この記事で分かること
- けいれん発作が5分以上続く状態は「てんかん重積状態」と呼ばれ、時間との勝負になること
- スピジア点鼻液(一般名:ジアゼパム)は、てんかん重積状態に対して鼻から噴霧して使うレスキュー薬で、2025年6月24日に国内承認、同年12月に販売が開始されたこと
- 国内第Ⅲ相試験では、投与後10分以内に発作が消失し30分間再発しなかった割合は62.5%(10/16例)、投与後10分以内に発作が消失した割合は93.8%(15/16例)と報告されていること
- 主な副作用は傾眠(眠気)で、呼吸抑制などに備え、原則として投与後は救急搬送の手配が求められること
- 処方には主治医による事前の指導と、ご家族・介護者の理解の確認が前提となること
※効果や副作用には個人差があります。実際の使用可否は主治医の判断によります。
目の前で、ご家族の発作が始まる。いつもなら1〜2分でおさまるのに、今日はなかなか止まらない。「救急車を呼ぶべきか」「もう少し様子を見るべきか」——その数分が、とても長く感じられるのではないでしょうか。
てんかんをお持ちのご本人やご家族から、私たちが最も多くうかがう不安のひとつが、この「止まらなかったときにどうするか」という問題です。これまで日本では、発作が長引いたときに医療機関の外で使える薬は、小児向けの坐薬や、18歳未満に限られた口腔用液が中心でした。成人の方や、そのご家族が「手元に持っておける手段」は、決して十分とは言えなかったのです。
そうしたなかで、2025年12月に国内で販売が始まったのが、鼻から噴霧するタイプの抗けいれん薬「スピジア点鼻液」です。この記事では、スピジアがどのような薬なのか、どのくらいの効果が報告されているのか、そして使ううえで知っておくべき注意点は何かを、添付文書と審査報告書、査読論文といった一次資料に基づいて整理します。
この記事は「薬をすすめる」ためのものではありません。スピジアは、発作が止まらないという特定の場面のために用意される薬で、日常的に発作を予防する薬とは役割が異なります。すでに服用中の抗てんかん薬を、この記事を読んで自己判断で変更することのないようお願いいたします。
目次
てんかんの発作が長引く、頻度が増えてきた——そうした変化が気になる方は、大阪・城東区のいわた脳神経外科クリニックのてんかん外来へご相談ください。
1. 「5分」が分かれ目——てんかん重積状態とは
てんかんの発作の多くは、1〜2分程度で自然におさまります。ところが、脳のなかで「発作を止める仕組み」がうまく働かなくなると、発作が異常に長く続いてしまうことがあります。これがてんかん重積状態(じゅうせきじょうたい)です。
国際抗てんかん連盟(ILAE)の分類では、この状態を2つの時点で考えます。ひとつは「これ以上は自然に止まりにくく、治療を始めるべき時点(t1)」、もうひとつは「神経細胞の障害など、長期的な影響が生じうる時点(t2)」です。全身のけいれんを伴う発作では、t1は5分、t2は30分とされています (Trinka et al. 2015, pp. 1515-1516)。
つまり「5分」は、単なる目安の数字ではありません。5分を超えたら、自然に止まるのを待つ段階ではなく、止めにいく段階に入った——そう考えるための線引きなのです。日本神経学会の『てんかん診療ガイドライン2018』でも、けいれん性てんかん重積状態は発症5分から治療を開始する対象として扱われています(日本神経学会 2018)。
図1:てんかん重積状態の「時間」の考え方
なぜ時間が問題になるのか
発作が続いている間、脳の神経細胞は激しく興奮し続け、酸素とエネルギーを消費します。同時に、発作が長引くほど、脳内でベンゾジアゼピン系薬剤が働きかける受容体(GABAA受容体)の反応性が下がっていくことが知られています。早く介入するほど薬が効きやすく、遅れるほど止めにくくなる——これが、てんかん重積状態が「時間との勝負」と言われる理由です。
読み方のコツ:「5分」は3つのパターンで考える
スピジアの国内試験では、次のいずれかの状態が続いていることを目で確認したうえで投与されました(医薬品医療機器総合機構 2025)。ご家庭で判断する際の参考になります。
- 1回のけいれん発作が5分以上続いている
- けいれん発作が1時間に3回以上おこり、いまもけいれんが続いている
- 意識が戻らないまま2回以上続けてけいれんがおこり、いまもけいれんが続いている
