【結論】運動は”脳の薬”である
- 定期的な有酸素運動は、認知症リスクを最大40%低減することが、2025年のLancetレビューで報告されています。
- そのメカニズムは「脳血流の改善」「炎症の抑制」「神経可塑性の促進」の3本柱です。
- 心肺体力(CRF)を「低い」→「高い」に改善すると、認知症リスクは約48%低減する可能性があります。
※効果には個人差があります。本記事は医療情報の提供を目的としており、診断・治療の代替ではありません。
「最近、もの忘れが増えた気がする」「親が認知症になったら…と考えると不安になる」——そんなふうに感じたことはありませんか?
その不安は、とても自然なことだと思います。認知症は、症状が現れる約20年前から脳の中で静かに変化が進んでいることがわかっています。だからこそ、40代・50代のうちから「脳を守る習慣」を始めることが大切なのです。
2025年3月、世界で最も権威ある医学誌のひとつ『The Lancet』に、運動が脳を守るメカニズムを包括的にまとめたレビュー論文が掲載されました。この論文が示しているのは、「運動こそが、認知症予防の最強の処方箋のひとつである」ということです。
この記事では、そのエビデンスをわかりやすくお伝えしていきます。「具体的に何をすればいいの?」という疑問にも、一つひとつお答えしていきたいと思います。
この記事のキーメッセージ
「早歩き」程度の運動を習慣にするだけで、将来の認知症リスクを大きく下げられる可能性があります。高価な薬や特別な設備は要りません。今日からできる”脳の健康習慣”を、一緒に考えてみましょう。
📖 この記事で分かること
- Lancetレビュー(2025年)が示す運動と認知症の関係
- 運動が脳を守る3つのメカニズム(脳血流・炎症・BDNF)
- 心肺体力(CRF)と認知症リスクの具体的な数字
- 今日から始められる運動習慣のつくり方
- 運動と「栄養」を組み合わせた、より効果的な認知症予防
目次
1. Lancetレビュー(2025)が伝えていること
2025年3月、Lancet誌(Volume 405, Issue 10484)に発表されたレビュー論文(Tari et al., 2025)は、「運動がなぜ脳を守るのか」というメカニズムを、これまでの研究を網羅的に整理した集大成ともいえる論文です。
論文情報
- タイトル:Neuroprotective mechanisms of exercise and the importance of fitness for healthy brain ageing
- 著者:Tari AR, Walker TL, Huuha AM, Sando SB, Wisloff U
- 掲載誌:The Lancet(2025年3月29日)
- 種類:レビュー論文(これまでの研究を包括的にまとめたもの)
この論文の核心となるメッセージは、次のとおりです。
座りがちで不健康な生活は脳の老化を加速させる。一方、定期的な有酸素運動と高い心肺体力(CRF)は、認知機能の低下を緩和し、認知症リスクを低減する。
つまり、加齢による脳の衰えは「仕方のないこと」ではなく、運動習慣によってある程度コントロールできるということを示しています。これは多くの方にとって、非常に希望のある話ではないでしょうか。
2. 運動が脳を守る3つのメカニズム
「運動が脳に良い」と聞いても、「なぜ?」が分からないと納得しにくいものです。Tari et al.(2025)のレビューでは、運動が脳を保護する主なメカニズムとして3つの経路が整理されています。
2-1. 脳血流の改善 — 酸素と栄養を届ける
脳は体重のわずか2%ほどの重さですが、全身の酸素の約20%を消費します。脳が正常に機能するためには、十分な血流が欠かせません。
有酸素運動を習慣的に行うと、脳への血流が改善されます。これにより、脳の神経細胞に酸素や栄養が効率よく届くようになり、老廃物の除去も促進されます。
💡 わかりやすく言うと
脳を「庭」に例えるなら、血流は「水やり」です。水やりが十分な庭は花が咲き続けますが、水が足りない庭は枯れてしまいます。運動は、脳という庭への水やりを良くしてくれるのです。
2-2. 炎症の抑制 — 脳の”くすぶり”を消す
加齢とともに、体の中では慢性的な微弱な炎症(慢性炎症)が起こりやすくなります。これは「インフラメイジング(inflammaging)」とも呼ばれ、脳の神経細胞を少しずつ傷つけていきます。
定期的な運動は、この慢性炎症を抑える効果があることが報告されています。炎症性物質(サイトカイン)のレベルを下げ、脳を「静かな火事」から守ってくれるのです。
🔍 補足:慢性炎症と認知症
アルツハイマー病の脳では、アミロイドβの蓄積とともに神経炎症が観察されています。運動による炎症抑制は、この経路を緩和する可能性が示唆されています。
2-3. 神経可塑性の促進 — 脳の「成長力」を高めるBDNF
3つ目のメカニズムが、神経可塑性(ニューロプラスティシティ)の促進です。これは「脳が新しい回路をつくったり、既存の回路を強化したりする能力」のことです。
運動をすると、筋肉からアイリシン(Irisin)というホルモンが分泌されます。このアイリシンが脳に到達すると、BDNF(脳由来神経栄養因子)の分泌を促します。
BDNFは、記憶の中枢である海馬に多く存在するタンパク質で、以下の役割を担っています。
