朝、目を開けた瞬間に「今日も来るかもしれない」と身構える。
予定を入れるのが怖くて、仕事や家事、子どもの行事まで“頭痛基準”で考えてしまう。
そして周りに迷惑をかけたくなくて、できるだけ普通に振る舞いながら、ひとりで耐える――片頭痛の患者さんから、そんな言葉をよく聞きます。
片頭痛は「痛い」だけでは終わりません。
不安・罪悪感・自己否定まで連れてきて、生活の自由を少しずつ奪っていきます。
この記事では、アトゲパント(アクイプタ®)について、特に“実臨床(リアルワールド)でどうだったか”に焦点を当てて、論文の内容をできるだけわかりやすく解説します。
「治療を続けられるの?」「注射のCGRP抗体が合わなかった私にも可能性はある?」――そんな気持ちに寄り添いながらお届けします。
【結論】アトゲパントは“実臨床”でも、片頭痛日数の減少と生活のしやすさ(QOL)改善が報告されている
1) イタリアの前向き多施設研究(STAR)では、12週で月間片頭痛日数(MMD)が平均 -6.9日、50%反応率 56.6% が報告(Vernieri et al., 2025)
2) 抗CGRP抗体が効かなかった患者さん中心の多施設研究では、3か月で50%反応率 29.7%、180日時点の継続率 61% が報告(Muñoz-Vendrell et al., 2026)
3) 副作用は便秘・悪心などが一定頻度で報告(Vernieri et al., 2025;Rizzoli et al., 2024)
※効果や副作用には個人差があります。この記事は一般情報で、治療効果を保証するものではありません。
最初に、いちばん大事なこと
「頭痛のせいで人生が狭くなっている」と感じているなら、それはもう十分に“治療の対象”です。
「我慢できるから」「みんな忙しいから」と後回しにせず、あなたの生活を取り戻すための治療を一緒に考えていきましょう。
目次
1. 「実臨床データ」って何?——外来の“リアル”が分かる理由
臨床試験(RCT)は、条件をそろえて薬の効果を見ます。一方、実臨床(リアルワールド)の研究は、外来の現場に近い形で「実際に処方された患者さん」がどう変化したかを追います。
だからこそ、患者さんが知りたい「続けられるの?」「薬剤乱用がある状態でも?」「注射が合わなかった後でも?」に近いヒントが含まれます(Vernieri et al., 2025;Muñoz-Vendrell et al., 2026)。
読み方のコツ(自分を責めないために)
- 平均で◯日減るは「全員がそうなる」ではありません。
- 効かなかった=あなたのせいではありません(病型・生活・併存症・これまでの治療歴で反応は変わります)。
- 治療は“当てる”というより、一緒に最適化していく作業です。
実臨床①:12週間で、生活はどう変わった?(Vernieri et al., 2025)
研究デザイン
- 前向き・多施設(イタリア10施設)
- アトゲパント 60mg 1日1回
- 観察期間:12週
- 評価:月間片頭痛日数(MMD)、月間頭痛日数(MHD)、急性期薬使用量(MAM)など
2-1. 対象は「治療に疲れている」患者さんが多い
- n=106、女性 87.7%、平均年齢 50.6歳
- 慢性片頭痛 52.8%、反復性片頭痛 47.2%
- 過去の予防療法失敗:中央値4種類
- 抗CGRP抗体の治療歴:52.8%
- 薬剤乱用(MO):57.5%
2-2. 結果:12週でMMDが平均 -6.9日、50%反応率 56.6%
| 指標 | 12週時点の変化 |
|---|---|
| MMD(全体) | 平均 -6.9日(SD 9.7) |
| 50%反応率 | 全体 56.6%(EM 60.0%、CM 46.4%) |
| 急性期薬使用量(MAM) | 全体 16.3→8.8(-7.5) |
ポイント(生活の言葉にすると)
・MMDが平均 -6.9日=「片頭痛でつぶれる日が、1か月で約7日減る」イメージ
・50%反応率 56.6%=「10人いたら5〜6人は、片頭痛の日数が半分以下になった」という意味
「また頭痛が来たら、息子の予定に穴をあけてしまうかも」——そんな不安を抱えながら毎日を回している方へ。 ここでは、実臨床研究で示された数値(12週でMMDが平均 -6.9日、50%反応率 56.6%)を、 大阪在住の40歳女性(息子さん1人)の生活に置き換えて、わかりやすくイメージしてみます(Vernieri et al., 2025)。
大阪の40歳ママので例えるなら
(例)これまで:月に14日くらい片頭痛がある場合
- 朝の支度中に「今日は来ないで…」と、頭痛の不安が頭から離れない
- 買い出し(たとえば商店街の人混み)や役所手続きも、体調を読んで先延ばししがち
- 参観・運動会・習い事の送迎も「行けるかどうか運次第」で、約束が怖くなる
- 頭痛の日は家の空気がピリついてしまい、気軽にたこ焼きパーティーもできない ※自己嫌悪が増える
(例)12週後:平均 -6.9日が“生活”に出ると
- 月14日 → 月7日くらいまで減ったイメージ(※あくまで例)
- 「丸一週間、頭痛に邪魔されにくい週」が増えて、予定を組む怖さが軽くなる
- 息子さんの行事で途中離脱・欠席が起きる回数が減りやすい
- 「ドタキャンの罪悪感」が減って、人付き合いも少し戻しやすくなる
- 急性期薬に頼る回数が減ると、“薬のことを考える時間”も減っていく
50%反応率 56.6%って、もう少し具体的に言うと?
