アクイプタで便秘になる?発生率・仕組み・対処法を脳神経外科医が解説

この記事で分かること

  • アクイプタで便秘が起きる仕組み
  • 臨床試験の結果
  • CGRP関連薬4剤の便秘率の違い
  • 便秘が起きたときの対処法
  • 便秘が出たらどうするか

「アクイプタを飲んでみたいけど、便秘になりやすいと聞いて不安…」

「飲み始めてからお通じが悪くなった気がするけど、薬をやめたほうがいいの?」

片頭痛の予防薬として注目されているアクイプタ(アトゲパント)。2026年2月に日本で承認され、まもなく発売が予定されています。注射ではなく毎日の内服で片頭痛を予防できる新しい選択肢ですが、副作用の「便秘」について心配される方も少なくありません。

この記事では、なぜアクイプタで便秘が起きるのか、その仕組みと具体的な対処法を、臨床試験のデータをもとに詳しく解説します。

アクイプタの効果や作用機序など基本的な情報は、こちらの記事(アクイプタ(アトゲパント)とは)で詳しくご紹介しています。


目次



片頭痛の予防治療やアクイプタに関するご相談は、いわた脳神経外科クリニックへお気軽にどうぞ。

WEB予約はこちら



1. なぜアクイプタで便秘が起きるのか

アクイプタは「CGRP受容体拮抗薬」と呼ばれるタイプの薬です。CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)という物質が片頭痛の発生に深く関わっており、アクイプタはCGRPの受容体をブロックすることで片頭痛発作を予防します。


CGRPは「腸を動かすシグナル」でもある

CGRPは頭の中だけではなく、胃・小腸・大腸にも受容体(CLR/RAMP1複合体)が広く分布しています。特に腸の蠕動運動を制御する筋間神経叢(アウエルバッハ神経叢)に多く存在しており、以下の3つの役割を担っています。

  • 蠕動運動の制御:腸壁が刺激されるとCGRPを含む感覚神経が活性化し、食べ物を先に送る蠕動運動を起こします
  • 水分・イオン分泌の促進:腸管内腔への水の分泌を促し、便を軟らかく保つ働きがあります
  • 粘液分泌と腸管バリアの保護:2022年にCell誌に発表された研究では、CGRPが腸の杯細胞(ゴブレット細胞)に直接シグナルを送り、粘液の分泌を促すことが示されています (Lai et al., 2022)

アクイプタによってCGRP受容体がブロックされると、これらの機能が低下します。腸の動きが鈍くなり、水分分泌も減少し、腸の中の内容物が進みにくくなることで便秘が起きやすくなるのです。


ヒトへのCGRP投与実験でも裏付けあり
健康な方30名にCGRPを点滴投与した研究では、93%の方に腸の過活動症状(腹鳴・腹痛・便意・下痢など)が現れました (Falkenberg et al., 2020)。CGRPが腸の動きを直接促していることを示す証拠であり、逆にCGRPをブロックすれば便秘が起きるという仕組みの裏付けになっています。


臨床試験での報告

アクイプタの臨床試験では、複数の試験で便秘が報告されています。

ADVANCE試験(反復性片頭痛) (Ailani et al., 2021)

便秘発生率
アクイプタ 10mg 7.7%
アクイプタ 30mg 7.0%
アクイプタ 60mg 6.9%
プラセボ(偽薬) 0.5%

プラセボと比較すると明確な差がありますが、用量が増えても便秘の頻度が上がるわけではなく、用量依存性は認められていません。

PROGRESS試験(慢性片頭痛) (Lipton et al., 2023)

片頭痛の日数が月15日以上の慢性片頭痛の方を対象とした試験では、便秘の発生率は10.0〜10.9%とやや高めでした。ただし、プラセボ群でも3.0%と高く、慢性片頭痛の方はもともと便秘の頻度が高い傾向があるためと考えられています。

便秘の重症度と中止率
報告された便秘の大多数は軽度〜中等度です。重篤と判断された便秘はありませんでした。便秘が理由で治療を中止した方は0.5%以下にとどまっています (FDA添付文書)。


長期使用で便秘は改善する?

