中学生のお子様から「頭が痛い」「頭が痛くて朝起きられない」「立ち上がるとめまいがして、ふらふらする」などと相談されたことありませんか?それらの症状は中学生に多い起立性調節障害かもしれませんので、本記事で解説します。
本記事の内容
1. 中学生が悩んでいる起立性調節障害について
2. 起立性調節障害の原因・症状・対策について
3. 一般的な頭痛と、起立性調節障害による頭痛の鑑別の大切さについて
中学生の間で増えている?起立性調節障害の現状
近年、中学生の間で起立性調節障害の患者が増加していると言われています。
一部の調査では、中学生の10人に1人が何らかの形で起立性調節障害の症状を示しているとの報告もあります。
しかし、その多くが軽度の症状で、自覚症状がないか、あるいは「ちょっとした頭痛や立ちくらみ」程度と思い込んで放置されがちです。そのため、正確な病状を把握し、適切な対策を講じていないケースが多いのが現状です。
起立性調節障害は、長期にわたって放置すると学習能力に影響を及ぼすことがあります。また、症状が重くなると、立ちくらみや吐き気、頭痛などが頻繁に起こり、日常生活に支障をきたすようになります。さらに、無理に立ち続けようとすると、過呼吸やパニック障害を引き起こす可能性もあります。また朝起きられないことも多く、通学に支障をきたすことも珍しくありません。
このように、中学生の間で増えている起立性調節障害は、見過ごせない問題となっています。早期発見・早期治療が重要であり、症状がある場合は、必ず専門医に相談することが求められます。
中学生に多い起立性調節障害って何?基本知識を知ろう
起立性調節障害の原因
中学生が起立性調節障害になりやすい理由として、主に二つの要素が考えられます。
1. 思春期の急激な身体的成長
2. ホルモンバランスの変化
まず思春期の急激な身体的成長についてです。中学生になると多くの子どもたちが成長スパートを迎え、身体が一気に成長します。この時期、心臓が全身に血液を送り出す能力が一時的に身体の成長に追いつかないことがあります。その結果、立ち上がったときや立っている間に血液が下半身に滞り、脳への血液供給が一時的に不足することで、立ちくらみや頭痛、吐き気などの症状が現れるのです。
次に、思春期はホルモンバランスが大きく変化する時期でもあります。特に女性ホルモンのエストロゲンは血管を広げる作用があるため、血圧を一定に保つのが難しくなります。特に起立性調節障害は、思春期の子どもたちに多く見られ女子に多いとされています。また、中学生は学校生活の中で長時間座って学習する時間が増えます。このような生活習慣も、血液循環が悪くなり、起立性調節障害のリスクを高める要因となります。これらの理由から、中学生は起立性調節障害になりやすいとされています。早期に症状を認識し、適切な対策を行うことが大切です
起立性調節障害の症状
起立性調節障害は、立ち上がったときや立っているときに症状が現れる疾患で、その主な症状は以下のようなものです。
・ 朝起きられない:疲労感や頭痛、吐き気などの症状が重なり、朝起きることが困難になることがあります。
・ 立ちくらみ:立ち上がったときや立っているときに、ふらつく感じや視界がぼんやりする現象です。
・ 頭痛:立っているときや立ち上がった直後に、頭痛が生じることがあります。特に、頭全体が重たく感じることや鈍い痛みが特徴的です。
・ 吐き気:立っているときに吐き気を感じることがあります。重い症状の場合、嘔吐することもあります。
・ めまい:立ち上がったときや立っているときに、自分が回転しているか、周りが回転しているように感じる症状です。
・ ふらつき:立っているときに、体が不安定であるか、倒れそうに感じる症状です。
・ 疲労感:日常的な活動でも疲れやすくなることがあります。特に、立っているときに強く感じることがあります。
・ 失神:重症の場合、立っているときに突然意識を失うことがあります。これらの症状は立っているときに特に現れ、横になると軽減するか、または消失することが特徴的です。
