【この記事のポイント】
1. 2026年3月、エンハーツがHER2陽性の固形がん全般に承認拡大された。理論上は膠芽腫も対象に含まれ得るが、承認試験に膠芽腫は含まれていない
2. エンハーツは脳「転移」に対して高い頭蓋内活性(奏効率約70%)を示しているが、これは原発性脳腫瘍(膠芽腫)への効果を直接証明するものではない
3. 膠芽腫ではHER2タンパク質の発現頻度が報告により0%〜54%と大きくばらつき、遺伝子増幅もほぼ確認されていない。乳がんのHER2とは状況が異なる
4. 膠芽腫へのエンハーツの効果を直接評価するWOnDER-BT試験(米国MSK)が進行中だが、まだ研究段階であり結果は出ていない
5. 実際にエンハーツが候補となり得るのは、再発膠芽腫で標準治療後にHER2陽性が確認された限定的な症例に限られ、ILD(間質性肺疾患)のリスクも考慮が必要
大切なお知らせ
本記事は、エンハーツ(トラスツズマブ デルクステカン)のがん種横断承認と膠芽腫への可能性に関する論文・公的情報をわかりやすく整理した一般的な情報提供を目的としています。
膠芽腫に対するエンハーツの使用は研究段階であり、効果や副作用には個人差があります。
実際の治療は必ず主治医と相談してください。
膠芽腫(グリオブラストーマ)と診断された患者さんやご家族にとって、新しい治療の選択肢に関するニュースは大きな関心事です。
2026年3月23日、第一三共株式会社は抗HER2抗体薬物複合体(ADC)「エンハーツ」(一般名:トラスツズマブ デルクステカン)が、HER2陽性の進行・再発の固形がんに対してがん種横断的な承認を取得したことを発表しました。
この承認により、「膠芽腫にもエンハーツが使えるのでは?」という声が聞かれるようになっています。しかし、結論から申し上げると、膠芽腫に対するエンハーツの有効性はまだ研究段階であり、現時点で「使える」と断言することはできません。
本記事では、脳神経外科医の視点から、エンハーツのがん種横断承認が膠芽腫患者さんにとって何を意味するのか、そして現時点でのエビデンスと限界を正確にお伝えします。
この記事で分かること
・エンハーツ(ADC)の仕組みと、2026年3月のがん種横断承認の意味
・脳転移に対するエンハーツの効果と、膠芽腫(原発性脳腫瘍)との違い
・膠芽腫におけるHER2発現の現状と課題
・現在進行中の臨床試験(WOnDER-BT)の概要
・膠芽腫患者さんが今できること
目次
1. エンハーツとは ― ADC(抗体薬物複合体)の仕組み
エンハーツ(一般名:トラスツズマブ デルクステカン、略称T-DXd)は、ADC(抗体薬物複合体)と呼ばれる種類の薬です。ADCは、がん細胞を見つけるための「センサー」と、がん細胞を攻撃する「薬」を一体化した、いわば標的を狙い撃ちする治療薬です。
エンハーツは以下の3つの構成要素からなります。
| 構成要素 | 役割 | エンハーツの場合 |
|---|---|---|
| 抗体(センサー) | がん細胞の表面にあるHER2というタンパク質を見つけて結合する | トラスツズマブ |
| リンカー(連結部分) | 抗体と薬をつなぐ。腫瘍内で切断されて薬を放出する | GGFGテトラペプチドリンカー |
| ペイロード(攻撃薬) | がん細胞のDNA複製を阻害して殺傷する | DXd(トポイソメラーゼI阻害剤) |
1-1. バイスタンダー効果 ― 周囲の細胞にも届く仕組み
エンハーツの大きな特徴のひとつが「バイスタンダー効果」です。エンハーツがHER2陽性のがん細胞に結合して薬(DXd)を放出すると、このDXdは細胞膜を通過する性質があるため、周囲のHER2を発現していないがん細胞にも作用することができます。
つまり、腫瘍の中にHER2を発現している細胞と発現していない細胞が混在していても、一部のHER2陽性細胞を足がかりに周囲の細胞にまで効果が及ぶ可能性があるのです。この特性が、後述する膠芽腫への応用を考える際のひとつの理論的根拠となっています。
2. 2026年3月のがん種横断承認 ― 何が変わったのか
2026年3月23日、エンハーツは日本において「HER2陽性(HER2遺伝子増幅又はIHC 3+)の進行・再発の固形癌(標準的な治療が困難な場合に限る)」という適応で承認されました。
「がん種横断承認」とは?