ADVANCE試験の参加者を対象とした40週間の延長試験では、便秘の報告率は3.4%まで低下しました (Klein et al., 2023)。12週間の試験では約7%だったことを考えると、長期的には便秘が改善・軽減する傾向があることを示唆しています。


2. CGRP関連薬で便秘の出やすさに違いはある?

片頭痛予防に使われるCGRP関連薬は、アクイプタ以外にも複数あります。実は、薬の種類によって便秘の出やすさに明確な違いがあることがわかっています。

CGRP関連薬は大きく2つのタイプに分かれます。

  • 受容体拮抗薬(CGRPの「受け口」をブロックする薬):アクイプタ、アイモビーグ
  • リガンド抗体(CGRP自体を捕まえる薬):エムガルティ、アジョビ

タイプ別の便秘発現率

薬剤名 タイプ 投与方法 臨床試験での便秘率
アクイプタ 受容体拮抗薬 飲み薬(毎日) 6.9〜10.9%
アイモビーグ 受容体拮抗薬(抗体) 注射(月1回) 1〜3%
エムガルティ リガンド抗体 注射(月1回) 1.0〜1.5%
アジョビ リガンド抗体 注射(月1回/3か月1回) 1%未満〜3%

※アイモビーグの市販後報告について
アイモビーグは臨床試験では1〜3%でしたが、2019年にFDA(米国食品医薬品局)が重篤な便秘に関する警告を添付文書に追加しました。市販後に入院や手術を要する重篤な便秘が報告されたためです (FDA, 2019)。一方、アクイプタではこのような重篤な便秘の報告はありません。


なぜ薬のタイプで便秘の出やすさが違うのか

腸の中には、CGRP受容体だけでなくAMY1受容体(アミリン受容体)というもう1つの受容体も存在しています。CGRPはこの2つの受容体に結合しますが、腸管に対する作用は正反対です。

  • CGRP受容体:蠕動運動を促進する
  • AMY1受容体:蠕動運動を抑制する

この2つのバランスで、腸の動きが調整されています。


受容体拮抗薬(アクイプタ、アイモビーグ)はCGRP受容体を選択的にブロックするため、蠕動を促進するシグナルだけが遮断され、抑制するシグナル(AMY1)がそのまま残ります。結果として、腸の動きが鈍くなりやすいのです (Garelja et al., 2022)。


リガンド抗体(エムガルティ、アジョビ)はCGRPという物質そのものを中和するため、CGRP受容体とAMY1受容体の両方へのシグナルが同時に減弱します。促進と抑制のバランスが保たれるため、便秘への影響が比較的少ないと考えられています。


動物実験でも裏付けあり
マウスを使った実験では、CGRP受容体をブロックする薬は大腸の通過時間を有意に遅らせましたが、CGRPリガンド抗体では有意な遅延は認められませんでした (Johnson et al., 2022)。

ただし、これは「アクイプタより注射薬のほうが良い」という意味ではありません。片頭痛の予防効果、投与方法(飲み薬か注射か)、費用、ほかの副作用なども含めて、ご自身に合った薬を主治医と一緒に選ぶことが大切です。



片頭痛予防薬の副作用が気になる方も、いわた脳神経外科クリニックへお気軽にどうぞ。

WEB予約はこちら

3. 便秘が起きたときにできること

アクイプタによる便秘は、適切に対処すればコントロールできることがほとんどです。


まず試したい生活習慣の見直し

薬を使う前に、日常生活の中でできることから始めましょう。理想的には、アクイプタの服用開始と同時に予防的に取り組むのがおすすめです。

  • 水分をしっかり摂る:1日1.5〜2リットルを目安に、こまめに水分補給を。CGRPブロックで腸の水分分泌が減るため、外からの水分補給が特に重要です
  • 食物繊維を意識する:野菜、果物、海藻、きのこ、全粒穀物など。水溶性食物繊維(海藻・きのこ・オクラなど)は便を軟らかくする効果が期待できます
  • 適度に体を動かす:ウォーキングや軽いストレッチなど、腸の動きを促す運動を
  • 朝の排便習慣をつくる:朝食後にトイレに座る時間をつくると、腸のリズムが整いやすくなります

