iPS細胞でパーキンソン病は治る?|世界初の他家iPS治療薬「アムシェプリ®」を脳神経外科専門医が解説

この記事で分かること

  • 2026年3月6日、iPS細胞から作られた世界で初めての他家由来パーキンソン病治療薬「アムシェプリ®」が承認されました。
  • 京都大学の治験(n=7・24か月追跡)では、運動症状の平均改善や脳内ドパミン産生の増加が報告されています。一方で、改善が見られなかった項目もあります。
  • 薬価は5,530万6,737円ですが、保険適用となり、自己負担は高額療養費制度の対象になります。
  • 実施できるのは認定された医療機関のみで、当面は7施設で約35人が対象です。当院(いわた脳神経外科クリニック)では、アムシェプリ®の実施はおこなっておりません。パーキンソン病・神経の症状についてのご相談はお受けしております。

2026年3月、住友ファーマの再生医療等製品「アムシェプリ®」が、日本で「条件及び期限付承認」を取得しました。5月13日には公的医療保険の適用も中央社会保険医療協議会で了承され、5月20日に薬価基準への収載が予定されています。

「iPS細胞」「世界初」「パーキンソン病に新薬」——希望をかきたてる言葉がニュースに並ぶ一方で、ご自身やご家族に当てはまるのかどうかは、報道を読むだけではなかなか見えてきません。「自分も受けられるの?」「効くの?」「いくらかかるの?」「副作用は?」——気になることは山ほどあるのではないでしょうか。

この記事では、京都大学医学部附属病院での治験の結果(2025年4月にNature誌に掲載されました)や、住友ファーマ・厚生労働省の公開情報をもとに、アムシェプリ®について「いま、わかっていること」と「まだ、わからないこと」を、できるだけ正直にお伝えします。

パーキンソン病は、脳の中でドパミンを作る神経細胞が少しずつ減っていく病気です。アムシェプリ®は、iPS細胞から「ドパミンを作る神経のもと(前駆細胞)」を作り、それを脳内に移植する治療です。飲み薬ではなく、定位脳手術で行われます。


目次



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1. アムシェプリ®とは——iPS細胞から作られた、世界で初めての他家由来パーキンソン病薬

まずは、アムシェプリ®がどのような治療なのか、3行で整理します。

アムシェプリ®を3行で
・他家iPS細胞から作った「ドパミン神経のもとになる細胞」を、脳内(被殻)に移植する治療です。
・対象は、レボドパなど既存の薬で十分な効果が得られないパーキンソン病の患者さんです。
・2026年3月6日に「条件及び期限付承認」を取得しました。完全な承認には、これから市販後の追加データが必要です。


「他家iPS」って何のこと?——自家との違い

iPS細胞は、ヒトの体の細胞から作られる「いろいろな細胞に変身できる細胞」です。アムシェプリ®で使われるiPS細胞は、健康なドナーの方の血液から作られたものです。これを「他家(たか)iPS」と呼びます。一方、患者さんご自身の細胞から作るのが「自家(じか)iPS」です。

他家iPSのよいところは、あらかじめ「使える状態」で準備しておけることです。患者さんごとに細胞を作り直す必要がないため、より多くの方に届けられる可能性があります。一方で、他人の細胞ですから、拒絶反応を抑える薬(免疫抑制剤)が一定期間必要になります。

京都大学のグループは、日本人の中で約17%の方に組織型(HLA)が合うドナーの細胞株を使っています(Sawamoto et al. 2025)。HLAを合わせることで、拒絶反応のリスクを下げる工夫がされているのです。


飲み薬ではなく、定位脳手術で被殻に移植する

アムシェプリ®は飲み薬ではありません。頭蓋骨に小さな穴を開け、脳のなかの「被殻(ひかく)」というドパミンが減ってしまった場所に、細胞を直接届けます。これを「定位脳手術」といいます。

住友ファーマの公開情報によると、用法・用量は次のように定められています。

用法・用量(住友ファーマ公式より)
通常、成人には、非自己iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞として片側あたり5.4×10⁶個を目標として、定位脳手術により、両側の被殻に移植する。頭蓋骨の小孔1か所を通る3つの投与経路から、1投与経路あたり約1.8×10⁶個を1〜2mm間隔で6〜9か所に分けて移植する。

