
この記事で分かること
- 片頭痛には遺伝が関わり、体質の4割ほどは遺伝で説明できるとされていること
- 母親・父親それぞれが片頭痛の場合に、子どもが片頭痛になりやすくなる度合い
- 体質があっても発作は減らせること、子どもの頭痛を相談する目安
「わたしの片頭痛、子どもにも遺伝するのかな」「最近、娘が頭が痛いと言って学校を休むようになった。わたしと同じ頭痛かもしれない」。ご自身が片頭痛に悩んできた親御さんほど、お子さんの頭痛が気になるものだと思います。
結論からお伝えすると、片頭痛には遺伝が関わっています。ただし、親が片頭痛だからといって、子どもが必ず片頭痛になるわけではありません。また、体質を受け継いでいても、治療や生活の工夫で発作の回数を減らせる場合があります。
この記事では、診療ガイドラインと研究報告をもとに、片頭痛がどのくらい遺伝するのか、母親と父親で違いはあるのか、そしてお子さんの頭痛をどこで相談すればよいかを整理します。
本記事は、公的なガイドラインや研究報告にもとづく一般的な医療情報です。研究で示される数字は大勢の人をまとめた平均で、ご家族一人ひとりに当てはまる確率ではありません。診断・治療は、症状や経過をふまえて医師が判断します。
目次
ご自身の片頭痛も、お子さんの頭痛も、まずはご相談ください。
はじめて受診される方
1. 片頭痛は遺伝するのか
日本の頭痛診療ガイドラインは、「片頭痛は家系内発症例が多く」、家族を調べた研究や双子の研究から「遺伝要因の存在はほぼ確実」としています(日本頭痛学会 2021)。
そのうえで大切なのは、片頭痛は1つの遺伝子で決まる病気ではないという点です。ガイドラインでは、片頭痛は複数の遺伝子と複数の環境の要因が重なって起こる「多因子遺伝」の病気と考えられています(日本頭痛学会 2021)。
「多因子遺伝」とは
身長や体格と同じように、小さな影響をもつ遺伝子がたくさん集まって「なりやすさ」が決まるしくみです。そこに睡眠、ストレス、ホルモンの変化などの環境が加わって、実際に発作が起こるかどうかが左右されます。そのため、体質を受け継いでも発症しない人もいれば、家族に片頭痛の人がいなくても発症する人もいます。
遺伝で説明できるのは4割ほど
片頭痛のなりやすさのうち、遺伝で説明できる割合(遺伝率)は42%程度と報告されています(日本頭痛学会 2021)。言いかえると、残りの半分以上は、生活や環境など遺伝以外の要因が関わっているということです。
2022年には、約10万人の片頭痛の方の遺伝子を調べた研究で、片頭痛に関わる場所が遺伝子の上に123か所見つかりました。その中には、現在の片頭痛の予防薬が狙いを定めている物質「CGRP」をつくる遺伝子も含まれていました(Hautakangas et al. 2022)。遺伝の研究が、治療の開発と結びつきはじめています。
2. 母親・父親からの遺伝の確率
「母親から遺伝しやすい」という話を聞いたことがある方も多いと思います。この点を、地域に住む一般の家族を対象に調べた研究があります。
ノルウェーの大規模な住民調査では、親13,731人と、その子ども8,970人を調べました。その結果、母親に片頭痛がある場合、子どもの片頭痛は約2.8倍、父親に片頭痛がある場合は約1.7倍みられやすくなっていました(Børte et al. 2019)。
| 親の状態 | 子どもの片頭痛のみられやすさ |
|---|---|
| 母親に片頭痛がある | 約2.8倍 |
| 父親に片頭痛がある | 約1.7倍 |
(Børte et al. 2019。片頭痛のない親の場合と比べた値〔オッズ比〕)
母親と父親の差は統計的にも意味のある差で、研究者は母親から受け継がれやすいしくみがある可能性を指摘しています。ただし、そのしくみはまだ分かっていません(Børte et al. 2019)。
「2.8倍」は「28%」や「必ず」という意味ではありません
ここでいう倍率は、親に片頭痛がない場合と比べた「なりやすさ」の比です。子どもが片頭痛になる確率そのものではありません。母親が片頭痛でも、片頭痛にならないお子さんはたくさんいます。
「母親なら70%」という数字について
インターネット上では「母親が片頭痛なら娘の70%、息子の30%に遺伝する」といった数字を見かけることがあります。当院でも調べましたが、この数字の元になった研究論文は確認できませんでした。日本の診療ガイドラインにも、こうした数字は載っていません(日本頭痛学会 2021)。
