片頭痛の予防薬えらびに2025年比較データ:TRIUMPH研究

「ガルカネズマブ(商品名エムガルティ)」のようなCGRP標的抗体と、従来の内服予防薬(TOMP)は、実際の診療の場ではどちらが効きやすいの?――この疑問に答えるために、世界各国の外来患者さんを前向きに追跡した実臨床研究TRIUMPH(トライアンフ)*が行われました。

*Treatment effectiveness Research in Migraine: Understanding Preventive Health


今回は、そんなLipton et al. (2025)の研究を紹介します。 結論から言うと、3か月時点の比較で、ガルカネズマブは従来薬より頭痛日数・生活の質・レスポンダー率いずれも良好という結果でした。


著者のひとり Maurice Vincent先生が、いわた脳神経外科クリニックに来てくださいました。



目次



Lipton et al. (2025)のTRIUMPH研究

ポイント

  • 現実の診療(外来)で使われているお薬を、そのまま患者さんごとに追いかけて3か月後の効果を比べた研究です。
  • 比べたのは、ガルカネズマブ(CGRP標的抗体)と、従来の内服予防薬(β遮断薬、抗てんかん薬、抗うつ薬など)。
  • 判定は「月の片頭痛日数がどのくらい減ったか」「生活の質(MSQ-RFR)がどれだけ良くなったか」など。
医師が自由に治療方針を選択できる非介入デザインで、実際の患者さんに近いデータが得られた点が特徴です。

Lipton et al.( 2025)の研究方法

TRIUMPHは、成人の片頭痛患者さんを対象にした国際・前向き観察コホート。医師の裁量で開始・切替された予防薬の効果を比較しました(2020年2月25日〜2023年2月9日に登録、ガルカネズマブ1105例従来内服1293例)。主要評価は「3か月時点でのレスポンダー」で、発作性片頭痛は50%以上減慢性片頭痛は30%以上減を基準にしています。背景差は統計的に補正しています。


研究デザイン

TRIUMPHは、国際・前向き・観察コホート研究で、実臨床の外来診療で片頭痛の予防薬を新規開始または切替した成人患者を登録し、ガルカネズマブ従来型の経口予防薬(β遮断薬・抗てんかん薬・抗うつ薬など:以下TOMP)を比較しました。治療選択はすべて担当医の裁量で行われ、介入(ランダム化)はありません。


分析対象データは2020年2月25日〜2023年2月9日に収集されました。TRIUMPHは継続中の国際共同研究であり、今回の報告は3か月時点の解析結果です。


対象患者

  • 成人の片頭痛患者(外来診療)
  • 予防薬を新規開始または他の予防薬から切替を行った症例
  • ガルカネズマブまたはTOMP(従来の経口予防薬)を使用

※個々の治療判断は担当医の裁量に委ねられています。


実臨床で処方された治療をそのまま追跡し、ガルカネズマブ群TOMP群を比較しました。今回の3か月解析では、ガルカネズマブ 1,105例TOMP 1,293例が含まれています(Lipton et al., 2025)。


主要評価項目(Primary Outcome)

3か月時点レスポンダー率

  • 担当医が記録した月間片頭痛日数(MHD)基準からの減少率で判定
  • 発作性片頭痛(EM)50%以上の減少
  • 慢性片頭痛(CM)30%以上の減少

※ 上記の閾値設定は、片頭痛領域で臨床的に意味のある改善として広く用いられる基準に準じています(Lipton et al., 2025)。


副次評価項目(Secondary Outcomes)

  • 月間片頭痛日数(MHD)の平均変化量(ベースライン→3か月)
  • 片頭痛特異QOLMSQ-RFR(Migraine-Specific Quality of Life:Role Function-Restrictive)スコアの変化
  • 上記以外にも、複数のレスポンダー閾値片頭痛タイプ別の解析が行われました

データ収集・フォローアップ

ベースライン時に患者背景と直近のMHD等を記録し、その後3か月時点でMHDとMSQ-RFR等のアウトカムを収集しました。治療の開始・変更・併用は実臨床の判断で行われ、研究としての治療介入やスケジュール固定はありません(Lipton et al., 2025)。


  • 群間のベースライン差を補正したうえで、3か月時点のレスポンダー率のを推定
  • 平均変化量(MHD、MSQ-RFR)についても、群間の比較を実施
  • 結果は重み付き(weighted)推定として報告されています


重要な注意点

  • 観察研究のため、因果関係の確定には限界があります
  • 治療選択・併用・服薬アドヒアランスなどの実臨床要因が結果に影響しうる点を考慮します
  • 解釈は、臨床試験(例:REGAIN、EVOLVE)および他の実臨床報告と併せて行うのが望ましいです


結果

全体の概要

登録2,813例のうち、ガルカネズマブ(GMB)1,105例従来の内服予防薬(TOMP)1,293例が解析対象となりました。主要評価項目・副次評価項目のいずれでも、3か月時点でGMB群がTOMP群より有意に良好でした(Lipton et al., 2025)。


