脳卒中は日本において、がんや心疾患と並ぶ三大死因の一つです。脳卒中は生活習慣病との関係が深く、発症リスクを減らすためには、生活習慣病の管理が非常に重要です。この記事では、脳卒中と生活習慣病管理について詳しく解説し、脳卒中を予防するために家庭できる具体的な対策についてお伝えしています。今からできる対策を取り入れて脳卒中を予防し、いざというときにすぐに行動に移せる備えをしておきましょう。

 

 

脳卒中の主な原因となる生活習慣病

脳卒中とは、脳の血管が詰まる脳梗塞、脳の血管が破れる脳出血、脳動脈瘤の破裂で起こるくも膜下出血に分けられます。

 

脳梗塞はさらに太い血管が詰まるアテローム血栓性脳梗塞と細い血管が詰まるラクナ梗塞、心臓でできた血栓によって詰まる心原性脳塞栓症と、そのほかの脳梗塞に分けられます。

 

脳卒中は予防が大切な理由

日本における脳卒中の死亡率は1995年から低下傾向にありますが、いまだにがん、心疾患と並ぶ三死因です。

 

栃木県の脳卒中患者を対象とした研究によると、全死因による5年生存率は62.3%に対し、脳卒中における5年生存率は78.8%でした。1)脳卒中発症後の生命予後は全死因よりも低いことが報告されています。

 

また、後遺症が残ることも多く、脳卒中は1位の認知症に続き、介護が必要となった主な原因の第2位です。重度の介護が必要とされる要介護4.5に関しては1位となっています。2)

 

脳卒中は死亡や要介護の原因となるリスクが高いため、発症する前の予防が大切です。

 

 

脳卒中の原因となる生活習慣病

脳卒中の主な原因は高血圧です。

 

高血圧が続き、動脈硬化が進行すると脳梗塞になります。重い高血圧だと脳の血管が破れて脳出血を起こすほか、脳の一部に脳動脈瘤ができてくも膜下出血を起こす場合もあります。3)

 

さらには、糖尿病、脂質異常症、飲酒・喫煙、心疾患、肥満などの生活習慣も脳卒中を起こす要因となります。3)

 

脳卒中と生活習慣病の関係

生活習慣病それぞれと脳卒中の関係性について、データを示しながら解説します。

 

高血圧

高血圧は脳卒中最大のリスク要因です。血圧が高いほど、脳卒中の発症率は高くなります。4)

以下に当てはまる人は、血圧130/80mmHg未満が目標値として推奨されています。

・75歳未満

・冠動脈疾患(心臓に血液を送る血管が狭くなる病気)

・慢性腎臓病(CKD)でたんぱく尿が陽性

・糖尿病

・抗血栓薬(血液が固まるのを予防する薬)を服用している人

4)

 

一方で以下に当てはまる人の血圧の推奨値は140/90 mmHg未満です。

・75歳以上

・両側頸動脈狭窄、主幹動脈閉塞

・慢性腎臓病(CKD)でたんぱく尿が陰性

4)

 

糖尿病や大きな血管の動脈硬化、慢性腎臓病などがある方は特に血圧を下げる必要があります。

 

糖尿病

糖尿病は脳梗塞の発症と関わりが深く、久山町研究では、糖尿病があると脳梗塞のリスクが男性で約2.5倍、女性で約2倍高くなることが報告されています。5)

 

糖尿病は脳梗塞の発症リスクを高めますが、血糖管理により脳卒中が予防できるという明確な報告はいまだないとされています。6)糖尿病の発症を予防することが脳卒中予防には必要と言えるでしょう。

 

脂質異常症

脳卒中全体とLDLコレステロールの相関ははっきりとはわかっていません。

ただし、LDLコレステロールが高いとアテローム血栓性梗塞およびラクナ梗塞の発症率が高くなると報告されています。7)さらに、LDLコレステロールが低いと脳内出血による死亡リスクが高くなることが報告されています。8)

 

LDLコレステロールの異常値を指摘されたことがある方は、適正な値にコントロールするに越したことはありません。

 

心房細動

心臓の心房が十分に収縮せずにけいれんを起こす心房細動(不整脈)は、心房内で血栓がつくられやすく、血栓が血流にのって脳へと到達することで心原性脳塞栓症を起こします。

 

不整脈や息切れなどの症状がみられたら、受診して適切な治療を受けるようにしましょう。

肥満

研究によると、BMI(肥満度を表す体格指数)が高いほど脳梗塞のリスクが増加し、中高年では脳出血のリスクも増加することが示唆されています。また、BMIが極端に低い場合にも脳出血のリスクが高まる可能性があると報告されています。9)

 

BMIの標準値は22.0です。BMI22.0は、肥満だけでなく、高血圧や糖尿病、脂質異常症にもかかりにくい数値とされています。10)

 

 

喫煙

タバコの煙は動脈硬化や血栓をつくりやすくして、脳卒中発症につながります。タバコを吸う本人だけでなく、受動喫煙も脳卒中のリスクです。日本では受動喫煙により、年間約1万5,000人が死亡しており、そのうち8,010人が脳卒中(2014年)だと報告されています。11)

 

自分のため、大切な人や周りの人を守るためにも禁煙は大切です。

 

 

脳卒中予防のための生活習慣対策

脳卒中と関係のある生活習慣病を予防するために、家庭でできる対策をお伝えします。

 