- 神経細胞の新生を促す
- シナプス(神経細胞同士のつなぎ目)の形成と強化
- 既存の神経細胞の維持・保護
💡 わかりやすく言うと
BDNFは「脳の肥料」のようなものです。運動するたびに脳に肥料がまかれ、新しい芽(神経細胞)が育ち、記憶や学習の力が維持されるイメージです。
| メカニズム | 何が起きるか | 脳への効果 |
|---|---|---|
| 🩸 脳血流の改善 | 酸素・栄養の供給↑、老廃物除去↑ | 神経細胞の維持・保護 |
| 🔥 炎症の抑制 | 慢性炎症の軽減、炎症性サイトカイン↓ | 神経細胞へのダメージを抑制 |
| 🧠 神経可塑性の促進 | BDNF↑、シナプス形成↑、神経新生↑ | 記憶力・学習能力の維持 |
3. 心肺体力(CRF)と認知症リスクの関係
Tari et al.(2025)が特に強調しているのが、心肺体力(CRF:Cardiorespiratory Fitness)の重要性です。CRFとは、心臓・肺・血管が酸素を全身に届ける能力のことで、一般的にはVO₂max(最大酸素摂取量)やMET(代謝当量)で評価されます。
3-1. 具体的な数字で見るリスク低減
過去の大規模研究をもとに、レビューでは以下のような数字が報告されています。
| 指標 | 認知症リスクの変化 |
|---|---|
| CRFが上位80%に入る人 | リスク約40%低減 |
| CRFを「低い→高い」に改善した人 | リスク約48%低減 |
| CRFが1MET上昇するごとに | 認知症発症リスク16%低下、認知症関連死リスク10%低下 |
ポイント
注目すべきは、「今から体力を上げても効果がある」という点です。過去に運動不足だった方でも、そこから心肺体力を改善すれば、認知症リスクはほぼ半減する可能性があります。「もう遅い」ということはありません。
3-2. 1MET(メッツ)とは?
「1MET」は安静時の酸素消費量を基準にした運動強度の単位です。日常の活動に当てはめると、次のようになります。
| 活動 | METs |
|---|---|
| 座ってテレビを見る | 1.0 |
| 普通の速さで歩く | 3.0 |
| 早歩き(少し息が上がる程度) | 4.0〜5.0 |
| 軽いジョギング | 6.0〜7.0 |
| 水泳(中程度の速さ) | 7.0〜8.0 |
つまり、普段座りがちな生活から「早歩き」を取り入れるだけでも、1〜2METの改善が期待でき、認知症リスクの低減に繋がる可能性があるということです。
4. 今日から始められる運動習慣
「運動が大切なのは分かった。でも、具体的に何をすればいいの?」——ここが一番知りたいポイントではないでしょうか。
4-1. まずは「週150分の中強度有酸素運動」を目標に
WHO(世界保健機関)が推奨する運動量は、中強度の有酸素運動を週150分以上です。これは1日にすると約20〜30分。「少し息が上がるけれど会話はできる」程度の強度が目安です。
🏃 おすすめの運動例
- 早歩き(最も手軽で続けやすい)
- 自転車(膝への負担が少ない)
- 水中ウォーキング(関節に優しい)
- ラジオ体操 + 散歩の組み合わせ
- ダンスや太極拳(楽しみながら続けられる)
4-2. 「続けること」が何より大切
運動の効果は「1回やったら終わり」ではなく、継続することで発揮されます。最初から頑張りすぎると続かないので、以下のステップで少しずつ習慣にしていくことをおすすめします。
| ステップ | 内容 | 目安期間 |
|---|---|---|
| Step 1 | 1日10分の散歩から始める | 最初の2週間 |
| Step 2 | 散歩を「早歩き」に変える | 3〜4週目 |
| Step 3 | 20〜30分に時間を延ばす | 5〜6週目 |
| Step 4 | 週5日を目標に定着させる | 2ヶ月目〜 |
⚠️ ご注意ください
心臓や肺に持病がある方、膝・腰に痛みがある方は、運動を始める前に主治医にご相談ください。無理なく安全に続けることが大切です。
5. 運動+栄養で、脳をもっと守る
運動は認知症予防における「最強の処方箋のひとつ」ですが、それだけで十分とは限りません。脳の健康を守るためには、運動に加えて栄養面からのアプローチも大切です。
たとえば、アルツハイマー病の原因物質のひとつとされるアミロイドβは、症状が現れる約20年前から脳内に蓄積し始めることが分かっています。つまり、40代・50代から「運動+栄養」の両面で対策を始めることが理想的です。
運動+αのアプローチ
- 運動:脳血流改善・炎症抑制・BDNF増加
- 栄養・サプリメント:抗酸化作用・神経保護作用で脳を内側からサポート
- 睡眠:グリンパティック系による老廃物(アミロイドβ含む)の排出促進
- 社会的つながり:認知的刺激による脳の活性化
当院では、運動習慣の指導に加えて、科学的根拠のある認知症予防サプリメント(フェルガード®)のご案内も行っています。フェルガード®は、フェルラ酸とガーデンアンゼリカを主成分とし、二重盲検試験で有意な効果が報告されているサプリメントです。
「運動は続けているけれど、もう少し何かできることはないか」とお考えの方は、ぜひ以下の記事もご覧ください。
よくある質問(Q&A)
Q1. 何歳から運動を始めても認知症予防に効果はありますか?
