自分や家族の物忘れ 気になっていませんか?

 

「最近、人の名前が出てこない…」

「買い物に出たのに、買うはずのものを忘れてしまった…」

1つ1つは小さな出来事でも、それが積み重なると認知症への不安が募るものです。

また、不安から病院を受診しようと思っても、認知症だと告げられる怖さから、なかなか一歩が踏み出せない方もおられます。

実は、認知症の一歩手前には軽度認知障害(MCI)という状態があり、近年、この段階からの治療や介入が広まっています。

早めの受診でMCIが見つかれば、治療によって症状の進行を遅らせられる可能性があります。

今回は、このMCIについてご紹介します。

 

MCIとは?

 

MCIとは、加齢に伴う自然な物忘れ(良性健忘)と認知症のちょうど中間に位置するものです。

 

良性健忘

 

・体験の一部を忘れても、体験したことそのものは覚えている

・日常生活への支障は小さい

・物忘れの自覚がある

・記憶力だけが低下している

 

認知症:生活に大きく影響する

 

・体験したことそのものを忘れる

・日常生活への支障が大きく、サポートが必要

・物忘れの自覚が薄い

・記憶力だけでなく、日付が分からない、使えていた家電が使えなくなったなど他の症状も見られる

・「物を盗られた」という作り話や、「今日は緊張しているから」といった取り繕い

 

 

MCIとは、これらの中間に位置するもので、日常生活はなんとか自立出来ているものの、健康な人に比べると多くの工夫や対策を必要とする状態を言います。

こうした人の中には、一般的に行われる認知症の検査では良好な結果が出る人も多くおられます。そのため、MCIかどうかを確認するために、少し課題の難度を上げて検査することがあります。

 

 

 

MCIと認知症の違い


MCIと認知症それぞれの診断基準(DSM-5)はよく似ていますが、大きく違う箇所は「生活の自立」です。

MCIは「生活の自立は阻害されてない」のに対して、認知症は「生活の自立が阻害されている」状態を言います。ただし、MCIの人は、生活の自立のために通常よりも多くの努力や工夫が必要です。

 

「生活の自立」を軸にして整理すると・・・

・日常生活の自立に影響しない(影響が小さい)のが加齢に伴う物忘れ

・努力や工夫によって自立を保てるものがMCI

・独力では自立を保てず援助を要するのが認知症



うつ病(抑うつ状態)による物忘れ

 

 働き盛りの年齢で物忘れを訴える人の中には、抑うつ症状を抱えている人が少なくありません。

 うつ病の診断基準(DSM-5)の中には、思考力や集中力の低下が含まれており、こうした認知機能の低下によって仕事の予定や打ち合わせの内容を忘れてしまうことがあります。これは高齢者でも同様で、MCIや認知症のように見えていた症状が、うつ病(抑うつ状態)による物忘れの可能性もあります。

この場合には、MCIや認知症とは異なる治療が必要です。

 

 

 

当院でできるMCIチェック・予防・治療

 

当院はMCIを見つけること、そしてMCIの段階から治療を開始することに力を入れています。

 

①脳年齢・ブレインパフォーマンスチェック

 

2024年8月から、当院は【AI海馬年齢測定コース】を開始しました。MRI撮影による海馬年齢測定と、スマホから行える認知機能検査を組み合わせた自費検査です。検査の結果、必要があれば、より詳しい検査や治療につなげることが可能です。

 

②認知症予防サプリメント「フェルガード」

 

フェルガード」は、日本認知症予防学会に認定されたサプリメントで、認知症の原因となるアミロイドβをコントロールしたり、脳の情報伝達をスムーズにする働きが期待されます。認知症を治すことは出来なくても発症を遅らせたり、若いうちから服用することで認知症を予防できる可能性があります。

 

③新規認知症治療薬を取り扱う病院へのご紹介

 

2023年12月に発売されたレケンビ(一般名:レカネマブ)は、MCIや軽度認知症を対象とする新しい認知症治療薬です。当院で必要な検査を受けて頂く事で、レケンビ使用のための基準を満たした医療機関へご紹介することが出来ます。

 

【24/12/20よりレケンビ販売開始】さっそく認定証をいただきました

 

 

 

認知症を予防するには?

 

認知症の危険因子には遺伝子のような自力では変えられないものもありますが、糖尿病、運動不足、肥満、うつ状態など、生活習慣や治療を通して変えられるものもあります。

物忘れが始まる前やMCIの段階から良い習慣を取り入れて、認知症予防につなげましょう。

 

①人と関わる習慣を持つ

 

いろいろな人と会話をしたり趣味を楽しんだりすることが、認知症の予防には効果的です。同居家族とやり取りするだけでなく、地域活動に参加する、友人と交流するといったことが大切です。

また、「役に立てた」と感じる体験も大切です。仕事に従事する、家族の相談・愚痴聴きを引き受けるなど、役割を担う活動が効果的です。
当院では介護保険を申請してデイサービスやリハビリ等に通う習慣をつけ、他の利用者やスタッフと交流する機会を持つことをお勧めしています。

②運動習慣を持つ

 

定期的な運動習慣を持つことが大切です。近年では、しりとりや計算といった認知的活動と運動を組み合わせた、「コグニサイズ」と呼ばれる認知症予防運動プログラムが開発されており、MCIの方々の認知機能低下を抑制することが明らかになっています。

 

③精神的健康を保つ

 

うつ症状はそれ自体が認知機能の低下を伴うだけでなく、意欲や活動性の低下、社会的なつながりの断絶を生む可能性があります。うつ症状は他の危険因子(運動不足、社会的孤立など)にもつながり得るので、早めの対処が重要です。

 

自分や家族の物忘れに向き合うのは勇気がいる事ですが、現在の状態を把握することで適切な対応策がわかります。

当院では、物忘れの段階に応じて、継続的にフォローする仕組みを作っています。自分ひとりだけ、家族だけで抱え込まず、ぜひ当院にご相談ください。

 

 

 

 

<参考文献>

東晋二・松崎朝樹(2020)認知症がわかる本 メディカル・サイエンスインターナショナル

中野光子(2021)公認心理師・臨床心理士のための高次脳機能障害の診かた・考え方 風間書房

高杉友・近藤克則(2020) 日本の高齢者における生物・心理・社会的な認知症関連リスク要因に関するシステマティックレビュー 老年社会科学 第42巻 第3号 pp173-187.

国立長寿医療研究センター 認知症予防プログラム「コグニサイズ」https://www.ncgg.go.jp/hospital/kenshu/kenshu/27-4.html

 

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この記事を書いた先生のプロフィール

医師・医学博士【脳神経外科専門医・頭痛専門医 ほか】
脳外科医として関西医大で14年間勤務。大学時代は、脳腫瘍や脳卒中の手術治療や研究を精力的に行ってきました。脳卒中予防に重点をおいた内科管理や全身管理を得意としています。
脳の病気は、目が見えにくい、頭が重たい、めまい、物忘れなど些細な症状だと思っていても重篤な病気が潜んでいる可能性があります。
即日MRI診断で手遅れになる前にスムーズな病診連携を行っています。MRIで異常がない頭痛であっても、ただの頭痛ではなく脳の病気であり治療が必要です。メタ認知で治す頭痛治療をモットーに頭痛からの卒業を目指しています。
院長の私自身も頭痛持ちですが、生活環境の整備やCGRP製剤による治療により克服し、毎日頭痛外来で100人以上の頭痛患者さんの診療を行っています。我慢しないでその頭痛一緒に治療しましょう。

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