主要評価項目:レスポンダー率

  • 加重(調整後)レスポンダー率GMB 46.6% vs TOMP 34.5%p < 0.001)
    ※発作性は「月間片頭痛日数50%以上減」、慢性は「30%以上減」をレスポンダーと定義 (Lipton et al., 2025)。
評価項目 ガルカネズマブ 従来内服 コメント
レスポンダー率(加重) 46.6% 34.5% 差は有意(p<0.001)
月間片頭痛日数の変化 -5.7日(95%CI -6.2〜-5.2) -4.1日(95%CI -4.5〜-3.7) 差は有意(p<0.001)
生活の質:MSQ-RFRの改善 +19.4(95%CI 17.6–21.3) +10.2(95%CI 8.6–11.8) 差は有意(p<0.001)

図:Figure 2及びFigure 4から作成(Lipton et al., 2025)

つまり、3人に1人程度の効果にとどまりがちな従来内服に比べ、ガルカネズマブでは約2人に1人が「明らかな改善(レスポンダー)」に到達。日常生活のしばり(仕事・家事・学業)を示すスコアも大きく改善しました。

Lipton et al.,(2025)の所見

  • 複数のレスポンダー閾値(例:50%、75%など)でも、GMB群がTOMP群を上回る傾向(Lipton et al., 2025)。
  • 片頭痛のタイプ(発作性・慢性)を問わず、GMB群でより良好な結果。
  • 実臨床データに基づくため、診療現場での外的妥当性が高い点が特徴。

効果の大きさ(臨床的解釈の目安)

  • 絶対差(レスポンダー率):46.6% − 34.5% = 12.1ポイント
    ※ 観察研究の加重推定に基づく差。単純な因果推論には注意が必要。
  • 概算NNT(参考):1 ÷ 0.121 ≈ 約8
    ※ 観察研究データからの近似。患者背景や治療継続性により変動します。
  • MHDの差:GMB −5.7日 vs TOMP −4.1日 → 差 約1.6日/月の追加減少。
  • MSQ-RFRの差:+19.4 vs +10.2 → 差 約9.2ポイントの追加改善。

3か月という短い期間でも、ガルカネズマブのほうが「発作日数を減らし、日常生活のしばりを軽くする」割合が高いことが示されました。従来薬で伸び悩む方の有力な選択肢になり得ます(Lipton et al., 2025)。

考察:ガルカネズマブ(商品名エムガルティ)は、どんな人に向いているのか?

向いていそうなケース

  • 従来内服で効果が不十分副作用が気になる
  • 発作が多く、仕事や家事への支障が大きい
  • 「確実に減らしたい」意欲が高い(注射製剤による定期投与に前向き)
実臨床レビューでも、3か月以内に頭痛日数やHIT-6/MIDASが改善する傾向が報告されています(Lipton et al., 2025)。

注意が必要なケース

  • 既存治療との相互作用や妊娠計画など、個別の事情がある
  • 注射が苦手/定期通院がむずかしい
選択は患者さんの価値観・生活背景に合わせて総合判断します(医師と相談しましょう)。


研究の限界

  • 観察研究(ランダム化ではない)なので、見えない差(交絡)が残る可能性があります。
  • この記事でご紹介したのは3か月の結果。より長期の有効性・継続率などは、別の研究が必要になります。

よくある質問

Q. どれくらいで効きはじめますか?

A. 個人差はありますが、臨床試験では投与初日からの効果の兆しが示された報告もあります。実臨床でも3か月での改善が多く報告されています。(Lipton et al., 2025)



まとめ

  • TRIUMPH研究では、3か月でガルカネズマブが従来内服より効果が高いことが、複数の指標で示されました(頭痛日数・生活の質・レスポンダー率)。
  • 「従来内服で伸び悩む」「副作用が気になる」「生活への支障を確実に減らしたい」場合の有力な選択肢になり得ます。
  • 最終的な選択は、これまでの経過・合併症・希望(注射/内服、通院のしやすさ等)をふまえ、担当医と相談して決めましょう。


今回紹介した文献(Lipton et al., 2025)の著者のひとり Maurice Vincent先生が、いわた脳神経外科クリニックで、ピースしてくれました。


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この記事を書いた先生のプロフィール

医師・医学博士【脳神経外科専門医・頭痛専門医 ほか】
脳外科医として関西医大で14年間勤務。大学時代は、脳腫瘍や脳卒中の手術治療や研究を精力的に行ってきました。脳卒中予防に重点をおいた内科管理や全身管理を得意としています。
脳の病気は、目が見えにくい、頭が重たい、めまい、物忘れなど些細な症状だと思っていても重篤な病気が潜んでいる可能性があります。
即日MRI診断で手遅れになる前にスムーズな病診連携を行っています。MRIで異常がない頭痛であっても、ただの頭痛ではなく脳の病気であり治療が必要です。メタ認知で治す頭痛治療をモットーに頭痛からの卒業を目指しています。
院長の私自身も頭痛持ちですが、生活環境の整備やCGRP製剤による治療により克服し、毎日頭痛外来で100人以上の頭痛患者さんの診療を行っています。我慢しないでその頭痛一緒に治療しましょう。

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参考文献

  1. Lipton, R.B., Láinez, M.J.A., Ahmed, Z., Vallarino, C., Novick, D., Vincent, M., Viktrup, L. and Robinson, R.L., 2025. Treatment effectiveness of galcanezumab versus traditional oral migraine preventive medications at 3 months: Results from the TRIUMPH study. Headache, 00, pp. 1–11. https://doi.org/10.1111/head.15045