そのため、この記事では確認できた研究の数字だけをご紹介しています。「70%」と聞いて不安になっていた方は、上の表の数字を目安にしてください。
3. 前兆のある片頭痛と遺伝
片頭痛には、頭痛の前に「前兆」が出るタイプと、出ないタイプがあります。前兆でよく知られているのは、視界にギザギザした光が広がって見えにくくなる閃輝暗点(せんきあんてん)です。
デンマークの研究では、片頭痛の方の親・きょうだい・子ども(第一度近親者)を医師が直接聞き取りして調べました。その結果、前兆のあるタイプとないタイプで、家族への出方が違っていました(Russell & Olesen 1995)。
| ご本人の片頭痛 | 家族に同じタイプがみられやすくなる度合い |
|---|---|
| 前兆のない片頭痛 | 約1.9倍 |
| 前兆のある片頭痛 | 約4倍 |
(Russell & Olesen 1995。一般の人と比べた値)
前兆のある片頭痛のほうが、遺伝の影響が強く出ていたことになります。研究者は、前兆のない片頭痛は遺伝と環境の両方、前兆のある片頭痛は主に遺伝が関わると考察しています(Russell & Olesen 1995)。ただし、その後の研究では、前兆の有無で差がなかったという報告もあります(日本頭痛学会 2021)。
夫婦の間でも片頭痛が重なる
同じ研究では、前兆のない片頭痛の方の配偶者も、前兆のない片頭痛が約1.4倍多くみられました(Russell & Olesen 1995)。夫婦は血がつながっていないので、これは遺伝では説明できません。同じ家で暮らすことによる生活習慣や環境も、片頭痛に関わっていると考えられます。
閃輝暗点そのものについては 閃輝暗点とは?原因・治し方と頭痛がない場合まで で詳しく解説しています。
ご家族に片頭痛の方が多く、ご自身の頭痛も気になっている方はご相談ください。
4. 遺伝子検査は必要か
「遺伝するなら、子どもの遺伝子を調べておいたほうがよいのでは」と考える方もいるかもしれません。
ガイドラインは、一般的な片頭痛では遺伝子診断は有用ではないとしています。1つひとつの遺伝子の影響が小さく、単一の原因になる遺伝子はきわめてまれだからです(日本頭痛学会 2021)。遺伝子を調べても、お子さんが「片頭痛になるかどうか」が分かるわけではありません。
例外:家族性片麻痺性片頭痛
前兆として手足のまひ(片麻痺)が出る、まれなタイプの片頭痛があります。家族の中で何人も同じ症状が出る場合は「家族性片麻痺性片頭痛」と呼ばれ、原因となる遺伝子が見つかっています。このタイプでは、遺伝子診断ができる場合があります(日本頭痛学会 2021)。
ただし、頭痛にともなって手足のまひが出たときは、まず脳卒中など別の病気がないかを確かめることが先決です。初めての場合は様子を見ずに受診してください。
実際の診療では、遺伝子よりも「ご家族に片頭痛の方がいるか」を問診でうかがうことのほうが役に立ちます。家族歴は、片頭痛の診断を考えるうえでの大切な手がかりになります。
5. 体質でも発作は減らせる
「遺伝なら仕方がない」と思われるかもしれません。ですが、1章でお伝えしたとおり、遺伝で説明できるのは4割ほどです。体質を受け継いでいても、発作の回数や強さは変えられる余地があります。
発作の引き金を知る
片頭痛の方の多くは、発作の「引き金(誘因)」をもっています。1,207人を調べた報告では、75.9%の方に何らかの誘因がありました(日本頭痛学会 2021)。
| 多い誘因 | 報告された割合 |
|---|---|
| ストレス | 79.7% |
| 女性ホルモン(月経など) | 65.1% |
| 空腹(食事を抜く) | 57.3% |
| 天候 | 53.2% |
| 睡眠の乱れ | 49.8% |
(日本頭痛学会 2021)
頭痛が起きた日と、その前の睡眠や食事、天気などを記録しておくと、ご自身の引き金が見えてきます。親子で引き金が似ていることもあるので、ご家族で一緒に記録してみるのもひとつの方法です。
予防の治療という選択肢
発作が月に何度も起こり、生活に支障が出ている場合は、発作そのものを起こりにくくする「予防の治療」を検討します。2章で触れたCGRPという物質に働きかける予防薬もあり、治療の選択肢は広がっています。どの治療が合うかは、発作の回数や生活への影響、ほかの病気などをふまえて医師と相談して決めます。
