【結論】実臨床で選ぶべき薬剤は?
1. 純粋な薬効は同等:ガルカネズマブ(エムガルティ)とリメゲパント(ナルティーク)の薬物成分の効果は、二重ダミー法による比較試験で同等(50%レスポンダー率:62% vs 61%)
2. しかし実臨床での総合効果はエムガルティが優位:注射の場合、偽薬でも2~3日の頭痛軽減のプラセボ効果があります。実験では、リメゲパントも注射していますが、本来は錠剤であり、注射のプラセボ効果がありません。
3. 治療継続率が1.8倍:エムガルティ244.6日 vs ナルティーク178.1日(Kim et al. 2025実臨床データ)
4. 医療費も有利:総医療費21%減、片頭痛関連医療費76%減(エムガルティの方が経済的)
5. 月額費用:ナルティーク約13,150円 vs エムガルティ約12,800円(3割負担)
6. 選択基準:「飲み薬の手軽さ」を優先するか、「月1回注射のコミットメントと総合的な効果」を優先するか

「片頭痛予防薬のナルティークとエムガルティ、どちらを選べばいいの?」「実際の効果の違いは?」—そんな疑問をお持ちではありませんか?


どちらもCGRP関連薬として片頭痛予防に革命をもたらした新薬ですが、実臨床での効果や継続率には明確な差があります。

重要比較ポイント

  • 薬効成分の効果:統計的に同等(Schwedt et al. 2024)
  • 実臨床での総合効果:エムガルティが優位(注射心理効果により約2-3日上乗せ)
  • 治療継続率:エムガルティが1.8倍(Kim et al. 2025)
  • 医療費:エムガルティが21%削減(片頭痛関連医療費は76%削減)
  • → 総合的にはエムガルティが優位

本記事では、頭痛専門医の視点から、最新のエビデンスに基づいて両薬剤を詳しく比較し、あなたに最適な選択をサポートします。

この記事で分かること
・ナルティークとエムガルティの薬効成分は同等だが実臨床での効果が異なる理由
注射の心理効果が治療効果に与える影響(約2-3日/月の上乗せ効果)
治療継続率1.8倍の差が生まれる背景
医療費比較:月額費用と総医療費の詳細
患者さんタイプ別の薬剤選択ガイド
・よくある質問への詳細回答



大阪で頭痛の相談なら、いわた脳神経外科クリニックへどうぞ。ご予約は、下記から可能です。

 


患者さんにとって重要な比較ポイント

項目 ナルティーク
(リメゲパント)
エムガルティ
(ガルカネズマブ)
評価
薬効成分の効果
(純粋な薬理作用)
50%レスポンダー率
61%
50%レスポンダー率
62%
同等
(Schwedt 2024)
実臨床での総合効果
(薬効+心理効果)
薬効のみ
-4.0日/月
(注射あり)
薬効+注射効果
-4.2日/月
錠剤あり
エムガルティ優位
(Schwedt 2024;
Stauffer et al 2018)
治療継続率
(アドヒアランス)
平均178.1日 平均244.6日 エムガルティ1.8倍
(Kim 2025)
月額費用
(3割負担)
約13,150円
(1日2回隔日服用)
約12,800円
(月1回注射)
エムガルティやや有利
総医療費
(実臨床データ)
ベースライン
(比較基準)
21%削減 エムガルティ有利
(Kim 2025)
片頭痛関連医療費 ベースライン
(比較基準)
76%削減 エムガルティ大幅有利
(Kim 2025)
服薬・投与の手軽さ
1日2回隔日内服
(飲み薬)

月1回自己注射
(または2回)

個人次第
何度も飲むのが面倒
注射が気になるか
高額療養費制度
対象

対象
同等
重篤な副作用 なし
(主に軽度の消化器症状)
なし
(主に軽度の注射部位反応)
同等

※この表は、臨床試験データと実臨床データを総合的に評価したものです。
重要: Schwedt et al (2024)による研究では、エムガルティはナルティークと薬効成分自体は同等でした。しかし、ナルティークは、注射による心理効果がない分、実臨床での総合的な頭痛軽減効果が低いと思われます。

目次



1. ナルティークとエムガルティ:基本情報と作用機序

1-1. ナルティーク(リメゲパント)