50%反応(50% responder)とは、片頭痛日数が「半分以上減った」状態のことです。 たとえば、次のように“半分”が目安になります(例)。
| 治療前(例) | 50%反応の目安(例) |
|---|---|
| 月16日つらい | 月8日以下に |
| 月12日つらい | 月6日以下に |
| 月8日つらい | 月4日以下に |
そして56.6%というのは、10人いたら5〜6人がこのレベルの改善に届いた、という意味になります(Vernieri et al., 2025)。
注意:平均 -6.9日・反応率 56.6%は「全員が同じように良くなる」という意味ではありません。 体質・頭痛タイプ・併存症・生活リズムなどで結果は変わります。 つらさが続く場合は、自己判断で抱え込まず、医師に相談して“自分に合う目標”を一緒に決めることが大切です。
もし今、「月に何日くらい頭痛があるか」や「いちばん困っている場面(仕事/家事/学校行事)」が分かれば、 その条件でよりリアルに「あなたの生活だと、どんな変化が見込みやすいか」を言葉にして整理できます。
患者さん目線の解釈
「痛みがゼロ」だけがゴールではありません。
急性期薬が減る、生活の制限が減る、“いつ来るか”の恐怖が薄れる――こうした変化が重なると、生活は少しずつ広がります(Vernieri et al., 2025)。
3. 実臨床②:注射が合わなかった人の選択(Muñoz-Vendrell et al., 2026)

「注射のCGRP抗体まで試したのに、十分に変わらなかった」
その経験は、患者さんにとって“希望が折れやすい”タイミングです。
子どもの運動会に、笑顔で応援しに行けるのかどうかは、とても重要です。
だからこそ、この研究は気持ちの支えになるデータでもあります(もちろん、全員に当てはまるわけではありません)(Muñoz-Vendrell et al., 2026)。
研究の概要
- スペイン17施設、n=252
- 抗CGRP抗体(mAb)で失敗した患者さんが対象
- 主要評価:3か月での50%反応率
- 継続率(persistence)も追跡(最大180日)
3-1. 対象はかなり“難治”寄り(だから数字の意味が変わる)
- 慢性片頭痛:80.6%
- 薬剤乱用頭痛(MOH):80.7%
- mAb失敗数:中央値2(最大4)
3-2. 結果:3か月で50%反応率 29.7%、継続率(180日)61%
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| 3か月:50%反応率 | 29.7% |
| 3か月:副作用報告 | 52.5%(便秘30%、悪心25%など) |
| 継続率(180日) | 61%(95%CI 54–69%) |
ここが大事
“難治例中心”の集団で、約3人に1人が50%反応を達成した――これは「まだ打ち手が残っている」ことを示唆します(Muñoz-Vendrell et al., 2026)。
逆にいえば、「次も必ず効く」とは言えないのも現実です。だからこそ、治療は一緒に作戦を立てて進めるほうが、つらさが減ります。
4. 副作用と“続けやすさ”の現実
片頭痛の予防薬で、いちばん苦しいのは「効かない」だけではなく、副作用で続けられず、また振り出しに戻ることかもしれません。
アトゲパントでは、実臨床でも臨床試験でも、便秘・悪心が比較的多く報告されています(Vernieri et al., 2025;Muñoz-Vendrell et al., 2026;Rizzoli et al., 2024)。
安全性プール解析(Rizzoli et al., 2024)の要点
- 12週RCTでの便秘 6.1%、悪心 6.6%
- 長期試験でも便秘 5.0%、悪心 4.6%
- 肝機能(ALT/AST)については大きなシグナルが目立ちにくい報告(Hy’s law該当なし)
大切な注意(薬機法・医療広告の観点)
副作用の出方や重さは個人差が大きく、併用薬や体質でも変わります。症状がつらい時は自己判断で中断せず、必ず医師・薬剤師に相談してください。
5. 心が折れない治療の進め方
5-1. 「薬を試す」は、あなたの価値を試すことではない
予防薬の反応は、体質だけでなく、頭痛の型(慢性化、薬剤乱用、睡眠、ストレス、併存症)でも変わります。
もし今までうまくいかなかったとしても、それはあなたが弱いからでも、努力不足でもありません。
治療は“合う形を探すプロセス”です。
5-2. 「減った日数」だけでなく、「取り戻した生活」を数える
STAR studyでは、MMDの改善に加えて、急性期薬の使用量や生活障害(MIDAS)、QOL(MSQ)などの改善も報告されました(Vernieri et al., 2025)。
予定を入れられた、仕事の欠勤が減った、家族に笑顔で接する日が増えた――こうした変化は、治療継続の力になります。
5-3. 受診の目安:「また来たら嫌だ」になっているなら、十分理由になる
- 頭痛の日が増えて、予定を避けるようになっている
- 市販薬や急性期薬を使う回数が増えて、不安が強い
- 「これ以上悪くなる前に止めたい」と思う
- 複数の予防薬を試して、疲れてしまった
6. よくある質問(Q&A)
Q1. 実臨床では、どれくらい改善する可能性がありますか?