予防の治療については 片頭痛のCGRP予防薬について で詳しく解説しています。
当院の院長自身も、片頭痛に悩んできた一人です。「体質だから」とあきらめていた方にこそ、発作を減らすための方法を一緒に考えていただきたいと考えています。
6. 子どもの頭痛を相談する目安
日本の調査では、片頭痛は小学生の3.5%、中学生の4.8〜5.0%にみられます(日本頭痛学会 2021)。子どもの片頭痛は珍しいものではありません。
子どもの片頭痛は、大人と見え方が違う
親御さんが片頭痛でも、お子さんの頭痛は親御さんの頭痛と同じ形で出るとは限りません。
- 両側が痛むことが多い:大人の片頭痛は片側が多いのに対し、子どもでは頭の両側が痛むことが多いとされています(日本頭痛学会 2021)
- 短い時間で治まることがある:子どもでは2時間ほどで治まる発作も、片頭痛に含めて考えることがあります(日本頭痛学会 2021)
- 痛む場所:おでこやこめかみのあたりが多く、子どもで後頭部が痛むのはまれなため、慎重に調べます(日本頭痛学会 2021)
- おなかの症状で出ることもある:くり返す腹痛(腹部片頭痛)のある子の多くは、のちに片頭痛を発症するとされています(日本頭痛学会 2021)
子どもの頭痛の特徴や家庭での工夫は 子どもの頭痛はいつ受診する? で詳しく解説しています。
こんなときは早めにご相談ください
| こんなとき | 理由 |
|---|---|
| 月に何度もくり返している | 回数が多いほど生活への影響が大きく、予防という考え方が必要になります |
| 学校を休む・保健室・早退が増えた | 生活への支障の大きさは、治療を考えるうえで大切な目安です |
| 痛み止めを使う日が増えている | 使いすぎが、新たな頭痛につながることがあります |
| これまでと様子が違う | 痛み方や場所、時間帯の変化は確認しておきたいサインです |
受診のときは、頭痛のあった日の記録、使ったお薬、学校の出席の状況に加えて、親御さんやきょうだいに片頭痛の方がいるかを伝えていただくと、診断の助けになります。予防の考え方は 学校を休む頭痛に「予防」という考え方 もあわせてご覧ください。
すぐに救急へ
これまでに経験したことのない突然の激しい頭痛、手足のまひ、ろれつが回らない、意識がはっきりしない、けいれん、くり返す嘔吐をともなうときは、様子を見ずに119番を呼んでください。迷うときは、救急安心センター(#7119)や、子ども医療電話相談(#8000)にご相談いただけます。
当院でのご相談
当院は大阪市城東区、京阪「野江」駅から徒歩4分の脳神経外科クリニックです。昼休みをはさまない通し診療のため、学校のあとや部活の前後など、来やすい時間を選んでいただけます。お子さんの頭痛のご相談もお受けしています。
検査が必要と医師が判断した場合には、MRI検査を行います。MRIは磁気を使う検査で放射線を使わないため、お子さんにも受けていただきやすい検査です。当院では、医師の判断により当日の撮影に対応しています。親子でそれぞれ受診していただくこともできます。
お子さんの頭痛が続いているときは、記録をつけて一度ご相談ください。
7. よくある質問
Q. 片頭痛は息子にも遺伝しますか。娘だけですか。
遺伝は、子どもの性別に関係なく起こります。ただ、子どもの片頭痛は、小さいうちは男の子に多く、年齢が上がるにつれて女の子に多くなります(日本頭痛学会 2021)。おとなになると女性に多い病気で、日本では30歳代の女性で約20%にのぼります(日本頭痛学会 2021)。そのため「娘に遺伝しやすい」ように見えますが、息子さんにも起こります。
Q. 両親とも片頭痛です。子どもは必ず片頭痛になりますか。
必ずなるわけではありません。片頭痛は多くの遺伝子と環境が関わる病気で、遺伝で説明できるのは4割ほどです(日本頭痛学会 2021)。両親とも片頭痛の場合の確率を、確かな数字で示した大規模な研究は限られています。お子さんに頭痛が出てきたときに、早めに相談できるよう心にとめておいていただければ十分です。
Q. 祖母が片頭痛でした。隔世遺伝はありますか。
片頭痛は多因子遺伝なので、親の世代で発症しなくても、祖父母の体質を受け継ぐことはありえます。ただ、研究で数字が示されているのは主に親子やきょうだいの関係で、祖父母からの確率ははっきりしていません。祖父母やおじ・おばに片頭痛の方がいることも、受診のときに伝えていただくと参考になります。
