脳波でひらく認知症の早期発見|QEEG・40Hzガンマ波研究の今

この記事で分かること

  • 脳波(EEG)を数値で解析する「QEEG」が、認知症の早期発見に役立つ可能性が研究されていること
  • 「40Hzガンマ波」を使った研究(GENUS)の現在地と、その期待と限界
  • 研究段階の話題と、いま実際に受けられる検査(物忘れ外来・脳ドック)の違い

「親の物忘れが増えてきた。認知症だとしたら、もっと早く気づく方法はなかったのだろうか」——そう感じたことはないでしょうか。認知症は、症状がはっきりする何年も前から、脳の中で静かに変化が始まっていると考えられています。

だからこそ「もっと早く、できれば負担の少ない検査で見つけられないか」という研究が、世界中で進められています。その有力な候補のひとつが、頭に電極を当てて脳の電気活動を記録する「脳波(EEG)」です。

この記事では、脳波を使った認知症の早期発見研究と、話題の「40Hzガンマ波」研究について、期待できる点と、まだ分かっていない点の両方を、できるだけ分かりやすくお伝えします。

この記事で取り上げる脳波バイオマーカーや40Hzガンマ波刺激は、現在も研究が進められている話題です。当院で「認知症が治る検査・治療」として提供しているものではありません。気になる症状がある方は、まず物忘れ外来や脳ドックでのご相談をおすすめします。


目次



認知症の早期発見や脳の健康が気になる方は、お気軽にご相談ください。

 

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1. 脳波とは何か

脳波(EEG:脳電図)とは、頭皮に電極を当てて、脳の神経細胞が出す微弱な電気活動を記録する検査です。頭にいくつものセンサーを付けて、波のような信号を記録している様子を、テレビなどで見たことがある方もいるかもしれません。

脳波の大きな特長は、「体への負担が少なく、繰り返し受けやすい」ことと、「脳の活動の変化を、ミリ秒(千分の一秒)単位の細かさで捉えられる」ことです。痛みもなく、放射線も使いません。


脳波には「リズム」がある

脳の電気活動には、いくつかの「リズム(周波数帯)」があります。たとえばリラックスしているときに出やすいアルファ波、深い眠りのときに目立つデルタ波などです。これらのリズムのバランスは、脳の状態によって変わると考えられています。

近年の研究では、このリズムのバランスの変化が、認知症の早期のサインを捉える手がかりになるのではないか、と注目されています。次の章で、その研究を見ていきましょう。



2. QEEGと認知症の早期発見研究

従来の脳波は、専門医が波形を目で見て読み取るのが中心でした。これに対し、脳波をコンピュータで数値として解析する手法を「QEEG(定量的脳波/quantitative EEG)」と呼びます。波の大きさや周波数のバランスを数字で比べられるため、わずかな変化も捉えやすくなると期待されています。


アルツハイマー病で報告されている脳波の変化

アルツハイマー型認知症やその前段階とされる軽度認知障害(MCI:認知症の一歩手前の状態)では、脳波に特徴的な傾向が報告されています。具体的には、ゆっくりした波(デルタ波・シータ波)が増え、速い波(アルファ波・ベータ波)が減る「脳波の徐波化(じょはか)」と呼ばれる変化です(Yuan & Zhao, 2025)。

QEEGで報告されている主な変化
・速い波(アルファ・ベータ)が減り、遅い波(デルタ・シータ)が増える「徐波化」
・脳の領域どうしの「つながり(同期性・コヒーレンス)」の低下
※これらは集団としての傾向で、個人差が大きい点に注意が必要です。

この総説では、脳波の変化は脳のかたちの変化(萎縮)よりも早い段階で現れることがある、と指摘されています。負担が少なく持ち運びもしやすい検査であることから、早期発見の手がかりとして研究が進められています。


まだ「確定診断の道具」ではない

ただし、ここで冷静に押さえておきたい点があります。同じ総説は、課題もはっきりと挙げています。検査のやり方が施設ごとに統一されていないこと、研究の参加人数が少ないこと、人種や年齢の違う集団での検証が十分でないことなどです(Yuan & Zhao, 2025)。

現時点で、QEEGだけで認知症を診断できるわけではありません。診断は、問診・認知機能検査・MRIなどの画像検査・血液検査などを組み合わせて、医師が総合的に判断します。脳波バイオマーカーは、あくまで研究が進んでいる「候補」のひとつです。

なお、脳波に関連する話題として、アルツハイマー病の早い段階では「てんかん」のような電気活動が起きやすいことが報告されています(Vossel et al., 2013; Kamondi et al., 2024)。これは研究段階の早期マーカーとは別の、実際の診療につながる話題です。詳しくは関連記事「脳波検査でわかること」でご紹介しています。



ご家族の物忘れが気になる方は、物忘れ外来でお気軽にご相談ください。

 

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3. 40Hzガンマ波研究の今

脳波の研究は「見つける(早期発見)」だけでなく、「働きかける」方向にも広がっています。その代表が、ニュースでも話題になった「40Hzガンマ波」を使った研究です。ガンマ波とは、脳の速いリズムのひとつで、記憶や注意に関わると考えられています。