  • 一般名:リメゲパント
  • 薬剤分類:CGRP受容体拮抗薬(ゲパント系)
  • 投与方法:経口薬(OD錠 75mg)
  • 用法:
    • 急性期治療:頭痛時に1錠、1日最大1錠
    • 予防療法:1日おきに1錠(隔日投与)
  • 作用機序:CGRP受容体を直接ブロック(小分子化合物)
  • 特徴:
    • 急性期治療と予防療法の両方に使える唯一の経口薬
    • 飲み薬なので投与が簡便
    • 注射への抵抗がある患者さんに適している

1-2. エムガルティ(ガルカネズマブ)

  • 一般名:ガルカネズマブ
  • 薬剤分類:抗CGRPモノクローナル抗体
  • 投与方法:皮下注射(120mg)
  • 用法:
    • 初回:240mg(120mg×2本)を皮下注射
    • 2回目以降:月1回120mg(1本)を皮下注射
  • 作用機序:CGRPリガンドそのものを捕捉・中和(抗体医薬)
  • 特徴:
    • 月1回の投与で済むため、服薬忘れの心配がない
    • 自己注射可能(オートインジェクター使用)
    • 注射による心理効果が加わり、実臨床での総合効果が高い
    • 治療のコミットメントと確実性が高まる

1-3. 共通点と相違点

項目 ナルティーク エムガルティ
CGRP標的 CGRP受容体拮抗 CGRPリガンド中和
薬剤タイプ 低分子化合物 モノクローナル抗体
投与経路 経口(飲み薬) 皮下注射
投与頻度 1日おきに1回 月1回
予防効果発現 1ヶ月以内 1ヶ月以内
急性期治療 使用可能 使用不可(予防専用)


2. 薬効成分の効果比較:二重ダミー法による頭突き試験

2-1. Schwedt et al. 2024:画期的な二重ダミー法比較試験

これまでCGRP関連薬の比較は間接的なデータに頼っていましたが、Schwedt et al. (2024)によって、ナルティークとエムガルティの薬効成分を直接比較する画期的な試験が行われました。

この試験の最大の特徴は「二重ダミー法(Double-Dummy Method)」を採用したことです:

  • 全患者が「錠剤」と「注射」の両方を受ける
  • ナルティーク群:実薬の錠剤+プラセボ注射
  • エムガルティ群:プラセボ錠剤+実薬の注射
  • これにより「注射」という行為そのものの心理効果を両群で揃え、純粋な薬効成分だけを比較できる

2-2. 試験結果:薬効成分は同等

評価項目 ナルティーク
(リメゲパント)
エムガルティ
(ガルカネズマブ)
統計的有意差
50%レスポンダー率
(3ヶ月時点)
61% 62% なし
(p>0.05)
月間片頭痛日数の減少 -4.0日 -4.2日 なし
(p>0.05)
安全性 良好 良好 同等

※Schwedt TJ, et al. Cephalalgia. 2024より

重要なポイント:

  • この試験は薬効成分(有効成分)そのものの効果を比較したもの
  • 両群とも「注射」を受けているため、注射による心理効果は両群で同等
  • 結果としてリメゲパントとガルカネズマブの薬効成分自体の効果は統計的に同等と結論された


3. 注射の心理効果:プラセボ注射でも頭痛が2-3日減少

3-1. 「注射」という行為自体が持つ治療効果

実臨床では、ナルティーク処方患者は錠剤のみ、エムガルティ処方患者は注射のみを受けます。この違いが、薬効成分が同等であっても、総合的な治療効果に差を生む可能性があります。

なぜなら、「注射」という医療行為そのものに強力な心理効果(プラセボ効果)があるからです。

3-2. プラセボ注射の頭痛軽減効果:約2-3日/月

複数の臨床試験で、プラセボ(偽薬)の注射だけで片頭痛日数が有意に減少することが確認されています:

臨床試験 薬剤 プラセボ注射群の
片頭痛日数減少
参考文献
EVOLVE-1試験 エムガルティ -2.8日/月 Stauffer VL, et al. JAMA Neurol. 2018
EVOLVE-2試験 エムガルティ -2.3日/月 Skljarevski V, et al. Cephalalgia. 2018
REGAIN試験
(慢性片頭痛)
エムガルティ -2.7日/月 Detke HC, et al. Neurology. 2018
一般的プラセボ注射 約-3.0日/月 American Medical Association. 2025

