この記事で分かること

  • アクーゴがどんな治療で、どんな方が対象になるのか
  • 国内で保険が使える「脳の再生医療等製品」であること
  • 臨床試験で示された効果と、「条件付き承認」が意味すること

事故や転倒で頭に大きなけがを負い、手足の麻痺が後遺症として残ってしまう——ご本人はもちろん、毎日を支えるご家族にとっても、それはとても重い現実です。リハビリを根気強く続けても、ある時期から改善が止まり、「ここから先はもう変わらないのだろうか」と感じているご本人・ご家族は、少なくないのではないでしょうか。

そうした受傷から時間が経った「慢性期」の運動麻痺に対して、2024年に国内で承認され、2026年5月に公的医療保険の対象となった新しい細胞治療薬があります。それが「アクーゴ脳内移植用注(一般名:バンデフィテムセル)」です。脳に直接、培養した細胞を移植するという、これまでにない発想の治療として注目を集めています。

この記事では、アクーゴがどんな治療なのか、誰が対象になるのか、効果や費用、そして「条件付き承認」という言葉の意味までを、できるだけやさしく整理します。

当院ではアクーゴの取り扱いはありませんが、脳の再生医療に関心をお持ちの方へ、公的資料や研究報告に基づいた正確な情報をお届けします。


目次



大阪で脳の健康や再生医療について気になることがあれば、いわた脳神経外科クリニックへご相談ください。

 

WEB予約はこちら



1. アクーゴとは何か

アクーゴ脳内移植用注は、サンバイオ株式会社が開発した「再生医療等製品」です。一般名をバンデフィテムセルといい、効能・効果は「外傷性脳損傷に伴う慢性期の運動麻痺の改善」と定められています。

2024年7月31日に国内で承認され、2026年5月20日には薬価が収載されて公的医療保険の対象になりました。脳の損傷に対する再生医療として国内で承認・保険適用された、数少ない製品のひとつです。

「脳内移植用注」という名前のとおり、アクーゴは飲み薬や点滴ではなく、脳に直接、培養した細胞を移植するタイプの治療です。後ほど触れるように、手術を伴うため、受けられる施設や対象となる方は限られます。


「再生医療等製品」とは
細胞や組織を加工してつくられ、体の機能の再建・修復などを目的とする製品の総称です。
一般的な化学合成の医薬品とは性質が異なり、品質管理や承認の枠組みにも特有のルールが設けられています。



2. どんな仕組みで働くのか

アクーゴのもとになる細胞は、健康なドナーの骨髄から採取された「間葉系幹細胞(かんようけいかんさいぼう)」です。この細胞に、神経の再生に関わる「ヒトNotch-1(ノッチワン)細胞内ドメイン遺伝子」を導入して培養したものが、アクーゴの有効成分にあたります(開発時の名称はSB623)。


脳に移植して「再生の手助け」をする

この細胞を、定位脳手術という方法で、損傷した組織の周辺に移植します。移植された細胞は、FGF-2をはじめとするさまざまな成長因子を放出すると報告されています。これらが、傷ついた神経がもともと持っている回復する力を後押しし、神経細胞の働きの立て直しを促すと考えられています。


ここがポイント
移植した細胞そのものが、長くとどまって新しい神経に置き換わるわけではないと考えられています。
あくまで周囲の細胞に働きかけ、回復の「きっかけ」をつくる役割が中心と説明されています。

つまりアクーゴは、失われた神経を一から作り直すというより、脳が本来持っている修復の仕組みを引き出すことを狙った治療と理解するのが実態に近いといえます。



3. 対象になるのはどんな人か

アクーゴの承認された対象は、「外傷性脳損傷に伴う慢性期の運動麻痺」です。ここはとても大切なところなので、少しかみくだいて説明します。


「外傷性脳損傷」かつ「慢性期」

外傷性脳損傷とは、交通事故や転落、転倒などの外からの強い力によって脳が傷ついた状態を指します。慢性期とは、受傷からある程度の時間が経ち、症状が落ち着いて安定している段階のことです。リハビリを続けても改善が頭打ちになりやすい時期であり、ここに対して効果が検討されてきました。


注意:適応は限定されています
脳卒中(脳梗塞・脳出血)の後遺症、認知症、パーキンソン病、脊髄損傷などは、現時点でのアクーゴの承認対象には含まれません。
情報サイトによっては幅広い病気が挙げられていることがありますが、国内で認められている効能・効果は外傷性脳損傷に限られます。

実際に対象となるかどうかは、損傷の部位や程度、麻痺の状態、全身の状態などをふまえて、専門の医師が個別に判断します。「外傷性脳損傷の後遺症があれば誰でも受けられる」というものではない点に注意が必要です。