特定のがん種(乳がん、肺がん等)ではなく、がんの種類を問わず、特定のバイオマーカー(この場合はHER2陽性)を持つすべての固形がんに対して承認する方式です。日本ではキイトルーダ(MSI-High)、ロズリートレク(NTRK融合遺伝子)、キイトルーダ(TMB-High)に続き、エンハーツが4例目のがん種横断的承認となりました。
2-1. 承認根拠となった4つの臨床試験
| 試験名 | 対象がん種 | 主な結果 |
|---|---|---|
| HERALD | HER2遺伝子増幅の固形がん(16がん種) | 奏効率 56.5%(Yagisawa et al., 2024) |
| DESTINY-PanTumor02 | HER2発現の固形がん(7コホート) | IHC 3+で奏効率 61.3%(Meric-Bernstam et al., 2024) |
| DESTINY-CRC02 | HER2陽性の転移性大腸がん | 奏効率 38%(Raghav et al., 2024) |
| DESTINY-Lung01 | HER2変異の非小細胞肺がん | 奏効率 55%(Li et al., 2022) |
重要なポイント:これらの試験に膠芽腫(グリオブラストーマ)は含まれていません。HERALD試験で腫瘍縮小が確認された13のがん種にも脳腫瘍は入っていませんでした。承認文言上は膠芽腫も除外されていませんが、エビデンスが存在しないことを正しく理解する必要があります。
3. エンハーツの脳転移への効果 ― 頭蓋内活性のエビデンス
エンハーツが膠芽腫への応用で注目される背景には、脳転移に対する高い治療効果のデータがあります。以下は、いずれもHER2陽性乳がんからの脳転移に関する臨床試験結果です。
| 試験名 | 対象 | 頭蓋内奏効率(IC-ORR) | 出典 |
|---|---|---|---|
| TUXEDO-1 | HER2陽性乳がんの活動性脳転移(15例) | 73.3% | Bartsch et al. (2022) |
| DESTINY-Breast12 | HER2陽性乳がんの脳転移(263例) | 71.7% | Harbeck et al. (2024) |
これらの結果は、エンハーツが脳内の腫瘍にも到達し、効果を発揮する「頭蓋内活性」を有していることを示唆しています。脳は血液脳関門(BBB)と呼ばれるバリアで守られており、多くの薬が脳内に届きにくいとされていますが、エンハーツはこのバリアを一定程度通過できる可能性があると考えられています。
注意:上記のデータは全てHER2陽性乳がんからの脳「転移」に関するものです。他の臓器から脳に転移した腫瘍と、脳から直接発生する原発性脳腫瘍(膠芽腫)では、腫瘍の性質や環境が大きく異なります。脳転移への効果が膠芽腫にそのまま当てはまるとは限りません。
4. 膠芽腫とHER2 ― 研究の糸口が見え始めた可能性と限界
エンハーツが膠芽腫に応用できるかを考えるうえで、まず知っておくべきことがあります。それは、膠芽腫におけるHER2の状態は、乳がんとは大きく異なるということです。
4-1. 膠芽腫のHER2発現率 ― 報告ごとに大きなばらつき
| 報告 | 検出方法 | HER2発現率 | 備考 |
|---|---|---|---|
| Schlegel et al. (1994) | Western blot/免疫組織化学 | 54% | 免疫反応性はEGFRより弱い |
| Ahmed et al. (2010) | 免疫組織化学 | 約41%(高+中等度) | 56例の原発性膠芽腫 |
| Saikali et al. (2008) | 免疫組織化学 | 23.6% | 強陽性は8.3%にとどまる |
| Krishnamurti et al. (2007) | 免疫組織化学/FISH | 0% | IHC・FISHともに陰性 |
このように、検出方法や閾値の違いにより、0%から54%まで非常に大きなばらつきが生じています。これは、膠芽腫におけるHER2の臨床的意義がまだ確立されていないことを意味しています。