2. スピジア点鼻液とは|鼻から使うジアゼパム
スピジア点鼻液は、ジアゼパムを有効成分とする点鼻スプレーです。ジアゼパムそのものは、注射剤として60年近く使われてきたベンゾジアゼピン系の薬で、GABAA受容体のベンゾジアゼピン結合部位に結合し、脳の過剰な興奮を抑えると考えられています(アキュリスファーマ株式会社 2026)。
新しいのは、成分ではなく届け方です。鼻の粘膜は血管が豊富で、飲み込む必要も、注射をする必要もありません。意識がもうろうとしていたり、歯を食いしばっていたりする発作中でも投与しやすい、という設計上の利点があります。
製品の基本情報
- 販売名:スピジア点鼻液5mg/7.5mg/10mg
- 一般名:ジアゼパム
- 効能・効果:てんかん重積状態
- 承認:2025年6月24日/販売開始:2025年12月
- 区分:処方箋医薬品、向精神薬(第三種向精神薬)
- 剤形:1容器0.1mLの使い切りスプレー、室温保存
(アキュリスファーマ株式会社 2026)
ここで注目したいのが、対象年齢です。スピジアの用法・用量は「成人及び2歳以上の小児」とされています。これまで日本には、医療機関の外で成人が使えるてんかん重積状態のレスキュー薬がありませんでした。大人になってからも発作が続く方や、成人したお子さんを介護しているご家族にとって、選択肢が一つ増えたという点は、この薬の大きな意味だと考えています。
体内でどう動くか
日本人の健康成人にスピジアを1回投与したとき、血液中のジアゼパム濃度が最も高くなるまでの時間(Tmax)の中央値は1.5〜2.0時間、注射と比べたときの吸収の割合(バイオアベイラビリティ)は97%と報告されています(アキュリスファーマ株式会社 2026)。
「ピークまで2時間もかかるのに、発作は止まるのか」と疑問に思われるかもしれません。実際には、後述する国内試験で発作が消失するまでの時間の中央値は1.5分でした。血中濃度が最高値に達するのを待たずとも、立ち上がりの段階で脳に届いた分が働くと考えられています。ただし、これは限られた症例数での観察であり、すべての方で同じように早く止まると保証するものではありません。
3. 従来の選択肢(坐薬・口腔用液・注射)との違い
「うちはダイアップ(ジアゼパム坐剤)を持っています」という方もいらっしゃると思います。それぞれ役割が違いますので、整理してみましょう。
| 薬剤 | 投与経路 | 効能・効果 | 対象年齢 | 医療機関の外で使えるか |
|---|---|---|---|---|
| スピジア点鼻液(ジアゼパム) | 鼻腔内に噴霧 | てんかん重積状態 | 成人および2歳以上の小児 | 可(条件あり/後述) |
| ブコラム口腔用液(ミダゾラム) | 頬の内側(頬粘膜) | てんかん重積状態 | 18歳未満 | 可 |
| ジアゼパム坐剤(ダイアップ等) | 直腸内 | 小児の熱性けいれん・てんかんのけいれん発作の改善 | 小児 | 可 |
| ジアゼパム注射剤 | 静脈内など | てんかん重積状態の初期治療薬として推奨(日本神経学会 2018) | 年齢制限なし | 医療機関内での使用が前提 |
ポイントは3つあります。
①「てんかん重積状態」という効能を持つのは、点鼻液と口腔用液です。坐剤の効能は「小児の熱性けいれん及びてんかんのけいれん発作の改善」であり、重積状態そのものを対象とした承認ではありません。
②年齢の守備範囲が違います。ブコラム口腔用液は18歳未満に限られており、18歳以上での有効性・安全性は確立していないとされています(クリニジェン株式会社 2026)。スピジアは成人も対象に含みます。
③「使いやすさ」は人によって違います。発作中に頬の内側へ薬液を入れる、衣服を下げて坐薬を入れる、鼻に噴霧する——どれが現実的かは、患者さんの体格、発作の型、その場にいるのが誰か(学校の先生か、職場の同僚か、高齢のご家族か)によって変わります。屋外や職場での対応を考えると、衣服を脱がせずに済む点鼻という経路が現実的な場面はあると思います。
「うちの場合、どの備えが合っているのか」は、発作の型と生活の状況を伺わないと判断できません。てんかん外来でご相談ください。
4. どのくらい効くのか|国内第Ⅲ相試験の結果
スピジアの国内承認は、6歳以上18歳未満の患者さんを対象とした国内第Ⅲ相試験(NRL-1J02試験)の結果に基づいています。この試験は非盲検・非対照(プラセボとの比較を行わない)デザインで、実際の発作時に、訓練を受けた保護者が投与するという実生活に近い形で行われました(医薬品医療機器総合機構 2025)。