医師に相談して薬で対処する場合

生活習慣の見直しで改善しない場合は、主治医に相談しましょう。

  • 酸化マグネシウム(マグミットなど):腸に水分を集めて便を軟らかくする薬で、比較的穏やかに作用します。薬剤性便秘の対処として広く使われています
  • その他の緩下剤:状況に応じて、医師が適切な薬を選んでくれます

市販の便秘薬を自己判断で使う前に、まずは主治医や薬剤師に相談されることをおすすめします。飲み合わせの確認も重要です。


こんな症状があればすぐ受診を

以下のような症状がある場合は、早めに医療機関を受診してください。

  • 数日間まったく排便がない
  • 強い腹痛や腹部の張りがある
  • 吐き気や嘔吐を伴う

4. 便秘が気になってもアクイプタをやめないで

「便秘がつらいから、アクイプタをやめようかな」と思うこともあるかもしれません。しかし、自己判断で服用を中止することはおすすめできません

アクイプタは毎日継続して飲むことで片頭痛を予防する薬です。中止すると片頭痛が再び増える可能性があります。

臨床試験のデータでも、便秘で治療を中止した方はわずか0.5%以下です。また、40週間の長期試験では便秘の報告率が3.4%まで低下しており、続けるうちに改善する傾向が確認されています (Klein et al., 2023)。

便秘が気になる場合は、生活習慣の見直しや緩下剤の併用で対処しながら、片頭痛予防の効果を維持することが大切です。

もし便秘がどうしてもつらい場合は、主治医に相談してください。薬の量の調整や、作用の仕組みが異なる別のCGRP関連薬(エムガルティやアジョビなど)への切り替えも選択肢の一つです。

大事なのは、困ったときに一人で悩まず、主治医と一緒に解決策を探すことです。便秘は対処できる副作用です。片頭痛のない生活を手放さないでください。


5. よくある質問

Q. 市販の便秘薬を飲んでもいいですか?

市販の便秘薬にはさまざまな種類があり、中には刺激が強いものや、長期使用に向かないものもあります。アクイプタとの飲み合わせを確認する意味でも、まずは主治医や薬剤師にご相談ください。

Q. 便秘はいつ頃から出ますか?治りますか?

臨床試験のデータでは、服用開始後1〜3週間ほどで気づく方が多いとされています。多くは軽度で、長期延長試験(40週間)では便秘の報告率が約7%から3.4%に低下しており、継続するうちに改善する傾向が報告されています。

Q. 便秘がひどい場合、ほかの片頭痛予防薬に変えられますか?

はい、変更は可能です。CGRPリガンド抗体(エムガルティ:便秘率1.0〜1.5%、アジョビ:1%未満〜3%)はアクイプタとは作用の仕組みが異なり、便秘の頻度が低いとされています。投与方法が注射になるなどの違いもありますので、主治医と相談のうえ、ご自身に合った選択肢を検討しましょう。

Q. アクイプタの用量を減らせば便秘は減りますか?

臨床試験では、10mg・30mg・60mgのいずれの用量でも便秘の発生率に大きな差はありませんでした(6.9〜7.7%)。つまり、用量を減らしても便秘が減るとは限りません。用量の変更は片頭痛予防の効果にも影響しますので、必ず主治医と相談してください。


