片頭痛患者の認知機能はどう変わる?エムガルティと論文で解説

この記事で分かること

  • エムガルティなどの抗CGRP抗体薬が、片頭痛の予防治療でどのような位置づけにあるか
  • 2026年に報告された論文で、片頭痛が改善した人の「認知機能」にどのような変化が示されたか
  • 「集中しづらい」「仕事の段取りがつらい」と感じる片頭痛の方が、診察で相談してよいポイント

※本記事は一般的な医療情報であり、診断・治療の代替ではありません。効果や副作用には個人差があります。治療の開始・継続・中止は主治医と相談して決めてください。

片頭痛というと、「ズキズキ痛む」「吐き気がする」「光や音がつらい」というイメージが強いと思います。

でも実際には、痛みそのものだけでなく、集中しづらい、考えがまとまりにくい、仕事の段取りが急に難しくなるという悩みを抱えている方も少なくありません。「痛みは少し落ち着いたのに、普段どおりに動きにくい」と感じる方もいます。

今回、Cephalalgia誌に2026年に掲載された研究で、片頭痛の予防治療に反応した患者さんでは、発作と発作の間の認知機能の一部が改善したことが報告されました(Martins et al., 2026)。この記事では、エムガルティを含む抗CGRP抗体薬の位置づけと、この論文をどう読むとよいかを整理します。


キーメッセージ
エムガルティは「頭をよくする薬」ではありません。片頭痛の発作を減らすことを目的とした予防薬です。
ただし、片頭痛がうまくコントロールされることで、発作のない日の集中力や段取りづらさが変わる可能性が、研究で示唆されています。


目次


片頭痛の予防治療について知りたい方は、いわた脳神経外科クリニックへご相談ください。

 

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1. エムガルティとはどんな薬?

エムガルティ(一般名:ガルカネズマブ)は、片頭痛発作の発症を抑える目的で使われる注射薬です。CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)という、片頭痛の発作に関わる物質に結合し、その働きをおさえる抗体製剤に分類されます。

片頭痛の薬には、発作が起きたときに使う薬と、発作そのものの回数を減らすことをめざす予防薬があります。エムガルティは後者、つまり予防治療のための薬です。


エムガルティの基本
初回は負荷投与を行い、その後は月1回の皮下注射で継続する薬です。
副作用や自己注射の可否、継続方法については、患者さんごとの状況をふまえて医師と相談します。

検索では「エムガルティ 効果」「エムガルティ 副作用」「エムガルティ 自己注射」「エムガルティ 効果 いつから」などがよく調べられています。これは、治療を始める前の方が「本当に自分に合うのか」「続けられるのか」を知りたいからだと思います。

ただ、この記事で特に取り上げたいのは、効果の有無だけではありません。片頭痛がある方の中には、痛み以外に考える力や集中力のしんどさを感じている方がいる、という点です。



2. 片頭痛と認知機能は関係する?

片頭痛の発作中に、考えがまとまりにくくなったり、いつもなら簡単にできる作業に時間がかかったりすることがあります。これは「気合いが足りない」からではありません。

片頭痛は、痛みだけでなく、脳の過敏さ、光や音への反応、吐き気、眠気、だるさ、そして認知面の変化を伴うことがあります。発作の前後や発作間欠期にも、集中しづらさを感じる方がいます。


患者さんの言葉で言うと
「頭に霧がかかった感じ」
「会議中に話を追いにくい」
「家事や仕事の順番を考えるのがつらい」

こうした感覚は、医学的には認知機能の一部、特に注意や処理速度、段取りや切り替えに関わる働きと関連して考えられます。患者さんの実感としては「集中しづらい」「仕事の段取りが難しい」と表現されることがあります。

生活の中では、たとえばこのような変化として感じられることがあります

  • 仕事や家事の優先順位をつけるのに時間がかかる
  • 会話や説明を聞いていても、途中で内容を追いにくくなる
  • 買い物、書類作業、予定管理など、複数の手順がある作業が負担に感じる
  • 発作がない日でも、次の頭痛を気にして作業のペースが落ちる

だからこそ、片頭痛の治療では「痛みの日数」だけでなく、発作のない日の生活のしやすさも大切な視点になります。


頭痛の日数だけでなく、仕事や家事への影響も診察でお話しください。

 

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3. 2026年の論文では何が報告された?

