高知市の産後ケア事業で、助産師の「硬い布団で寝かせるべき」という指導に従った結果、女児の後頭部が平らに変形したとして、市と助産師らが訴えられたという報道がありました。 この出来事は、育児の現場で誰もが一度は抱える問いを改めて浮かび上がらせています。 ――「安全のために仰向けで寝かせる」「頭の形を整えるために工夫する」 どちらを優先すべきなのか、そして両立はできるのか。
赤ちゃんをどう寝かせるかというテーマは、見た目の問題にとどまらず、命の安全とも密接に関わります。 本記事では、近年の知見やガイドラインをもとに、1章で安全面からの基本を、2章で頭の形(短頭・斜頭)の観点を整理し、 最後に3章でよくある質問に答えながら、「本当に正しい寝かせ方」について考えます。
結論
- 正しい寝かせ方の大原則:仰向け・枕なし・硬めで平らな寝具・顔まわりに物を置かない。
- 頭の形の配慮:日中は体位を変える/タミータイム/抱っこ・おんぶで後頭部の圧を分散。
- 枕・ドーナツ枕は不要(安全面のリスク+有効性の根拠に乏しい)。
- 迷ったら早めに相談:0〜6か月は形が変わりやすい時期。
ポイント:赤ちゃんは 仰向け・枕なし・硬めで平らな寝具・顔まわりを空けるのが基本で、頭の形は日中の体位変換とタミータイムでケアします。
目次
1章:安全面で考えること ― 「命を守る寝かせ方」
赤ちゃんを寝かせるときに、最も大切なのは「安全」です。 厚生労働省や日本小児科学会などが繰り返し注意を呼びかけているように、 睡眠中の事故の多くは、窒息や過熱、うつぶせ寝による呼吸障害が原因とされています。
安全の基本:3つの柱
| 項目 | 理由 | 具体例 |
|---|---|---|
| 仰向けで寝かせる | 就寝中の呼吸障害リスクを下げる | 寝入った後にうつぶせ・横向きなら仰向けへ戻す |
| 硬めで平らな寝具 | 沈み込みを防ぎ窒息リスクを下げる | 柔らかいクッション・ソファ・ドーナツ枕は避ける |
| 顔まわりに物を置かない | 口鼻を覆う事故を防ぐ | 枕・タオル・ぬいぐるみ・厚い掛け物は置かない |
これらは「赤ちゃんの寝かせ方」に関する世界共通の安全指針であり、 アメリカ小児科学会(AAP)の Safe Sleep ガイドラインでも同様の内容が示されています。 つまり、柔らかい布団や枕を使うことは安全面では推奨されないということです。
覚えておきたいポイント
- 寝るときは仰向け・顔まわりに何も置かない。
- 寝具は硬めが基本。ただし、同じ姿勢が続くと後頭部に圧が集中するため、体位の工夫が重要(→第2章参照)。
- 寝入った後にうつぶせや横向きになった場合は、仰向けに戻してあげる。
育児現場では「安全のために硬い布団で仰向け寝」という指導が主流ですが、 一方で「頭の形が平らになってしまうのでは」と不安を感じる保護者も少なくありません。 安全面での“正しい寝かせ方”を守りつつ、頭の形を守るにはどうすればよいのでしょうか。 次章では、頭の形の観点から、具体的な工夫を紹介します。
2章:頭の形面で考えること ― 「形を整える寝かせ方」
安全を守るための仰向け寝は、命を守る最も重要な方法です。 しかしその一方で、「ずっと仰向けで寝かせていたら、頭の形が平らになってきた」という相談も少なくありません。 実際、赤ちゃんの頭蓋は非常に柔らかく、寝る姿勢によって形が変化しやすい時期があります。
後頭部が平らになる状態は一般に短頭(絶壁)と呼ばれ、左右のどちらかだけが平らになる状態を斜頭といいます。 これらは多くの場合、成長とともに自然に改善する傾向がありますが、姿勢の偏りが強い場合や、成長初期(生後6か月ごろまで)に改善が見られない場合には、生活環境の見直しが必要です。
頭の形を整える3つの工夫
-
① 体位をこまめに変える
授乳や抱っこの際に左右の腕を交互に使う、ベッドの向きを日ごとに変えるなどして、赤ちゃんがいつも同じ方向を向かないようにしましょう。 首の向き癖がある場合は、玩具や声かけの位置を調整するのも効果的です。 -
② 起きている時間に「タミータイム(うつぶせ遊び)」を取り入れる
