【この記事の結論】片頭痛予防薬の新しい治療目標「Migraine Freedom」
片頭痛の予防薬治療では、発作日数を減らすだけでは不十分です。CGRP関連薬(エムガルティ・アジョビ・アイモビーグ)を使い、以下を目指します:
✓ 発作期の症状:頭痛日数・痛みの強さを50%以上減少
✓ 発作間期の症状:光過敏・音過敏・不安・認知機能低下も軽減
✓ Migraine Freedom:片頭痛のあらゆる負担から解放され、充実した生活を取り戻す
✓ 当院の治療:2か月ごとに症状を総合評価し、最適なCGRP予防薬を選択
片頭痛の予防薬治療、こんな悩みありませんか?
「片頭痛の予防薬で発作は減ったけど、症状が残る」「頭痛がない日も調子が悪い」「光や音に敏感で生活しづらい」
このような片頭痛の症状は、実は発作日数だけでは測りきれません。
片頭痛治療の新常識:Migraine Freedom
- 従来の目標:月間頭痛日数を50%減らす
- 新しい目標:発作期+発作間期のすべての症状から解放
- CGRP予防薬の役割:頭痛だけでなく、光過敏・音過敏・不安も改善
- → 片頭痛の影響を受けない生活を取り戻す
本記事では、片頭痛専門医が、最新の予防薬CGRP関連薬(エムガルティ・アジョビ・アイモビーグ)と、発作期・発作間期の症状を包括的に改善する治療法を解説します。
この記事で分かる片頭痛予防薬と症状改善の全て
✓ Migraine Freedomとは:発作期+発作間期の症状から完全に解放される状態
✓ Interictal Burden(発作間期負担):頭痛のない日も続く症状の実態
✓ CGRP予防薬の仕組み:リガンド型と受容体型の違い
✓ 4つの予防薬比較:エムガルティ・アジョビ・アイモビーグ・ナルティークの症状改善効果
✓ 当院の治療方針:2か月ごとの症状評価と最適な予防薬選択
大阪で片頭痛の予防薬治療なら、いわた脳神経外科クリニックへ。ご予約は下記から可能です。
目次:片頭痛予防薬と症状改善ガイド
1. Migraine Freedom:片頭痛予防薬が目指す新しい症状改善目標
1-1. 従来の片頭痛予防薬の目標と限界
片頭痛の予防薬治療では、長らく「月間頭痛日数(MHD)を50%以上減らす」ことが目標でした。
しかし、この目標には片頭痛症状の評価に大きな問題があります。
従来の片頭痛予防薬治療の問題点
- 発作日数しか評価しない:頭痛のない日の症状は無視
- 患者の実感と乖離:「予防薬で発作は減ったけど、症状が残る」
- 生活の質(QOL)が改善しない:光過敏・音過敏・不安が継続
- 予防薬への満足度が低い:数字上は改善も、実生活は変わらない
1-2. Migraine Freedom:片頭痛予防薬の症状改善目標
Migraine Freedom(片頭痛フリーダム)とは、予防薬によって以下を達成する状態です:
- 発作期の症状改善:頭痛・嘔気・嘔吐などの発作症状を大幅に軽減
- 発作間期の症状改善:頭痛のない日の光過敏・音過敏・不安も解消
- 生活への支障ゼロ:仕事・家事・社会活動に制限なし
- 将来への不安解消:「また発作が起きるかも」という恐怖からの解放
Vincent et al. (2022)は、「片頭痛予防薬の効果評価は、発作日数だけでなく、患者の全体的なウェルビーイング(症状・QOL)を包括的に捉えるべき」と提言しています。
片頭痛予防薬の新しいゴール
従来の「発作を減らす予防薬」から、「片頭痛のすべての症状から解放する予防薬治療」へ。
CGRP関連薬は、この新しい症状改善目標の達成に有効です。
2. 片頭痛の見落とされがちな症状:発作間期負担(Interictal Burden)
2-1. 発作間期の片頭痛症状とは
参考文献:Vincentet al.(2022)を一部改変
Interictal Burden(発作間期負担)とは、片頭痛発作のない期間にも続く症状や生活への影響です。
多くの片頭痛患者さんは、予防薬で頭痛発作が減っても、以下の症状が残ります:
発作間期の身体症状
- 光過敏(羞明):日常の光が苦痛、サングラス必須