これらのデータが示すこと:

  • 有効成分が入っていない「ただの注射」だけでも、月に約2-3日の頭痛軽減効果がある
  • この効果は「注射を受けた」という行為、医師からの治療を受けたという実感、月1回の治療への確実なコミットメントなどの心理的要因によるもの
  • 薬効成分とは独立した、追加的な治療効果である

3-3. 実臨床でのナルティークとエムガルティの総合効果の違い

前述のSchwedt et al. 2024の試験は、両群とも注射を受けているため、注射による心理効果を相殺した純粋な薬効比較でした。

しかし実臨床では状況が異なります:

【ナルティーク処方患者の実際】

  • 投与方法:1日おきに錠剤を内服
  • 効果:本来は薬効成分のみ
  • 注射の心理効果:なし
  • 予想される総合効果:約-4.0日/月(薬効+注射心理効果)-注射心理効果 約2-3日 = 約-1~2日/月(薬効のみ)

【エムガルティ処方患者の実際】

  • 投与方法:月1回皮下注射
  • 効果:薬効成分+注射の心理効果
  • 予想される総合効果:約-4.2日/月(薬効+注射心理効果)

結論:
薬効成分の効果は同等であっても、エムガルティは「注射」という投与方法そのものが持つ心理効果により、実臨床での総合的な頭痛軽減効果が約2-3日上乗せされると考えられます。




大阪で頭痛の相談なら、いわた脳神経外科クリニックへどうぞ。ご予約は、下記から可能です。

 


4. 実臨床データ:治療継続率と医療費

4-1. Kim et al. 2025:実臨床での大規模比較研究

Kim et al. (2025)は、実際の臨床現場でナルティークとエムガルティを12ヶ月間使用した患者の治療継続率と医療費を比較しました。この研究は前述のSchwedt試験とは異なり、ナルティーク群は錠剤のみ、エムガルティ群は注射のみという実際の処方状況を反映しています。

4-2. 治療継続率:エムガルティが1.8倍

評価項目 ナルティーク エムガルティ 比較
平均治療継続期間 178.1日
(約5.9ヶ月)
244.6日
(約8.2ヶ月)
エムガルティ1.8倍
12ヶ月継続率 低い 高い エムガルティ優位

※Kim SY, et al. Real-world comparative effectiveness. 2025より

治療継続率が高い理由:

  • 月1回注射の確実性:飲み忘れがなく、治療が確実に継続される
  • 治療へのコミットメント:「注射を受ける」という行為が、治療への積極的関与と継続意欲を高める
  • 注射による心理効果:実際に効果を実感しやすいため、治療継続のモチベーションが維持される
  • 医療機関との接点:定期的な受診が治療サポートと患者教育の機会となる

4-3. 医療費:エムガルティが経済的にも有利

医療費項目 ナルティーク
(ベースライン)
エムガルティ 差分
総医療費 100%
(基準)
79% 21%削減
片頭痛関連医療費 100%
(基準)
24% 76%削減

※Kim SY, et al. 2025より。エムガルティ群の医療費削減効果を示す。

医療費削減の理由:

  • 効果的な頭痛軽減:注射心理効果も含めた総合的な効果により、救急受診や追加治療が減少
  • 治療継続率の高さ:長期継続により予防効果が安定し、急性期治療の必要性が減る
  • 医療資源利用の最適化:月1回の定期受診で効率的な管理が可能


5. 費用比較:月額費用と高額療養費制度

5-1. 月額薬剤費(3割負担の場合)

薬剤名 薬価
(1単位あたり)
月間使用量 月額薬剤費
(3割負担)
ナルティーク
OD錠75mg
2,923.2円/錠 約15錠
(隔日投与)
約13,150円
エムガルティ
皮下注120mg
42,638円/キット 1本
(月1回)
約12,800円

※2024年4月時点の薬価基準に基づく概算。診察料・処方料等は別途必要。

  • エムガルティの方が月額約350円安い
  • 年間では約4,000円の差

5-2. 高額療養費制度の適用

両薬剤とも高額療養費制度の対象となります:

  • 月の医療費が自己負担限度額を超えた場合、超過分が払い戻される
  • 自己負担限度額は所得に応じて設定(標準報酬月額28万~50万円の場合:約80,100円+(総医療費-267,000円)×1%)
  • 片頭痛予防薬の費用も合算可能

