睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療を最短で正解に導くガイド

いびきが大きい/寝ている間に呼吸が止まると言われた」「日中の眠気・朝の頭痛がつらい」――それは睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)のサインかもしれません。


SASの中で、最も一般的なタイプである「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(Obstructive Sleep Apnea Syndrome:OSAS)」は、気道が何らかの原因で物理的に閉塞することで、空気の流れが止まり、無呼吸状態となります。


OSASは生活習慣の見直しで軽快するケースもあれば、口腔内装置(OA)・手術・CPAPなどの医療的治療が必要なケースもあります。本記事では、今日からできるセルフケアと、エビデンスに基づいた治療選択を、東大阪の「いわた脳神経外科クリニック」の診療フローに沿って分かりやすく解説します。

ポイント:重症度(AHI/ODI)× 解剖評価 × ライフスタイルでベストな治療は変わります。まずは土台のセルフケア、次に医療的介入を段階的に検討しましょう。

目次



自分でできるSAS対策(生活習慣・姿勢・体重の整え方)

閉塞性睡眠時無呼吸症候群(Obstructive Sleep Apnea Syndrome:OSAS)は、喫煙・飲酒、寝姿勢、肥満といった身近な要因で悪化します。
本章ではエビデンスに基づき、今日から実践できる対策をチェックリスト形式で整理します。
中等症〜重症の場合は生活改善に加え、口腔内装置手術CPAPなどの医療的治療を組み合わせると効果的です。

個人で対策できる要因

要因 OSASを悪化させる仕組み ポイント
喫煙 上気道の炎症・浮腫で気道内腔が狭くなる 就寝前の一服が特に悪影響。受動喫煙にも注意
飲酒 咽頭筋の緊張低下→睡眠中の気道虚脱が増える 寝る3〜4時間前以降は禁酒が理想
寝姿勢(仰向け) 舌根沈下で上気道が狭くなる(体位依存性SAS) 横向き(側臥位)でAHIが改善する例が多い
肥満 頸部・舌根部の脂肪沈着で構造的に狭くなる 体重5〜10%減でもAHI改善が期待

生活習慣

  • 禁煙:就寝前の喫煙は避け、禁煙支援の活用を。
  • 飲酒コントロール:就寝3〜4時間前以降は飲まない。休肝日を設ける。
  • 就寝前の整え:重い食事・強い光(スマホ)・カフェインを控える。
  • 鼻呼吸の確保:鼻炎治療、室内の温湿度調整、就寝前の鼻洗浄。

寝具・体位

  • 横向き寝:抱き枕や体位センサーで仰向け時間を減らす。
  • 枕の最適化:下顎後退を避ける高さ・形状へ調整。
  • 頭側挙上:ベッド頭側を5〜10°上げる(リクライニングも可)。

体重管理

  • 目標:体重5〜10%減(無理のない期間設定で)。
  • 食事:高タンパク・高食物繊維、精製糖・飽和脂肪を控える。
  • 運動:中強度150分/週+レジスタンス運動。

受診の目安

  • 家族から呼吸が止まる・激しいいびきを指摘される。
  • 日中の強い眠気、朝の頭痛、集中力低下。
  • 高血圧・糖尿病・不整脈・心不全などの合併がある。
生活改善は土台づくりとして重要ですが、中等症〜重症SASでは医療的治療(口腔内装置CPAP等)が推奨されます。検査・治療は当院にご相談ください。


SAS治療

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療は、重症度(AHI/ODI)症状(日中の眠気・合併症)解剖学的要因、そして患者さんのライフスタイルを総合して選択します。

治療 主な適応シーン 期待できる効果 留意点
口腔内装置(OA) 軽症〜中等症、
CPAP不耐や旅行・出張が多い方
AHI低下、いびき軽減、眠気改善 歯科連携による個別作製・調整が必要/顎関節症や歯列の状態に注意
手術治療 解剖学的閉塞が明確(口蓋扁桃肥大、鼻閉、顎形態など) 閉塞部位の改善によるAHI低下、CPAP圧の低減/CPAP代替の可能性 術式ごとに効果と侵襲が異なる/専門施設での評価・適応判断が必須
CPAP 中等症〜重症の第一選択(標準治療) AHIの迅速な正常化、昼間眠気・血圧・心血管リスクの改善 継続使用(アドヒアランス)最重視/マスク適合・乾燥対策が鍵


治療法① 口腔内装置(OA:下顎前方移動装置)

下顎を前方に保持して上気道容積を広げ、睡眠中の気道虚脱を抑えるデバイスです。
軽症〜中等症や、CPAPが合わない/携行性を重視する方で選択されます。

メリット

  • 装置が小型で携帯しやすく、電源不要。
  • いびき軽減・眠気改善の実感が得られやすい。
  • CPAP不耐症例の代替あるいは併用で圧低減も可能。

注意点

  • 個別作製と段階的な前方化調整が必要(歯科連携)。
  • 顎関節症、歯の動揺・歯周病、咬合変化のリスク。
  • 重症例では単独で十分な効果が得られないことがある。




治療法② 手術治療(外科的アプローチ)

閉塞部位(鼻・口蓋・舌根・下顎)に応じた外科的手術を検討します。
次に紹介する治療法③のCPAP不耐や、明らかな解剖学的狭窄がある場合に選択肢となります。

カテゴリー 代表的術式 想定効果 備考
鼻腔 鼻中隔矯正、下鼻甲介手術 鼻抵抗低下、CPAP受容性の改善 単独でAHI大幅改善は限定的なことが多い
口蓋・咽頭 UPPP、口蓋形成、扁桃摘出 中等度のAHI低下/いびき軽減 解剖評価(内視鏡DISE等)で適応検討
舌根・下顎 舌根縮小、上下顎前方移動(MMA) 重症例でも大きなAHI低下が期待 侵襲度が高く、専門施設での判断が必須
神経刺激 上気道筋(舌下神経)刺激療法 CPAP不耐例でAHI・眠気の改善 適応基準あり(肥満度・閉塞パターン等)
手術の適応は閉塞部位診断が鍵です。鼻〜咽頭〜舌根の評価を踏まえ、CPAP継続 vs. 手術のベネフィットを個別に比較します。