左右の脳に分けて、合計でおよそ1,000万個のドパミン神経のもとが届けられる計算です。手術の後は、拒絶反応を抑えるためにタクロリムスという免疫抑制剤を一定期間飲み続ける必要があります(治験では、12か月で減量、15か月で中止のスケジュールでした)。


本記事の位置づけと、当院での取り扱いについて

当院(いわた脳神経外科クリニック)では、アムシェプリ®の実施はおこなっておりません。
アムシェプリ®は、認定された医療機関での実施が前提となっており、定位脳手術の体制を備えた一部の高度医療機関で行われます。本記事は、患者さんやご家族が「正しい情報を知ったうえで、ご自身の治療を選びやすくする」ことを目的とした、医療情報のご紹介です。

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2. 治験で何が起きたか——京大・住友ファーマの7人の患者さん

アムシェプリ®の承認の根拠となったのは、京都大学医学部附属病院で行われた第I/II相試験の結果です。2025年4月、世界で最も権威ある科学誌のひとつNatureに論文として発表されました(Sawamoto et al. 2025)。ここでは、その治験で「何が起きたか」を、できるだけわかりやすくお伝えします。


治験の全体像

治験の概要(Sawamoto et al. 2025)
・施設:京都大学医学部附属病院(単一施設)
・登録期間:2018年8月〜2019年1月
・対象者:50〜69歳、罹病期間5年以上、レボドパへの反応性ありのパーキンソン病患者
・人数:7名(安全性評価)/6名(有効性評価)
・群分け:低用量群3名、高用量群4名
・追跡期間:24か月

「7名」と聞くと、少ないと感じるかもしれません。これは「第I/II相」、つまり初期段階の治験だからです。安全性をまず確かめ、そのうえで効果の兆しを見るのがこの段階の目的です。プラセボ(偽薬)との比較は行われていない、いわゆるオープンラベル試験です。「実薬と比べて本当に効くのか」を厳密に証明するには、今後より大規模で盲検化された試験が必要だと、論文の著者自身も明記しています。


運動症状はどう変わったか(MDS-UPDRS Part III)

パーキンソン病の運動症状は、「MDS-UPDRS Part III」というスコアで点数化されます。点数が高いほど症状が重く、低いほど軽いという意味です。アムシェプリ®移植24か月後の結果は、次のようなものでした。

運動症状スコアの変化(24か月時点)
・オフ時(薬を飲んでいないとき):平均で−9.5点(−20.4%)。6名中4名で改善。
・オン時(薬の効いているとき):平均で−4.3点(−35.7%)。6名中5名で改善。

オフ時の改善は、最大で50.0%、ほかにも45.1%・32.4%という大きな改善を示した患者さんがいました。一方で、改善が9.1%にとどまった方もいます。「みんなが同じように改善した」わけではない、という点が大切です。


脳の中でドパミンは増えていたか(18F-DOPA PET)

運動症状のスコアだけでは、本当に脳のなかでドパミンが作られているかはわかりません。そこで、特殊な造影剤(18F-DOPA)を使ったPET検査で、脳の中のドパミン産生の様子を可視化しました。

18F-DOPA PETの結果(24か月時点・被殻のKi値)
・全体平均:+44.7%
・低用量群:+7.0%
・高用量群:+63.5%(移植した8つの被殻のうち7つで増加)

多く細胞を移植した「高用量群」のほうが、ドパミンの増え方も大きいという結果でした。脳の中でiPS細胞由来の神経が「ちゃんとドパミンを作っている」ことが、画像でも示されたと考えられます。


「良くならなかった項目」も知っておく

良い結果ばかりが報告されたわけではありません。論文には、24か月時点で「平均としては明らかな改善が見られなかった項目」も、誠実に書かれています。

改善が見られなかった項目(Sawamoto et al. 2025)
生活の質(PDQ-39):一部の患者さんで改善があったものの、平均としては明らかな変化なし。
レボドパ等価日量(LEDD):24か月時点でも、飲んでいる薬の量はほぼ変わらず(平均+6.15mg/日、−0.65%)。
ジスキネジア(不随意運動)の評価(UDysRS):24か月時点で平均+12.3点(+116.4%)。つまり、不随意運動は治験中にむしろ増えています。

これは、報道だけ見ているとなかなか伝わってこない、けれども患者さんやご家族が知っておくべき大事な情報です。「運動症状が改善する=薬を減らせる」「運動症状が改善する=生活の質も上がる」というふうに、単純にはつながらない可能性があります。