- 音過敏:騒音が耐えられない、静かな場所を求める
- 臭い過敏:香水・食べ物の臭いで気分が悪くなる
- アロディニア:髪をとかす、帽子で痛みを感じる
- めまい・ふらつき:乗り物酔いしやすい
- 視覚異常:チカチカ、視野のゆがみ
発作間期の精神的症状
- 認知機能低下:集中できない、記憶力低下、ブレインフォグ
- 不安・抑うつ:「また発作が起きる」恐怖、気分の落ち込み
- 予定が立てられない:約束・旅行をためらう
- 社会的孤立:「怠けている」と誤解され、理解されない
- 仕事・学業への支障:欠勤・休学、生産性低下
2-2. 日本の片頭痛患者の発作間期症状データ
日本の大規模調査(OVERCOME-Japan)では:
- 片頭痛患者の41.5%が中等度~重度の発作間期症状を経験
- 発作頻度が高いほど、発作間期の症状も悪化
- 予防薬使用中でも、多くの患者で症状が残存
2-3. 発作間期症状の評価:MIBS-4スケール
片頭痛の発作間期症状を評価するMIBS-4(Migraine Interictal Burden Scale-4):
| 評価項目 | 症状の内容 |
|---|---|
| 1. 仕事・学校への支障 | 頭痛のない日も集中できない、欠勤・遅刻が多い |
| 2. 家庭・社会生活への支障 | 家族との活動や友人との交流が制限される |
| 3. 予定を立てる困難 | 「また発作が起きるかも」で約束・旅行ができない |
| 4. 感情的・認知的苦痛 | 不安、抑うつ、ブレインフォグ(頭がぼんやり) |
※各項目0~3点、合計0~12点。5点以上で「重度の発作間期症状」と判定
発作間期症状が生活に与える影響
- QOL(生活の質)が著しく低下
- 仕事の生産性低下、欠勤・休学増加
- 医療機関受診が増えるが、症状が見落とされやすい
- 不安・うつ病を併発しやすい
- 予防薬への満足度が低い:発作は減っても症状が残るため
3. なぜ片頭痛予防薬は「発作日数」だけでなく「症状」も評価すべきか
3-1. 片頭痛患者の真の苦痛は発作日数に表れない
Vincent et al. (2022)の研究:
「片頭痛患者の負担は、発作の周辺期だけでなく、発作間期(頭痛のない日)にも広がっている。症状は発作時より軽度だが、QOLへの影響は大きい」
従来の予防薬効果評価
- 月間頭痛日数:8日 → 4日
- 評価:「50%改善、予防薬成功!」
- 問題点:頭痛のない24日間の症状は評価されない
- 患者:「発作は減ったけど、調子が悪い日が続く…」
包括的な予防薬効果評価
- 月間頭痛日数:8日 → 4日
- 発作間期症状(MIBS-4):中等度が継続
- QOL:やや改善も依然低い
- 評価:「発作は減ったが、症状改善が不十分。予防薬変更を検討」
3-2. 片頭痛予防薬で発作間期症状も改善すべき3つの理由
理由1: QOL(生活の質)への影響が大きい
- 発作間期症状(MIBS-4スコア)が高いほど、健康関連QOL・生産性・心理的健康が悪化
- 予防薬で発作日数が減っても、発作間期症状が残ればQOLは改善しない
- 真の治療成功は、「発作日数減少」+「発作間期症状改善」の両立
理由2: 予防薬治療の継続率を決定する
- 患者が予防薬を継続するかは、「発作日数」より「全体的な生活の質」で判断
- 発作間期症状が改善されない予防薬は、満足度が低く、中断されやすい
- CGRP予防薬は、発作日数+発作間期症状の両方を改善するため、継続率が高い
理由3: 片頭痛慢性化のリスク因子
- 発作間期症状(光過敏・音過敏・アロディニア)の持続は、中枢感作の進行を示唆
- 中枢感作が進むと、片頭痛が慢性化(月15日以上の頭痛)しやすい
- 早期からCGRP予防薬で発作間期症状を軽減することが、長期的予後改善につながる
片頭痛予防薬治療の新しい目標
「発作日数を減らす」だけでなく、「発作間期の症状も改善し、片頭痛のあらゆる負担から解放する(Migraine Freedom)」
CGRP関連薬は、この包括的な症状改善に有効です。
大阪で片頭痛の予防薬治療なら、いわた脳神経外科クリニックへ。ご予約は下記から可能です。