GENUSという研究の考え方

この研究は「GENUS(ジーナス)」と呼ばれます。光の点滅や音を毎秒40回(40Hz)のリズムで与えると、脳がそのリズムに合わせて活動し、ガンマ波が誘導されるという考え方です。マウスの実験では、アルツハイマー病に関わるとされる物質(アミロイドなど)が減ったという報告があり、注目を集めました。

ここで大切なのは、動物実験の結果がそのまま人に当てはまるとは限らない、という点です。「マウスで効いた=人で証明された」ではありません。研究はあくまで一歩ずつ進んでいる段階です。


人を対象とした研究で分かってきたこと

人を対象とした初期の研究(実現可能性試験・パイロット試験)も報告されています。軽度のアルツハイマー型認知症の方などを対象に、毎日40Hzの光と音による刺激を一定期間行うもので、安全に実施できたことが示されました(Chan et al., 2022)。

主な研究デザイン(Chan et al., 2022)
・実現可能性試験:認知機能が正常な方や軽度アルツハイマー病の方などを対象に安全性を確認
・パイロット試験:軽度アルツハイマー病15名(刺激あり8名/対照7名)を約3か月観察
※いずれも少人数で、効果を結論づけるための規模ではないと著者自身が述べています。

約3か月の刺激の後、刺激を受けた群では、脳室の拡大や海馬(記憶に関わる部位)の萎縮が対照群より小さかった、特定の記憶テストの成績が改善したといった傾向が報告されました。ただし著者らは、これは少人数の探索的な結果であり、本格的な臨床試験での検証が必要だと明記しています。


より長期間の小規模な続報

その後、ごく少人数(5名)を2年間追跡した続報も報告されました(Chan et al., 2025)。重い有害事象なく続けられ、遅発性(高齢で発症するタイプ)の方では認知機能の低下がやや緩やかだった可能性が示唆されましたが、人数が非常に少なく、ここから一般化することはできません。

誤解しないでいただきたい大切な点
40Hzガンマ波刺激(GENUS)は、まだ研究段階の手法です。「認知症が治る」「予防できる」と確立された治療ではなく、当院でも提供しておりません。市販の機器や類似サービスを検討する際は、必ず主治医にご相談ください。



4. 今できること

ここまで研究の話題をお伝えしてきましたが、「では、今の私たちに何ができるのか」が、いちばん気になるところだと思います。研究の進展を待ちつつ、いまできることに目を向けることが大切です。



最先端の研究に期待する一方で、いま確実にできるのは「今の脳の状態を知っておくこと」です。気になる症状があれば物忘れ外来で原因を確認する、症状がなくても脳ドックで一度確認する——それが、研究の成果を待つ間にとれる、最も確かな一歩です。加齢のもの忘れと認知症の違いについては、関連記事「物忘れと認知症の違い」でくわしく解説しています。


気になる症状は、早めの相談を

物忘れが増えた、同じことを何度も聞く、慣れた道で迷う——こうした変化が続くときは、早めにご相談ください。MCI(認知症の一歩手前)の段階で気づければ、生活習慣の見直しや、原因の確認など、できることの選択肢が広がる可能性があります。

「もの忘れ=すべて認知症」ではありません。中には、適切な対応で改善が期待できる原因が隠れていることもあります。だからこそ、自己判断で抱え込まず、一度ご相談いただくことに意味があると考えています。


物忘れ外来・脳ドックという選択肢

当院では、物忘れが気になる方向けの物忘れ外来や、症状がなくても脳の状態を確認しておきたい方向けの脳ドックをご用意しています。研究段階の脳波バイオマーカーとは異なり、これらはいま実際に受けていただける検査・相談の窓口です。「受診すべきか迷う」段階でも、お気軽にご相談ください。



5. よくある質問

Q. 脳波の検査を受ければ、認知症が早く分かりますか?

現時点では、脳波(QEEG)だけで認知症を診断することはできません。脳波の変化は早期発見の手がかりとして研究が進む「候補」であり、診断は問診・認知機能検査・MRIなどを組み合わせて医師が総合的に判断します。

Q. 40Hzガンマ波の刺激は、当院で受けられますか?

いいえ。40Hzガンマ波刺激(GENUS)は研究段階の手法で、確立された治療ではなく、当院では提供しておりません。今後の研究の進展を見守っている段階です。

Q. 市販の「40Hzライト」のような機器は試してよいですか?

有効性や安全性が確立されているとは言えない段階です。光の点滅は、てんかんなどをお持ちの方に影響する場合もあります。試される前に、必ず主治医にご相談ください。

Q. 症状がなくても脳ドックを受ける意味はありますか?

症状がない段階で脳の状態を確認しておきたい、というご希望に応える選択肢のひとつです。気になる点がある方は、何を確認したいかも含めてご相談いただければと思います。

Q. 認知症の研究は、今後どう進むのでしょうか?

脳波バイオマーカーやガンマ波刺激は、より大規模で長期の研究による検証が必要な段階です。確かなことが分かるまでには時間がかかりますが、地に足のついた進展を見守りつつ、今できる相談・検査を活用いただくのがよいと考えています。



