めまいを伴う頭痛の原因と治療法

 

めまいを伴う頭痛は、日常生活に支障をきたすつらい症状です。

その原因は様々ですが、中でも「前庭性片頭痛」という病態が注目されています。

 

前庭性片頭痛とは?

 

前庭性片頭痛は、めまいを主症状とする片頭痛の一種です。片頭痛といえばズキズキとした激しい頭痛をイメージしますが、前庭性片頭痛では頭痛を伴わないケースも少なくありません。

この病気は、内耳にある平衡感覚を司る前庭器官と、脳の特定の領域との間の情報伝達がうまくいかなくなることで起こると考えられています。その結果、めまいやふらつき、吐き気などの症状が現れます。

 

 

前庭性片頭痛のめまいの特徴

 

前庭性片頭痛のめまいは、以下のような特徴を持っています。

 

  • 発作性: 突然めまいが起こり、しばらく続く
  • 持続時間: 5分から72時間と個人差が大きい
  • 反復性: 繰り返し起こる
  • 頭痛の有無: 頭痛を伴うこともあれば、伴わないこともある
  • 他の症状: 吐き気、嘔吐、光過敏、音過敏などを伴うことがある

これらの症状は、人によって、また同じ人でも発作ごとに異なることがあります。

 

前庭性片頭痛になりやすい人

 

前庭性片頭痛は、以下のような人に多く見られます。

 

  • 片頭痛の既往がある人: 片頭痛持ちの人は、前庭性片頭痛を発症するリスクが高いです。
  • 女性: 女性は男性よりも前庭性片頭痛になりやすい傾向があります。
  • ストレスが多い人: ストレスは片頭痛や前庭性片頭痛の誘因となることがあります。
  • 睡眠不足の人: 睡眠不足も片頭痛や前庭性片頭痛を悪化させる要因となります。

前庭性片頭痛と他のめまいの違い

 

前庭性片頭痛のめまいは、他のめまいと区別することが重要です。

例えば、メニエール病は内耳のリンパ液の異常によって起こるめまいで、難聴や耳鳴りを伴うことが多いです。良性発作性頭位めまい症は、特定の頭の動きによって誘発されるめまいで、回転性のめまいが特徴です。

これらの病気と前庭性片頭痛を区別するためには、専門医による詳細な問診や検査が必要です。

 

前庭性片頭痛の治療法

 

前庭性片頭痛の治療は、めまいの発作を抑える薬物療法と、生活習慣の改善を中心に行います。

薬物療法

 

  • 片頭痛予防薬: ミグシス(塩酸ロメリジン)などの片頭痛予防薬は、前庭性片頭痛のめまいの予防にも効果があります。
  • 吐き気止め: 吐き気を伴う場合は、吐き気止めが処方されることがあります。
  • 漢方薬: 半夏白朮天麻湯や苓桂朮甘湯などの漢方薬も、症状に合わせて使用されることがあります。

 

ミグシス(塩酸ロメリジン)について

 

ミグシスは、カルシウム拮抗薬という種類の薬です。脳血管の過剰な収縮を抑え、脳血流を改善することで、めまいを抑制する効果があります。

また、ミグシスは、神経細胞の過剰な興奮を抑えたり、炎症を抑えたりする作用もあります。これらの複合的な作用により、前庭性片頭痛のめまいの予防に効果を発揮します。

 

 

漢方薬について

半夏白朮天麻湯


頭痛ガイドラインにも記載されている半夏白朮天麻湯は、胃腸虚脱により生じる頭痛とめまいに用いられます。
半夏は、中枢性の制吐・鎮静作用を持つことで、胃腸機能を高め、自律神経失調を改善する作用があります。
天麻の主成分であるガストロジンは中枢神経に作用する鎮静・鎮痛作用をもち、前庭系のめまい症状や機能回復に有効です。
また、半夏白朮天麻湯には、甘草が含まれていないことより、安全に長期処方が可能です。半年間の内服をおすすめします。

