令和6年6月1日から厚生労働省の診療報酬の改定に伴い、これまでの「特定疾患療養管理料」から「生活習慣病管理料箇条書き(Ⅰ)(Ⅱ)」へ移行しております。

 

 

この改定では、お一人おひとりの服薬・食事・運動・喫煙・家庭での血圧や体重測定・飲酒などの状況に応じた療養計画書を作成し、 目標設定を行うことが決められています。これは、医師や看護師、薬剤師などの医療職と患者様が、 ともに長期的な管理をサポートしていくためです。

 

生活習慣病の管理には日々の生活習慣の改善が非常に重要です。

皆様が自分自身の健康状態を正しく理解し、日常生活のなかで具体的な改善策を取り入れるために知っていただきたい情報をまとめました。

私たちと一緒に、 無理なく取り組める一歩から始め、 健康的な生活を目指していきましょう。

 

脂質異常症は脂質の値が基準値から外れた状態

 

脂質異常症は、脂質の値が基準値から外れ、中性脂肪・コレステロール・脂質代謝に異常をきたした状態です。1)脂質異常症の診断基準は以下のとおりです。2)3)

 

LDLコレステロール

(LDL-C)

140mg/dL以上

高LDLコレステロール血症

120~139mg/dL

境界域高LDLコレステロール血症

HDLコレステロール

(HDL-C)

40mg/dL未満

低HDLコレステロール血症

トリグリセライド

(TG)

150mg/dL以上(空腹時採血

高トリグリセライド血症

175mg/dL以上(随時採血

Non-HDLコレステロール

170mg/dL以上

高non-HDLコレステロール血症

150~169mg/dL

境界域高non-HDLコレステロール血症

*10時間以上の絶食(空腹時)を基本とし、空腹時であることが確認できない場合は随時とする。(水やお茶などのカロリーのない水分摂取は可)

 

脂質異常症は食べ過ぎ・脂肪や糖質の多い食事、生活習慣が主な原因

 

脂質異常症は食べ過ぎや脂肪や糖質の多い食事、運動不足、肥満、喫煙などの生活習慣が原因で起こります。具体的な要因は、以下のとおりです。1)

 

 

脂質異常症を放置すると動脈硬化が進み、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こす

 

脂質異常症は動脈硬化のおもな危険因子であり、放置すると心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化性疾患を引き起こす原因になります。4)

 

脂質異常症を治療するための管理目標値

 

脂質異常症を治療するための管理目標値としては、一次予防と二次予防でそれぞれ異なります。治療方針と具体的な目標値は以下のとおりです。5)

 

【治療方針】

 

※一時予防:生活習慣を改善後、薬物療法の適用を考慮する

※二次予防:生活習慣を是正し、薬物療法を考慮する

 

治療方針の段階

管理区分

脂質管理目標値(mg/dL)

LDLコレステロール

HDLコレステロール

トリグリセライド

Non-HDLコレステロール

一次予防

低リスク

<160

 

 

 

 

≧40

 

<150(空腹時)

<175(随時)

<190

中リスク

<140

<170

高リスク

<120

 <100✳1

<150

<130✳1

二次予防

冠動脈疾患または

アテローム血栓症脳梗塞の既往

<100

<70✳2

<130

<100✳2

✳1:糖尿病の末梢動脈疾患、網膜症・腎症・神経障害合併時、喫煙の場合に考慮

✳2:急性冠症候群、家族性高コレステロール血症、糖尿病、冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞のいずれかを合併する場合に考慮

 

 

脂質異常症の治療は生活習慣の改善が重要

脂質異常症の治療には、生活習慣の改善が重要です。脂質の値を基準値内に収めるために、次の対策が必要です。

 

【食事】摂るべき栄養素と制限すべき栄養素を把握する

 

脂質異常の改善には、摂取すべき栄養素と、制限すべき栄養素を把握することが大切です。以下の表を参考に、栄養バランスのとれた食事を心がけましょう。6)

 

管理栄養士が徹底した食事管理の指導を行います。

【体重管理】適正体重を知り、適切なエネルギー摂取で体重管理を行う

 

適正体重(kg)=身長(m)×身長(m)×BMI(体格指数)

 

年齢別の目安となるBMIは、以下のとおりです。7)

  • 18~49歳:18.5~24.9
  • 50~64歳:20.0~24.9
  • 65歳以上:21.5~24.9

 

自身の適正体重を知り、適切なエネルギー摂取へとつなげてください。自宅でも定期的に体重測定し、適正体重を維持しましょう。

 

【飲酒】過度の飲酒は高トリグリセライド血症を引き起こす

 

アルコールを過剰摂取すると、トリグリセライドの増加につながります。高トリグリセライド血症が起こり、急性すい炎のリスクが高まるため、1日25gのアルコール摂取に抑えることが大切です。8)

 

以下を参考に、アルコールの摂取量が1日25gを超えないよう心がけましょう。9)

【運動】1日30分以上のウォーキングは血中脂質を改善する

 

運動習慣の継続は血中脂質を改善します。以下を目安に定期的な運動を実践しましょう。10)

 

【服薬】生活習慣を改善しても脂質異常が改善されない場合は薬物療法が検討される

 