試験デザイン
- Part 1:発作時に1回投与し、有効性・安全性を評価(投与例16例)
- Part 2:Part 1の1週間後から24週間、発作のたびに投与(投与例17例、計93発作)
- 効果が不十分な場合は、4時間以上あけて2回目の投与が可能
- 保護者は、投与の適否の判断・患者の観察・救急搬送を含む対応について、医師による訓練と理解度の確認を受けた
主要評価項目と副次評価項目
| 評価項目 | 結果 |
|---|---|
| 【主要】投与後10分以内に発作が消失し、投与後30分間再発がなかった割合(Part 1) | 62.5%[95%信頼区間 35.4-84.8](10/16例) |
| 【副次】投与後10分以内に発作が消失した割合(Part 1) | 93.8%(15/16例) |
| 【副次】投与から発作消失までの時間(Part 1、中央値) | 1.5分[1.0-7.0] |
| 【副次】投与後10分以内に消失した発作の割合(Part 2、24週間) | 98.9%(92/93回) |
| 【副次】1回目投与から発作消失までの時間(Part 2、中央値) | 1.0分[1.0-2.0] |
| 2回目の投与を要した発作 | 93回の投与のうち2回 |
主要評価項目の62.5%という数字は、事前に設定された「これを上回れば有効と判断する」基準値30.0%を、95%信頼区間の下限(35.4%)が上回りました。この30.0%という基準は、海外でジアゼパムを直腸または頬粘膜に投与した試験のデータから、無治療でも27.3%程度は再発が抑えられうると見積もって設定されたものです(医薬品医療機器総合機構 2025)。
この数字を読むときの注意点
- 16例という小さな試験です。信頼区間が35.4〜84.8%と幅広いのは、症例数が限られるためです。真の有効率がこの範囲のどこにあるかは、まだ絞り込めていません。
- プラセボとの比較試験ではありません。「薬を使わなかった場合」と直接比べた結果ではないため、自然におさまった分がどれだけ含まれるかは分けられません。
- 国内試験の対象は6歳以上18歳未満です。成人での有効性は、主に海外データと薬物動態から外挿されています。
- 62.5%と93.8%の差は、「10分以内に止まったが、その後30分以内に再発した」方が含まれるためです。止まっても、そこで終わりではないという点は覚えておいてください。
海外での長期使用データ
海外では同じ製剤が先行して使われており、6歳以上66歳未満のてんかん患者163例を対象とした第Ⅲ相の長期安全性試験(12か月)が報告されています。この試験では計4,390回の投与が行われ、24時間以内に2回目の投与を要した発作クラスターは12.6%にとどまり、試験の継続率は高く保たれました。主な副作用は鼻部不快感6.1%、頭痛2.5%などで、投与頻度が多い患者さんでも安全性プロファイルに大きな違いは見られなかったと報告されています (Wheless et al. 2021, pp. 2485-2495)。
ただしこの試験も、企業主導の非盲検試験であるという限界があります。長期の実地使用における評価は、今後の市販後調査の積み重ねを待つ必要があります。
5. 使い方と、ご家族が知っておくべき手順
スピジアは「持っていれば安心」という薬ではありません。使うときの手順と、使った後にすることまでがセットで決められています。
用量は年齢と体重で決まります
通常、成人および2歳以上の小児に、年齢と体重を考慮して5〜20mgを1回鼻腔内に投与します。効果が不十分な場合は4時間以上あけて2回目の投与ができますが、6歳未満の1回量は15mgを超えないこととされています(アキュリスファーマ株式会社 2026)。
| 2歳以上6歳未満 | 6歳以上12歳未満 | 12歳以上 | 1回投与量 |
|---|---|---|---|
| 6kg以上12kg未満 | 10kg以上19kg未満 | 14kg以上28kg未満 | 5mg(片方の鼻腔に1回) |
| 12kg以上23kg未満 | 19kg以上38kg未満 | 28kg以上51kg未満 | 10mg(片方の鼻腔に1回) |
| 23kg以上 | 38kg以上56kg未満 | 51kg以上76kg未満 | 15mg(7.5mg製剤を両方の鼻腔に1回ずつ) |