4. 片頭痛予防薬CGRP関連薬:症状改善の仕組み
4-1. CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)とは
CGRPは、片頭痛の発症に中心的な役割を果たす物質です。
- 片頭痛発作時にCGRPが大量放出:三叉神経からCGRPが血管周囲に放出される
- 血管拡張作用:CGRPは強力な血管拡張物質で、拍動性頭痛を引き起こす
- 痛み伝達の促進:三叉神経-血管系を活性化し、炎症性神経ペプチドを放出
- 発作間期症状にも関与:CGRPは発作期だけでなく、発作間期の光過敏・音過敏にも関与
CGRP予防薬が片頭痛症状を改善する理由
CGRP関連薬は、CGRPの働きをブロックすることで:
- 発作期の症状:頭痛・嘔気・嘔吐を大幅に軽減
- 発作間期の症状:光過敏・音過敏・アロディニアも改善
- 予防効果:月間片頭痛日数を50%以上減少
- QOL向上:仕事・家事・社会活動への支障が減少
4-2. CGRP予防薬の2つのタイプ:リガンド型と受容体型
CGRP関連の予防薬には、作用する部位によって2種類があります。
リガンド型CGRP予防薬
CGRP分子そのものを中和
- 作用機序:CGRPという「鍵」を掴んで無力化
- 該当薬剤:
- エムガルティ(galcanezumab)
- アジョビ(fremanezumab)
- エプチネズマブ(日本未承認)
- 特徴:IgG4/IgG2抗体、CGRPを直接ブロック
- 副作用:便秘のリスクが低い
受容体型CGRP予防薬
CGRP受容体を直接ブロック
- 作用機序:鍵穴(受容体)に栓をしてCGRPが結合できないようにする
- 該当薬剤:
- アイモビーグ(erenumab)
- 特徴:IgG2抗体、CGRP受容体+AMY1受容体に作用
- 副作用:便秘がやや多い(AMY1受容体が消化管運動に関与)
4-3. CGRP受容体とAMY1受容体:受容体型予防薬の理解
| 受容体 | 構成 | リガンド | 役割 |
|---|---|---|---|
| CGRP受容体 | CLR + RAMP1 | CGRP | 片頭痛の主要受容体 |
| AMY1受容体 | CTR + RAMP1 | アミリン、CGRP | 代謝調節、消化管運動 |
重要ポイント:
- アイモビーグ(受容体型)は、CGRP受容体+AMY1受容体の両方に結合
- このため、便秘などの消化器症状がやや多い(AMY1受容体は消化管運動に関与)
- リガンド型(エムガルティ・アジョビ)は、CGRP分子のみを標的とするため、受容体選択性の問題なし
4-4. リガンド型 vs 受容体型:どちらのCGRP予防薬が優れているか
Sacco et al. (2022)欧州頭痛学会ガイドライン:
CGRP予防薬の推奨(リガンド型・受容体型とも同等)
- 効果:両タイプともエピソディック片頭痛・慢性片頭痛で有効
- 症状改善:発作日数・痛みの強さ・随伴症状(嘔気・光過敏等)を改善
- エビデンスレベル:中~高(大規模RCTで証明)
- 推奨度:強い推奨
- 安全性:重篤な副作用ほとんどなし、忍容性良好
- 選択基準:患者の病態・副作用歴・投与スケジュール希望で個別判断
当院でのCGRP予防薬の使い分け:
- 初回はリガンド型(エムガルティまたはアジョビ)から開始:便秘リスク低、複数の選択肢
- 効果不十分な場合は受容体型(アイモビーグ)に変更:作用機序が異なるため有効なケースあり
- 逆のパターン(受容体型→リガンド型)も有効:個人差が大きい
5. 片頭痛予防薬4剤の症状改善効果を徹底比較
欧州頭痛学会(Sacco et al. 2022)が推奨するCGRP予防薬3剤+ナルティークを、症状改善効果の観点から比較します。
5-1. 片頭痛予防薬の基本情報:一覧表
| 項目 | エムガルティ | アジョビ | アイモビーグ | ナルティーク* |
|---|---|---|---|---|
| 一般名 | galcanezumab | fremanezumab | erenumab | rimegepant |