起立性調節障害の症状は個々の体調や体質により異なり、一時的なものから長期にわたるもの、強さや出現するタイミングも人それぞれです。一見、ただの頭痛や疲れと思われがちですが、これらの症状が立っているときに特に現れ、日常生活に影響を及ぼすようであれば、起立性調節障害の可能性があると考えられます。また、無理に立ち続けようとすると、過呼吸やパニック障害などを引き起こすこともありますので、注意が必要です。
起立性調節障害の予防と対策方法
起立性調節障害の予防と対策には、まず日々の生活習慣の見直しから始めることが重要です。具体的には、以下のような点を心がけましょう
・ 十分な睡眠をとる:睡眠不足は自律神経のバランスを崩すため、十分な睡眠をとることが大切です。
・ バランスの良い食事を摂る:特に塩分は適量摂取することで血圧を一定に保つのに役立ちます。
・ 水分補給を怠らない:脱水状態になると血圧が下がりやすくなるので、こまめに水分を摂ることが推奨されます。
・ 適度な運動をする:適度な運動は血液の循環を良くし、心臓の機能を強化します。特に下半身の筋肉を鍛える運動が効果的です。また、起立性調節障害の予防としては、急に立ち上がらないことも大切です。座っている状態から立ち上がるときや、寝起きにはゆっくりと動くようにしましょう。
起立性調節障害の対策としては、まずは医療機関で診断を受けることが重要です。自分で症状を把握し、適切な対策を講じることで、症状の改善や予防が可能です。症状が重い場合や改善しない場合は、医療機関での治療も必要となります。治療方法は個々の症状によりますが、生活指導や薬物療法、リハビリテーションなどが行われますので、悩まれている場合は、早めに医療機関に相談し、適切な診断と対策を行いましょう。
起立性調節障害を抱えた中学生へのサポート方法
起立性調節障害を抱える中学生へのサポートには、家庭、学校、医療機関の協力が必要です。
家庭では、子どもが自身の体調をきちんと伝えられる環境を作ることが大切です。立ちくらみや頭痛があるといった症状を軽視せず、子どもの話をしっかりと聞き、必要であれば医療機関に連れて行くことが重要です。また、十分な睡眠時間を確保し、バランスの良い食事や適度な運動を心掛けるように指導しましょう。
学校では、教師や学校医が起立性調節障害についての知識を持ち、生徒の健康状態に配慮することが求められます。特に長時間の立ち続けを強いる授業や行事は避け、休憩を適宜取れる環境を整えることが大切です。また、同級生に対しても病態の理解を促し、配慮をお願いすることも重要です。
医療機関では、適切な診断と治療を行うことはもちろん、生活指導を行うことも大切です。具体的には、立ち上がるときはゆっくりとする、水分補給をこまめに行う、適度な運動を心掛けるなどのアドバイスがあります。
起立性調節障害は適切な対策を行えば改善する可能性が高いです。そのため、中学生が症状を抱えている場合は、早期に対策を講じることが求められます。
起立性調節障害がもたらす頭痛とは
起立性調節障害は、立つ、あるいは立った状態を続けることで頭痛を引き起こすことが一つの特徴となっています。具体的には、立ち上がった瞬間や立っている間に、急に頭が重く感じたり、頭痛が始まったりします。また、長時間立っていると、頭痛が強くなることもあります。
この頭痛は一般的な片頭痛や緊張型頭痛と異なり、横になると症状が軽減するか、または完全に消失するという特徴があります。そのため、起立性調節障害による頭痛は「起立性頭痛」とも呼ばれます。
起立性頭痛の特徴的な症状としては、頭全体に痛みが広がる、鈍痛や重だるさを感じる、頭を動かすと痛みが増す、立っていると痛みが強まる、横になると痛みが軽減する、などがあります。
このような頭痛が起立性調節障害の症状として現れる場合、それは単なる頭痛ではなく、身体の警告信号と捉えるべきです。症状がある場合は、専門医の診断を受けることが重要となります。また、適切な生活習慣の見直しや治療法により、頭痛の症状は改善可能です。
頭痛と起立性調節障害の鑑別の大切さ
起立性調節障害は、その名の通り立つことや立ったままの状態を維持することにより症状が現れる病態です。その主な症状として、頭痛があります。しかし、これが単なる頭痛なのか、それとも起立性調節障害によるものなのかを見極めることは非常に重要です。なぜならそれぞれの頭痛で治療方法が異なるからです。
