢発症てんかん』を含む)。原因がわかる場合は脳血管障害(脳卒中後)がもっとも多いとされます。
- 脳卒中の後:脳梗塞や脳出血などのあとに生じた脳の変化が、発作のもとになることがあります。高齢発症てんかんの背景としてよく挙げられます。
- 神経変性の病気:アルツハイマー病など、認知機能に関わる病気にてんかんが伴うことがあると報告されています。
- 頭部のけが・脳腫瘍・脳炎の後など:過去の外傷や脳の病気が関係することがあります。
- 原因不明:くわしく調べても、明らかな原因が特定できないことも少なくありません。
原因によって、注意すべき点や治療の進め方が変わることがあります。そのため、発作のタイプとあわせて背景を調べることが大切になります。
4. 脳波とMRIで何を調べるのか
てんかんが疑われるとき、診断の柱になるのが、問診(どんなときにどんな症状が出たか)と、脳波検査・画像検査です。これらを組み合わせて、発作のタイプや背景を見極めていきます。
脳波検査でわかること(てんかんの波形)
脳波検査(EEG)は、脳の神経細胞が出す微弱な電気活動を、頭皮につけた電極でとらえて波形として記録する検査です。電気を流すわけではなく、針も使わないため、痛みはありません。てんかんでは、発作のもとになる「棘波(きょくは)」などの特徴的な波が手がかりになります。とくに、眠った状態での記録(睡眠賦活)を加えると、こうした波がとらえやすくなることが知られています。
MRIで背景を確認する
脳波が脳の「はたらき」を映すのに対し、MRIは脳の「かたち(構造)」を詳しく調べます。脳卒中のあとの変化や腫瘍など、発作の背景になりうる所見がないかを確認します。脳波とMRIは役割が異なるため、両方を組み合わせることで、より確かな見極めにつながります。
脳波は、一度の検査で必ず異常がとらえられるとは限りません。「脳波が正常だった=てんかんではない」と単純に決められるものではなく、症状の経過やMRIとあわせて、医師が総合的に判断します。
5. 治療と見通し|多くは発作を抑えやすい
大人のてんかんは、原因や発作のタイプに合わせて抗てんかん薬を用いることで、発作を良好にコントロールできることが多い病気です。日本神経学会の『てんかん診療ガイドライン2018』でも、薬による治療が基本に位置づけられています。
ご高齢の方では、ほかの病気の薬を飲んでいることや、体への負担を考える必要があることから、薬の種類や量は、一人ひとりの状況に合わせて慎重に選ばれます。自己判断で薬を始めたり中止したりせず、医師と相談しながら続けていくことが大切です。
「てんかん」という言葉に不安を感じる方は少なくありません。けれども、原因を調べ、合った治療を続けることで、発作を抑えながら、これまでどおりの生活を目指せる方が多くいらっしゃいます。
6. てんかんは何科を受診すればよいか
「てんかんかもしれない」と思ったとき、何科にかかればよいか迷われるかもしれません。大人のてんかんは、脳神経内科や脳神経外科で診療を行っています。けいれんを伴わない発作や、もの忘れに似た症状の場合も、これらの科で相談できます。
当院では、てんかん外来で、問診・脳波・採血・MRIなどを組み合わせて診断にあたっています。もの忘れが気になる場合は物忘れ外来もあり、てんかんと認知症のどちらが背景にあるのかを含めて見極めていきます。
受診の際は、いつ・どんな症状が・どのくらい続いたかを、ご家族が気づいた範囲でメモしておくと診断の助けになります。準備が整っていなくても受診は可能ですので、まずはお気軽にご相談ください。
7. 運転と日常生活で気をつけたいこと
てんかんがあっても、状態によっては自動車の運転が認められる場合があります。一方で、運転中に発作が起きると重大な事故につながるおそれがあるため、道路交通法にもとづくルールが定められています。
てんかん情報センター(国立病院機構)などの公的情報によると、運転免許の取得・更新には、運転に支障するおそれのある発作が一定期間(おおむね2年間など)ないことや、医師の診断にもとづく公安委員会指定の診断書の提出が必要とされています。条件は個々の状態によって異なるため、自己判断はせず、必ず主治医と相談してください。
発作が完全に抑えられていない段階での運転は、重大な事故につながるおそれがあります。運転の可否は、必ず主治医に確認してください。仕事や生活への影響についても、遠慮なくご相談いただけます。