| CGRP予防薬分類 | リガンド型 | リガンド型 | 受容体型 | 受容体拮抗薬 (経口) |
| 標的 | CGRPリガンド | CGRPリガンド | CGRP受容体 + AMY1受容体 |
CGRP受容体 |
| 投与方法 | 皮下注射 (月1回) |
皮下注射 (月1回/3か月1回) |
皮下注射 (月1回) |
経口(OD錠) (隔日) |
| 用量 | 初回240mg 以降120mg |
225mg/月 または675mg/3か月 |
70mgまたは 140mg |
75mg (予防・急性期) |
| 適応 | 予防のみ | 予防のみ | 予防のみ | 予防+急性期 |
5-2. 片頭痛症状改善効果の比較(Sacco et al. 2022)
| 症状改善効果 | エムガルティ | アジョビ | アイモビーグ | ナルティーク |
|---|---|---|---|---|
| 月間片頭痛日数減少 | -2.9~4.3日 (プラセボから-2.2日) |
-3.8~6.1日 (プラセボから-2.5日) |
-2.9~4.2日 (プラセボから-1.4日) |
-4.3日 (プラセボから-0.8日) |
| 月間片頭痛日数減少 (急性片頭痛) |
-4.7 | -4.2日 | -3.5日 | 限定的 |
| 50%レスポンダー率 (発作日数50%以上減少) |
高 | 中 | 中 | ー |
| 急性期治療薬 使用日数減少 |
有効 | 有効 | 有効 | ー |
| 推奨度 | 強い推奨 | 強い推奨 | 強い推奨 | 記載なし |
※Sacco et al. 2022参照。ナルティークは本ガイドライン対象外のため参考値。エムガルティ(Galcanezumab 120mg/月 ※初回240mg)、アジョビ(Fremanezumab 225mg/月)、アイモビーグ(Erenumab 70mg/月)
*海外第II/III相試験(BHV3000-305試験)(2025年9月19日承認、CTD2.7.6.35)
5-3. 片頭痛症状別の改善効果:副作用比較
| 症状・副作用 | エムガルティ | アジョビ | アイモビーグ | ナルティーク |
|---|---|---|---|---|
| 重篤な副作用 | ほぼなし | ほぼなし | ほぼなし | ほぼなし |
| 主な副作用 | 注射部位反応 (発赤・痛み) |
注射部位反応 (発赤・痛み) |
注射部位反応 便秘(やや多) |
悪心など 消化器症状 |
| 便秘リスク | 低い | 低い | やや高 | 低い |
| 忍容性 | 良好 | 良好 | 良好 | 良好 |
| 注意すべき患者 | 妊婦・授乳婦 血管疾患リスク高 |
妊婦・授乳婦 血管疾患リスク高 |
妊婦・授乳婦 血管疾患リスク高 便秘既往 |
妊婦・授乳婦 肝機能障害 |
CGRP予防薬の安全性まとめ
- 4剤とも重篤な副作用はほぼなく、忍容性良好
- アイモビーグ(受容体型):AMY1受容体にも作用するため便秘がやや多い
- リガンド型(エムガルティ・アジョビ):CGRPのみを標的、受容体選択性の問題なし
- ナルティーク(経口):注射部位反応なし、消化器症状が出ることあり
5-4. ナルティーク(rimegepant)の位置づけ
ナルティークは、上記3つのCGRP予防薬注射薬とは異なる特徴を持ちます。
ナルティークの特徴
- 唯一の経口CGRP受容体拮抗薬(低分子化合物)
- 予防+急性期の両方に使える:唯一の利点
- 注射への抵抗がある方に適している
当院の見解:症状改善効果は限定的
- 予防効果は注射薬(エムガルティ・アジョビ・アイモビーグ)より劣る
- 症状改善効果が低い:注射の心理効果がないため
- 治療継続率が低い(Kim et al. 2025)
- 当院の位置づけ:CGRP注射薬が使用不可または効果不十分な場合の選択肢
詳細は「片頭痛予防薬ナルティークとエムガルティの比較」をご参照ください。
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