| — | 56kg以上 | 76kg以上 | 20mg(10mg製剤を両方の鼻腔に1回ずつ) |
2歳以上6歳未満のお子さんは、ご家庭での使用が想定されていません
添付文書では、2歳以上6歳未満の小児に投与する場合は、患者の状態を観察でき、救急蘇生のための医療機器・薬剤等が使用できる医師の監視下でのみ行うこととされています(アキュリスファーマ株式会社 2026)。年齢だけを見て「2歳から家庭で使える薬」と理解すると誤りになりますので、ご注意ください。
投与の3ステップ
製造販売元が公開している患者さん・介護者向けの使用ガイドでは、投与の手順が3つのステップで示されています(ヴィアトリス製薬合同会社 2026)。あわてずに行えるよう、日頃から手順を確認しておくことが大切です。
図2:投与の3ステップ(イメージ)
※模式図です。実際の器具の形状・操作は、製品に添付の説明文書と主治医・薬剤師の指導に従ってください(ヴィアトリス製薬合同会社 2026)。
投与したあとにすること
ここが、この薬でいちばん大切な部分だと考えています。添付文書には、ご家族・介護者が投与する場合の対応として、次のように示されています(アキュリスファーマ株式会社 2026)。
- 原則として、投与後は救急搬送の手配を行う
- 10分以内に発作が停止しない場合、浅い呼吸や意識消失が見られる場合は、医療機関へ救急搬送する
- その際、使用済みの製剤を医療従事者に見せる(何をどれだけ使ったか伝えるため)
- 2回目の投与後に発作が再発した場合は、追加投与をせず救急搬送する
- 呼吸抑制や徐脈が起こることがあるため、呼吸の数と脈の数を確認し、無呼吸・呼吸の抑制・脈の低下がないか注意深く観察する
「薬を使ったから救急車は呼ばなくていい」ではなく、「薬を使いながら、救急搬送の準備もする」——これがスピジアの使い方です。この点は、処方前に主治医と繰り返し確認しておく必要があります。
発作がおさまったあとは、安全な場所を確保したうえで、横向き(回復体位)に寝かせます。衣服をゆるめ、まわりの危険物をどけ、呼吸や顔色が戻るかを確認してください。意識がはっきり戻るまでは、自動車の運転や機械の操作は行わないようにします(ヴィアトリス製薬合同会社 2026)。
保管と取り扱い
- 室温で保存します。冷蔵庫や冷凍庫には入れないでください
- 外箱を開けた後は、遮光して保存します
- 1回使い切りの製剤です。空打ち(試し打ち)や再使用はしないでください
- 鼻腔内への投与のみに使用します
- 持ち運ぶときは、未開封のまま携帯します
「使い方を練習しておきたい」という気持ちはよく分かるのですが、空打ちをすると本番で必要な量が出なくなります。練習用のトレーナー(薬の入っていない練習器具)が用意されている場合がありますので、主治医や薬剤師にご相談ください。
6. 副作用・禁忌・飲み合わせ
効果の話だけでは、判断の材料になりません。リスクの側も同じ精度でお伝えします。
臨床試験で報告された副作用
国内第Ⅲ相試験では、副作用の発現率は27.8%(5/18例)でした。内訳は傾眠(眠気)16.7%(3/18例)、貧血・意識レベルの低下・口腔咽頭不快感が各5.6%(1/18例)です。海外第Ⅲ相試験(163例)では副作用発現率18.4%で、鼻部不快感6.1%、頭痛2.5%、鼻出血・味覚異常・傾眠が各1.8%などでした(アキュリスファーマ株式会社 2026)。
添付文書上は、傾眠が10%以上、意識レベルの低下・貧血・口腔咽頭不快感が5〜10%未満の頻度で記載されています。
重大な副作用
いずれも頻度不明として記載されています
- 依存性・離脱症状:連用により薬物依存を生じることがあります。漫然とした長期使用は避けることとされています
- 刺激興奮、錯乱
- 呼吸抑制
(アキュリスファーマ株式会社 2026)
ベンゾジアゼピン系の薬に共通する注意点として、投与後は眠気や注意力・集中力・反射運動能力の低下が起こることがあります。投与後の自動車の運転や危険を伴う機械の操作は避けてください。
使えない方(禁忌)
- 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある方
- 急性閉塞隅角緑内障の方
- 重症筋無力症の方
- リトナビル、ニルマトレルビル・リトナビル(新型コロナウイルス感染症の治療薬)を投与中の方