大阪で脳の後遺症やリハビリについてお悩みの方は、お気軽にご相談ください。

WEB予約はこちら


4. 臨床試験で示されたこと

アクーゴの有効成分(SB623)については、国際共同の第II相試験「STEMTRA試験」が行われ、その中間解析の結果が2021年に医学誌Neurologyで報告されています(Kawabori et al. 2021)。


運動機能のスコアが改善

この試験では、慢性期の運動麻痺がある外傷性脳損傷の患者61名が対象となりました(細胞移植を受けた群46名、比較のための偽手術群15名)。主要評価項目は、運動機能を点数で評価する「Fugl-Meyer Motor Scale(FMMS)」の、移植前からの変化量です。


主な結果(24週時点)
細胞移植群では平均8.3点、偽手術群では平均2.3点の改善がみられ、群間の差は6.0点(p=0.04)と報告されています。
さらに、後から行われた追加解析(事後解析)では、この改善が48週時点まで維持される傾向が示されたと報告されています(Okonkwo et al. 2024)。

点数の差だけ見るとわかりにくいかもしれませんが、「リハビリで改善が止まりやすい慢性期に、運動機能のスコアが偽手術群より大きく改善した」という点が、この治療が注目される理由のひとつです。


「条件付き承認」という前提を理解する

ここで大切なのが、アクーゴが「条件及び期限付き承認」という枠組みで承認されている点です。これは、有効性が一定程度「推定」される段階で、安全性が確認されたものについて、期限を区切って先に承認する仕組みです。


条件付き承認のポイント
有効性は「確立」ではなく「推定」の段階にあると位置づけられています。
承認後7年以内をめどに、製造販売後の臨床試験や使用成績調査で改めて有効性・安全性を検証し、本承認を目指すことになっています。

言いかえれば、アクーゴの効果は今まさに実地で検証が進んでいる途中であり、すべての方に同じ効果が期待できると断言できる段階ではありません。中間解析という性質や、対象人数が限られていることもあわせて、結果は慎重に受け止める必要があります。効果や経過には個人差があります。



5. 費用と保険のしくみ

アクーゴは、2026年5月20日に薬価が収載され、公的医療保険の対象となりました。薬価(保険上の価格)は1回分あたり7,271万6,528円と定められています。金額だけを見ると非常に高額ですが、ここで知っておきたいのが「保険診療」であるという点です。


自由診療(全額自己負担)ではなく公的医療保険が適用されるため、患者さんの窓口負担は原則1〜3割となり、さらに高額療養費制度によって、ひと月あたりの自己負担には所得に応じた上限が設けられます。

つまり、表示価格がそのまま患者さんの支払額になるわけではありません。実際の負担額は、保険の自己負担割合や高額療養費制度の適用、加入している医療保険の内容によって変わります。詳しくは、治療を行う医療機関やお住まいの自治体・保険者にご確認ください。



6. どこで受けられるのか

アクーゴは、定位脳手術によって脳の損傷部周辺に細胞を移植する治療です。そのため、脳神経外科の専門的な体制が整い、この手術と再生医療等製品の取り扱いに対応できる施設に限られます。


当院での取り扱いについて
いわた脳神経外科クリニックでは、アクーゴの取り扱いは行っておりません。
治療をご検討の場合は、まず現在の主治医や、対応している専門施設にご相談いただくのが基本となります。

一般的な流れとしては、まず対象に該当するかどうかの評価を受け、適応が確認されれば手術による移植を行い、その後はリハビリテーションと組み合わせて経過をみていく形になります。手術や全身状態に関わるリスクの説明を十分に受け、納得したうえで判断することが大切です。



7. 再生医療という流れの中で

アクーゴは、脳の領域における再生医療の一例です。近年は、細胞や免疫の力を利用した治療の研究が、さまざまな病気に対して進められています。当院でも、こうした再生医療や先進的な治療について、情報発信を行っています。


混同しないために
ひとくちに「再生医療」といっても、目的・対象となる病気・エビデンスの段階はそれぞれ大きく異なります。
アクーゴ(外傷性脳損傷)と、ほかの細胞治療やがん免疫療法などは、別々の治療として理解することが大切です。

たとえば、加齢に関わる病気への応用が研究されている脂肪由来幹細胞や、悪性脳腫瘍に対して研究が進む自家がんワクチン療法などは、いずれもアクーゴとは目的も適応も異なります。それぞれの考え方については、関連記事で解説しています。