4-2. 乳がんとの決定的な違い ― 遺伝子増幅がほぼない
乳がんと膠芽腫のHER2の違い
- 乳がん:HER2遺伝子が増幅(コピー数が増加)し、大量のHER2タンパク質が安定して発現する → エンハーツの標的として明確
- 膠芽腫:HER2遺伝子の増幅はほとんど認められない(Schlegel et al., 1994)。報告によると、多数例の膠芽腫を次世代シーケンシングで解析してもHER2遺伝子増幅は検出されていない。タンパク質発現は一部で見られるが不均一であり、遺伝子増幅を伴わないタンパク質発現にADCがどの程度有効かは不明
エンハーツの承認要件は「HER2遺伝子増幅又はIHC 3+」ですが、膠芽腫ではHER2遺伝子増幅がほぼ認められず、IHC 3+(強陽性)の割合も報告により8.3%にとどまるなど限定的です。この点は、乳がんにおけるHER2陽性とは根本的に異なることを理解しておく必要があります。
また、膠芽腫の種類によってもHER2発現のパターンが異なることが報告されています。HER2の高発現(IHC 2+/3+)は全てde novo(一次性)膠芽腫で見られ、secondary(二次性)膠芽腫では低発現であったとの報告があります。
4-3. バイスタンダー効果への期待 ― ただし理論上の可能性
前述のバイスタンダー効果は、HER2発現が不均一な膠芽腫においても理論的には有利に働く可能性があります。しかし、そもそも膠芽腫ではHER2遺伝子増幅がほぼ認められないため、バイスタンダー効果の前提となる十分な薬物の取り込みが得られるかが不明です。これはあくまで理論上の可能性であり、膠芽腫の複雑な腫瘍微小環境で実際にどの程度機能するかは今後の研究を待つ必要があります。
膠芽腫における予測マーカーと個別化医療の動向については、膠芽腫の予測マーカーと個別化医療に関する記事で詳しく解説しています。
5. 脳転移への効果 ≠ 原発性脳腫瘍への効果
エンハーツの脳転移に対する高い奏効率を見て、「膠芽腫にも効くのでは」と期待される方がいらっしゃるかもしれません。しかし、脳転移と原発性脳腫瘍(膠芽腫)は異なる条件にあります。
| 比較項目 | 脳転移 | 原発性脳腫瘍(膠芽腫) |
|---|---|---|
| 血液脳関門(BBB) | 転移巣ではBBBが破綻しており、薬が届きやすい | BBBが部分的に保たれている領域がある |
| HER2発現 | 原発巣(乳がん等)のHER2状態が維持される | 発現頻度は0〜54%とばらつきが大きい |
| 腫瘍の生物学的特性 | 原発巣のがん種の特性を反映 | グリア系細胞由来の独自の特性 |
| エンハーツの臨床データ | IC-ORR 70%超の前向きデータあり | 前向きデータなし(WOnDER-BT試験が進行中) |
特に血液脳関門(BBB)の状態の違いは重要です。脳転移の部位ではBBBが壊れているため薬が到達しやすい一方、膠芽腫ではBBBが部分的に保たれている領域があるため、薬の浸透度が異なる可能性があります。
転移性脳腫瘍の基本については、転移性脳腫瘍の解説記事で詳しく解説しています。
6. WOnDER-BT試験 ― 現在進行中の研究
膠芽腫に対するエンハーツの有効性を直接評価する臨床試験が、米国のメモリアル・スローン・ケタリングがんセンター(MSK)で進行中です。
WOnDER-BT試験の概要
- 正式名称:Window of Opportunity Assessment of Trastuzumab Deruxtecan Brain Tumor Penetration and Efficacy
- 試験登録番号:NCT06058988
- 試験デザイン:第II相試験(Window of Opportunity試験)
- 対象:膠芽腫および転移性脳腫瘍の患者さん
- 方法:脳腫瘍の手術前にエンハーツを投与し、手術で摘出した腫瘍組織内の薬物浸透度を直接測定する
- 現在の状況:患者募集中(2026年3月時点)