治療法③ 持続陽圧呼吸(CPAP)

中等症〜重症SASの第一選択が、持続陽圧呼吸(Continuous Positive Airway Pressure: CPAP) 睡眠中に一定圧の空気を送り、気道虚脱を確実に防ぎます。
開始直後からAHIの正常化が見込め、眠気・いびき・血圧などの改善エビデンスが豊富です。


出典:帝人ファーマ 医療関係者向けサイト「CPAP」 (https://medical.teijin-pharma.co.jp/lifestyledisease/cpap.html、最終アクセス:2025年10月16日)


Marín et al.(2005)の研究結果

  • 未治療の重症SASが最も高リスク:時間の経過とともに累積イベント曲線が最も急峻に上昇します。
  • CPAP治療群は低リスク側:累積発生率は健常対照や「いびきのみ」に近い水準で推移します。
  • 未治療の軽症〜中等症は中間:重症未治療ほどではないものの、CPAP群より高い曲線を示します。

※ イベント定義:致死=心筋梗塞死・脳卒中死/非致死=非致死性心筋梗塞・脳卒中・血行再建を要した急性冠症候群。解析はKaplan–Meier法・log-rank検定、Cox回帰で調整(年齢・BMI等)。

ポイント:重症のSASを治療しないと心臓や脳の病気が起きやすくなります。CPAPを続けると、そのリスクは「健康な人」に近いレベルまで下がることが、長期データで示されています。

成人男性におけるCPAP治療群と無治療群の致死的及び非致死的な心血管の出来事の累積パーセンテージ
Numbers at risk
Controls 264 262 259 258
Snorers(いびき有) 377 372 361 232
Mild OSAH*(軽度のOSAS) 403 401 392 264
Severe OSAH(重度のOSAS) 235 229 221 167
OSAH with CPAP(CPAP治療中) 372 364 361 229

参考:致死性(パネルA)と非致死性(パネルB)の心血管イベントについて、追跡期間(0〜約144か月)における累積発生率を比較したものです。対象は「健常対照」「いびきのみ」「未治療の軽症〜中等症SAS」「未治療の重症SAS」「CPAP治療群」の5群です。※Figure 2 (Marin et al. 2005)より作成


*OSAH=obstructive sleep apnoea-hypopnoea (Sleep Apnea Syndrome)



CPAP継続のコツ

  • マスク適合:鼻マスク/フルフェイスなどを比較し、漏れ・圧痕・痛みを最小化。
  • 加温加湿:口鼻の乾燥・鼻閉を軽減し、使用時間を伸ばす。
  • 段階導入:短時間装着→就寝時使用へ段階的に慣らす。
  • データフォロー:使用時間・リーク・残存AHIを定期確認し、圧・マスクを調整。

注意点

  • 鼻閉・乾燥、腹部膨満感、皮膚トラブルは装置設定・付属品で多くは改善可能。
  • 中枢性無呼吸が混在する場合はモード再検討を要することがある。
  • 体重変動・薬剤変更・手術後は再設定再検査で最適化。

治療選択のポイント
重症度(AHI)× 解剖評価 × ライフスタイルで最適解は変わります。
・当院では、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の悩みにもしっかり対応します。 ・CPAP療法にも対応しています。



お問い合わせ・ご予約


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当院では、睡眠時無呼吸症候群の悩みにもしっかり寄り添います。また当院公式LINEにてご質問等をお受けしておりますので、お気軽にお問い合わせくださいませ。

 

 

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この記事を書いた先生のプロフィール

医師・医学博士【脳神経外科専門医・頭痛専門医 ほか】
脳外科医として関西医大で14年間勤務。大学時代は、脳腫瘍や脳卒中の手術治療や研究を精力的に行ってきました。脳卒中予防に重点をおいた内科管理や全身管理を得意としています。
脳の病気は、目が見えにくい、頭が重たい、めまい、物忘れなど些細な症状だと思っていても重篤な病気が潜んでいる可能性があります。
即日MRI診断で手遅れになる前にスムーズな病診連携を行っています。MRIで異常がない頭痛であっても、ただの頭痛ではなく脳の病気であり治療が必要です。メタ認知で治す頭痛治療をモットーに頭痛からの卒業を目指しています。
院長の私自身も頭痛持ちですが、生活環境の整備やCGRP製剤による治療により克服し、毎日頭痛外来で100人以上の頭痛患者さんの診療を行っています。我慢しないでその頭痛一緒に治療しましょう。

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参考文献

  1. Marín, J.M., Carrizo, S.J., Vicente, E. and Agustí, A.G.N. (2005) ‘Long-term cardiovascular outcomes in men with obstructive sleep apnoea–hypopnoea with or without treatment with continuous positive airway pressure: An observational study’, The Lancet, 365(9464), pp. 1046–1053. doi:10.1016/S0140-6736(05)71141-7.
  2. 帝人ファーマ株式会社(n.d.)『CPAP』帝人ファーマ 医療関係者向けサイト(ライフスタイル疾患)。 入手先: https://medical.teijin-pharma.co.jp/lifestyledisease/cpap.html (参照日:2025年10月16日)。