Martinsらの研究は、高頻度または慢性片頭痛の患者さんを対象に、抗CGRP抗体薬またはボツリヌス毒素治療の前後で認知機能を評価した研究です(Martins et al., 2026)。

この研究の良い点は、「片頭痛の痛みが減ったか」だけでなく、患者さんが日常で感じやすい考えにくさ・段取りづらさに近い領域まで評価していることです。一方で、エムガルティだけを対象にした研究ではなく、抗CGRP抗体薬全体とボツリヌス毒素治療を含む研究である点は、最初に押さえておく必要があります。


3-1. 研究デザイン:治療前後で「認知機能」を見た観察研究

対象は、月に8日以上の片頭痛日数がある患者さんでした。治療開始前に認知機能検査を行い、抗CGRP抗体薬またはボツリヌス毒素治療を開始したあと、3〜6か月後にもう一度評価しています。

研究で評価された認知領域は、記憶、言語、注意・処理速度、そして段取りや切り替えに関わる認知機能です。予定を立てる、優先順位をつける、複数の作業を切り替える、衝動を抑えるといった「段取りの力」に近い働きが含まれます。


研究対象の概要
解析対象は90名、平均年齢は42歳、女性が97%でした。
治療開始から約4.5か月後に評価され、全体の治療反応率は52%でした。
治療反応率は、抗CGRP抗体薬群で59.4%、ボツリヌス毒素治療群で34.6%と報告されています。


※論文で報告された治療反応率をもとに作成

治療反応率の比較

全体:52%

抗CGRP抗体薬:59.4%

ボツリヌス毒素治療:34.6%

※この比較は治療群間の優劣を示すものではなく、論文内で報告された反応率を視覚的に整理したものです。


3-2. 結果:改善が目立ったのは「認知機能の一部」

研究では、片頭痛予防治療に反応した人で、治療前から治療後にかけて認知機能スコアの一部改善がみられたと報告されています。一方で、記憶、言語、注意・処理速度では、同じような明確な差は示されませんでした。

具体的には、Table 3で段取りや切り替えに関わる認知機能スコアの平均変化量が、治療反応ありの群で+0.41 ± 0.55、治療反応なしの群で+0.17 ± 0.55と示されています。さらにTable 4では、この認知機能領域について「時間 × 治療反応」の交互作用がp = 0.003と報告され、反応者でより大きな改善があったことが統計的にも示されています。

この結果は、「片頭痛が良くなると、認知機能全体が広く改善する」という意味ではありません。より慎重に言えば、片頭痛が改善した人では、認知機能のうち段取りや切り替えに関わる一部領域が変化した可能性があるという読み方になります。


※Martins et al. 2026のTable 3・Table 4をもとに作成

認知機能スコアの変化量

治療反応あり:+0.41 ± 0.55

治療反応なし:+0.17 ± 0.55

※zスコアの平均変化量です。バーは+0.50を上限の目安として相対表示しています。

反応者と非反応者の差が統計的に示された領域

※スマホでは横スクロールできます

認知領域 Time × responder p値 読み方
認知機能の一部 p = 0.003 反応者でより大きな改善が示された
注意・処理速度 p = 0.82 反応者と非反応者の差は示されず
記憶 p = 0.85 反応者と非反応者の差は示されず
言語 p = 0.31 反応者と非反応者の差は示されず

3-3. 中立的に見ると、何が言えて何が言えないか

この研究から言えるのは、片頭痛予防治療に反応した人では、発作間欠期の認知面、特に段取りや切り替えに関わる認知機能の一部に変化がみられたということです。片頭痛で「集中しづらい」「段取りがつらい」と感じる患者さんの実感を、医学的に考えるきっかけになる研究だと思います。