この試験は、エンハーツが実際にBBBを越えて脳腫瘍内に到達するかどうかを直接的に測定する点で画期的です。しかし、まだ研究段階であり結果は公表されていません。結果が出るまでは、膠芽腫へのエンハーツの有効性について結論を出すことはできません。
7. 安全性 ― ILD(間質性肺疾患)のリスク
エンハーツの使用を検討するうえで、ILD(間質性肺疾患)/肺臓炎のリスクを理解することは極めて重要です。米国の添付文書ではBlack Box Warning(最も重要な警告)として記載されています。
ILD/肺臓炎の発現データ
- 全Grade発現率:約11〜15%
- Grade 3-4(重症):10.7%
- 致死的(Grade 5):約2.2%(Powell et al., 2022)
- ILD発症者中の死亡率:10.7%(122例中13例)
- 症状:息切れ、咳、発熱など
- 対応:早期発見・早期介入が予後改善の鍵
7-1. その他の主な副作用
ILD以外にも、以下のような副作用が高い頻度で報告されています。
| 副作用 | 頻度 |
|---|---|
| 悪心(吐き気) | 約76% |
| 嘔吐 | 約40% |
| 脱毛 | 約40% |
| 倦怠感 | 約34% |
| 血球減少(好中球減少、血小板減少等) | 20%以上 |
| 食欲低下 | 約30% |
これらの副作用は、エンハーツの使用を検討する際に主治医と十分に話し合うべき事項です。特に息切れ・咳・発熱などの呼吸器症状が出た場合は、すぐに医療機関に連絡してください。
8. 膠芽腫患者が今できること
エンハーツのがん種横断承認は、膠芽腫治療において「研究の糸口が見え始めた」段階と言えます。現時点で膠芽腫患者さんにお伝えしたいことは以下の通りです。
膠芽腫患者さんへの提案
-
標準治療をしっかりと行うこと
手術+放射線+テモゾロミド化学療法が膠芽腫の標準治療です。これをしっかりと行うことが最優先となります -
HER2検査の可能性について主治医に相談する
特に再発した場合に、HER2の発現状態を確認する検査が可能かどうか相談してみてください。なお、2026年3月時点でエンハーツのがん種横断承認に対応するコンパニオン診断薬(CDx)として、血液検査ベースのGuardant360 CDxが承認済みですが、腫瘍組織によるIHC検査のCDxは未承認の状態です。膠芽腫のHER2評価には腫瘍組織の検査が重要であるため、この点も主治医とご相談ください -
臨床試験の情報を確認する
WOnDER-BT試験のように膠芽腫に対する新しい治療法を評価する試験が進行しています。国立がん研究センター「がん情報サービス」などで情報を調べることができます -
セカンドオピニオンを活用する
治療選択肢について複数の専門家の意見を聞くことは大切です -
現在利用可能な治療選択肢を検討する
自家がんワクチン療法(AFTVac)やオプチューン(交流電場療法)、デリタクト(ウイルス療法)など、膠芽腫に対して現在利用可能な治療選択肢についても主治医と話し合ってください
膠芽腫に対する自家がんワクチン療法について詳しくは自家がんワクチン療法(AFTVac)の解説記事をご覧ください。また、膠芽腫の標準治療とその課題については膠芽腫の生存期間と自家がんワクチン療法に関する記事で詳しく解説しています。
9. よくある質問(FAQ)
Q1. エンハーツのがん種横断承認で、膠芽腫にもエンハーツが使えるようになったのですか?
A. 承認文言上は「HER2陽性の進行・再発の固形癌」と記載されており、特定のがん種を除外していません。しかし、承認の根拠となった臨床試験に膠芽腫は含まれておらず、膠芽腫におけるHER2発現の頻度や意義も十分に確立されていません。再発膠芽腫で標準治療後にHER2陽性が確認された場合に「理論上は検討対象になり得る」という段階であり、主治医やエキスパートパネルとの相談が必要です。なお、2026年3月時点で血液検査ベースのGuardant360 CDxは承認済みですが、腫瘍組織によるIHC検査のコンパニオン診断薬は未承認であり、膠芽腫のHER2評価に関する実務的な課題も残っています。
Q2. エンハーツが脳転移に効果があるなら、膠芽腫にも効くのではないですか?