6. まとめ

  1. アクイプタによる便秘は、腸に存在するCGRP受容体がブロックされることで蠕動運動や水分分泌が低下して起きる副作用です
  2. 臨床試験では約7〜11%に報告されていますが、大多数は軽度〜中等度であり、長期使用で3.4%まで低下する傾向があります
  3. CGRP関連薬の中でも、受容体拮抗薬(アクイプタ・アイモビーグ)はリガンド抗体(エムガルティ・アジョビ)より便秘が出やすい傾向がありますが、AMY1受容体とのバランスが関係しています
  4. 水分・食物繊維・運動などの生活習慣の見直しや、緩下剤の併用で対処可能です
  5. 便秘で治療を中止した方は0.5%以下です。自己判断でやめず、主治医と一緒に解決策を探しましょう

アクイプタは、注射が苦手な方にとって画期的な片頭痛予防の選択肢です。便秘は対処できる副作用ですので、過度に心配せず、まずは主治医にご相談ください。あなたに合った治療を一緒に見つけていきましょう。



お問い合わせ・ご予約

片頭痛の予防治療やアクイプタについてお悩みの方は、お気軽にご相談ください。ご予約は、下記から可能です。

WEB予約はこちら


当院公式LINEにてご質問等もお受けしておりますので、お気軽にお問い合わせくださいませ。

友だち追加



関連記事


重要:本記事の位置づけ(医療情報として)

  • 本記事は、研究報告や公的資料に基づく「一般的な医療情報」です。
  • 特定の治療を推奨・保証するものではありません。効果や副作用には個人差があります。
  • 実際の治療は、症状・既往歴・併用薬などを踏まえて医師が判断します。
この記事を書いた先生のプロフィール

医師・医学博士【脳神経外科専門医・頭痛専門医 ほか】
脳外科医として関西医大で14年間勤務。大学時代は、脳腫瘍や脳卒中の手術治療や研究を精力的に行ってきました。脳卒中予防に重点をおいた内科管理や全身管理を得意としています。
脳の病気は、目が見えにくい、頭が重たい、めまい、物忘れなど些細な症状だと思っていても重篤な病気が潜んでいる可能性があります。
即日MRI診断で手遅れになる前にスムーズな病診連携を行っています。MRIで異常がない頭痛であっても、ただの頭痛ではなく脳の病気であり治療が必要です。メタ認知で治す頭痛治療をモットーに頭痛からの卒業を目指しています。
院長の私自身も頭痛持ちですが、生活環境の整備やCGRP製剤による治療により克服し、毎日頭痛外来で100人以上の頭痛患者さんの診療を行っています。我慢しないでその頭痛一緒に治療しましょう。

詳しい医師のご紹介はこちら
院長写真

参考文献

  1. Ailani, J. et al. (2021). Atogepant for the Preventive Treatment of Migraine. New England Journal of Medicine, 385(8), 695-706.
  2. Lipton, R.B. et al. (2023). Atogepant for the Preventive Treatment of Chronic Migraine (PROGRESS). The Lancet, 402, 775-785.
  3. Klein, B.C. et al. (2023). Safety and tolerability of atogepant for the preventive treatment of episodic migraine: 40-week open-label extension. Cephalalgia, 43(1).
  4. Lai, N.Y. et al. (2022). Gut-Innervating Nociceptor Neurons Regulate Peyer’s Patch Microfold Cells and SFB Levels to Mediate Salmonella Host Defense. Cell, 185(22), 4170-4188.
  5. Falkenberg, K. et al. (2020). Two-hour CGRP infusion causes gastrointestinal hyperactivity: Possible relevance for CGRP antibody treatment. Headache, 60(5), 929-937.
  6. Johnson, L.G. et al. (2022). Characterization of transit rates in the large intestine of mice: Effect of CGRP receptor and ligand-targeted therapeutics. Headache, 62(9), 1137-1151.
  7. Garelja, M.L. et al. (2022). Pharmacological characterisation of CGRP and AMY1 receptor antagonism. British Journal of Pharmacology, 179(9), 1988-2005.
  8. Borro, M. et al. (2023). Constipation associated with erenumab and other CGRP-related drugs: A systematic review. Frontiers in Pharmacology, 14, 1257282.
  9. FDA (2019). AIMOVIG Labeling Changes – Warnings and Precautions: Constipation with serious complications.