A. 対象の患者さんによって異なります。STAR studyでは12週でMMDが平均-6.9日、50%反応率56.6%が報告されています(Vernieri et al., 2025)。
Q2. 抗CGRP抗体が効かなかった私でも、可能性はありますか?
A. 抗CGRP抗体に不応だった患者さん中心の多施設研究でも、約3分の1が50%反応を達成したと報告されています(Muñoz-Vendrell et al., 2026)。ただし難治度が高いほど反応が下がる傾向もあり、期待値は現実的に設定することが大切です。
Q3. 副作用が怖いです。多い副作用は何ですか?
A. 便秘・悪心などが一定頻度で報告されています(Vernieri et al., 2025;Muñoz-Vendrell et al., 2026;Rizzoli et al., 2024)。副作用は個人差があるため、気になる症状は早めに主治医へ共有してください。
Q4. 「治療していい頭痛」なのか分かりません。
A. 「日常が頭痛中心になっている」「予定が怖い」「薬が増えて不安」――それだけで、十分に相談する理由になります。
片頭痛は、我慢の上に成り立つ病気ではありません。生活を取り戻すために、遠慮なく受診してください。
7. まとめ
- 実臨床(STAR)では、12週でMMD平均-6.9日、50%反応率56.6%が報告(Vernieri et al., 2025)。
- 抗CGRP抗体不応後の難治例中心でも、3か月で50%反応率29.7%、180日時点の継続率61%が報告(Muñoz-Vendrell et al., 2026)。
- 副作用は便秘・悪心が一定頻度で報告され、早めの相談が継続の鍵になり得る(Vernieri et al., 2025;Muñoz-Vendrell et al., 2026;Rizzoli et al., 2024)。
- 効果や副作用には個人差があるため、治療はあなたの生活に合わせて最適化していくことが大切です。
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参考文献
- Vernieri, F., Iannone, L.F., Lo Castro, F., Sebastianelli, G., De Santis, F., Corrado, M., Marcosano, M., Ornello, R., Grazzi, L., Montisano, D.A., De Cesaris, F., Munafò, A., Fofi, L., Doretti, A., Vaghi, G., Pistoia, F., Ferrandi, D., Battistini, S., Sacco, S., Guerzoni, S. and Altamura, C. (2025) ‘Effectiveness and tolerability of atogepant in the prevention of migraine: A real life, prospective, multicentric study (the STAR study)’, Cephalalgia, 45(4), pp. 1–14. doi: 10.1177/03331024251335927.
- Muñoz-Vendrell, A., Campoy-Díaz, S., Valín-Villanueva, P., Casas-Limón, J., Fernández-Lázaro, I., González-García, N., Santos-Lasaosa, S., González Osorio, Y., Gonzalez-Martinez, A., Campdelacreu, J., Portocarrero-Sánchez, L., Cano Sánchez, L.M., García Sánchez, S.M., Pérez-de-la-parte, A., Morollón Sánchez-Mateos, N., López-Bravo, A., Mínguez-Olaondo, A., Sánchez-Soblechero, A., Lozano Ros, A., Morales Hernández, C., Andrés López, A., Layos-Romero, A., Caronna, E., Torres-Ferrús, M., Alpuente, A., Pozo-Rosich, P., Belvís, R., Garcia-Azorin, D., Díaz-de-Terán, J., Guerrero-Peral, Á.L., Gago-Veiga, A.B. and Huerta-Villanueva, M. (2026) ‘Atogepant after anti-CGRP monoclonal antibodies failure in migraine: a multicenter real-world study of effectiveness, safety, persistence and predictors of response’, The Journal of Headache and Pain, 27, Article 2. doi: 10.1186/s10194-025-02239-1.
- Rizzoli, P., Marmura, M.J., Robblee, J., McVige, J., Sacco, S., Nahas, S.J., Ailani, J., De Abreu Ferreira, R., Ma, J., Smith, J.H., Dabruzzo, B. and Ashina, M. (2024) ‘Safety and tolerability of atogepant for the preventive treatment of migraine: a post hoc analysis of pooled data from four clinical trials’, The Journal of Headache and Pain, 25, Article 35. doi: 10.1186/s10194-024-01736-z.
※免責事項:本記事は論文等に基づく一般的な情報提供を目的としています。特定の治療の効果を保証したり、受診や治療を強制したりするものではありません。症状や治療方針は個別に異なるため、必ず医師にご相談ください。














