スマホ利用と認知機能

 

日々の生活に必要不可欠なスマートフォン。動画や記事を見ている間に、気づくと何時間も経っていたということは、誰にでもあるのではないでしょうか。

スマホが普及して以来、ブルーライトによる目への悪影響やストレートネックなどいろいろな弊害が明らかになってきましたが、脳機能へも深刻な影響を及ぼしうることがわかってきています。

スマホの過剰な利用は、脳の働きを邪魔したり、本来の脳の働きをスマホ任せにしているようなもの。脳の機能は使わなければ衰えてしまいます。脳機能を維持向上させながらスマートフォンを上手に使うにはどうしたらよいでしょうか。

 

スマホ利用によって低下する脳機能

 

集中力

 

勉強や仕事をしているとき、近くにスマホがあるとつい手に取ってしまうことはないでしょうか。私たちは、バイブレーションが通知音が作動していなくても気になってしまうもののようです。『スマホ脳』(アンデシュ・ハンセン)では、大学生を対象にした記憶力と集中力に関する実験を紹介し、スマホを教室の外に置いた学生の方が、サイレントモードにしてポケットに入れておいた学生よりも、好成績を残したことが述べられています。

 

記憶力

 

私たちは日常的にスマホで調べものをします。しかし、よくよく考えてみるとスマホで調べたことは覚えていないことに気が付きませんか?こうした現象は「Google効果」と呼ばれています。スマホで調べた情報は、検索すればまた出てくるので「覚えなくても良い情報」として脳が判断しているのです。

 また、記憶を作るには「これは大切な情報だ」と脳に判断させるための集中力が必要です。上述のように、スマホを利用しながら勉強すると集中力が低下してしまうため、記憶に残る情報も少なくなってしまうことがあります。

 

コミュニケーションの能力

 

人間はコミュニケーションの際に色々な情報に触れる事で、相手の痛みや苦しみに共感できるようになります。しかし、スマホを通したコミュニケーションでは、対面の時よりも情報がそぎ落とされているため、他者を理解したり共感したりする脳の機能は、対面の時よりも使われていないと考えられます。『スマホはどこまで脳を壊すか』(榊 浩平)では、オンライン会話時と対面会話時の脳活動の同期(複数人の間で脳活動のゆらぎがそろってくること)を比較し、オンライン会話時の方が脳活動が同期しなくなることを述べています。このように、オンラインコミュニケーションでは、脳のコミュニケーションを担う部位が正しく使われていない可能性が指摘されています。

 

スマホ利用と精神的健康

 

精神的不健康

 

スマホと抑うつの関連はいろいろな研究で明らかになっています。日本でもスマートフォン依存を測定する尺度が開発されており、スマホ利用による時間の浪費や、スマホを使えない事への不安、スマホを使うことでの自己嫌悪など、スマートフォン依存を構成する要因が含まれています。また、時間の浪費のために不安や抑うつをやわらげる活動(人とのかかわりや運動)をする時間が取れなくなったり、SNSを見る事によって自分と他人を比べてしまい精神状態が悪くなることが指摘されています。

 

スマホ利用が将来の認知症リスクを高める

 

これまでに延べてきた内容は、実は将来の認知症リスクにもかかわってきます。記憶力や集中力といった脳機能を正しく使わずにおくと、その機能は衰えてしまいます。コミュニケーション能力の低下は将来の孤独につながりかねず、社会的孤立は認知症のリスクになると考えられています。上述した抑うつも認知症のリスクとして知られています。スマホの過剰な利用は、認知症のリスクとつながる可能性があるのです。

 

スマホ利用を「メタ認知」する

 

 私たちに必要なのは、自分のスマホ利用を「メタ認知」することではないでしょうか。『メタ認知 あなたの頭はもっと良くなる』(三宮真智子 著)では、頭の働きの状態をモニタリングし、身体の内部状態や外的環境を最適化することが勧められています。「ちょっと集中できていないな」と気づいてスマホを遠くに置くことも、この「外的環境の最適化」につながります。自分の脳を自分で使うためにより良い環境を整えることが、スマホとの上手な付き合い方の軸となるのではないでしょうか。

 

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参考文献:

・スマホはどこまで脳を壊すか 榊 浩平(著)川島隆太(監修) 朝日新書

・スマホ脳 アンデシュ・ハンセン(著)久山洋子(訳) 新潮新書

・Alhassan, A. A., Alqadhib, E. M., Taha, N. W., Alahmari, R. A., Salam, M., & Almutairi, A. F. (2018). The relationship between addiction to smartphone usage and depression among adults: a cross sectional study. BMC psychiatry18, 1-8.

・松島公望, 石川亮太郎, 林明明, 橋本和幸, 毛利伊吹, 中村裕子, … & 宮下一博. (2017). 大学生版スマートフォン依存傾向尺度作成の試み. 千葉大学教育学部研究紀要66(1), 283-291.

・『メタ認知 あなたの頭はもっと良くなる』(三宮真智子 著)

 

 

 

 

 

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この記事を書いた先生のプロフィール

医師・医学博士【脳神経外科専門医・頭痛専門医 ほか】
脳外科医として関西医大で14年間勤務。大学時代は、脳腫瘍や脳卒中の手術治療や研究を精力的に行ってきました。脳卒中予防に重点をおいた内科管理や全身管理を得意としています。
脳の病気は、目が見えにくい、頭が重たい、めまい、物忘れなど些細な症状だと思っていても重篤な病気が潜んでいる可能性があります。
即日MRI診断で手遅れになる前にスムーズな病診連携を行っています。MRIで異常がない頭痛であっても、ただの頭痛ではなく脳の病気であり治療が必要です。メタ認知で治す頭痛治療をモットーに頭痛からの卒業を目指しています。
院長の私自身も頭痛持ちですが、生活環境の整備やCGRP製剤による治療により克服し、毎日頭痛外来で100人以上の頭痛患者さんの診療を行っています。我慢しないでその頭痛一緒に治療しましょう。

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