苓桂朮甘湯

内リンパ水腫を改善する苓桂朮甘湯も有効です。

 

生活習慣の改善

 

  • 規則正しい生活: 睡眠不足やストレスは、前庭性片頭痛を悪化させる要因となります。規則正しい生活を心がけましょう。
  • バランスの取れた食事: 特に、カフェインやアルコールは片頭痛の誘因となることがあるため、控えめにしましょう。
  • 適度な運動: 適度な運動は、ストレス解消や血行促進に効果があります。

 

前庭性片頭痛に対するCGRP製剤の治療効果


ミグシスなど内服の治療薬で症状の改善がない場合は、CGRP製剤(エムガルティアジョビアイモビーグ)の適応となります。
前庭性片頭痛に対してCGRP製剤の有効性が報告されています。
CGRPは片頭痛の発症に重要な役割を果たす物質であり、神経系において血管拡張、炎症、痛みの調節に関与しています。CGRP受容体は前庭系にも存在し、動揺病(乗り物酔い)や運動感受性に関与しているとされています。CGRPやCGRP受容体を標的とした治療法は、前庭性片頭痛患者の症状緩和に有効であることが示されています。


最近報告された(1)の論文では
研究に参加した28人の患者のうち、25人が追跡調査に含まれました。患者は、治療効果を「顕著な改善」「中程度の改善」「軽度の改善」「改善なし」の4段階で評価されました。

結果は以下の通りです:
– 25人中21人が何らかの改善を報告しました。
– 15人が中程度から顕著な改善を示しました。
– 改善が見られた患者のうち、ほとんどが前庭症状と片頭痛の両方に改善が見られました。
– 一部の患者は片頭痛のみに改善が見られ、前庭症状には改善が見られませんでした。
本研究の結果、CGRP薬は前庭性片頭痛の治療において有望な選択肢であることが示されました。中程度から顕著な改善を示した患者が多く、CGRP薬が前庭性片頭痛の症状緩和に効果的である可能性があります。

前庭性片頭痛と上手につきあうために

 

前庭性片頭痛は、慢性的に続く病気ですが、適切な治療と生活習慣の改善によって、症状をコントロールすることができます。

めまいの症状が出たときは、無理をせず安静にすることが大切です。また、症状が改善しない場合は、早めに医師に相談しましょう。

前庭性片頭痛は、まだ十分に理解されていない病気ですが、研究が進められています。最新の情報を収集し、医師と相談しながら、自分に合った治療法を見つけていきましょう。

 

参考文献
(1)
New Anti-CGRP Medications in the Treatment of Vestibular Migraine.
Hoskin JL, Fife TD.
Front Neurol. 2022 Jan 27;12:799002.
(2)
Monoclonal Antibodies Targeting CGRP: A Novel Treatment in Vestibular Migraine.
Lovato A, Disco C, Frosolini A, Monzani D, Perini F.
Medicina (Kaunas). 2023 Aug 28;59(9):1560.

 

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この記事を書いた先生のプロフィール

医師・医学博士【脳神経外科専門医・頭痛専門医 ほか】
脳外科医として関西医大で14年間勤務。大学時代は、脳腫瘍や脳卒中の手術治療や研究を精力的に行ってきました。脳卒中予防に重点をおいた内科管理や全身管理を得意としています。
脳の病気は、目が見えにくい、頭が重たい、めまい、物忘れなど些細な症状だと思っていても重篤な病気が潜んでいる可能性があります。
即日MRI診断で手遅れになる前にスムーズな病診連携を行っています。MRIで異常がない頭痛であっても、ただの頭痛ではなく脳の病気であり治療が必要です。メタ認知で治す頭痛治療をモットーに頭痛からの卒業を目指しています。
院長の私自身も頭痛持ちですが、生活環境の整備やCGRP製剤による治療により克服し、毎日頭痛外来で100人以上の頭痛患者さんの診療を行っています。我慢しないでその頭痛一緒に治療しましょう。

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