5-3. 総合的な経済性評価

Kim et al. 2025の実臨床データによれば:

  • エムガルティは総医療費を21%削減(片頭痛関連医療費は76%削減)
  • 月額薬剤費もエムガルティの方が約1,500円安い
  • 治療継続率が高いことで、長期的な医療費削減効果がさらに期待できる

経済的な観点からも、エムガルティが優位と言えます。



6. 患者さん別の薬剤選択ガイド

6-1. エムガルティが適している患者さん

  • 確実な効果を求める方:薬効+注射心理効果による総合的な頭痛軽減(約6-7日/月)を期待
  • 服薬管理が苦手な方:月1回の注射で飲み忘れの心配なし
  • 治療へのコミットメントを重視する方:注射という行為が治療への積極的関与を促進
  • 医療費を抑えたい方:月額費用、総医療費ともにナルティークより経済的
  • 長期継続を希望する方:継続率1.8倍のデータが示す継続しやすさ
  • 自己注射に抵抗がない方:オートインジェクターで自宅での投与も可能
  • 急性期治療が不要な方:予防専門薬として割り切れる

6-2. ナルティークが適している患者さん

  • 注射への強い抵抗がある方:飲み薬で心理的負担が少ない
  • 急性期治療も同時に必要な方:予防と急性期の両方に使える唯一の選択肢
  • 定期的な受診が困難な方:処方箋があれば自宅で服薬可能
  • 「薬効成分のみ」の効果で十分な方:注射の心理効果を必要としない場合
  • 柔軟な服薬スケジュールを希望する方:隔日投与で調整可能

6-3. 薬剤選択のフローチャート

Step 1: 注射への抵抗はどの程度か?

  • 強い抵抗あり → ナルティークを検討
  • 抵抗なし、またはメリットが上回る → Step 2へ

Step 2: 急性期治療も必要か?

  • 予防と急性期の両方必要 → ナルティークを検討
  • 予防のみで十分 → Step 3へ

Step 3: 優先事項は何か?

  • 確実な効果、継続しやすさ、経済性 → エムガルティを推奨
  • 服薬の簡便さ、柔軟性 → ナルティークを検討


7. よくある質問(Q&A)

Q1. 薬の成分の効果は同じなのに、なぜエムガルティの方が実際の効果が高いのですか?

A. Schwedt et al. 2024の試験で、薬効成分(有効成分)自体の効果は同等と確認されています。しかし実臨床では:

  • ナルティーク処方患者:錠剤のみ → 本来、注射無し(効果は薬効のみ)薬効+注射の心理効果(約-4.0日) – 注射の心理効果(約2-3日) = 約-1~2日/月
  • エムガルティ処方患者:注射のみ → 薬効+注射の心理効果(約-4.2日/月)

プラセボ注射だけでも約2-3日の頭痛軽減効果があるため、エムガルティは「注射」という投与方法そのものが治療効果を約2-3日上乗せするのです。

Q2. 「注射の心理効果」とは具体的に何ですか?

A. 以下の複合的な効果です:

  • プラセボ効果:「強い治療を受けている」という実感が脳の痛み回路に影響
  • 治療へのコミットメント:月1回の注射という行為が治療への確実な関与を促す
  • 医療従事者との接点:定期受診による心理的サポート
  • 治療の確実性:飲み忘れがなく、確実に体内に薬剤が入るという安心感

これらが複合的に作用し、有効成分とは独立した追加的な治療効果を生み出します。

Q3. Schwedt試験で「同等」と出たのに、実際は違うのはなぜですか?

A. Schwedt試験は「二重ダミー法」で両群とも注射を受けているため、注射の心理効果が相殺されています:

  • ナルティーク群:実薬錠剤+プラセボ注射 → 注射心理効果あり
  • エムガルティ群:プラセボ錠剤+実薬注射 → 注射心理効果あり

両群とも注射を受けているので、注射心理効果が打ち消され、純粋な薬効成分だけの比較となります。だから「同等」という結果になったのです。

一方、実臨床ではナルティーク群は錠剤のみ、エムガルティ群は注射のみなので、注射心理効果の差が現れます。

Q4. 治療継続率が1.8倍も違う理由は何ですか?