一方で、この研究だけで「エムガルティが認知機能を改善する」とは言えません。対象治療には抗CGRP抗体薬だけでなくボツリヌス毒素治療も含まれ、エムガルティ単独の効果を切り出した研究ではないためです。また、対象者数は90名で、今後さらに大きな研究で確認されることが望まれます。


この記事での解釈
この論文は、エムガルティを「頭を良くする薬」として紹介する根拠ではありません。
片頭痛を適切に治療することで、発作のない日の生活のしやすさにも目を向ける価値がある、という根拠として読むのが自然です。



4. エムガルティの効果を支える臨床試験

今回の主論文は「認知機能」に注目した研究ですが、エムガルティ自体の片頭痛予防効果については、別の大規模な臨床試験で検証されています。

反復性片頭痛を対象にしたEVOLVE-1試験では、エムガルティ群で月あたりの片頭痛日数がプラセボ群より大きく減少したことが報告されました(Stauffer et al., 2018)。また、慢性片頭痛を対象にしたREGAIN試験でも、エムガルティ群で月あたりの片頭痛日数の減少が報告されています(Detke et al., 2018)。

つまり、エムガルティは「片頭痛発作を減らすこと」を目的とした予防薬として研究されてきた薬です。そのうえで、片頭痛が減った結果として、仕事や家事、集中力への負担がどう変わるかを考えるのが、今回の記事の読み方です。


臨床試験の位置づけ
EVOLVE-1は反復性片頭痛、REGAINは慢性片頭痛を対象にした試験です。
どちらも「片頭痛日数の減少」を評価した研究であり、認知機能の改善を主目的にした研究ではありません。



5. この研究を読むときの注意点

この論文は、片頭痛と認知面の悩みを考えるうえで興味深い研究です。一方で、記事として紹介するときには、いくつか慎重に読む必要があります。


読み方の注意
エムガルティ単独の効果を証明した研究ではありません。
対象者は90名で、より大規模な研究での確認が望まれます。
認知機能の改善は、片頭痛が減ったことに伴う二次的な変化の可能性があります。

つまり、「エムガルティを打てば集中力が上がる」と考えるのは行き過ぎです。エムガルティは片頭痛予防薬であり、認知機能そのものを直接治療する薬ではありません。

しかし、片頭痛が生活に与える影響は痛みだけではありません。発作が減り、痛みへの不安が減り、睡眠や仕事のリズムが整うことで、結果として「頭の働きやすさ」が変わる方はいるかもしれません。今回の研究は、その可能性を丁寧に調べようとしたものと捉えるのがよいと思います。



6. 診察で相談してよいこと

片頭痛の診察では、頭痛の日数や痛みの強さだけを話さなければいけない、ということはありません。むしろ、生活の中で何に困っているかを一緒に整理することが大切です。

たとえば、次のようなことは診察で相談して大丈夫です。

  • 発作の前後に、仕事や家事の段取りがしにくくなる
  • 発作がない日も、集中力が戻りきらない感じがある
  • 市販薬や急性期治療薬を使う回数が増えている
  • 予防薬を始めるべきか、まだ様子を見るべきか迷っている
  • エムガルティの副作用や自己注射が不安
  • エムガルティをやめたらどうなるのか知りたい

頭痛日記があれば役立ちますが、なくても大丈夫です。「この1か月で何日くらい困ったか」「仕事や家庭でどの場面がつらかったか」を、思い出せる範囲で話していただければ十分です。


片頭痛を我慢し続ける前に、予防治療という選択肢を一緒に整理しましょう。

 

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7. よくある質問


Q1. エムガルティは、認知機能を治す薬ですか?

A. いいえ。エムガルティは片頭痛発作の発症を抑える目的で使う薬です。認知機能そのものを直接治療する薬ではありません。ただし、片頭痛の発作が減ることで、生活のしやすさが変わる方はいます。


Q2. 効果はいつから分かりますか?