安全性——73件の有害事象と、腫瘍化しなかったMRI所見

iPS細胞を使った治療で、多くの方が最初に心配されるのが「移植した細胞ががんになったりしないか」ということです。Sawamoto et al. 2025の論文では、24か月時点で次のような結果が報告されています。

安全性の主な結果
・有害事象(AE)の総数:73件(うち72件が軽症、1件が中等度のジスキネジア)
重篤な有害事象(SAE):0件(入院・死亡を要する事象はなし)
・MRIで観察した移植部位は緩やかに大きさを増したが、「腫瘍のような異常拡大」は認められず
・細胞増殖を見る18F-FLT集積の増加もなし
・移植周囲に炎症を示唆する所見もなし

一方、免疫抑制剤(タクロリムス)に関連すると考えられる副作用は、3名(42.9%)に認められました。肝機能障害、γ-GT上昇、膀胱炎、爪白癬、腎機能障害などです。タクロリムスは強い薬で、定期的な血液検査と慎重な管理が必要となります。


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3. なぜここまで来られたのか——2020年NEJMから2026年承認までの軌跡

アムシェプリ®の承認は、ある日突然やってきたわけではありません。実は、iPS細胞をパーキンソン病に応用する研究は、世界各国で長年積み重ねられてきました。その中でも大きな節目となったのが、2020年にNew England Journal of Medicine(NEJM)誌に掲載された、ある1人の患者さんの症例報告です。


2020年、米国で世界初の自家iPS症例

2020年5月、米国のマサチューセッツ総合病院とハーバード大学のグループ(Schweitzer et al. 2020)が、自家iPSC由来のドパミン神経前駆細胞を、一人のパーキンソン病患者さん(69歳・男性、罹病10年)に移植したケースを報告しました。

NEJM 2020症例の概要
・対象:69歳男性、特発性パーキンソン病・罹病10年
・細胞:患者さん自身の皮膚からiPS細胞を作製(自家iPS)
・移植:被殻に400万個ずつ、左右別々に6か月空けて移植
・免疫抑制剤:使用せず(自家のため拒絶反応の懸念が小さい)
・追跡:18〜24か月時点で、運動症状スコアが安定または改善。生活の質(PDQ-39)も大きく改善。
・有害事象:なし

「自家iPS=自分の細胞由来」だからこそ、免疫抑制剤を使わなくてよいというのが最大の特徴でした。ただ、患者さん一人ひとりに合わせて細胞を作るため、コストと時間が非常にかかります。実用化に向けては、別のアプローチも必要だったのです。


自家と他家、それぞれの強みと弱み

iPS細胞をパーキンソン病に使う方法は、おおきく分けて2つあります。

自家iPS(autologous)
・患者さん本人の細胞からiPSを作って移植
・拒絶反応のリスクが小さく、免疫抑制剤が不要
・1人ずつ細胞を作るので、製造コストと時間が膨大
・代表例:NEJM 2020(米国・n=1)

他家iPS(allogeneic)
・健康なドナーの細胞からiPSを作り、複数の患者さんに使える
・あらかじめ細胞を準備しておけるため、より多くの方に届けやすい
・他人の細胞のため、一定期間は免疫抑制剤が必要
・代表例:Nature 2025(京都大学・n=7)=アムシェプリ®

京都大学のグループが「他家」を選んだのには、明確な理由があります。「多くの患者さんに同じ品質の細胞を、必要なタイミングで届けられる」ことが、製品化(実用化)には欠かせないという判断です。


京都大学が選んだのは「HLAホモ接合体ドナー」という戦略

他家iPSの「拒絶反応リスク」を抑えるために、京都大学のグループは「HLA(組織型)が特定のパターンに揃ったドナー」の血液から作ったiPS細胞株を使うという方針を取りました。具体的には、日本人の中で約17%の方に組織型が合うドナーから作られた細胞株(QHJI01s04という名前です)が使われています。

これにより、すべての患者さんの完全な「型」に一致するわけではないものの、拒絶反応のリスクは大きく下がります。なお、Sawamoto et al. 2025の論文では、HLAが完全に一致した患者さんとそうでない患者さんで、臨床的な違いは見られなかったと報告されています(ただし「最終的な結論には、長期追跡と剖検所見が必要」と但し書きがあります)。


