こんにちは。「いわた脳神経外科クリニック」です。

みなさんは、体調不良の時に「心細い」「さみしい」と感じたことはないでしょうか。

独り暮らしや、学校を休んで家にいる時など、一人で静養しなければならない時には特に、孤独感を感じる人も少なくないでしょう。

繰り返し症状が起こる片頭痛の場合はどうでしょうか。

患者さんの中には、症状を周囲に上手く伝えられず、ひとりで痛みに耐えている人が少なくないようです。

今回は、片頭痛と孤独感の関連について一緒に考えていきましょう。

 

 

孤独感の実態

2024年4月から、「孤独・孤立対策推進法」が施行されました。

孤独や孤立によって心身に有害な影響を受けている人への支援の実現が目指されており、孤独・孤立状態にある人の実態についての調査研究が始められています。

令和5年に実施された「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査」では、「あなたはどの程度、孤独であると感じることがありますか」という質問に対して、「しばしばある・常にある」と回答した人は全体の4.8%、「UCLA孤独感尺度日本語版の3項目短縮版」で、孤独感が「常にある」と回答した人は6.9%でした。また、孤独感は20~50代で感じられやすく片頭痛の起こりやすい年代と重なっています。

 

片頭痛と孤独感

片頭痛と孤独感は無関係ではありません。

海外では片頭痛の孤独感を測定する尺度(the loneliness of migraine scale)の開発や、片頭痛患者さんを対象に孤独感を調査するなど、片頭痛と孤独の関連を解明しようとする研究が進められています。

日本ではこうした研究は本格化していませんが、頭痛を扱うクリニックのホームページや、医学関連の情報を配信するウェブサイトの記事では、「周囲に痛みを理解してもらえない」と感じる患者さんの孤独について記述されていることもあります。

 

痛みが人間関係に及ぼす影響

製薬会社が2022年に実施した調査では、片頭痛患者さんの家族に対して、「症状」により起こったことを聞き取っています。その結果、家庭での時間において「リラックスできなかった」「家事・育児が出来ていなかった」という回答が40%を超えました。

また、「家族でお出かけをする予定をキャンセルした」という回答も24%あります。

こうした影響は、家族の中だけに留まらず、友人関係や職場の同僚など、より広い人間関係へも広がっていきます。

痛みのために予定をキャンセルしたり、職場での役割が十分に果たせないことで、片頭痛患者さんが孤独を深めていくことは想像に難くありません。

このように、片頭痛は患者さんに痛みを与えるだけでなく、社会的な悪影響も及ぼすことがあります。

 

 

痛みを伝えるのは難しい

患者さんにとって、片頭痛のつらさをわかりやすく言葉で伝えるのは難しいものです。

前述した調査では、「片頭痛」であることやつらさを他者に伝えることについて質問しています。
その結果、家族に対して言葉で伝えるようにしている人(できる限り分かりやすく、言葉で伝えるようにしている~ごくわずかではあるが言葉で伝えるようにしている)は86%でしたが、友人に対しては69%、職場の上司や同僚については62%でした。

ただし、「ごくわずかではあるが言葉で伝えるようにしている」と答えた人を除外すると、友人や職場の上司・同僚に痛みを言葉で伝えている人は40%前後にとどまります。

さらに、職場の上司や同僚に対して「全く伝えない」と答えた人は31%に上ります。

このように、家庭以外の場所では痛みを他者に伝えずに我慢している患者さんが多いことが分かります。

 

痛みを伝えられない理由

同調査では、片頭痛であることやそのつらさを他者に伝えていない理由も調査しています。その結果、多かった回答は

・伝えても『片頭痛』のつらさを理解されないと思ったから

でした。

この調査では、患者さんが痛みの強さとして答えた数値よりも、家族が患者さんの痛みを想像して答えた数値の方が低いという結果が出ています。

さらに、当院でも採用しているHIT-6を用い、【患者さん自身が思う】片頭痛による生活への影響と、【家族が推測する】片頭痛の生活への影響を比較しています。この結果、家族が推測する片頭痛の生活への影響は、患者さん自身が考えるよりも20%も低い項目があることが分かりました。

 