8. よくある質問

Q. アクーゴは誰でも受けられますか?

いいえ。承認されている対象は「外傷性脳損傷に伴う慢性期の運動麻痺」です。損傷の状態や全身の状態をふまえ、専門の医師が個別に適応を判断します。

Q. 脳梗塞や脳出血の後遺症にも使えますか?

現時点で国内で認められている効能・効果は外傷性脳損傷に限られており、脳卒中の後遺症は対象に含まれていません。

Q. 保険は使えますか?費用はどのくらいですか?

2026年5月に公的医療保険の対象となりました。窓口負担は原則1〜3割で、高額療養費制度によりひと月の自己負担に上限が設けられます。実際の金額は保険の内容により異なります。

Q. 効果はどのくらい期待できますか?

臨床試験では運動機能スコアの改善が報告されていますが、アクーゴは条件付き承認の段階にあり、有効性は推定の段階です。効果や経過には個人差があります。

Q. いわた脳神経外科クリニックで受けられますか?

当院ではアクーゴの取り扱いはありません。脳の健康や再生医療に関するご相談はお受けしておりますので、お気軽にお問い合わせください。



9. まとめ

  1. アクーゴは、外傷性脳損傷に伴う慢性期の運動麻痺を対象とした、脳に細胞を移植する再生医療等製品です。
  2. 2024年に承認され、2026年5月に公的医療保険の対象となりました。高額療養費制度も利用できます。
  3. 臨床試験で運動機能の改善が報告されていますが、条件付き承認の段階にあり、有効性は今後も検証が続きます。
  4. 脳卒中の後遺症や認知症などは対象外で、定位脳手術に対応できる専門施設で受ける治療です。

脳の再生医療は、これからの分野です。気になる治療を見聞きしたときは、対象や効果の段階を正しく知ったうえで、納得して選んでいただくことが何より大切だと思います。



お問い合わせ・ご予約

脳の健康や再生医療について気になることがある方は、お気軽にご相談ください。ご予約は、下記から可能です。

WEB予約はこちら


当院公式LINEにてご質問等もお受けしておりますので、お気軽にお問い合わせくださいませ。

友だち追加



関連記事


重要:本記事の位置づけ(医療情報として)

  • 本記事は、研究報告や公的資料に基づく「一般的な医療情報」であり、診断・治療の代替ではありません。
  • 特定の治療を推奨・保証するものではありません。効果や副作用には個人差があります。
  • 実際の治療は、症状・既往歴・全身状態などを踏まえて医師が判断します。
この記事を書いた先生のプロフィール

医師・医学博士【脳神経外科専門医・頭痛専門医 ほか】
脳外科医として関西医大で14年間勤務。大学時代は、脳腫瘍や脳卒中の手術治療や研究を精力的に行ってきました。脳卒中予防に重点をおいた内科管理や全身管理を得意としています。
脳の病気は、目が見えにくい、頭が重たい、めまい、物忘れなど些細な症状だと思っていても重篤な病気が潜んでいる可能性があります。
即日MRI診断で手遅れになる前にスムーズな病診連携を行っています。MRIで異常がない頭痛であっても、ただの頭痛ではなく脳の病気であり治療が必要です。メタ認知で治す頭痛治療をモットーに頭痛からの卒業を目指しています。
院長の私自身も頭痛持ちですが、生活環境の整備やCGRP製剤による治療により克服し、毎日頭痛外来で100人以上の頭痛患者さんの診療を行っています。我慢しないでその頭痛一緒に治療しましょう。