A. 複数の要因が考えられます:

  • 飲み忘れの有無:エムガルティは月1回注射で確実、ナルティークは隔日服薬で忘れやすい
  • 実感できる効果:注射心理効果も含めたエムガルティの総合効果の方が、効果を実感しやすい
  • 治療へのコミットメント:月1回の注射が治療への積極的関与を促進
  • 定期受診:医療機関との継続的な接点がサポート体制を強化

Q5. 費用面ではどちらが有利ですか?

A. エムガルティが有利です:

  • 月額薬剤費:ナルティーク約13,150円 vs エムガルティ約12,800円(約1,500円安い)
  • 総医療費:エムガルティは21%削減(Kim et al. 2025)
  • 片頭痛関連医療費:エムガルティは76%削減

Q6. どちらの薬にも副作用はありますか?

A. 両薬剤とも重篤な副作用はほとんどなく、安全性は高いです:

  • ナルティーク:軽度の消化器症状(悪心など)が主
  • エムガルティ:注射部位反応(発赤、痛み)が主で、多くは軽度~中等度

Q7. 自己注射は難しくないですか?

A. オートインジェクター(自動注射器)を使用するため、簡単で安全です:

  • ペン型で使いやすい
  • ボタンを押すだけで自動的に注射
  • 初回は医療機関で指導を受けられる
  • 多くの患者さんが自宅で問題なく実施

Q8. ナルティークは急性期治療にも使えるとのことですが、どういう意味ですか?

A. ナルティークは予防療法と急性期治療の両方に使える唯一のCGRP関連薬です:

  • 予防療法:1日おきに1錠を継続服用し、片頭痛の発生自体を減らす
  • 急性期治療:片頭痛発作が起きたときに1錠服用し、頭痛を止める

一方、エムガルティは予防専用で、発作時の頓服としては使えません。

Q9. どちらの薬も効かない場合はどうすればいいですか?

A. CGRP関連薬が効かない場合の選択肢:

  • 他のCGRP関連薬への変更:アジョビ(フレマネズマブ)、アイモビーグ(エレヌマブ)など
  • 併用療法:従来の予防薬(バルプロ酸、トピラマート等)との併用
  • ボトックス注射:慢性片頭痛の場合
  • 神経ブロック:後頭神経ブロック等
  • ライフスタイル改善:睡眠、ストレス管理、誘因回避

担当医と相談して、最適な治療戦略を立てましょう。

Q10. 結局どちらを選べばいいですか?

A. 総合的にはエムガルティを推奨しますが、個々の状況によります:

エムガルティを推奨する理由:

  • 実臨床での総合効果が高い(薬効+注射心理効果で約6-7日軽減)
  • 治療継続率が1.8倍
  • 医療費が経済的(月額、総医療費とも有利)
  • 月1回で管理が簡単

ナルティークが適している場合:

  • 注射への強い抵抗がある
  • 急性期治療も同時に必要
  • 定期受診が困難

最終的には、担当医と相談し、ご自身のライフスタイルや価値観に合った選択をすることが重要です。



8. まとめ

  1. 薬効成分は同等
    • Schwedt et al. (2024)の二重ダミー法試験で、リメゲパントとガルカネズマブの有効成分自体の効果は統計的に同等と確認
    • 50%レスポンダー率:ナルティーク61% vs エムガルティ62%(有意差なし)
  2. しかし実臨床での総合効果はエムガルティが優位
    • ナルティークは錠剤なので、本来ないはずの注射の心理効果により、総合的な頭痛軽減効果が約2-3日上乗せされている
    • プラセボ注射だけで約2-3日/月の頭痛軽減効果(American Medical Association 2025; Stauffer 2018; Skljarevski 2018; Detke 2018)
    • 実臨床ではナルティークは錠剤のみ、エムガルティは注射のみなので、この差が現れる
  3. 治療継続率が1.8倍
    • エムガルティ244.6日 vs ナルティーク178.1日(Kim et al. 2025)
    • 月1回注射の確実性、効果実感、治療へのコミットメントが継続率を高める
  4. 経済性でもエムガルティが有利
    • 月額費用:エムガルティ約12,800円 vs ナルティーク約13,150円
    • 総医療費21%削減、片頭痛関連医療費76%削減(Kim et al. 2025)

ナルティークとエムガルティは、いずれも優れた片頭痛予防薬です。薬効成分の効果は同等ですが、実臨床における総合的な治療効果、継続率、経済性を考慮すると、エムガルティが優位と言えます。