6年で症例1例から治験成功、そして承認へ

2020年のNEJM症例から、わずか6年で他家iPS治療が承認に至った——というと早く感じるかもしれません。ただ、京都大学のグループは2018年から治験を開始しており、その前にも基礎研究は十年単位で続けられてきました。「世界初の自家iPS症例」と「日本での他家iPS治験成功・承認」は、車の両輪のように、再生医療を進めてきた歴史なのです。



4. 受けられる人・受けられない人——「条件及び期限付承認」の意味

「自分も受けられるかもしれない」と考える方にこそ、知っていただきたい現実があります。アムシェプリ®はいま、誰でも・どこでも受けられる治療ではありません。


適応となるパーキンソン病とは(承認文言の読み解き)

住友ファーマが公表している効能・効果の承認文言は、次のとおりです。

効能・効果(承認文言・原文)
「レボドパ含有製剤を含む既存の薬物療法で十分な効果が得られないパーキンソン病患者の運動症状の改善」

ポイントは「レボドパ含有製剤を含む既存の薬物療法で十分な効果が得られない」という前提です。つまり、診断されたばかりの患者さんではなく、既存治療を一通り試したうえで、それでも症状が日常生活に支障を来している方が対象、ということになります。

また、安全性・有効性が確認された治験対象者の年齢は「50〜69歳」でした。これより若年・高齢の方でも適応となるかは、今後の市販後試験で確かめられていく見込みです。


実施されるのは「7施設で約35人」という現実

条件及び期限付承認の条件として、住友ファーマは市販後の「使用成績調査」を行います。中医協の資料によれば、その規模はおおよそ次のとおりです。

市販後試験(条件及び期限付承認の条件)
・実施施設:約7施設
・対象患者数:約35人(初期30名は18〜65歳、後期5名は65歳以上)
・期間:承認後7年以内に完了
・本承認に進むために、安全性・有効性のデータを蓄積する

2035年度のピーク予測でも、年間133人とされています。つまり「希望すれば受けられる」治療には、まだ遠いのが現状です。これは、新しい治療を社会に届けるための、段階的なプロセスでもあります。


「条件及び期限付承認」は「お試し承認」ではない

「条件及び期限付承認」という言葉から、「完全には承認されていない治療なのでは?」と心配される方もいるかもしれません。これは2013年に再生医療等製品向けに新設された日本独自の制度で、「お試し」ではなく、有効性が推定でき、安全性が確認できた段階で早期に実用化を認め、そのあと使用成績データを集めて本承認を目指す——というしくみです。

承認後7年以内(2033年3月5日まで、とされています)に、住友ファーマは追加データを集め、改めて本承認を申請する予定です。それまでは、認定された医療機関で、限られた人数の患者さんに対して、慎重に実施されていきます。


本承認に進むために必要なこと

条件及び期限付承認から本承認に進むには、市販後試験で次のことが確かめられる必要があります。

  • より多くの患者さんで、運動症状の改善が再現できること
  • 長期的な安全性(腫瘍化や免疫反応など)が問題なく続くこと
  • 運動症状以外(生活の質、薬剤使用量、ジスキネジアなど)の評価項目でも、納得できる結果が得られること

つまり、今回のNature論文だけでアムシェプリ®の評価が決まるわけではなく、これから7年かけて、より多くの患者さんで結果を積み重ねていく段階にある——ということです。



5. 薬価5,530万円と保険適用——お金の不安を整理する

ニュースで「5,500万円」と聞いて、驚かれた方も多いでしょう。「うちの家族には、とても無理だ」と感じられたかもしれません。ですが、この治療には保険が適用されます。実際の自己負担は、報道の金額よりずっと少なくなります。


「18瓶1組で5,530万6,737円」が公定価格

2026年5月13日、中央社会保険医療協議会(中医協)は、アムシェプリ®の薬価を「18瓶1組で5,530万6,737円」と決定しました。薬価基準への収載は、2026年5月20日付の予定です。

アムシェプリ®の薬価(中医協了承)
・公定価格:5,530万6,737円(18瓶1組・1回分)
・算定方式:原価計算方式
・補正加算:市場性加算I(10%)+ 先駆加算(10%)
・条件及び期限付承認のため、営業利益は通常の半分で算定
・薬価基準収載日:2026年5月20日