見守りのもとで短時間から始め、1〜2分 → 10〜15分へと少しずつ延ばします。 1日2〜3回を目安に行うことで、首や体幹の筋力が発達し、後頭部への圧が分散されます。 寝入った際は必ず仰向けに戻し、就寝中のうつぶせ寝は避けることが大切です。 -
③ 抱っこ・おんぶで頭を休ませる
起きている時間に抱っこやおんぶを取り入れることで、後頭部にかかる圧力を減らせます。 特に日中、ベビーカーやバウンサーで長時間過ごす場合は、適度に抱っこ時間を設けて姿勢を変えてあげましょう。
避けたい方法:枕やドーナツ枕の使用
一部では「ドーナツ枕で形を整える」という情報も見られますが、 科学的根拠はなく、むしろ窒息リスクが高まるとされています。 アメリカ小児科学会(AAP)や日本小児科学会は、枕の使用を一律に推奨していません。
ポイントまとめ
- 「硬めの布団」は安全面で◎。ただし姿勢を変えなければ短頭リスクが残る。
- 向き癖の観察とタミータイムを日課に。
- 枕・ドーナツ枕・柔らかい寝具は使わない。
「硬い布団で仰向け寝」という安全な環境そのものは間違いではありません。 ただし、それだけでは後頭部に圧が集中しやすく、結果として短頭や斜頭のリスクを高めてしまうことがあります。 安全面を守りながらも、日々の姿勢変化と見守りで頭の形をサポートすることが、今の育児で求められる“正しい寝かせ方”といえるでしょう。
3章:よくある質問 ― 「安全と頭の形を両立するために」
育児相談の現場では、「仰向け寝が安全と聞いたけれど、頭が平らになるのが心配」「枕を使ったほうがいい?」など、 多くの保護者が同じ疑問を抱えています。ここでは、医学的な見解と実際の生活での工夫を踏まえて、よくある質問に答えます。
Q. 硬い布団で寝かせていますが、これで十分ですか?
A. 安全面では正解ですが、頭の形には体位変換とタミータイムが不可欠です。
安全面では正しい選択ですが、短頭(絶壁)や斜頭のリスクを考えると、 「硬い布団だけ」では十分ではありません。 同じ姿勢が続くと後頭部に圧力が集中するため、体位変換(向きの工夫)やタミータイムを取り入れて、 姿勢のバリエーションを増やしてあげましょう。
Q. タミータイム(うつぶせ遊び)はいつから始めたらいいですか?
A. 生後すぐから1〜2分で開始し、10〜15分へ漸増。1日2〜3回、必ず見守り。
生後すぐから始めても構いません。最初は1〜2分からスタートし、赤ちゃんの機嫌や発達に合わせて徐々に延ばし、 1回10〜15分、1日2〜3回を目安に行うと良いでしょう。 ただし、必ず大人がそばで見守ることが前提です。寝入った場合は、必ず仰向けに戻します。
Q. うつぶせ寝や横向き寝は危険ですか?
A. 就寝中は仰向けが原則。うつぶせ・横向きは避け、遊び時間のうつぶせはOK。
就寝中は仰向け寝が原則です。うつぶせや横向きは、呼吸障害や窒息のリスクがあるため避けましょう。 一方で、起きている時間のうつぶせ遊び(タミータイム)は、首や背中の筋力発達に有効です。
Q. ベビーカーやバウンサーは使わない方がいいですか?
A. 使ってOK。ただし連続時間を短くし、使用後は姿勢を変える。
使用自体は問題ありませんが、長時間の連続使用は避けましょう。 同じ姿勢が続くと、後頭部に圧が集中して形の偏りを助長する可能性があります。 お出かけ後や昼間の使用後は、抱っこやおんぶ、タミータイムでバランスをとりましょう。
Q. 枕は必要?
A. 不要です。安全面のリスクがあり、有効性の根拠も乏しいため推奨しません。
むしろ枕を用いない環境が推奨されます。少なくとも、頭が向きっぱなし・寝返りできない赤ちゃんの場合には、枕を使わず、寝床を平ら・硬め・シンプル(タオル・クッション・枕類・大きなぬいぐるみ等を除く)に整えることが望ましいです。これは窒息・SIDS*防止の観点からも支持されています。
*乳幼児突然死症候群(SIDS:Sudden Infant Death Syndrome)
まとめ
- 安全の基本は仰向け寝・枕なし・顔まわりに物を置かない。
- 頭の形を守るには、姿勢変化とタミータイムを組み合わせる。
- 不安があれば早めに専門機関へ相談を。
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