とくに4つ目は見落とされやすい点です。感染症の治療で一時的に処方される薬が該当しますので、他院で新しい薬を出されたときは、スピジアを持っていることを伝えてください。
また、併用に注意が必要な薬・嗜好品として、中枢神経抑制剤、オピオイド鎮痛剤、アルコール(飲酒)、シメチジン・オメプラゾール等の胃薬、シプロフロキサシン、フルボキサミンなどが挙げられています。ジアゼパムは主に肝臓のCYP2C19およびCYP3A4で代謝されるため、これらの酵素に影響する薬で血中濃度が変わりうるためです。
妊娠・授乳中の方
妊婦または妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与することとされています。妊娠中にジアゼパム製剤の投与を受けた方で、奇形を有する児の出産が対照群より多かったとする疫学調査報告があります。授乳中は、母乳への移行があるため授乳を避けさせることとされています(アキュリスファーマ株式会社 2026)。妊娠を考えている方は、発作時の備えをどうするか、あらかじめ主治医と相談しておくことをおすすめします。
7. 処方までの流れと、費用・制度のこと
スピジアは、希望すればすぐ出せる、という薬ではありません。添付文書の冒頭には警告として、次のように記載されています。
本剤を交付する際には、交付前に保護者(家族)またはそれに代わる適切な者が投与できるよう、投与が必要な症状の判断方法、保存方法、使用方法、使用時に発現する可能性のある副作用等を理解したことを確認したうえで交付することとされています(アキュリスファーマ株式会社 2026)。
実際の流れは、おおむね次のようになります。
- てんかんの診断と、発作の型・頻度の把握(問診、脳波検査、血液検査、MRIなど)
- レスキュー薬が必要な状況かどうかの判断——発作が長引きやすいか、群発するか、生活のなかでどんな場面が危険か
- ご家族・介護者への指導と、理解度の確認——いつ使うか、どう使うか、使った後どうするか
- 処方・交付(患者向け説明文書を用いた説明を含みます)
- 使用後の報告と見直し——使った状況を主治医と共有し、備えの内容を調整します
知っておきたい制度のこと
- 処方日数の制限:スピジアは第三種向精神薬に指定されており、投薬量は1回14日分を限度とすることが定められています(アキュリスファーマ株式会社 2026)。「1年分まとめて」といった処方はできません
- 有効期間:32か月です。使わないまま期限が切れることもありますので、定期受診のたびに期限をご確認ください
- 自立支援医療(精神通院医療):てんかんの通院医療は対象となり、お住まいの自治体窓口で申請すると自己負担が軽減される場合があります
「発作は年に数回だけど、起きると長い」という方にとって、14日分という制限は不便に感じられるかもしれません。ただしこれは、ベンゾジアゼピン系薬剤の適正使用のための決まりです。定期受診のなかで補充していく形になります。
てんかんの発作が長引く、発作の様子が変わってきた、備えを見直したい——大阪・城東区のいわた脳神経外科クリニックでは、脳波検査とMRIを含めたてんかん診療を行っています。
8. よくある質問
Q1. 発作が始まったら、すぐに使ってよいのですか?
A. いいえ。スピジアは「てんかん重積状態」に対する薬で、通常の短い発作すべてに使うものではありません。どの状態になったら使うのかは、患者さんごとに主治医と取り決めておく必要があります。国内試験では、けいれんが5分以上続いている、1時間に3回以上おこって続いている、意識が戻らないまま2回以上続いている——といった状態を目で確認したうえで投与されました。
Q2. 使った後、救急車を呼ばなくてもよいことはありますか?
A. 添付文書では「原則として本剤投与後は救急搬送の手配を行う」とされています。呼ばずに経過を見てよいケースがあるかどうかは、患者さんの状態や過去の経過によって変わりますので、処方時に主治医とあらかじめ具体的に決めておいてください。判断に迷う状況では、救急要請を優先してください。
Q3. 鼻づまりや鼻炎があっても効きますか?
A. 鼻の状態が吸収に影響する可能性は理論的には考えられますが、鼻閉時の効果について十分なデータは示されていません。花粉症などで鼻の症状が強い時期がある方は、その点も含めて主治医にご相談ください。
Q4. 学校や職場に預けておくことはできますか?
