CGRPの副作用として、脱毛は起こるのか?

片頭痛の予防薬として普及しているCGRP関連抗体・受容体拮抗薬。近年、市販後の自発報告や症例報告で 「脱毛(主に休止期脱毛症)」が話題になることがあります。本記事では、公開情報に基づくエビデンスの現状、 想定されるメカニズム、臨床での対応の考え方を整理します。

結論(要点)
・「脱毛」の報告はありますが、頻度や因果関係は確定していません
・起こるとすれば、多くは休止期脱毛症(一時的で可逆的なことが多い)として観察されます。
・治療の利点と不利益を個別に天秤にかけ、経過観察・減量・休薬・切替などの選択肢を主治医と検討します。

目次



エビデンスの現状(症例・自発報告)

CGRP関連薬と脱毛の関連は、主に症例報告薬剤有害事象データベース(FAERSなど)から 〈シグナル(注意喚起)〉として示されています。


Ruiz et al. (2023)はCGRPモノクローナル抗体後の 2例の脱毛を報告し、少なくとも1例は皮膚科的に休止期脱毛症と整合的と述べています。 FAERSの体系的評価では、CGRP関連薬(抗体・ゲパント)で脱毛報告が分布し、多くは女性からの報告で重篤例は稀でした。

情報源 示唆される内容 限界
症例報告(Ruiz et al. 2023) 投与後に休止期脱毛症が出現しうる 症例数が少ない/選択バイアス
自発報告(FAERS) 薬剤横断で脱毛の報告が存在 曝露母数不明・報告バイアス/因果は確定できない

Ruiz et al. (2023):本症例と文献レビューから、CGRPは発毛促進と脱毛予防の双方に関与する可能性が示唆される。



毛髪は抜ける?成長する?

CGRPは強力な血管拡張ペプチドで、皮膚・毛包の微小循環や恒常性維持、免疫調整に関わります。 研究知見を総合すると、以下の機序が“可能性として”挙げられます。

領域 示唆される作用・所見 補足
神経ペプチド(Rossi et al 1997) 円形脱毛症頭皮でCGRP・サブスタンスP低下(VIPは非低下) 病態関連の一端の可能性
成長因子(Harada et al. 2007) CGRPはIGF-1経路に関与(毛包の増殖・遊走) 成長期維持への寄与が示唆
免疫特権(Woods 2022) CGRPが毛包の免疫特権を保護(IFN-α誘発崩壊の抑制、MHC I/II過剰発現↓、肥満細胞脱顆粒↓) 炎症性脱毛の抑制に関与か
毛周期(Samuelov et al 2012) 研究により退行期促進の報告もあり 知見は一定せず(相反結果あり)

Ruiz et al. (2023):脱毛は、休止期脱毛(telogen effluvium)による、まれな現象で、通常は可逆的と考えられます。



起こるとしたらいつ?どのくらい?Ruiz et al. (2023))

症例・薬剤性休止期脱毛症の一般的特徴としては次が挙げられます(CGRPに特異的と断定する趣旨ではありません)。

項目 整理
発症時期 導入後2〜3か月で出現しやすい
経過 多くは可逆的。持続は毛周期(休止期)に依存(目安約3か月、個人差あり)
性差 女性報告が多いが、片頭痛有病率・受療率の影響を受けるため、独立したリスク因子かは不明
薬剤クラス効果 CGRP関連抗体・ゲパント横断で報告はあるが、一律のクラス効果とは断定できない


実際に抜け毛が増えたら(対応フローチャート)

次の手順で落ち着いて評価・対応しましょう。

  1. 時期の確認:導入からの経過(月数)と抜け毛のパターン(全体/局所、洗髪時・枕元など)。
  2. 併用要因の洗い出し:ダイエット・発熱感染・出産/更年期・ストレス・鉄欠乏・甲状腺・新規薬剤など。
  3. 診察・必要検査:皮膚科/頭皮所見、必要に応じ血液検査(鉄、甲状腺など)。
  4. 治療方針の相談:経過観察、用量調整、一時休薬薬剤切替などを症状・片頭痛制御とのバランスで検討。
  5. セルフケア:睡眠・栄養(タンパク質/鉄/亜鉛)・過度な牽引や刺激を避ける、記録アプリで推移を可視化。

重要:自己判断で中止せず、必ず主治医に相談を。片頭痛コントロールが崩れるとQOL低下や受診・救急利用の増加につながる可能性があります。



Q&A

Q. CGRP薬を使うと必ず脱毛しますか?

A. いいえ。「報告がある」=「必ず起こる」ではありません。頻度は確定しておらず、多くは可逆的と考えられます。


Q. どの頭痛薬で起こりやすいですか?

A. 抗体・ゲパント横断で報告はありますが、相対比較やクラス効果は断定できません(自発報告の限界)。


Q. 治療は続けられますか?

A. 症状の程度や片頭痛の改善度を見ながら、継続・減量・休薬・切替を主治医と相談します。まずは状況把握と原因整理が大切です。



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この記事を書いた先生のプロフィール

医師・医学博士【脳神経外科専門医・頭痛専門医 ほか】
脳外科医として関西医大で14年間勤務。大学時代は、脳腫瘍や脳卒中の手術治療や研究を精力的に行ってきました。脳卒中予防に重点をおいた内科管理や全身管理を得意としています。
脳の病気は、目が見えにくい、頭が重たい、めまい、物忘れなど些細な症状だと思っていても重篤な病気が潜んでいる可能性があります。
即日MRI診断で手遅れになる前にスムーズな病診連携を行っています。MRIで異常がない頭痛であっても、ただの頭痛ではなく脳の病気であり治療が必要です。メタ認知で治す頭痛治療をモットーに頭痛からの卒業を目指しています。
院長の私自身も頭痛持ちですが、生活環境の整備やCGRP製剤による治療により克服し、毎日頭痛外来で100人以上の頭痛患者さんの診療を行っています。我慢しないでその頭痛一緒に治療しましょう。

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参考文献

  1. Ruiz, M., Cocores, A., Tosti, A., Goadsby, P.J. and Monteith, T.S. (2023) ‘Alopecia as an emerging adverse event to CGRP monoclonal antibodies: Case series, evaluation of FAERS, and literature review’, Cephalalgia, 43(2), p. 3331024221143538. doi:10.1177/03331024221143538.
  2. 木下 美咲 (2025) 「脱毛症の病態と診断技術」『日本医師会雑誌』154(7), pp. 709–713.(特集「脱毛症診療の現状と展望」)
  3. US Food & Drug Administration. FDA Adverse Event Reporting System (FAERS) Public Dashboard. https://www.fda.gov/drugs/questions-and-answers-fdas-adverse-event-reporting-system-faers/fda-adverse-event-reporting-system-faers-public-dashboard
  4. Harada N, Okajima K, Arai M, et al. Administration of capsaicin and isoflavone promotes hair growth by increasing insulin-like growth factor-I production in mice and in humans with alopecia. Growth Horm IGF Res 2007; 17: 408–415.
  5. Rossi R, Del Bianco E, Isolani D, et al. Possible involvement of neuropeptidergic sensory nerves in alopecia areata. Neuroreport 1997; 8: 1135–1138.
  6. Samuelov L, Kinori M, Bertolini M, et al. Neural controls of human hair growth: calcitonin gene-related peptide (CGRP) induces catagen. J Dermatol Sci 2012; 67: 153–155.
  7. Woods RH. Alopecia signals associated with calcitonin gene-related peptide inhibitors in the treatment or prophylaxis of migraine: A pharmacovigilance study. Pharmacotherapy 2022; 42: 758–767.