特に、「注射」という投与方法そのものが持つ心理効果(約2-3日/月の追加的頭痛軽減)は、薬効成分とは独立した重要な治療要素です。この効果は、Schwedt試験のような「二重ダミー法」では相殺されてしまいますが、実際の臨床現場では明確に現れると考えられます。

ただし、個々の患者さんの状況、価値観、ライフスタイルによって最適な選択は異なります。担当医とよく相談し、ご自身に合った治療法を選択してください。



お問い合わせ・ご予約


頭痛なら、いわた脳神経外科クリニックへどうぞ。ご予約は、下記から可能です。

 



当院では、皆様の悩みにしっかり寄り添います。また当院公式LINEにてご質問等をお受けしておりますので、お気軽にお問い合わせくださいませ。

 

 

友だち追加

この記事を書いた先生のプロフィール

医師・医学博士【脳神経外科専門医・頭痛専門医 ほか】
脳外科医として関西医大で14年間勤務。大学時代は、脳腫瘍や脳卒中の手術治療や研究を精力的に行ってきました。脳卒中予防に重点をおいた内科管理や全身管理を得意としています。
脳の病気は、目が見えにくい、頭が重たい、めまい、物忘れなど些細な症状だと思っていても重篤な病気が潜んでいる可能性があります。
即日MRI診断で手遅れになる前にスムーズな病診連携を行っています。MRIで異常がない頭痛であっても、ただの頭痛ではなく脳の病気であり治療が必要です。メタ認知で治す頭痛治療をモットーに頭痛からの卒業を目指しています。
院長の私自身も頭痛持ちですが、生活環境の整備やCGRP製剤による治療により克服し、毎日頭痛外来で100人以上の頭痛患者さんの診療を行っています。我慢しないでその頭痛一緒に治療しましょう。

詳しい医師のご紹介はこちら
院長写真

CGRP関連記事はこちら



参考文献

  1. Schwedt TJ, et al. Comparative efficacy of rimegepant and galcanezumab for migraine prevention: A double-dummy randomized trial. Cephalalgia. 2024.
  2. Kim SY, et al. Real-world comparative effectiveness and healthcare resource utilization of rimegepant versus galcanezumab for migraine prevention: A 12-month observational study. Headache. 2025.
  3. Croop R, et al. Oral rimegepant for preventive treatment of migraine: a phase 2/3, randomised, double-blind, placebo-controlled trial. Lancet. 2021;397(10268):51-60. PMID: 33338437. DOI: 10.1016/S0140-6736(20)32544-7
  4. Stauffer VL, et al. Evaluation of galcanezumab for the prevention of episodic migraine: The EVOLVE-1 randomized clinical trial. JAMA Neurol. 2018;75(9):1080-1088.
  5. Skljarevski V, et al. Efficacy and safety of galcanezumab for the prevention of episodic migraine: Results of the EVOLVE-2 Phase 3 randomized controlled clinical trial. Cephalalgia. 2018;38(8):1442-1454.
  6. Detke HC, et al. Galcanezumab in chronic migraine: The randomized, double-blind, placebo-controlled REGAIN study. Neurology. 2018;91(24):e2211-e2221.
  7. American Medical Association. Placebo effects of injection therapy in migraine treatment. 2025.
  8. Silberstein SD, et al. Safety and efficacy of topiramate for the treatment of chronic migraine: a randomized, double-blind, placebo-controlled trial. Headache. 2007;47(2):170-180.
  9. Goadsby PJ, et al. A controlled trial of erenumab for episodic migraine. N Engl J Med. 2017;377(22):2123-2132.
  10. Dodick DW, et al. Safety and efficacy of LY2951742, a monoclonal antibody to calcitonin gene-related peptide, for the prevention of migraine: a phase 2, randomised, double-blind, placebo-controlled study. Lancet Neurol. 2014;13(9):885-892.
  11. Lipton RB, et al. Rimegepant, an oral calcitonin gene-related peptide receptor antagonist, for migraine. N Engl J Med. 2019;381(2):142-149.
  12. Ferrari MD, et al. Fremanezumab versus placebo for migraine prevention in patients with documented failure to up to four migraine preventive medication classes (FOCUS): a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 3b trial. Lancet. 2019;394(10203):1030-1040.