「朝の頭痛」に隠れた危険信号? 睡眠時無呼吸症候群(SAS)について

「朝起きたときに頭が痛い…」このような症状を経験されている方はいませんか?頭痛の原因はさまざまですが、意外と見逃されがちなのが「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」です。今回は、SASとは何か、原因や問題点について詳しく解説します。

目次



1.睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは?

【1-1.基本的な知識】

睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)は、睡眠中に何度も呼吸が止まる(無呼吸)、あるいは浅くなる(低呼吸)ことで、睡眠の質が著しく低下する病気です。これにより日中の強い眠気、集中力の低下、起床時の頭痛など、様々な不調を引き起こします。


SASの診断には、無呼吸や低呼吸の発生回数を示す「無呼吸低呼吸指数(AHI)」が用いられ、1時間あたりの発生回数が5回以上でSASと診断されます。


重症度は以下の通り分類されます:

AHI重症度分類
分類 AHI(回/時) 目安
軽症 5~14 日中の眠気や集中力低下が出やすい
中等症 15~29 合併症のリスクが高まる
重症 30以上 心血管・脳血管イベントのリスク大

日本では約900万人がこの疾患に該当する可能性があるとされています(Benjafield et al 2019)。しかしながら実際に治療を受けている方はごく一部です。SASは進行性の疾患であり、未治療のまま放置することで健康への重大な影響を引き起こすことがあるため、早期の認識と診断が重要です。



【1-2.閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の特徴】

最も一般的なタイプである「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(Obstructive Sleep Apnea Syndrome:OSAS)」は、気道が何らかの原因で物理的に閉塞することで、空気の流れが止まり、無呼吸状態となります。


主な原因には、肥満、扁桃肥大、舌の後退、顎の小ささ、首周りの脂肪の蓄積などがあります。睡眠中に喉の筋肉が弛緩し、気道が塞がれると、呼吸が止まり、脳が「窒息の危機」と認識して覚醒させます。この覚醒が夜間に何度も繰り返されるため、熟睡できず、日中の眠気や倦怠感につながるのです。


また、OSASは放置すると高血圧、心疾患、脳卒中、糖尿病などを引き起こすリスクがあり、「サイレントキラー」とも呼ばれています。症状が軽微でも、早めの検査・治療が重要です。



【1-3.中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSAS)の特徴】

Central Sleep Apnea Syndrome:CSAS)は、脳から呼吸を指令する信号が一時的に停止することで、呼吸運動そのものが起こらない状態になる病態です。


CSASの主な原因は、心不全、脳梗塞、脳幹障害、高地での生活、あるいは一部の薬剤(特に麻薬性鎮痛薬など)の影響です。OSASと異なり、気道は開いているにもかかわらず、呼吸の指令が出ないことが特徴です。


CSASは単独で存在することもありますが、OSASとの混合型(複合型)で見られることも多く、診断と治療には専門的な評価が必要となります。睡眠中に無呼吸があるもののいびきが少ない、心疾患があるといった方は、CSASの可能性を考慮し検査が推奨されます。



2.睡眠時無呼吸症候群の問題点

2-1.日常生活への影響

睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に呼吸が止まることによって深い眠り(ノンレム睡眠)が阻害され、 睡眠の質が著しく低下する病気です。そのため、患者さんの多くは次のような症状を訴えます。

  • 片頭痛の頻度が多く苦しい
  • 朝起きても疲れが取れない
  • 日中に強い眠気を感じる
  • 集中力が続かない
  • イライラしやすい、気分が不安定になる

このような状態が続くと、仕事のパフォーマンス低下、学業成績の悪化、人間関係のトラブルなど、 精神的・社会的にも大きな影響を与えることがあります。 「ただの眠気」ではなく、生活全体に関わる病態であることが重要なポイントです。



2-2.身体への影響

睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、単なる「いびきの病気」ではありません。

合併症 機序・ポイント
高血圧 無呼吸→低酸素と覚醒反応が交感神経を刺激し、夜間〜早朝の血圧上昇・治療抵抗性高血圧の一因に
心疾患 反復する低酸素・陰圧負荷で心臓にストレス→心筋梗塞、心不全、不整脈(特に夜間)リスク増加
脳卒中 酸素飽和度低下と血圧変動が脳血管に負担→脳梗塞・脳出血の発症リスク上昇
糖尿病 間欠的低酸素と睡眠分断がインスリン抵抗性を悪化→糖代謝異常と相互に悪循環
認知機能低下 慢性的な睡眠分断・低酸素で記憶・注意・判断力が低下し、軽度認知障害(MCI)との関連も指摘

このように、SASを放置すると身体のあらゆる臓器に負担がかかり、 心血管疾患や脳卒中など「命に関わる疾患」のリスクを高めます。 早期発見と治療が、合併症の予防に直結します。



2-3.社会的な影響

睡眠不足や日中の強い眠気は、社会生活にも深刻な影響を及ぼします。 SAS患者は、以下のようなリスクに直面しています。

  • 交通事故: 居眠り運転による事故リスクは健常者の2倍以上と報告されています。
  • 労働災害: 集中力や判断力の低下により、工場・建設現場などでの事故率が上昇します。
  • 医療費の増加: 高血圧・糖尿病などの併発により、長期的な医療費負担が増加します。