6. まとめ

  1. 脳波(QEEG)の変化は、認知症の早期発見の手がかりとして研究が進む「候補」ですが、これ単独での診断はできません。
  2. 40Hzガンマ波刺激(GENUS)は、安全に実施できたとの報告はあるものの、有効性はまだ研究段階で、確立された治療ではありません。
  3. 研究の進展を見守りつつ、気になる症状があれば物忘れ外来・脳ドックで早めにご相談いただくことが、いまできる確かな一歩です。

研究の話題に過度な期待も不安も持ちすぎず、「気になったら相談する」を大切にしていただければと思います。私たちは、その一歩に寄り添います。



お問い合わせ・ご予約

認知症の早期発見や脳の健康についてお悩みの方、物忘れが気になる方は、お気軽にご相談ください。ご予約は、下記から可能です。

当院では、もの忘れの背景を調べるMRIに、AIによる画像再構成技術(SwiftMR)を導入しています。ノイズを抑えた画像をより短い時間で撮影でき、研究段階の脳波バイオマーカーとは異なり、いま実際に受けていただける検査です。

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重要:本記事の位置づけ(医療情報として)

  • 本記事は、研究報告や公的資料に基づく「一般的な医療情報」です。特定の検査・治療を推奨・保証するものではありません。
  • 記事で取り上げた脳波バイオマーカー(QEEG)や40Hzガンマ波刺激(GENUS)は研究段階の話題であり、当院で提供する検査・治療ではありません。効果や安全性が確立されたものではなく、結果には個人差があります。
  • 実際の診断・診療は、症状・既往歴・併用薬などを踏まえて医師が判断します。気になる症状がある方は医療機関にご相談ください。
この記事を書いた先生のプロフィール
いわた脳神経外科クリニック 院長 岩田 亮一
医師・医学博士/脳神経外科専門医脳血管内治療専門医
(日本認知症学会・日本頭痛学会・日本脳卒中学会 所属)

脳外科医として関西医大で14年間勤務。大学時代は、脳腫瘍や脳卒中の手術治療や研究を精力的に行ってきました。
脳血管内治療(カテーテル治療)の専門医でもあり、くも膜下出血や脳動脈解離など「危険な頭痛」の鑑別・初期対応にも力を入れています。
即日MRI診断で手遅れになる前にスムーズな病診連携を行っています。MRIで異常がない頭痛であっても、ただの頭痛ではなく脳の病気であり治療が必要です。メタ認知で治す頭痛治療をモットーに頭痛からの卒業を目指しています。
院長の私自身も頭痛持ちですが、生活環境の整備やCGRP製剤による治療により克服し、毎日頭痛外来で100人以上の頭痛患者さんの診療を行っています。我慢しないでその頭痛一緒に治療しましょう。

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参考文献

  1. Yuan, Y. and Zhao, Y. (2025) ‘The role of quantitative EEG biomarkers in Alzheimer’s disease and mild cognitive impairment: applications and insights’, Frontiers in Aging Neuroscience, 17, 1522552. DOI: 10.3389/fnagi.2025.1522552. 閲覧日: 2026年6月24日. https://www.frontiersin.org/journals/aging-neuroscience/articles/10.3389/fnagi.2025.1522552/full
  2. Chan, D., Suk, H.J., Jackson, B.L. et al. (2022) ‘Gamma frequency sensory stimulation in mild probable Alzheimer’s dementia patients: Results of feasibility and pilot studies’, PLoS ONE, 17(12), e0278412. DOI: 10.1371/journal.pone.0278412. PMID: 36454969. 閲覧日: 2026年6月24日. https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0278412
  3. Chan, D., Suk, H.J., Jackson, B. et al. (2025) ‘Gamma sensory stimulation in mild Alzheimer’s dementia: An open-label extension study’, Alzheimer’s & Dementia, 21(10), e70792. DOI: 10.1002/alz.70792. PMC: PMC12552893. 閲覧日: 2026年6月24日. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12552893/
  4. Vossel, K.A., Beagle, A.J., Rabinovici, G.D. et al. (2013) ‘Seizures and epileptiform activity in the early stages of Alzheimer disease’, JAMA Neurology, 70(9), pp. 1158-1166. DOI: 10.1001/jamaneurol.2013.136. 閲覧日: 2026年6月24日. https://jamanetwork.com/journals/jamaneurology/fullarticle/1709572
  5. Kamondi, A., Grigg-Damberger, M., Löscher, W. et al. (2024) ‘Epilepsy and epileptiform activity in late-onset Alzheimer disease: clinical and pathophysiological advances, gaps and conundrums’, Nature Reviews Neurology, 20, pp. 162-182. DOI: 10.1038/s41582-024-00932-4. 閲覧日: 2026年6月24日. https://www.nature.com/articles/s41582-024-00932-4