Q. 片頭痛と偏頭痛は違うものですか。
同じものを指しています。医学の用語では「片頭痛」と書きますが、一般には「偏頭痛」と書かれることも多く、どちらも同じ病気です。
Q. 子どもの頭痛は小児科と脳神経外科のどちらに相談すればよいですか。
原因がはっきりしない頭痛では、まずかかりつけの小児科で相談する方法があります。頭痛がくり返している、学校生活に影響が出ている、画像検査を考えたいという場合は、頭痛を扱う脳神経外科や脳神経内科も選択肢です。相談しやすいところから始めていただいて構いません。
8. まとめ
- 片頭痛には遺伝が関わっていますが、1つの遺伝子で決まる病気ではなく、遺伝で説明できるのは4割ほどです(日本頭痛学会 2021)。
- 母親に片頭痛がある場合、子どもの片頭痛は約2.8倍、父親の場合は約1.7倍みられやすくなります。ただし「必ず遺伝する」わけではありません(Børte et al. 2019)。
- 前兆(閃輝暗点など)のある片頭痛は、遺伝の影響がより強いと報告されています(Russell & Olesen 1995)。
- 一般的な片頭痛では、遺伝子検査は役に立たないとされています(日本頭痛学会 2021)。
- 体質があっても、引き金を知ることや予防の治療で、発作を減らせる余地があります。お子さんの頭痛がくり返すときは、早めにご相談ください。
ご自身の片頭痛で悩んできた方ほど、お子さんには同じ思いをさせたくないと感じるものだと思います。体質は変えられなくても、発作との付き合い方は変えられます。親子それぞれの頭痛について、一度ご相談ください。
お問い合わせ・ご予約
いわた脳神経外科クリニック(大阪市城東区成育2丁目13番27号/電話 06-6935-2335/京阪本線・野江駅から徒歩4分)です。昼休みをはさまない通し診療を行っています。ご予約は下記から可能です。
当院公式LINEにてご質問等もお受けしておりますので、お気軽にお問い合わせくださいませ。
関連記事
重要:本記事の位置づけ(医療情報として)
- 本記事は、公的資料や研究報告に基づく「一般的な医療情報」です。
- 特定の治療を推奨・保証するものではありません。症状の感じ方や経過には個人差があります。
- 研究で示される倍率は集団の平均で、ご家族一人ひとりの確率を示すものではありません。
- 実際の診断・治療は、症状・既往歴などを踏まえて医師が判断します。気になる症状があるときは受診してください。
参考文献
- 日本頭痛学会 2021, 頭痛の診療ガイドライン2021, 日本神経学会・日本頭痛学会・日本神経治療学会, viewed 28 October 2026, <https://www.jhsnet.net/pdf/guideline_2021.pdf>.
- Børte, S, Zwart, JA, Stensland, SØ, Hagen, K & Winsvold, BS 2019, ‘Parental migraine in relation to migraine in offspring: family linkage analyses from the HUNT Study’, Cephalalgia, vol. 39, no. 7, pp. 854-862, DOI 10.1177/0333102419828989.
- Hautakangas, H, Winsvold, BS, Ruotsalainen, SE et al. 2022, ‘Genome-wide analysis of 102,084 migraine cases identifies 123 risk loci and subtype-specific risk alleles’, Nature Genetics, vol. 54, no. 2, pp. 152-160, DOI 10.1038/s41588-021-00990-0.
- Russell, MB & Olesen, J 1995, ‘Increased familial risk and evidence of genetic factor in migraine’, BMJ, vol. 311, no. 7004, pp. 541-544, DOI 10.1136/bmj.311.7004.541.