保険適用と高額療養費制度——実際の自己負担はどうなるか

アムシェプリ®は保険適用となります。つまり、医療費全体の1〜3割が患者さんの窓口負担となるのが原則です。仮に3割負担だとすると、5,530万円の30%は約1,659万円——確かに大きな金額です。

ですが、ここで「高額療養費制度」が大きな役割を果たします。この制度は、ひと月の医療費の自己負担額が一定の限度を超えた場合、超えた分があとから払い戻される、または現物給付として実質的に上限額までの支払いで済むしくみです。

高額療養費制度のしくみ(一般論)
・ひと月(暦の1日〜末日)の自己負担額が、年齢と所得に応じた上限額を超えた場合、超えた分が払い戻される
・70歳以上の方は、外来・入院問わず上限額が適用される
・「限度額適用認定証」を事前に取得すれば、窓口での支払いが上限額までで済む

上限額は所得や年齢によって異なるため、ここで具体的な金額をお示しすることはできませんが、5,530万円という公定価格そのままを自費で負担することにはなりません。実際の自己負担額については、加入されている健康保険組合(協会けんぽ・国民健康保険・後期高齢者医療制度など)にご確認ください。


「原価計算方式」と「先駆加算」——なぜこの価格なのか

5,530万円という価格は、製造原価・研究開発費・営業利益などを積み上げて算定する「原価計算方式」で決まりました。さらに、ほかに類似品がない希少な治療であることや、世界に先駆けた開発であることを評価する「市場性加算I(10%)」と「先駆加算(10%)」が上乗せされています。

一方で、条件及び期限付承認の段階であることを考慮し、営業利益は通常の半分で算定されています。「再生医療を社会に届けるための価格」と「研究開発を続けられる利益のバランス」を、慎重に積み上げた結果が、この金額ということになります。


費用の不安があるとき、どこに相談できるか

「金額のことが気になって、相談すらしづらい」という方もいらっしゃるかもしれません。費用面のご相談は、次のような窓口があります。

  • 加入されている健康保険組合(協会けんぽ・国民健康保険など)の窓口
  • 市区町村の福祉・医療助成の窓口(自治体によって独自助成あり)
  • かかりつけ医や、相談予定の医療機関の医療相談室(ソーシャルワーカー)
  • 住友ファーマの患者向け情報サイト「パーキンソン病ステーション」


6. 既存治療との位置づけ——レボドパ・DBSと並べて考える

アムシェプリ®の登場は、パーキンソン病の治療選択肢が増えたという意味で、大きな意味があります。ですが、「今までの治療より優れているのか」「これからは皆これを受けるべきか」と問われると、話はそう単純ではありません。


パーキンソン病の治療は階層になっている

パーキンソン病の治療は、薬物療法を基盤にしながら、症状の進行に応じて段階的に手段が増えていきます。

パーキンソン病の主な治療手段
薬物療法(第一選択):レボドパ含有製剤、ドパミンアゴニスト、MAO-B阻害薬、COMT阻害薬、アデノシン受容体拮抗薬
進行期の薬物的対処:レボドパ持続経腸投与(LCIG)、持続皮下注ポンプ療法
外科治療:脳深部刺激療法(DBS)
細胞療法(実用化開始):アムシェプリ®


今もレボドパが第一選択——アムシェプリ®は「効きが足りない」段階で

アムシェプリ®の承認文言は「レボドパ含有製剤を含む既存の薬物療法で十分な効果が得られない」患者さんを対象としています。つまり、診断直後の方は依然としてレボドパなどの薬物療法から開始する、という位置づけは変わりません。

また、Sawamoto et al. 2025の治験では、移植後24か月時点でも、患者さんが飲んでいるレボドパ等価日量(LEDD)はほぼ変化していませんでした。「アムシェプリ®を受ければ薬を減らせる」と単純には言えない、ということです。「薬と細胞療法のあわせ技で、症状をマネジメントしていく」のが、現時点での向き合い方になります。


DBS(脳深部刺激療法)との関係

進行期のパーキンソン病で、すでに広く行われている外科治療がDBS(Deep Brain Stimulation:脳深部刺激療法)です。視床下核などに電極を留置し、電気刺激で症状をコントロールします。長い実績があり、運動症状の改善・ジスキネジアの軽減などで高い効果が報告されています。

