この記事で分かること
- もの忘れの中には、てんかんのように「治療で改善しうる原因」が隠れていることがあります
- 高齢者のてんかんは、けいれんではなく”短時間の物忘れ”として現れ、認知症と間違われやすいこと
- 脳波検査が何を調べ、どんな流れで受けるのか(痛みのない検査です)と、当院の検査体制
「最近もの忘れが増えた」「数十分の記憶がすっぽり抜けることがある」——そんなとき、多くの方が真っ先に認知症を心配されます。けれども、もの忘れの背景には、治療で改善しうる別の原因が隠れていることがあります。
そのひとつが、高齢になってから起こる「てんかん」です。意外に思われるかもしれませんが、高齢者のてんかんはけいれんを伴わず、もの忘れやぼんやりとした状態として現れることが少なくありません。そして、その発見の手がかりになるのが脳波検査です。
この記事では、脳波検査でわかることを、「治療できるもの忘れを見逃さない」という視点を軸に、検査の流れや注意点まで含めてわかりやすく整理します。
脳波は、それ単独で病気を確定する検査ではありません。問診やMRIと組み合わせ、「治療できる原因が隠れていないか」を見極めるための、大切な手がかりのひとつです。
目次
1. 脳波検査とは|脳のはたらきを診る
脳波検査(EEG)は、脳の神経細胞が活動するときに生じる微弱な電気活動を、頭皮につけた電極でとらえて波形として記録する検査です。心臓の動きを記録する心電図の、脳版とイメージするとわかりやすいかもしれません。
MRIやCTが脳の「かたち(構造)」を見る検査であるのに対し、脳波は脳の「はたらき(機能)」をリアルタイムに映し出します。この違いがあるため、脳波は構造の検査では見えにくい、てんかんのような「電気活動の乱れ」をとらえることができます。
脳波検査は電気を流さず、脳から自然に出ている信号を記録するだけの検査です。針も使わないため痛みはなく、お子さまからご高齢の方まで受けていただけます。
2. そのもの忘れ、治療できる原因かも
もの忘れの原因はさまざまで、その中には、適切な治療によって改善が期待できるものがあります。代表的なもののひとつが、高齢になってから起こるてんかんです。
一過性てんかん性健忘(TEA)という形
「一過性てんかん性健忘(TEA)」は、数分から30分ほど、その間の記憶がすっぽり抜けるエピソードを、くり返し起こすタイプのてんかんです。多くは高齢で起こり、朝の目覚めのときに生じやすいことが知られています。けいれんや意識消失がなく、もの忘れだけが目立つため、認知症や一過性全健忘と間違われやすいと報告されています。
TEAは、抗てんかん薬によって発作(記憶が抜けるエピソード)が改善することがあると報告されています(Butler & Zeman, 2007)。「治療できる原因」を見極めることには、大きな意味があります。
3. 高齢者てんかんと認知症の違い
高齢の方のてんかんは、若い人で思い浮かべるような全身のけいれんとは限りません。むしろ、数十秒〜数分ぼんやりする、口をもぐもぐさせるなどの動作をくり返す、直前のことを思い出せない、といった、もの忘れに似た形で現れることがあります。だからこそ、認知症と見分けにくいのです。
米国の大規模研究(ARIC研究)では、67歳以降に初めててんかんと診断された方は、その後に認知症と診断される割合が高かったと報告されています(てんかんなしの群と比べた調整ハザード比3.05)。これは、もの忘れの背景を早めに見極める意義を示すものです(Johnson et al., 2020)。
また、アルツハイマー病の一部では、脳波にてんかん様の活動がみられることが知られています。発作を伴う方は認知機能の低下が始まる年齢が数年早い傾向があり、使うお薬の選び方にも注意が必要との報告があります(Vossel et al., 2013)。こうした背景の見極めにも、脳波が役立ちます。
もちろん、もの忘れの多くは、てんかん以外の原因によるものです。ここで大切なのは「治療できる原因が隠れていないかを一度きちんと調べる」という考え方です。自己判断はせず、気になる症状が続くときはご相談ください。
4. 脳波検査でわかる病気
脳波検査でわかる病気には、次のようなものがあります。いずれも脳波だけで診断を決めるのではなく、症状やほかの検査と合わせて評価します。
- てんかん:発作のもとになる「棘波(きょくは)」などの特徴的な波を調べ、発作のタイプや関係する部位の手がかりを得ます。
- 意識障害・脳症:脳全体のはたらきが落ちると、脳波はゆっくりした波(徐波)に変化します。
- せん妄:薬や体調の影響で一時的に意識がもうろうとする状態で、認知症との見分けに役立つことがあります。
- 認知症の鑑別(補助):脳波単独では診断できませんが、てんかんなど似た症状を示す病気との見分けに用います。
脳波の種類(α・β・θ・δ・γ波)
脳波は、波の速さ(周波数=1秒間のくり返し回数/ヘルツ)によって種類が分けられ、どの波がどこから出ているかで脳の状態を読み取ります。
| 名称 | 周波数の目安 | 主に出ているとき |
|---|---|---|
| δ(デルタ)波 | およそ4Hz未満 | 深い睡眠、乳幼児 |
| θ(シータ)波 | 4〜7Hz | うとうとした入眠期、小児 |
| α(アルファ)波 | 8〜13Hz | 目を閉じて安静にした覚醒時(後頭部に出やすい) |
| β(ベータ)波 | 13Hzを超える | 目を開けて活動・緊張しているとき |
| γ(ガンマ)波 | 30Hzを超える | 考えごとや課題に集中しているとき |
健康な成人では、目を閉じて安静にすると後頭部にα波が現れ、目を開けると消えるという自然な反応がみられます。この反応の有無も、脳の状態をみる手がかりになります。
5. 検査の流れと所要時間
脳波検査は、ベッドに横になり、リラックスした状態で受けていただきます。痛みはなく、検査中に眠ってしまっても問題ありません。
電極の位置と国際10-20法
電極は、国際10-20法という世界共通の決まりに沿って、頭皮の決まった位置に20個ほど取りつけます。電極はクリーム状ののりで貼りつけるだけで、検査後はお湯で洗い流せます。準備から記録までを含め、検査時間はおおよそ30分〜1時間半が目安です(記録のみであれば30分ほどのこともあります)。
