片頭痛は最初、月に1〜2回の発作が市販薬で治まることが多いですが、徐々に発作の回数が増え、薬が効かなくなる場合があります。これは「中枢感作(ちゅうすうかんさ)」と呼ばれ、脳が痛みに対して敏感になる状態のことです。

 

 

中枢感作とは?

中枢感作とは、脳が痛みに対して過敏になり、通常では痛みを感じない刺激にまで痛みを感じる状態です。この状態になると、片頭痛がさらに悪化し、睡眠障害やアロディニア、イライラ不安抑うつ無気力めまいふらつきといった症状も現れることがあります。この状態は「中枢性過敏症候群」とも呼ばれます。

 

 

 

中枢感作への治療法:エムガルティ

社会医療法人 寿会 富永病院 團野 大介(だんの だいすけ)先生が発表した研究では、エムガルティ(ガルカネスマ)が、中枢感覚による片頭痛の症状改善に有効であることを示しています。こちらの論文を解説していきます。

参考文献
Sci Rep. 2024 Sep 18;14(1):21824.Efficacy of galcanezumab in migraine central sensitization
Daisuke Danno 1, Noboru Imai 2, Shigekazu Kitamura 3, Kumiko Ishizaki 4, Shoji Kikui 4,Takao Takeshima
 
 

 

 

 
 
 

「片頭痛」と「中枢性感作」って何?

 
片頭痛は頭痛の中でも特に強く、日常生活に支障をきたすことがあります。「中枢性感作」とは、脳が痛みに敏感になり、通常では痛みを感じないような刺激でも痛みを感じる状態を指します。この状態になると、片頭痛の痛みがさらに悪化しやすくなります。
 
また、痛み以外にも、疲労、不眠、不安、抑うつ、無気力、めまい、ふらつきなどの症状を呈するようになります。
 
中枢感作の評価(CSIスコア)
中枢性過敏症候群の症状の重症度を評価するために使用される自己報告式のスクリーニングツールであるCSIを用いた。
 
対象
エムガルティが処方された患者
 
方法
 
中枢感作の評価として、Central Sensitization Inventory (CSI) scoreを使用。
また副次評価としてAllodynia Symptom Checklist (ASC-12) scoreを測定。
 
 
 
 
片頭痛の患者さん127人にエムガルティを投与し、3か月後と6か月後にCSI評価を行った。
 

主要評価項目

 
主要評価項目は、ベースラインからガルカネスマブ投与6ヵ月後までのCSIスコアの変化であった。
 
 

研究で明らかになった効果

 
日本国内で行われた研究では、エムガルティを6か月間使用した患者さんの「中枢性感作」の症状が大幅に改善したことが確認されました。具体的には、治療前と比較して、痛みの感覚が減り、頭痛の日数も減少しました。また、この効果は治療開始後3か月という比
較的早い段階で現れたことも報告されています。
 
 
 

中枢性感作におけるガルカネスマブの有効性

 
 
ベースライン時の平均CSIスコアは36.0点(範囲、9-75点)であったが、6ヵ月後には29.3点(範囲、5-83点)に有意に減少した(p<0.001対ベースライン)。 ほとんどの項目において、CSIスコアはベースライン時と比較して6ヵ月後に改善した。 さらに、3ヵ月後のCSIスコアも29.7点(範囲:2-78点)と有意に低下しており(p<0.001 vs. ベースライン)、ガルカネスマブは治療開始後早期に片頭痛の中枢性感作に関連する症状の重症度を改善することが明らかとなった(図3,4)。 また、頭痛に対するガルカネスマブの直接的な効果がCSIスコア全体に影響を及ぼす可能性があるため、頭痛の有無を問う1項目を省略し、24項目のCSIスコアの平均値を比較した。 その結果、24項目のCSIスコアの平均値も有意に低下した(ベースライン:32.8点 vs. 6ヵ月:27.1点p<0.001)。 皮膚アロディニアの程度を表すASC-12スコアの平均値も、3ヵ月後に有意な減少を示した(ベースライン:5.55 vs. 3ヵ月:4.09、p<0.01)。 皮膚アロディニアは中枢性感作の代表的なマーカーである。したがって、この結果は、ガルカネツマブが片頭痛の中枢性感作を改善することも示唆している(表
 
 

CSIスコアの減少と他のパラメータとの因果関係

 
CSIスコアの減少を予測する因子の重回帰分析を行い、中枢性感作に対するプラスの効果が他のパラメータの改善と相関しているかどうかを調べた結果、ASC-12スコアの減少のみがCSIスコアの減少と有意に関連していた(p=0.0312)。 対照的に、月間の頭痛日数の
減少(p=0.3672)、月間の中等度以上の頭痛日数の減少(p=0.0612)、急性薬物使用(p=0.2286)、MIDASスコ(p=0.6144)を含む他の説明変数は、6ヵ月後のCSIスコアの減少を有意に予測しなかった。 また、非応答者(反応率30%未満:n=39)、部分反応者(反応率30〜49%:n=10)、良好反応者(反応率50%以上:n=37)のCSIスコアの減少を分析したところ、非応答者群でもCSIスコアは有意に減少した(ベースライン:35.0 vs. 6ヵ月:29.8、p=0.0003)。
 

安全性と忍容性

 
3人の患者が注射部位の反応を報告しましたが、重篤な有害事象は報告されず、治療を中止した患者はいませんでした。
 
 

最後に

エムガルティは、片頭痛に苦しむ多くの患者さんにとって新たな希望となりつつあります。特に、従来の治療法で効果が得られなかった方や、片頭痛によって生活の質が低下している方にとって、大きな改善が期待できる治療法です。もし片頭痛でお悩みの場合は、ぜひ一度医師に相談してみてください。
 
 
 
 
 
 
 

院長のここがポイント

 
感作は、アレルギーをイメージするとわかりやすいと思います。花粉などのアレルゲンは最初からアレルギー症状を起こすわけではありません。アレルゲンに暴露されると体の中で、免疫細胞が感知し、IgEという抗体を産生します。このIgE抗体が肥満細胞にたくさんくっついた状態になります。これが感作の状態です。二回目以降にアレルゲンが体内に入るとこのIgEにくっついて肥満細胞からヒスタミンなどの炎症惹起物質が放出されて、アレルギー症状を引き起こします。感作を起こさないためにはアレルゲンの暴露を避ける必要があります。
 
 
 
 
 
 
片頭痛はただの頭痛ではなく、脳の病気になります。感作されて慢性化してしまう前に早期に治療することが大切です。慢性頭痛になると自分の状態を俯瞰的・客観的に認知するメタ認知が障害されてしまいます。
 
 
 

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この記事を書いた先生のプロフィール

医師・医学博士【脳神経外科専門医・頭痛専門医 ほか】
脳外科医として関西医大で14年間勤務。大学時代は、脳腫瘍や脳卒中の手術治療や研究を精力的に行ってきました。脳卒中予防に重点をおいた内科管理や全身管理を得意としています。
脳の病気は、目が見えにくい、頭が重たい、めまい、物忘れなど些細な症状だと思っていても重篤な病気が潜んでいる可能性があります。
即日MRI診断で手遅れになる前にスムーズな病診連携を行っています。MRIで異常がない頭痛であっても、ただの頭痛ではなく脳の病気であり治療が必要です。メタ認知で治す頭痛治療をモットーに頭痛からの卒業を目指しています。
院長の私自身も頭痛持ちですが、生活環境の整備やCGRP製剤による治療により克服し、毎日頭痛外来で100人以上の頭痛患者さんの診療を行っています。我慢しないでその頭痛一緒に治療しましょう。

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