アムシェプリ®とDBSは、目的は似ていても作用のしかたが大きく異なります。DBSは「電気刺激で神経回路を調整する」のに対し、アムシェプリ®は「ドパミンを作る神経そのものを補充する」治療です。どちらを選ぶか、あるいは併用できるかは、患者さん一人ひとりの病状や生活背景に応じて、専門医とよく相談して決めることになります。アムシェプリ®がDBSに代わる治療になるかどうかは、これからの市販後試験で明らかになっていく見通しです。


医師の伴走が、治療選択には欠かせない

パーキンソン病の治療は、薬・外科・細胞療法・リハビリテーション・生活支援など、複数の柱を組み合わせていくものです。新しい治療が登場するたびに「次はこれを受けたほうがいいのでは」と心が揺れるのは、ごく自然なことです。

ですが、ご自身の病状や生活で「いま、何が一番大切か」を判断するには、診察を続けて経過を知っている医師の伴走が欠かせません。新しい情報に出会ったら、まずはかかりつけの医療機関でご相談いただくのが安心です。



7. これからの見通しと、当院でお伝えできること


市販後P4試験で確かめられること

アムシェプリ®はこれから、約7施設・約35人を対象に市販後の使用成績調査が行われます。そこで重点的に確かめられるのは、おおよそ次のような点です。

  • より広い年代・病状の患者さんで、安全に実施できるか
  • 24か月を超える長期での有効性・安全性はどうか
  • 運動症状の改善が、生活の質(PDQ-39)や薬剤使用量(LEDD)の改善にもつながるか
  • 免疫抑制剤の使い方を、より患者さんに負担の少ない形にできるか

海外の動向

iPS細胞や胚性幹細胞(ES細胞)を使ったパーキンソン病治療の研究は、米国・欧州・中国などでも進められています。それぞれが異なるアプローチを取りつつ、共通の目標として「再生医療をパーキンソン病の標準的な選択肢のひとつにする」ことを目指しています。アムシェプリ®はそのなかで、いち早く実用化に至った日本発の治療として位置づけられます。


当院は「実施施設」ではありませんが、ご相談はお受けしています

繰り返しになりますが、いわた脳神経外科クリニックは、アムシェプリ®の実施医療機関ではありません。アムシェプリ®の治療をご希望の場合、まずは住友ファーマが運営する患者向け情報サイト「パーキンソン病ステーション」をご覧いただくか、京都大学医学部附属病院など、認定された医療機関の情報をご確認ください(なお、京都大学医学部附属病院は、通常診療への支障を避けるため、患者さんからの直接のお問い合わせはお控えいただきたいとアナウンスされています)。

一方で、「アムシェプリ®がご自身に当てはまるのか、まずは整理したい」「現在の薬物療法で気になることがある」「家族の様子で心配なことがある」といったご相談は、当院でもお受けできます。


パーキンソン病・神経変性疾患のかかりつけとして

大阪のいわた脳神経外科クリニックでは、パーキンソン病以外にも、頭痛・物忘れ・しびれ・めまいなど、脳神経外科領域の幅広いご相談を承っています。脳ドックやMRI検査も可能ですので、症状が気になり始めたとき、漠然と不安なとき、いつでもお気軽にお問い合わせください。



8. よくある質問

Q1. アムシェプリ®の治療を受けたいのですが、どこに連絡すればよいですか?

まずは住友ファーマの患者向け情報サイト「パーキンソン病ステーション」をご確認ください。実施施設の情報や、相談窓口が案内されています。また、京都大学医学部附属病院をはじめとした認定医療機関がP4試験を担う予定です。当院(いわた脳神経外科クリニック)では実施しておりませんが、現在の治療や検査のご相談はお受けできます。

Q2. 効果はどれくらい続きますか?

Sawamoto et al. 2025の治験では、移植後24か月までの結果が報告されています。それ以上の長期的な効果については、これからの市販後試験で確かめられていく段階です。なお、過去の胎児細胞移植の研究では、生着した神経細胞が9〜16年生存した例も報告されていますが、アムシェプリ®で同じ結果が得られるかは、まだわかりません。

Q3. 副作用はありますか?

治験では73件の有害事象が報告されましたが、重篤なもの(入院・死亡を要するもの)はゼロでした。多くは軽度です。一方、免疫抑制剤(タクロリムス)による肝機能障害・腎機能障害・感染症などには注意が必要で、定期的な血液検査による管理が行われます。手術自体に伴う出血・感染などのリスクもあります。

Q4. 自己負担はいくらになりますか?