検査中に行うこと(賦活)と前日の注意
より正確に評価するため、目を開け閉めする、深呼吸をくり返す、点滅する光を見る、眠った状態を記録するなど、脳波の変化を引き出す工夫(賦活)を行うことがあります。とくにてんかんが疑われる場合、睡眠時の記録は手がかりが得られやすいとされています。当日は前日に洗髪し、整髪料やウィッグは控えてください。食事はふだんどおりで構いません。お薬は自己判断で中止せず、いつもどおり服用してください。
6. 当院の脳波検査と外来連携
当院では、院内で脳波検査を行える体制を整えています。てんかん外来では問診・脳波・採血・MRIを組み合わせて診断し、物忘れ外来でも脳波計測定を検査の一つとして取り入れています。
当院はMRI検査を当日に実施できる体制があり、脳波で得た情報とMRIの画像を同じ日に合わせて評価しやすいのが強みです。「もの忘れの背景に、治療できる原因が隠れていないか」を見極める診療に活かしています。
とくにご高齢の方では、てんかんがもの忘れとよく似た症状で現れ、認知症と間違われることがあります。脳波とMRIを組み合わせることで、こうした見分けに役立てています。
7. よくある質問
Q. もの忘れが、てんかんのこともあるのですか?
はい、高齢の方では、てんかんがけいれんではなく、短時間のもの忘れやぼんやりとして現れることがあります。数分〜30分ほど記憶が抜けるエピソードをくり返す場合などは、一度ご相談ください。
Q. 脳波検査は痛いですか?
電極を頭皮に貼って脳の電気活動を記録するだけで、電気を流すことはありません。痛みはなく、体への負担が少ない検査です。
Q. 検査時間はどのくらいかかりますか?
電極の準備を含めておおよそ30分〜1時間半が目安です。安静にして記録するだけであれば、30分ほどで終わることもあります。
Q. 脳波検査だけで認知症はわかりますか?
脳波だけで認知症を確定することはできません。問診やMRIなどと合わせ、てんかんなど似た症状を示す病気との見分けも含めて総合的に判断します。
Q. 検査の前に気をつけることはありますか?
前日に洗髪し、整髪料やウィッグは控えてください。食事はふだんどおりで構いません。お薬は自己判断で中止せず、いつもどおり服用してください。
8. まとめ
- もの忘れの中には、てんかんのように治療で改善が期待できる原因が隠れていることがあります。
- 高齢者のてんかんはけいれんを伴わず、もの忘れに似た形で現れ、認知症と間違われやすいことが知られています。
- 脳波は脳の「はたらき」を映す痛みのない検査で、こうした原因の見極めに役立ちます(ただし単独では確定せず、MRI等と総合判断します)。
- 当院は院内で脳波検査を行い、当日のMRIやてんかん外来・物忘れ外来と連携しています。
「年のせい」と思っていたもの忘れに、治療できる原因が隠れていることもあります。気になる症状が続く方は、どうぞお気軽にご相談ください。一緒に原因を見極めていきます。
お問い合わせ・ご予約
もの忘れや記憶の途切れ、てんかん、脳波検査についてお悩みの方は、お気軽にご相談ください。ご予約は、下記から可能です。
当院公式LINEにてご質問等もお受けしておりますので、お気軽にお問い合わせくださいませ。
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重要:本記事の位置づけ(医療情報として)
- 本記事は、研究報告や公的資料に基づく「一般的な医療情報」です。
- 特定の治療を推奨・保証するものではありません。効果や所見の現れ方には個人差があります。
- 実際の検査・診断は、症状・既往歴・併用薬などを踏まえて医師が判断します。
参考文献
- Johnson, E.L. et al. (2020) ‘Dementia in late-onset epilepsy: The Atherosclerosis Risk in Communities study’, Neurology, 95(24), pp. e3248–e3256. DOI:10.1212/WNL.0000000000011080. 閲覧日: 2026年6月24日. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7836657/
- Vossel, K.A. et al. (2013) ‘Seizures and epileptiform activity in the early stages of Alzheimer disease’, JAMA Neurology, 70(9), pp. 1158–1166. DOI:10.1001/jamaneurol.2013.136. 閲覧日: 2026年6月24日. https://jamanetwork.com/journals/jamaneurology/fullarticle/1709572
- Butler, C.R. and Zeman, A.Z. (2007) ‘The syndrome of transient epileptic amnesia’, Annals of Neurology, 61(6), pp. 587–598. DOI:10.1002/ana.21111. 閲覧日: 2026年6月24日. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17444534/
- 日本神経学会 (2018) 『てんかん診療ガイドライン2018』. 閲覧日: 2026年6月24日. https://www.neurology-jp.org/guidelinem/tenkan_2018.html
- 髙梨, 淳子 (2017) 「認知症の脳波検査」, 医学検査, 66(J-STAGE-2), pp. 55–61. DOI:10.14932/jamt.17J2-8. 閲覧日: 2026年6月24日. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jamt/66/J-STAGE-2/66_17J2-8/_html/-char/ja