A. 何歳から始めても効果が期待できることが報告されています。Tari et al.(2025)のレビューでは、過去に運動不足だった方でも、その後に心肺体力を改善した場合、認知症リスクが約48%低減したとされています。ただし、早く始めるほど脳への恩恵は大きいと考えられているため、「気になった今」が始めどきです。気になる症状がある方は、一度ご相談ください。
Q2. 激しい運動でなければ効果はないのですか?
A. 激しい運動は必要ありません。「少し息が上がるけれど会話はできる」程度の中強度の有酸素運動(早歩きなど)で、十分な効果が報告されています。大切なのは強度よりも継続することです。膝や腰に不安がある方は、水中ウォーキングや自転車(エアロバイク)など関節への負担が少ない運動もありますので、主治医にご相談のうえ、無理のない範囲で始めてみてください。
Q3. 運動以外に、脳を守るためにできることはありますか?
A. 運動に加えて、質の良い睡眠・バランスの取れた食事・社会的なつながりが認知症予防の重要な柱とされています。特に睡眠中は、グリンパティック系と呼ばれる脳の老廃物排出システムが活発に働き、アミロイドβなどの有害物質を除去していることが分かっています。運動・栄養・睡眠を含めた総合的な生活習慣の改善が重要です。
Q4. 認知症予防に役立つサプリメントはありますか?
A. 当院では、科学的根拠のある認知症予防サプリメント「フェルガード®」をご案内しています。フェルラ酸とガーデンアンゼリカを主成分とし、二重盲検試験において有意な効果が報告されています。運動で脳血流やBDNFを高めながら、栄養面からも脳を守る——この「運動+栄養」の組み合わせが、より効果的な認知症予防に繋がる可能性があります。
👉 詳しくはこちら:認知症予防サプリって効果あるの?『フェルガード』
まとめ
この記事では、2025年のLancet誌レビュー(Tari et al.)をもとに、運動が脳を守るメカニズムと、認知症予防のために今日からできることをお伝えしました。
この記事のポイント
- 定期的な有酸素運動は、脳血流改善・炎症抑制・BDNF増加の3つの経路で脳を守る
- 心肺体力(CRF)を改善すると、認知症リスクは最大48%低減する可能性がある
- 「早歩き」程度の運動から始めて継続することが何より大切
- 運動に加えて、栄養・睡眠・社会的つながりも認知症予防の重要な柱
認知症は、発症してから対処するのではなく、「発症する前にいかに予防するか」が大切な病気です。だからこそ、今日の一歩が、20年後のあなたの脳を守ることに繋がるのです。
大阪で脳の健康が気になる方、もの忘れが心配な方は、いわた脳神経外科クリニックにご相談ください。運動・栄養・検査を含めた総合的な認知症予防のご提案をさせていただきます。
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参考文献
- Tari AR, Walker TL, Huuha AM, Sando SB, Wisloff U. Neuroprotective mechanisms of exercise and the importance of fitness for healthy brain ageing. Lancet. 2025;405(10484):1093-1118. doi: 10.1016/S0140-6736(25)00184-9 | PubMed
- Livingston G, Huntley J, Liu KY, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. Lancet. 2024;404(10452):572-628. doi: 10.1016/S0140-6736(24)01296-0 | PubMed
- World Health Organization. WHO guidelines on physical activity and sedentary behaviour. Geneva: WHO; 2020.