アムシェプリ®は保険適用です。窓口負担は医療費全体の1〜3割ですが、高額療養費制度の対象となるため、ひと月の自己負担額には上限が設けられます。上限額は年齢や所得によって異なるため、加入されている健康保険組合や市区町村の窓口でご確認ください。

Q5. アムシェプリ®で完全に治りますか?

アムシェプリ®は「運動症状の改善」を目的とした治療です。パーキンソン病そのものを根本から治す(根治させる)治療ではありません。治験では運動症状や脳内ドパミン産生の改善が見られた一方、生活の質(PDQ-39)や薬剤使用量(LEDD)は平均としては大きく変わらなかったと報告されています。「症状を緩和する選択肢が一つ増えた」と受け止めるのが妥当です。

Q6. 大阪のいわた脳神経外科クリニックではアムシェプリ®を受けられますか?

当院では、アムシェプリ®の実施はおこなっておりません。アムシェプリ®は認定された医療機関での定位脳手術が必要なため、限られた高度医療機関での実施となります。当院では、パーキンソン病やそのほかの脳神経の症状についての一般的なご相談、頭痛・物忘れ・しびれ・めまいなどの診療を承っております。



9. まとめ

  1. アムシェプリ®は2026年3月6日に「条件及び期限付承認」を取得した、世界初の他家iPS由来パーキンソン病治療薬です。
  2. 京都大学の治験(n=7・24か月)では、運動症状の平均改善(−9.5点・−20.4%)や脳内ドパミン産生の増加(+44.7%)が報告されました。重篤な有害事象はゼロでした。
  3. 一方で、生活の質や薬剤使用量は平均的には大きく変わらず、ジスキネジアはむしろ増えた項目も報告されています。
  4. 承認後7年以内に約7施設・約35人での市販後試験が行われ、長期的な有効性・安全性が確かめられていきます。
  5. 薬価は5,530万6,737円ですが保険適用で、高額療養費制度の対象です。実際の自己負担は加入されている健康保険でご確認ください。
  6. 当院では実施しておりませんが、パーキンソン病や神経変性疾患に関するご相談はお受けできます。

パーキンソン病は、長くつき合っていく病気です。
新しい治療の情報に心が揺れるとき、まずは現在の治療や症状の整理から、ご一緒に始めてみませんか。大阪のいわた脳神経外科クリニックは、ご家族と一緒に「これからの一歩」を考えるお手伝いをいたします。

※本記事は2026年5月14日時点の公開情報に基づきます。承認情報・実施施設等は今後変更となる場合があります。実際の治療判断は、症状・既往歴・併用薬等を踏まえて医師が行います。



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重要:本記事の位置づけ(医療情報として)

  • 本記事は、Sawamoto et al. 2025(Nature)、Schweitzer et al. 2020(NEJM)、住友ファーマ公開情報、中医協・厚生労働省資料など、2026年5月14日時点で公開されている情報に基づく「一般的な医療情報」です。
  • 特定の治療を推奨・保証するものではありません。効果や副作用には個人差があります。
  • 条件及び期限付承認の段階であり、長期的な有効性・安全性は今後の市販後試験で評価されていきます。
  • 実際の治療判断は、症状・既往歴・併用薬・ご本人とご家族の希望などを踏まえて、医師が行います。
  • 当院(いわた脳神経外科クリニック)では、アムシェプリ®の実施はおこなっておりません。
この記事を書いた先生のプロフィール

医師・医学博士【脳神経外科専門医・頭痛専門医 ほか】
脳外科医として関西医大で14年間勤務。大学時代は、脳腫瘍や脳卒中の手術治療や研究を精力的に行ってきました。脳卒中予防に重点をおいた内科管理や全身管理を得意としています。
脳の病気は、目が見えにくい、頭が重たい、めまい、物忘れなど些細な症状だと思っていても重篤な病気が潜んでいる可能性があります。
即日MRI診断で手遅れになる前にスムーズな病診連携を行っています。MRIで異常がない頭痛であっても、ただの頭痛ではなく脳の病気であり治療が必要です。メタ認知で治す頭痛治療をモットーに頭痛からの卒業を目指しています。
院長の私自身も頭痛持ちですが、生活環境の整備やCGRP製剤による治療により克服し、毎日頭痛外来で100人以上の頭痛患者さんの診療を行っています。我慢しないでその頭痛一緒に治療しましょう。

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参考文献

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