A. 制度上一律に決まっているものではなく、預け先の体制と、投与する方が指導を受けているかどうかによります。添付文書は「保護者(家族)またはそれに代わる適切な者」が、投与の判断・方法・副作用への対処を理解していることを交付の条件としています。学校や勤務先と相談する際は、主治医に相談のうえ、書面での取り決めをご検討ください。
Q5. いま飲んでいる抗てんかん薬は続けるのですか?
A. はい。スピジアは発作が止まらないときのための薬で、日々の発作を予防する薬の代わりにはなりません。役割が異なりますので、普段の内服は主治医の指示どおり続けてください。
Q6. お酒を飲んだ日に発作が起きたら使えますか?
A. アルコールは併用注意とされており、鎮静作用が強く出るおそれがあります。飲酒後の状況では呼吸の抑制に一層の注意が必要ですので、その場合はためらわずに救急要請をご検討ください。あらかじめ主治医と対応を決めておくことをおすすめします。
Q7. 2歳の子どもにも家で使えると聞きましたが?
A. 用法・用量は「成人及び2歳以上の小児」ですが、2歳以上6歳未満のお子さんへの投与は、救急蘇生の準備がある医師の監視下でのみ行うこととされています。したがって、ご家庭での備えとして想定されているのは6歳以上とお考えください。
9. まとめ
- けいれん発作が5分以上続く状態は「てんかん重積状態」と呼ばれ、時間が経つほど止めにくくなるため、早い介入が重要とされています。
- スピジア点鼻液(ジアゼパム)は、てんかん重積状態に対して鼻から噴霧して使う薬で、2025年6月24日に国内承認、同年12月に販売が開始されました。成人も対象に含まれます。
- 国内第Ⅲ相試験(6歳以上18歳未満、16例)では、投与後10分以内に発作が消失し30分間再発しなかった割合は62.5%、10分以内に消失した割合は93.8%、消失までの時間の中央値は1.5分と報告されています。ただし症例数が少なく、プラセボとの比較試験ではありません。
- 主な副作用は傾眠で、重大な副作用として呼吸抑制、依存性・離脱症状、刺激興奮・錯乱が挙げられています。急性閉塞隅角緑内障、重症筋無力症、リトナビル等の投与中は使用できません。
- 投与後は原則として救急搬送の手配を行います。2歳以上6歳未満は医師の監視下でのみ、処方は1回14日分が限度です。
発作が止まらない数分間、そばにいるご家族がどれほど心細いかは、外来で何度もうかがってきました。備えがあることで、その数分の意味は変わります。ただし、この薬は「持っていれば大丈夫」なものではなく、いつ使い、使った後にどうするかまで、主治医とあらかじめ決めておいて初めて力を発揮します。ご自身やご家族にとってどんな備えが現実的なのか、一緒に考えていきましょう。
お問い合わせ・ご予約
てんかんの発作でお困りの方、発作が長引くときの備えについて相談したい方は、お気軽にご相談ください。当院では問診・脳波検査・血液検査・MRI検査による診断と、薬物治療を行っています。ご予約は、下記から可能です。
当院公式LINEにてご質問等もお受けしておりますので、お気軽にお問い合わせくださいませ。
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重要:本記事の位置づけ(医療情報として)
- 本記事は、承認審査資料・添付文書・研究報告に基づく「一般的な医療情報」であり、診断・治療の代替となるものではありません。
- 特定の治療を推奨・保証するものではありません。効果や副作用には個人差があります。
- 紹介した臨床試験は症例数が限られ、非盲検・非対照デザインであるなどの限界があります。
- 実際の治療は、症状・既往歴・併用薬などを踏まえて医師が判断します。用法・用量は添付文書と主治医の指示に従ってください。
参考文献
- アキュリスファーマ株式会社 2026, スピジア点鼻液5mg/スピジア点鼻液7.5mg/スピジア点鼻液10mg 添付文書(2026年6月改訂、第3版), アキュリスファーマ株式会社, viewed 21 August 2026, <https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00071731.pdf>.
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- ヴィアトリス製薬合同会社 2026, スピジアについて(スピジアを使用される患者さんと介護者の方へ), ヴィアトリス製薬合同会社, viewed 21 August 2026, <https://spydia.jp/patients/about-spydia/>.
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