家庭血圧135/85mmHg未満をキープ

脳卒中の最大原因である高血圧を予防することが大切です。高血圧の目安である140/90mmHg以上は、診察室での測定値であり、家庭で測定する場合の目安値は135/85mmHg以下です。12)

 

脳卒中は朝の発症が多いため、家庭で血圧を測る場合は以下のポイントを守りましょう。

・朝起きてから30分~1時間以内に測る

・トイレを済ましてから、薬を飲んだり、朝食を食べたりする前に測定する

・1~2分安静にしてから測る

・測定は2回にとどめ、両方の値を記録するか、平均値を記録する

12)

 

食事・運動・禁煙

脳卒中の予防には次の生活習慣を心がけましょう。

・減塩

・肥満の場合は減量(30分以上の運動とよく噛んで食べる量を減らす)

・禁煙

・過度に飲酒しない

・野菜・果物・大豆製品を食べる

・有酸素運動で血流をよくする

3),12)

 

予防のための健診・MRI検査

高血圧をはじめ、脳卒中のリスク要因となる糖尿病、心房細動、脂質異常症、肥満などの生活習慣病を早期発見し、適切に管理するために、年に1度は健診を受けましょう。

 

また、次の方は脳の血管の異常を確認できるMRI検査を受けることをおすすめします。

・健診で生活習慣病を指摘されたことがある方

・めまいやふらつき、頭痛などがある方

・高齢で一度もMRI検査を受けたことのない方

 

ろれつが回らない、手足に力が入りにくい、激しい頭痛などの脳卒中のサインが現れた方はすぐさま救急車を呼びましょう。

 

脳卒中が気になる方はMRI検査を

大阪市城東区のいわた脳神経外科クリニックではMRI検査の当日結果報告、診断に対応しています。緊急の処置が必要な場合は提携病院に転送する体制を整えておりますので、気になる症状がある場合にはご連絡ください。

 

脳梗塞や脳出血の徴候の発見や過去に無症状のままに起こっていた脳梗塞や脳出血の確認も行えます。一度、MRI検査を受けておきたい方もご相談ください。

 

MRI検査についての詳細や料金について詳しく知りたい場合はこちらに掲載しております。

 

 

1)今井明 脳卒中患者の生命予後と死因の5年間にわたる観察研究: 栃木県の調査結果とアメリカの報告との比較 脳卒中2010 32 p.572–578

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jstroke/32/6/_6_572/_pdf/-char/ja

2)厚生労働省 2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/dl/14.pdf

3)厚生労働省 e-ヘルスネット 脳血管障害・脳卒中

脳血管障害・脳卒中

4)日本高血圧学会 高血圧治療ガイドライン2019 p.52

https://www.jpnsh.jp/data/jsh2019/JSH2019_noprint.pdf

5)Yasufumi Doi et al Impact of Glucose Tolerance Status on Development of Ischemic Stroke and Coronary Heart Disease in a General Japanese Population: The Hisayama Study Originally Published 2009

https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/STROKEAHA.109.564708?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200pubmed

6)立花久大 糖尿病と脳卒中 脳卒中2014 36 p.105–112

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jstroke/36/2/36_105/_pdf/-char/ja

7)Tsuyoshi Imamura et al LDL cholesterol and the development of stroke subtypes and coronary heart disease in a general Japanese population: the Hisayama study Stroke

 2009 40(2)p.382-388

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19095987/

8)Hiroyuki Noda et al Low-density lipoprotein cholesterol concentrations and death due to intraparenchymal hemorrhage: the Ibaraki Prefectural Health Study Circulation

2009 119(16)p.2136-2145

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jstroke/36/2/36_144/_pdf

9)Hanson Gabriel Nuamah, et al.The effect of age on the relationship between body mass index and risks of incident stroke subtypes: The JPHC study Journal of Stroke and Cerebrovascular Diseases 2024 33(2)

https://www.strokejournal.org/article/S1052-3057(23)00507-4/abstract#%20

10)厚生労働省 e-ヘルスネット 肥満と健康

肥満と健康

11)厚生労働省 喫煙の健康影響に関する検討会編 喫煙と健康 喫煙の健康影響に関する検討会報告書

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000172687.pdf

12)小嶋正義 生活習慣病の治療により、心筋梗塞・脳卒中は予防できる 日本農村医学会雑誌 2017 65(6)p.1118-1122

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrm/65/6/65_1118/_pdf

 

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この記事を書いた先生のプロフィール

医師・医学博士【脳神経外科専門医・頭痛専門医 ほか】
脳外科医として関西医大で14年間勤務。大学時代は、脳腫瘍や脳卒中の手術治療や研究を精力的に行ってきました。脳卒中予防に重点をおいた内科管理や全身管理を得意としています。
脳の病気は、目が見えにくい、頭が重たい、めまい、物忘れなど些細な症状だと思っていても重篤な病気が潜んでいる可能性があります。
即日MRI診断で手遅れになる前にスムーズな病診連携を行っています。MRIで異常がない頭痛であっても、ただの頭痛ではなく脳の病気であり治療が必要です。メタ認知で治す頭痛治療をモットーに頭痛からの卒業を目指しています。
院長の私自身も頭痛持ちですが、生活環境の整備やCGRP製剤による治療により克服し、毎日頭痛外来で100人以上の頭痛患者さんの診療を行っています。我慢しないでその頭痛一緒に治療しましょう。

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