詳しい医師のご紹介はこちら
院長写真

参考文献

  1. 医薬品医療機器総合機構 2024, アクーゴ脳内移植用注 添付文書・審査報告書, 医薬品医療機器総合機構, viewed 3 June 2026, <https://www.pmda.go.jp/regenerative_medicines/2024/R20240904001/331695000_30600FZX00001000_B100_1.pdf>.
  2. 厚生労働省 2026, 再生医療等製品の保険適用について(アクーゴ脳内移植用注), 中央社会保険医療協議会, viewed 3 June 2026, <https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001687607.pdf>.
  3. サンバイオ株式会社 2024, 「アクーゴ脳内移植用注」(一般名:バンデフィテムセル)について、外傷性脳損傷に伴う慢性期の運動麻痺の改善治療薬として条件及び期限付き製造販売承認を取得, サンバイオ株式会社, viewed 3 June 2026, <https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/release/24/09/11/21591/>.
  4. Kawabori, M, Weintraub, AH, Imai, H, Zinkevych, I, McAllister, P, Steinberg, GK, Frishberg, BM, Yasuhara, T, Chen, JW, Cramer, SC, Achrol, AS, Schwartz, NE, Suenaga, J, Lu, DC, Semeniv, I, Nakamura, H, Kondziolka, D, Chida, D, Kaneko, T, Karasawa, Y, Paadre, S, Nejadnik, B, Bates, D, Stonehouse, AH, Richardson, RM & Okonkwo, DO 2021, ‘Cell Therapy for Chronic TBI: Interim Analysis of the Randomized Controlled STEMTRA Trial’, Neurology, vol. 96, no. 8, pp. e1202-e1214, DOI 10.1212/WNL.0000000000011450, viewed 3 June 2026, <https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8055341/>.
  5. Okonkwo, DO, McAllister, P, Achrol, AS, Karasawa, Y, Kawabori, M, Cramer, SC, Lai, A, Kesari, S, Frishberg, BM, Groysman, LI, Kim, AS, Schwartz, NE, Chen, JW, Imai, H, Yasuhara, T, Chida, D, Nejadnik, B, Bates, D, Stonehouse, AH, Richardson, RM, Steinberg, GK, Poggio, EC & Weintraub, AH 2024, ‘Mesenchymal Stromal Cell Implants for Chronic Motor Deficits After Traumatic Brain Injury: Post Hoc Analysis of a Randomized Trial’, Neurology, vol. 103, no. 7, p. e209797, DOI 10.1212/WNL.0000000000209797, viewed 3 June 2026, <https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11373674/>.
<!– 修正台帳: 2026-06-03(Phase 5V/5d) 1. [旧] この改善は48週時点まで維持されたとされています。 [新] この改善は、48週時点まで維持される傾向が示されたと報告されています。 / 理由: STEMTRA一次情報は"trend toward maintaining"のため断定を回避 / 対象1箇所 / 検証済み(残存0件) 2. [旧] 参考文献4 URL = https://www.sanbio.com/(トップのみ) [新] サンバイオ承認お知らせの実在PRページ(bio.nikkeibp.co.jp/atcl/release/24/09/11/21591/)へ差し替え / 理由: 検証可能性の向上 / 対象1箇所 / 検証済み(残存0件) ─ Agent V所見: 条件付きPASS(規制枠組み・適応限定・臨床数値・費用すべて一次情報と整合、重大誤認なし) ─ M-2(効能を「運動機能障害」とする指摘)は一次情報照合の結果「運動麻痺」が正式表記と確認、変更不要 ─ Phase 5a: 禁止ワード0 / h4-h6=0 / オレンジBOX=2 / 必須構成要素すべて存在 / 目次15字・H2見出し25字・関連記事20字すべて規定内 ─ 論文実在確認: Kawabori et al., 2021, Neurology 96(8) e1202-e1214, DOI 10.1212/WNL.0000000000011450(PMC8055341)確認済 3. [R-1 修正] 48週維持データの出典誤帰属を是正(Phase 5V Agent F指摘) [旧] 48週データをKawabori 2021(24週中間解析)の文脈に記載・出典明示なし [新] 本文を「後から行われた追加解析(事後解析)では…」と明記し、参考文献に Kawabori et al. (2024) Post Hoc Analysis, Neurology, DOI 10.1212/WNL.0000000000209797(PMC11373674)を追加 / 理由: Kawabori 2021は24週のみ。48週は2024事後解析が出典。出典一致を担保(feedback_literature_verification) / 対象: 本文1箇所+参考文献1件追加 / 検証済み(実在確認: PMC11373674・Neurology掲載確認済) 4. [マーケ改善] CTA数を4→3に削減(Yuiさん承認・Agent M提案) [旧] CTA③(section8直前)を削除 / [新] 大バナー①+中盤②+フッターの3構成 / 理由: 情報提供記事として過剰CTAを抑え信頼感を優先 / digikar reserve=3箇所で検証済 5. [過去指摘の再点検] 参考文献をHarvard方式(reference_harvard_style.md・Yuiさん2026-05-20指示)へ統一 [旧] APA混在形式(著者 (年) '表題', 誌名, 96(8), pp.…. DOI: …. (閲覧日:…)URL) [新] Harvard(著者→発行年→'表題'→誌名italic→vol./no.→pp./p.→DOI→viewed→) ・リスト内はet al.不可→全著者列挙(PMCで全著者取得・最終著者前に&) ・配列=日本語団体著者(五十音順)→英語著者(姓アルファベット順) ・団体著者は正式名称のみ(「PMDA」略称・「中央社会保険医療協議会」を発行機関へ) ・本文中引用は (Kawabori et al. 2021)/(Okonkwo et al. 2024) のHarvard形へ / 理由: Vancouver/APAは非準拠。直近記事(2026-05-12等)はVancouverのままだが本記事は標準に統一 / 対象: 参考文献ol全5件+本文中引用2件 / 検証済み –>