また、SASは自覚しにくい病気であり、 「自分では眠れている」と思い込んで受診が遅れるケースが多く見られます。 その結果、家庭や職場でのパフォーマンス低下、社会的信頼の損失など、 個人だけでなく周囲にも影響を及ぼすことがあります。

SASの早期治療は、本人の健康だけでなく社会的安全にもつながります。 「眠気」「いびき」「朝の頭痛」は、見逃してはいけないサインです。



3.睡眠時無呼吸症候群の原因

3-1.身体的要因

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の発症において、身体的構造は大きな影響を与えます。以下のような特徴を持つ方は、気道が狭くなりやすく、無呼吸を引き起こしやすくなります。

  • 肥満: 首回りの脂肪が気道を圧迫し、空気の通り道を狭くします。
  • 扁桃肥大・アデノイド: 特に小児で多く、物理的に気道を閉塞します。
  • 顎の後退: 下顎が小さい・後ろに下がっていると舌が後方へ落ち込みやすくなります。
  • 加齢: 年齢とともに筋肉が弛緩しやすくなり、気道を支える力が弱まります。

こうした構造的な特徴を持つ方は、SASの発症リスクが高いため、早期のスクリーニングが推奨されます。



3-2.生活習慣の影響

日常の生活習慣は、睡眠の質や呼吸の安定に大きく関与します。以下の表に、主な習慣とSASへの影響、推奨アクションをまとめました。

生活習慣 SASへの影響
飲酒 就寝前の飲酒は上気道筋の緊張を低下させ、気道閉塞を悪化
喫煙 咽頭粘膜の炎症・浮腫で気道狭小化
睡眠姿勢 仰向けは舌根沈下を招き、OSASを悪化
ストレス・不規則 自律神経の乱れ→浅い睡眠・覚醒増加
体重増加 頸部脂肪増加で気道狭窄
薬剤の自己調整 鎮静薬・睡眠薬・麻薬性鎮痛薬は中枢性無呼吸や呼吸抑制を助長


3-3.その他の要因

SASの原因には、身体的特徴や生活習慣以外にも次のような要因が関与することがあります。

  • 薬剤: 睡眠薬、鎮静剤、麻薬性鎮痛薬などは中枢の呼吸制御を抑制し、無呼吸を引き起こすことがあります。
  • 基礎疾患: 心不全、脳梗塞、腎不全などの疾患により中枢性無呼吸が発生することがあります。
  • 遺伝的素因: 家族歴や骨格的特徴など、遺伝要因も一部関係している可能性もあります。

原因は一つに限定されるものではなく、複数の因子が重なり合ってSASを引き起こすケースもあります。 専門医による多角的な評価が不可欠です。



4.よくある質問(Q&A形式)

Q1. SASは完治しますか?

A. SASのうち「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)」は、原因によっては完治が期待できる場合もあります。 たとえば、肥満が主な要因であれば、減量によって症状が改善または消失することがあります。 また、扁桃肥大や顎の形状に起因する場合は、手術によって改善が見込めます。


一方、「中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSAS)」は、心不全や神経疾患などが背景にあることが多く、 根本的な治療が難しいケースもありますが、CPAP(持続陽圧呼吸療法)やASVなどの補助療法で症状のコントロールは可能です。


Q2. 子どもにもSASはありますか?

A. はい、小児にもSASは発症します。特に扁桃腺やアデノイドの肥大による上気道の閉塞が原因として多く見られます。 症状としては、いびき、寝相の悪さ、成長障害、日中の過活動、集中力の欠如などが現れることがあります。


Q3. いびき=SASですか?

A. すべてのいびきがSASというわけではありませんが、「毎晩大きないびき」と「睡眠中に呼吸が止まる」という2点がそろった場合は、 SASの可能性が高くなります。

特に「いびきが急に止まる」「その後に大きな呼吸音と共に再開する」「日中の強い眠気がある」などの症状があれば、早期の検査が必要です。



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この記事を書いた先生のプロフィール

医師・医学博士【脳神経外科専門医・頭痛専門医 ほか】
脳外科医として関西医大で14年間勤務。大学時代は、脳腫瘍や脳卒中の手術治療や研究を精力的に行ってきました。脳卒中予防に重点をおいた内科管理や全身管理を得意としています。
脳の病気は、目が見えにくい、頭が重たい、めまい、物忘れなど些細な症状だと思っていても重篤な病気が潜んでいる可能性があります。
即日MRI診断で手遅れになる前にスムーズな病診連携を行っています。MRIで異常がない頭痛であっても、ただの頭痛ではなく脳の病気であり治療が必要です。メタ認知で治す頭痛治療をモットーに頭痛からの卒業を目指しています。
院長の私自身も頭痛持ちですが、生活環境の整備やCGRP製剤による治療により克服し、毎日頭痛外来で100人以上の頭痛患者さんの診療を行っています。我慢しないでその頭痛一緒に治療しましょう。

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参考文献

  1. Benjafield AV, et al. “Estimation of the global prevalence and burden of obstructive sleep apnoea.” Lancet Respir Med. 2019;7(8):687–698.