A. 反応には個人差があります。今回紹介した研究では、治療開始から3〜6か月後に認知機能評価を行っています。実際の診療でも、数か月単位で頭痛日数や生活への影響を見ながら判断することが多いです。


Q3. エムガルティが効かない人もいますか?

A. はい、十分な効果を感じにくい方もいます。片頭痛の診断、薬の使いすぎ、睡眠、首肩こり、他の頭痛タイプの合併などを見直すことで、次の方針が見えてくることがあります。


Q4. 自己注射が不安でも相談できますか?

A. もちろんです。注射の痛み、保管方法、打つタイミング、継続できるかどうかなど、不安な点は事前に相談できます。無理に自己注射を前提に考える必要はありません。


Q5. やめたら片頭痛は戻りますか?

A. 中止後の経過には個人差があります。発作が増える方もいれば、一定期間落ち着いている方もいます。自己判断で中止せず、頭痛日数や生活への影響を見ながら主治医と相談してください。



8. まとめ

  • エムガルティは、CGRPに関わる片頭痛予防の注射薬です。
  • EVOLVE-1やREGAINでは、エムガルティによる片頭痛日数の減少が報告されています。
  • 2026年の研究では、抗CGRP抗体薬またはボツリヌス毒素治療に反応した片頭痛患者で、認知機能の一部改善が報告されました。
  • この研究は、エムガルティ単独の認知機能改善を証明するものではありません。
  • 頭痛の日数だけでなく、仕事・家事・集中力への影響も診察で相談して大丈夫です。

片頭痛は、痛みだけでなく生活全体に影響する病気です。
「頭痛の日数は減らしたい。でも注射は少し不安」
そんな段階からでも、治療の選択肢を一緒に整理できます。



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重要:本記事の位置づけ

本記事は、片頭痛とエムガルティに関する一般的な医療情報の提供を目的としています。診断・治療の代替ではありません。症状や治療方針は患者さんごとに異なりますので、具体的な判断は主治医にご相談ください。

この記事を書いた先生のプロフィール

医師・医学博士【脳神経外科専門医・頭痛専門医 ほか】
脳外科医として関西医大で14年間勤務。大学時代は、脳腫瘍や脳卒中の手術治療や研究を精力的に行ってきました。脳卒中予防に重点をおいた内科管理や全身管理を得意としています。
脳の病気は、目が見えにくい、頭が重たい、めまい、物忘れなど些細な症状だと思っていても重篤な病気が潜んでいる可能性があります。
即日MRI診断で手遅れになる前にスムーズな病診連携を行っています。MRIで異常がない頭痛であっても、ただの頭痛ではなく脳の病気であり治療が必要です。メタ認知で治す頭痛治療をモットーに頭痛からの卒業を目指しています。
院長の私自身も頭痛持ちですが、生活環境の整備やCGRP製剤による治療により克服し、毎日頭痛外来で100人以上の頭痛患者さんの診療を行っています。我慢しないでその頭痛一緒に治療しましょう。

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参考文献

  1. Martins, I.P. et al. (2026) ‘Beyond headache: Cognitive improvement in patients with migraine responding to anti-CGRP monoclonal antibodies or botulinum toxin’, Cephalalgia, 46(6). doi:10.1177/03331024261458424. Available at: https://doi.org/10.1177/03331024261458424
  2. Stauffer, V.L. et al. (2018) ‘Evaluation of galcanezumab for the prevention of episodic migraine: The EVOLVE-1 randomized clinical trial’, JAMA Neurology, 75(9), pp.1080-1088. doi:10.1001/jamaneurol.2018.1212. Available at: https://doi.org/10.1001/jamaneurol.2018.1212
  3. Detke, H.C. et al. (2018) ‘Galcanezumab in chronic migraine: The randomized, double-blind, placebo-controlled REGAIN study’, Neurology, 91(24), pp.e2211-e2221. doi:10.1212/WNL.0000000000006640. Available at: https://doi.org/10.1212/WNL.0000000000006640
  4. European Medicines Agency (EMA) ‘Emgality: EPAR product information’. Available at: https://www.ema.europa.eu/en/medicines/human/EPAR/emgality