頭痛は多くの人が経験する一般的な症状であり、その原因も様々です。ストレスや疲労、片頭痛、風邪など、さまざまな病気や状態が頭痛を引き起こします。しかし起立性調節障害による頭痛は、その他の原因による頭痛とは異なる特徴を持っています。
起立性調節障害による頭痛は、立つ、立ち続ける、あるいは立った後に現れ、横になると症状が消失あるいは軽減するという特性があります。また、頭痛だけでなく、立ちくらみやめまい、吐き気、ふらつきなどの症状が同時に現れることもあります。
このような特性を理解し、自身の頭痛が起立性調節障害によるものか否かを鑑別することは、適切な対策・治療を講じる上で大切です。起立性調節障害は、早期に対策を講じれば改善可能な病態ですが、放置すると日常生活に影響を及ぼすこともあります。
したがって、頭痛の特性や他の症状をよく観察し、起立性調節障害の可能性があると思われる場合は、早めに医療機関に相談することが重要です。
当院では子ども、中学生~成人まで、幅広い年齢層の頭痛診療を行っております。お気軽にご相談ください。
起立性頭痛で鑑別すべき病気
脳脊髄液漏出症(低髄液圧症候群)による頭痛は、以下のような特徴があります。
体位による変化:起き上がると悪化し、横になると軽快または消失する。
これは、起立時に脳脊髄液の漏出が増え、脳が下方に牽引されることで頭痛が起こるためです。
痛みの種類:後頭部から首にかけての鈍痛。時には、前頭部、側頭部、眼の奥にまで広がる
随伴症状:吐き気、嘔吐、めまい、ふらつき、首の凝り、肩こり、耳鳴り、聴覚過敏、光過敏、視覚異常、全身倦怠感
これらの症状は、脳脊髄液の減少により脳が支えを失い、下方に沈み込むことで、脳や神経、血管などを牽引するために起こると考えられています。
脳脊髄液漏出症(低髄液圧症候群)の診断にはMRI検査が有用です。
MRI所見の特徴
頭部MRI
びまん性硬膜増強効果:造影剤を用いたMRIで、硬膜全体が強く造影される
脳下垂:脳が重力によって下方に押し下げられ、頭蓋底に近づく
硬膜下髄液貯留・硬膜下血腫:硬膜と脳の間、または硬膜と頭蓋骨の間に髄液や血液が溜まる
脳室狭小化:脳室(脳内の髄液が満たされた空間)が縮小する
下垂体腫大:下垂体が大きくなる
静脈・静脈洞拡張:脳内の静脈や静脈洞が広がる
脊髄MRI
くも膜下腔外の液体貯留:くも膜下腔(脊髄を覆う膜の一つと脊髄の間の空間)の外に髄液が溜まる
硬膜外液体貯留:硬膜(脊髄を覆う最も外側の膜)の外に髄液が溜まる
硬膜造影:造影剤を用いたMRIで、硬膜が造影される
硬膜外静脈叢拡張:硬膜の外側にある静脈叢が広がる
これらの所見は、脳脊髄液の減少による脳や脊髄の圧力低下、それに伴う代償的な変化などを反映しています。ただし、これらの所見は必ずしも全ての患者に現れるわけではなく、また他の疾患でも同様の所見が見られる場合があります。
ガドニウム注入後 冠状T1強調MRI
白矢印2:硬膜の増強
白矢印3:静脈のうっ血
重要なポイント
脳脊髄液漏出症による頭痛は、安静にしても改善しないことが多く、医療機関での適切な診断と治療が必要です。
上記のような症状がある場合は、早めに医師に相談しましょう。
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この記事を書いた先生のプロフィール
医師・医学博士【脳神経外科専門医・頭痛専門医 ほか】
脳外科医として関西医大で14年間勤務。大学時代は、脳腫瘍や脳卒中の手術治療や研究を精力的に行ってきました。脳卒中予防に重点をおいた内科管理や全身管理を得意としています。
脳の病気は、目が見えにくい、頭が重たい、めまい、物忘れなど些細な症状だと思っていても重篤な病気が潜んでいる可能性があります。
即日MRI診断で手遅れになる前にスムーズな病診連携を行っています。MRIで異常がない頭痛であっても、ただの頭痛ではなく脳の病気であり治療が必要です。メタ認知で治す頭痛治療をモットーに頭痛からの卒業を目指しています。
院長の私自身も頭痛持ちですが、生活環境の整備やCGRP製剤による治療により克服し、毎日頭痛外来で100人以上の頭痛患者さんの診療を行っています。我慢しないでその頭痛一緒に治療しましょう。
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