このように、片頭痛患者さんの「つらさを理解されない」という孤独感は、実際の数値で示されています。

片頭痛の痛みはくりかえし襲ってくるため、患者さんはそのたびに痛みを周囲に伝える事になります。

しかし、上記の調査からもわかるように痛みやその影響は、相手が家族であっても十分に伝わりません。

伝わりにくいことを何度も伝えるのは非常に困難なことであるため、患者さんは痛みを伝えるのを控えたり、諦めたりしてしまいます。

「痛みをわかってもらえない」というのは、決して患者さんのわがままではないのです。

 

孤独は治療に対する自己効力感に影響する

孤独に頑張ってきた患者さんは、大きな労力を割いて治療の場にたどり着きます。

そんな患者さんの治療の効果を最大限に引き出すためには、やはり孤独感をやわらげる必要があります。

なぜなら、孤独感は片頭痛患者さんの治療に関する自己効力感にも影響を及ぼすという報告があるからです。

「自己効力感」とは、「自分は目的を達成できる。そのための能力がある」という気持ちです。

海外の研究では、孤独感のある片頭痛患者さんは、「片頭痛の症状を自己管理する能力」や「頭痛の原因となる状態を回避する能力」について「非常に満足している」と答える確率が低いことが報告されています。

 

「自分は痛みをコントロールできる」と信じ、治療のモチベーションを維持・向上するためには、患者さんが孤独に陥らないよう、周囲のサポートが不可欠です。

ひとりで頑張らないこと、周囲の人とのあたたかい関係を保つことが、非常に効果的な薬になるのです。

 

 

当院は、患者さん一人が頑張る孤独な治療にならないよう、医師の診察だけでなく、看護師による生活・症状のお聴き取りや、心理士による心の健康状態のチェックも行っています。

痛みのない本来のあなたに戻り、豊かな人間関係の中で十分に力を発揮する日まで、一緒に頑張りましょう。

 

 

孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和5年実施)

https://www.cao.go.jp/kodoku_koritsu/torikumi/zenkokuchousa/r5.html

 

Neumeier, M. S., Efthymiou, E., Gantenbein, A. R., Stattmann, M., & Pohl, H. (2022). The loneliness of migraine scale: a development and validation study. Clinical and Translational Neuroscience6(2), 12.

https://www.mdpi.com/2514-183X/6/2/12

 

プレスリリース:片頭痛患者さんと家族、医師対象の意識調査結果を発表 患者さん・家族が選ぶ“片頭痛とともに生きていくつらさ”のTOP3は完全一致 一方、痛みや日常生活への影響の程度理解には最大2割のギャップ(Digital PR Platform) | 毎日新聞 (mainichi.jp)

 

Steiner, T. J., Stovner, L. J., Katsarava, Z., Lainez, J. M., Lampl, C., Lantéri-Minet, M., … & Andrée, C. (2014). The impact of headache in Europe: principal results of the Eurolight project. The journal of headache and pain15, 1-11.

欧州における頭痛の影響:ユーロライトプロジェクトの主な成果 |頭痛と痛みのジャーナル (springer.com)

 

Lui, J. Z., Young, N. P., Ebbert, J. O., Rosedahl, J. K., & Philpot, L. M. (2020). Loneliness and migraine self-management: a cross-sectional assessment. Journal of Primary Care & Community Health11, 2150132720924874.

https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/2150132720924874?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200pubmed

 

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この記事を書いた先生のプロフィール

医師・医学博士【脳神経外科専門医・頭痛専門医 ほか】
脳外科医として関西医大で14年間勤務。大学時代は、脳腫瘍や脳卒中の手術治療や研究を精力的に行ってきました。脳卒中予防に重点をおいた内科管理や全身管理を得意としています。
脳の病気は、目が見えにくい、頭が重たい、めまい、物忘れなど些細な症状だと思っていても重篤な病気が潜んでいる可能性があります。
即日MRI診断で手遅れになる前にスムーズな病診連携を行っています。MRIで異常がない頭痛であっても、ただの頭痛ではなく脳の病気であり治療が必要です。メタ認知で治す頭痛治療をモットーに頭痛からの卒業を目指しています。
院長の私自身も頭痛持ちですが、生活環境の整備やCGRP製剤による治療により克服し、毎日頭痛外来で100人以上の頭痛患者さんの診療を行っています。我慢しないでその頭痛一緒に治療しましょう。

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