8. よくある質問
Q. けいれんがなくても、てんかんのことがありますか?
はい。大人、とくにご高齢の方では、けいれんを伴わず、数十秒〜数分のぼんやり、口のもぐもぐ、記憶の途切れといった形で現れることがあります。こうした症状をくり返す場合は、一度ご相談ください。
Q. もの忘れが増えたのですが、認知症とてんかんはどう違いますか?
てんかんでは発作の間だけ記憶が抜けることがあり、ふだんは元どおりに過ごせるのが特徴のひとつです。一方、認知症は時間をかけて徐々に進むことが多い病気です。見分けには脳波やMRIなどの検査と、症状の経過の確認が役立ちます。
Q. てんかんは何科を受診すればよいですか?
大人のてんかんは、脳神経内科や脳神経外科で診療しています。当院ではてんかん外来で、問診・脳波・採血・MRIを組み合わせて診断にあたっています。
Q. 高齢になってから発症したてんかんも、治療できますか?
はい。原因や発作のタイプに合わせて抗てんかん薬を用いることで、発作を良好に抑えられることが多いとされています。ほかの薬との兼ね合いも考えながら、一人ひとりに合わせて治療を進めます。
Q. てんかんがあると、車の運転はできなくなりますか?
状態によっては運転が認められる場合があります。ただし、発作のない期間や医師の診断書など、道路交通法にもとづく条件があります。自己判断はせず、必ず主治医にご相談ください。
9. まとめ
- 大人のてんかんはけいれんとは限らず、ぼんやり・もの忘れ・口のもぐもぐなど、見すごされやすい形で現れることがあります。
- 原因には脳卒中後・神経変性・原因不明などがあり、脳波とMRIを組み合わせて発作のタイプと背景を見極めます。
- 多くは抗てんかん薬で発作を良好に抑えられることが多く、もの忘れの背景にてんかんがあれば、治療で改善が期待できることもあります。
- 受診は脳神経内科・脳神経外科で。運転などの生活面は自己判断せず、主治医に相談することが大切です。
「年のせい」「気のせい」と思っていた症状の裏に、見極めれば手を打てる原因が隠れていることもあります。気になる発作のサインが続く方は、どうぞお気軽にご相談ください。一緒に原因を見極めていきます。
お問い合わせ・ご予約
けいれんを伴わない発作、もの忘れに似た症状、てんかんや脳波検査についてお悩みの方は、お気軽にご相談ください。ご予約は、下記から可能です。
当院公式LINEにてご質問等もお受けしておりますので、お気軽にお問い合わせくださいませ。
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重要:本記事の位置づけ(医療情報として)
- 本記事は、研究報告や公的資料に基づく「一般的な医療情報」です。
- 特定の治療を推奨・保証するものではありません。効果や症状の現れ方には個人差があります。
- 実際の検査・診断・治療は、症状・既往歴・併用薬などを踏まえて医師が判断します。
参考文献
- Johnson, E.L., Krauss, G.L., Kucharska-Newton, A. et al. (2020) ‘Dementia in late-onset epilepsy: The Atherosclerosis Risk in Communities study’, Neurology, 95(24), pp. e3248–e3256. DOI:10.1212/WNL.0000000000011080. 閲覧日: 2026年6月24日. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7836657/
- 日本神経学会 (2018) 『てんかん診療ガイドライン2018』. 閲覧日: 2026年6月24日. https://www.neurology-jp.org/guidelinem/tenkan_2018.html
- 日本てんかん学会ガイドライン作成委員会 『高齢者のてんかんに対する診断・治療ガイドライン』, 日本てんかん学会. 閲覧日: 2026年6月24日. https://jes-jp.org/pdf/aged_epilepsy.pdf
- 日本神経治療学会治療指針作成委員会 『標準的神経治療:高齢発症てんかん』, 日本神経治療学会. 閲覧日: 2026年6月24日. https://www.jsnt.gr.jp/guideline/img/ktenkan.pdf
- てんかん情報センター(国立病院機構静岡てんかん・神経医療センター)「運転免許はとれますか?」. 閲覧日: 2026年6月24日. https://shizuokamind.hosp.go.jp/epilepsy-info/question/faq10-4/