生活習慣改善後も血中脂質の値が目標値に至らない場合は、治療薬を服用する必要があります。おもな治療薬は以下のとおりです。4)

 

治療薬

LDLコレステロール

HDLコレステロール

トリグリセライド

Non-HDLコレステロール

スタチン(プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン)

↓↓

―~↑

↓↓

スタチン(アトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチン)

↓↓↓

―~↑

↓↓↓

小腸コレステロールトランスポーター阻害薬(エゼチミブ)

↓↓

↓↓

陰イオン交換樹脂(コレスチミド、コレスチラミン)

↓↓

↓↓

プロブコール(プロブコール)

↓↓

PCSK9阻害薬(エボロクマブ)

↓↓↓↓

―~↑

↓~↓↓

↓↓↓↓

MTP阻害薬(ロミタピド)

↓↓↓

↓↓↓

↓↓↓

フィブラート系薬(ベザフィブラート、フェノフィブラート、クロフィブラート)

↑~↓

↑↑

↓↓↓

選択的PPARαモジュレーター(ペマフィブラート)

↑~↓

↑↑

↓↓↓

ニコチン酸誘導体(ニコモール、ニコチン酸トコフェロール)

↓↓

n-3系多価不飽和脂肪酸(イコサペント酸エチル、オメガ-3脂肪酸エチル)

*ホモFH患者に適応

↓↓↓↓:-50%以上、↓↓↓:-50%~-30%、↓↓:-20%~-30%、↓:-10%~-20%、 ↑:10%~20%、↑↑:20~30%、―:-10~10%

 

主治医の指示のもと、適切な検査を受けたうえで治療薬の処方を受けましょう。

 

服薬する際は薬剤師の指導のもと、正しい方法で服用してください。

【禁煙】喫煙はコレステロールを増加させる

 

喫煙習慣があると、善玉であるHDLコレステロールが減り、悪玉であるLDLコレステロールが増加して動脈硬化を引き起こします。喫煙者は禁煙外来などで相談し、禁煙しましょう。 11)

 

【休養】脂質異常症の原因であるストレス対策には休養が大切

 

脂質異常症の発症にはストレスが関係しています。4)心身の疲れを感じたら、十分に休養をとりましょう。病気に関する気になることや不安なことがあれば、主治医や看護師に相談してください。

 

看護師が日常生活を送る上でのアドバイス、サポートを行います。

 

 

体重管理・食事・運動・禁煙・飲酒・休養のなかで、「もう少し取り組みが必要かも」「サポートがあれば達成できそうかも」という内容はありましたか?

少し工夫すればできそうな内容から目標を決めて、達成に向けて一緒に取り組んでいきましょう。

 

 

参考URL

1)厚生労働省|e-ヘルスネット 脂質異常症

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/metabolic/m-05-004.html

2)一般社団法人 日本動脈硬化学会|動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版

https://www.j-athero.org/jp/wp-content/uploads/publications/pdf/GL2022_s/02_230210.pdf(第2章)

3)日本動脈硬化学会 日本医師会 動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症治療のエッセンス

https://www.med.or.jp/dl-med/jma/region/dyslipi/ess_dyslipi2014.pdf

4)厚生労働省|e-ヘルスネット 脂質異常症 / 高脂血症

脂質異常症 / 高脂血症

5)一般社団法人 日本動脈硬化学会|動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版

https://www.j-athero.org/jp/wp-content/uploads/publications/pdf/GL2022_s/03_230210.pdf(第3章)

6)厚生労働省|e-ヘルスネット 脂質異常症(実践・応用)

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-02-013.html

7)厚生労働省|e-ヘルスネット 脂質異常症(基本)

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-02-012.html

8)厚生労働省|e-ヘルスネット アルコールと脂質異常症

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-01-014.html

9)厚生労働省|アルコール

https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/kenko21_11/b5.html

10)厚生労働省|e-ヘルスネット 脂質異常症を改善するための運動

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/exercise/s-05-003.html

11)国立研究開発法人 国立循環器病研究センター|喫煙

https://www.ncvc.go.jp/coronary2/risk/smoking/index.html

 

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この記事を書いた先生のプロフィール

医師・医学博士【脳神経外科専門医・頭痛専門医 ほか】
脳外科医として関西医大で14年間勤務。大学時代は、脳腫瘍や脳卒中の手術治療や研究を精力的に行ってきました。脳卒中予防に重点をおいた内科管理や全身管理を得意としています。
脳の病気は、目が見えにくい、頭が重たい、めまい、物忘れなど些細な症状だと思っていても重篤な病気が潜んでいる可能性があります。
即日MRI診断で手遅れになる前にスムーズな病診連携を行っています。MRIで異常がない頭痛であっても、ただの頭痛ではなく脳の病気であり治療が必要です。メタ認知で治す頭痛治療をモットーに頭痛からの卒業を目指しています。
院長の私自身も頭痛持ちですが、生活環境の整備やCGRP製剤による治療により克服し、毎日頭痛外来で100人以上の頭痛患者さんの診療を行っています。我慢しないでその頭痛一緒に治療しましょう。

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