A. エンハーツは乳がんからの脳転移に対して約70%の頭蓋内奏効率を示しています(Bartsch et al., 2022; Harbeck et al., 2024)。しかし脳転移と原発性脳腫瘍(膠芽腫)では、血液脳関門(BBB)の状態、HER2発現のパターン、腫瘍の生物学的特性が異なります。脳転移への効果が膠芽腫にそのまま当てはまるとは限りません。現在、米国MSKでWOnDER-BT試験(NCT06058988)が進行中であり、膠芽腫に対するエンハーツの脳腫瘍浸透性と有効性を直接評価しています。
Q3. エンハーツの副作用で特に注意すべきことは何ですか?
A. 間質性肺疾患(ILD)/肺臓炎が最も重要な副作用です。発現率は約11〜15%で、重症(Grade 3-4)は10.7%、致死的となるケースも約2.2%報告されています(Powell et al., 2022)。息切れ、咳、発熱などの症状が出た場合はすぐに医療機関に連絡してください。その他、悪心(約76%)、嘔吐(約40%)、脱毛(約40%)、倦怠感(約34%)、血球減少なども高頻度で報告されています。
Q4. 膠芽腫患者は今、何をすべきですか?
A. まずは標準治療(手術+放射線+テモゾロミド)をしっかりと行うことが最優先です。そのうえで、再発した場合の選択肢として、HER2検査の可能性について主治医に相談すること、進行中の臨床試験の情報を確認すること、セカンドオピニオンを活用することが考えられます。自家がんワクチン療法やオプチューン(交流電場療法)、デリタクト(ウイルス療法)など、現在利用可能な治療選択肢についても主治医と話し合ってください。
Q5. エンハーツの治療費はどのくらいですか?
A. エンハーツの薬価は100mg1瓶あたり192,652円です(2026年3月時点)。体重に応じた投与量が必要なため、1回あたりの薬剤費は体重60kgの方で約100万円前後となります(3週間ごとに投与)。ただし、日本の高額療養費制度が適用されるため、自己負担額は所得に応じて月額数万円〜十数万円程度に抑えられる場合があります。具体的な費用については、医療機関の相談窓口にお問い合わせください。
10. まとめ
【まとめ】
- 2026年3月、エンハーツがHER2陽性の固形がん全般に承認拡大されたが、承認試験に膠芽腫は含まれていない
- エンハーツは脳転移に対して高い頭蓋内活性を示しているが、原発性脳腫瘍(膠芽腫)への効果を直接証明するものではない
- 膠芽腫のHER2発現は0〜54%とばらつきが大きく、遺伝子増幅もほとんど認められない。乳がんのHER2とは状況が異なる
- WOnDER-BT試験(米国MSK)が膠芽腫へのエンハーツの浸透性と有効性を直接評価中だが、まだ結果は出ていない
- エンハーツが候補となり得るのは、再発膠芽腫で標準治療後にHER2陽性が確認された限定的な症例に限られ、ILDリスクも考慮が必要
膠芽腫の治療は日進月歩で進んでおり、エンハーツのようなADCの登場は将来的に膠芽腫の治療に応用できるか検証する研究が始まっています。しかし、2026年3月時点では「研究の糸口が見え始めた」段階であり、過度な期待は禁物です。今後のWOnDER-BT試験をはじめとする研究の進展を注視しつつ、現在利用可能な治療を主治医と一緒に検討していくことが大切です。
効果や副作用には個人差があります。実際の治療は必ず医師と相談してください。
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参考文献
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免責事項:本記事は2026年3月時点の公開情報に基づく一般的な情報提供を目的としています。特定の治療法を推奨するものではありません。膠芽腫に対するエンハーツの使用は研究段階であり、効果や副作用には個人差があります。実際の治療については必ず主治医にご相談ください。














